《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》429話「わざと毆られた理由」

「た、大変だ!」

「な、なんてこった!」

「大丈夫か新人!」

突然起こった事態に、周囲は騒然となる。傍から見れば、Sランクの上位冒険者の暴挙によって、新人冒険者が襲われたという構図がり立ち、それをなくない不特定多數が目撃している。

さらに厄介なことに、それをギルドマスターが黙認しているような言もはっきりと周囲は聞いてしまっており、ガブラスの奇行がギルドマスターとの共謀という見方も取れるのだ。

冒険者ギルドとは國とは異なる獨自のコミュニティを形しており、國の圧力に屈することはない。だからこそ、逆に言えば時と場合によっては冒険者個人個人の意見が尊重される場面もあるということだ。

今回の件については、明らかに常軌を逸しており、誰が見ても新人冒険者に非はない。寧ろ、ギルドマスターやSランク冒険者という一定の地位を持つ人間が、末端の人間に手を上げたということになり、現代風に表現するのなら理的なパワハラである。

そんな暴挙を他の冒険者が許すはずもなく、目撃していたほとんどの冒険者がギルドマスターとガブラスに非難の目を向けている。だが、もちろんギルドマスターにはギルドマスターの言い分があり、まさかガブラスがいきなり新人に襲い掛かるなどとは夢にも思っていなかったが、今となっては苦しい言い訳にしか聞こえない。

「ガブラス! 何をやっているんだ!!」

「す、すまねぇ、つい」

「ついじゃない! 誰か救護班を。回復魔法を使える人間をここへ」

「は、はいっ」

呆然としていたギルド職員たちも事態を把握し、慌しくき出す。するとここでその様子を窺っていた俺がゆっくりと起き上がった。

「ぐっ……」

「おお、生きてたか新人」

ここで種明かしをすると、俺はわざとガブラスの攻撃をけた。その気になれば、奴の攻撃を躱すことも防ぐこともできたし、なんならカウンターをれることだってできた。だが、俺の今の肩書はEランクの新人冒険者である。そんな人間が、自分よりも格上であろうガブラスを倒してしまうとかなり悪目立ちする。しかも、今回は俺を疑っているギルドマスターの目もあった。だからこそ、俺は敢えて奴の攻撃を真正面からけたのである。

もう一つの思としては、今までダメージをける機會がなかったため、理耐や苦痛耐などの耐系のスキルを手にれることがなかったというのもガブラスの攻撃をけた理由だったりするが、それはそれとして先の説明した通りこの場は相手の攻撃をける以外の選択肢がなかった。

「お、おいくんじゃねぇよ。どこか骨とか折れてねぇか?」

「大丈夫だ。咄嗟にを取った」

心配して聲を掛けてくれる冒険者に返答しつつ、俺は肩を抑える仕草を取りながらゆっくりとした歩調でガブラスに近づく、自分に非があることは理解しているガブラスがバツの悪そうな顔をしているが、そんな奴に向かって皮めいた口調で言ってやった。

「これで満足か?」

「わ、悪かった」

「気は済んだかギルドマスター。これで俺がSSランク冒険者でないことが理解できただろう」

「ほ、本當にすまない」

「これが冒険者ギルドの意向というのがよくわかった。失禮する」

「ま、待ってくれ! すぐに救護班が」

「必要ない」

そう言い放つと、俺は足を引き摺りながら冒険者ギルドを後にする。もちろん、演技だ。心では舌を出しながらお茶目な表を浮かべているが、先に手を出してきたのは向こうである。それをこちらの都合でし利用するくらいは許されるだろう。

冒険者ギルドが見えなくなり、大通りから外れて裏路地にると、演技を止めてすぐに自分に解析を掛ける。すると、スキルの欄に新たに【理耐】と【苦痛耐】が発現していた。今までまともな攻撃をけたことがなかったため、こういった耐系のスキル習得が疎かとなっていたが、ここにきてようやく耐スキルを手にれることができた。

「よし、あとはこれをばしていくだけだな」

発現はしたものの、未だスキルレベルは1であるため、今後は積極的に攻撃をけてレベルを上げていくことにする。理の耐とくれば次は魔法の耐だが、これは自分で魔法が使えるので、魔法耐については問題なく習得が可能となるだろう。

そんなことを考えながら、空いてしまった時間と今後の冒険者活をどうするべきかを考える。ひとまずは、しばらくギルドには顔を出さない方がいいだろう。特に怒ってはいないが、冒険者ギルドの在り方に不信を抱いているという印象を與えなければならない。そのため、冒険者ギルドに顔を出さないことで“信用できなくなった”と相手に思わせるのだ。

これがただのEランク冒険者であれば、特に取り沙汰されることはない。だが、俺が現冒険者の中で最高位のSSランクを保持しているとしたら話は変わってくるだろう。SSランクともなれば、貴族で言うところの侯爵や公爵に匹敵する。王族ですら無下に扱うことはできず、庶民であっても貴族の強権を行使することをしてはならないという暗黙のルールがあるほどに立場の強い存在なのだ。

世界でたった四人しかいないということもその立場を強めている要因であり、だからこそ滅多なことではSSランクに昇級されることはない。そういった理由から、一つ下のランクであるSランクはその數が多く、比率としては二十倍以上も違ってくる。

さぞかしギルドマスターは焦っていることだろう。俺の言からSSランクの可能が極めて高く、仮に違っていたとしても周囲に職権用という失態を目撃されている以上、何かしらの形で挽回しなければ、最悪の場合ギルドマスターとしての地位を剝奪されるかもしれない。

「まあ、俺には関係ないけどな」

先に手を出してきたのは向こうだし、仮に俺がSSランクだとしてもそれを知られたくないというこちらの思には気付いたはずだ。だというのに、わざわざ呼び出して追及するという手段に出てしまった。そして、あろうことか高位の冒険者を焚きつけてその実力を探ろうとした結果、起こってはならない騒が起きてしまったのである。

ギルドマスターに対して煽っていたことは認めるが、その後どう行するのかまではその人個人の主観によるところが大きく、人が取るであろうすべての行に責任を持つことなどできはしない。端的に言えば“俺のせいじゃないもん”である。

これから、ギルドがどう対応するのかはさておき、今後は発現したスキルの育と活容の見直しを考えつつ、予定通り俺は薬草採集へと出掛けた。

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