《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》312.撤退不可
しかしその時、橋の上に膨大な源気(グラムグラカ)が集まり、散らばった源気のの一粒一粒がダミー魔獣へと変化した。地を這う者、中空で翅を振るう者、殻に包まれた者、ハンマーソードを手にした巨大な者……。
おびただしい數の魔獣を見て、ラトゥーニは石像をメイスで砕きながら聲を上げる。
「今度は魔獣!?」
続々と増える魔獣たちを前に、藍が悲痛な聲で言う。
「そう簡単には逃がしてもらえませんか……」
石像相手に幾度か大技を繰り出している藍は、もうかなり力を消耗してしまっている。
ティムは現狀を冷靜に分析した。
「どうやらハッキングは現在進行形のようですね」
「ジュリア、皆を呼びなさい、総員撤退します」
「分かりました。ローランド様」
ローランドの指示に、すぐさま側近の子がき出す。
まだまだスタミナたっぷりの戦闘狂・修二は、魔獣の數にさらに闘志を燃やし、び聲を上げた。
「雑魚が何匹いたって一緒だぜ~!」
「何百、何千でも、ぼくが潰してみせる!」
修二とラトゥーニが魔獣討伐に向かった。橋の向こうで石像と戦っていたルル、ジェニファー、ヌティオス、デュクの四人も、魔獣と戦し始めている。
何かがおかしいと嗅ぎ取ったラーマが、二人の背中に呼びかけた。
「行ってはいけません、これは罠です!敵を舐めてはいけません、深追いはです!」
しかし、修二とラトゥーニは好戦的なを抑えきれず、前方へ飛び去っていった。
個派揃いのA組の中でも、協調に欠ける者ばかり集まったこの集団の、一番の弱みがとうとう呈した。仲間との絆よりも個々のセンスでくことを良しとする彼らは、突然狀況が変わった時に自分の覚だけでき出してしまう。リーダーであるはずのティムの求心力も弱まっていた。
魔獣があまりに多く、橋向こうのヌティオスたちが苦戦しているだろうと、のぞみも修二、ラトゥーニに続いた。
のぞみを護衛することが目的だったチームは今や、二つに分斷されていた。
本來、守られるべきのぞみまでもが魔獣の群れを追っていった。その危険に気付いたティムが、ラーマに告げる。
「ミンスコーナさん、ハヤガタさんと共にここで待っていてください。狀況が許すなら、先にMr.ロキンヘルウヌスと一緒に出して構いません。私は彼らに撤退するよう説得してきます」
「フェラー、私たちはチームです。共に行するべきではありませんか?チームの半數以上が殘っているというのに、私とハヤガタさんだけが待機、撤退とは。何のためのチームですか」
「私も同じ意見だべ。待機ってのはつまり、傍観者ってことだべな」
「……すみません。私はし、冷靜さを欠いていたようです」
ティムは、ローランドを振り返る。
「Mr.ロキンヘルウヌス。応援、謝します。私たちは全員で一緒に撤退します。先に出してくださって構いません」
ローランドの元に、六人の側近が集結する。
「ローランド様」
指示を求める彼たちに、ローランドが応える。
「ここで待機しながら、魔獣の攻撃を最小限に食い止めなさい。フェラーさん、僕たちは五分間待ちます」
「分かりました、では」
そう言うと、ティムは橋の向こうへと瞬足で向かった。
橋の上、ルルたちは魔獣の群れと戦していた。その奧には、れてはいけないという巨大な扉が聳えている。
ルルは両手に源(グラム)を集めると、掌から弾を撃ち出し、魔獣を討伐していく。
ヌティオスも『吼門頂肘突(くもんちょうちゅうつき)』で、殻の包まれた魔獣を橋から突き落としていった。
「お前ら、退いてくれ、大技を使うぜ!」
修二が大聲でぶ。右手に握る剣を後ろに構え、修二は猛スピードでダッシュし、飛び上がった。そのまま剣を真下に振り下ろす。刃に集めていた源気の斬撃が、床に垂直にびる。さらに一歩進むと、今度は左から右へと大きく斬り払った。
十字に重なった剣気波が魔獣の群れに直撃する。魔獣はおもちゃのように飛ばされた。
修二の大技が決まった直後、今度はラトゥーニが、多量の源を注いだメイスを投げ出した。メイスが落下すると発が起こり、衝撃波が魔獣を吹き散らす。
容易く倒される魔獣はどれも想像以上に弱かった。だが、とにかく數が多く、修二やラトゥーニの健闘にもかかわらず、新たな個が次々に生されていく。
「まだ増えるヨン?!」
メリルがそう言った時、修二の背後からのぞみがやってきた。
『雙暈(ふたかさ)』で一気に魔獣を吹き飛ばし、『日月舞(ひつきらんぶ)』でさらに斬り倒す。
「皆、大丈夫ですか?」
ヌティオスが魔獣を蹴り飛ばし、のぞみに向かって応える。
「カ、カンザキ、助かるぞ!」
のぞみは目を細めて笑った。
「今度は私が皆に協力する番です、一緒に戦いましょう!」
「おう!」
その一瞬の間に、のぞみのに『章紋(ルーンクレスタ)』の紋様が綴られた。気配は巧妙に処理され、源の気配に気付く者は誰一人いない。
ティムたちが、ようやく追いついた。
「君たち、手を止めてください」
「何でだよ~、魔獣に襲われちまうぜ?」
ラーマがティムをフォローするように、腰のらかな口調で皆を説得する。
「私たちの目的は、魔獣の殲滅やこのエリアの攻略ではありませんよね?戦いは程々でお願いできますでしょうか」
ラーマの言葉は、修二やラトゥーニの心に屆いたようだ。
メリルも三匹の魔獣を倒すと、さっと皆が集まっているところへ戻ってくる。
「たしかに、私たちの目的は、ノゾミちゃんと皆の安全を守ることだヨン」
「その通りです。ここで魔獣の相手をしていても、目的は果たされません。さぁ、ここを抜け出しましょう」
元來た道をティムが振り返る。
道中、橋の上で魔獣に出くわしたが、
「私が突破口を作ります。ミンスコーナさん、ハヤガタさんは後方から追撃を頼みます」
ティムの指示に、二人が頷いた。
「分かったべ」
「あとの皆は私に付いてきてください」
ティムが前方を剣で差す。すると、金のの束が矢のようにられた。の進路にいた魔獣は次々と貫かれ、3ハルの道が作られた。
「今のうちに、行きましょう」
(のぞみさん……のぞみさん……)
その時、のぞみの耳に、聲が聞こえてきた。
どうやらその聲は、あの大きな扉の向こう側から、のぞみを呼んでいるようだ。
聲に惹かれるように、のぞみは無意気にをかし、扉へと向かっていく。
進行方向を変えたのぞみに気付き、藍(ラン)が「のぞみさん?」と呼びかける。
返事はなく、のぞみは夢中で階段を上り、扉へ向かっていく。
「フェラーさん!」と、藍は慌てて聲を上げた。
「ランさん、どうしました?」
ティムが歩みを止めると、また魔獣が現れ、道を塞ぐ。
「のぞみさんの様子が変です」
「シタンビリトさん、彼を連れ戻してください」
「うん!」
魔獣はさらに數を増やしている。
のぞみは魔獣から襲われようとしても気にせずに前進した。後方の心苗(コディセミット)とラトゥーニが魔獣を食い止め、何度ものぞみに呼びかけたが、聞こえないのか、何の反応もない。
「ダメだ、いくら呼んでも気がつかねぇ」
ラーマがジャマダハルで魔獣を突き刺した。
「正気ではありませんね。あの様子、まさか『章紋』にでもかけられたのでしょうか?」
クラークも魔獣を倒しながら聲を上げた。
「おいおい、マジかよ!何とか止められねぇのか?」
「を解くか、をかけた人を無力化するしかないべ」
楓は険しい顔で、周囲に怪しい人がいないか目をらせている。
とうとうのぞみは夢遊病のような足取りで扉の前に立ち、その大きな扉にれた。
扉は容易く開いた。
「さすがにっちゃマズいんじゃないッスか……」
(……行くしかないか……)
ティムの心には、ティフニーの言葉が浮かんでいた。
(戦況が変わり、上手く出できないこともあるでしょう。もしも彼に異変があれば、一人にしないで。皆で守ってあげてください)
「皆!カンザキさんを追ってください、皆で守りましょう!」
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