《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》431話「もはや敵なし」

「グォオー」

「さて、今からお前の相手は俺だ。時間がもったいないからさっさとかかってこい」

突然現れた俺に怪訝なを浮き彫りにするヴァイオレットオーガだが、そんなことは俺の知ったことではないため、かかってこいと促す。

どうやら、ちゃんと挑発が理解できたようで、俺の挑発に憤慨したように雄びを上げると、手に持っていたこん棒を大きく振りかぶってそれを振り下ろしてきた。

しかし、そんな隙だらけの攻撃が俺に通用するはずもなく、を傾けてやることであっさりと避けることができた。手応えがなかったことを不思議がっているヴァイオレットオーガの懐にると、そのまま腹部に正拳突きをお見舞いする。

「グオッ!?」

「痛いか? お前が殺した人間も同じ痛みをじて死んでいったんだ。お前は、それ以上に苦しんで死ぬといい」

俺が本気を出せば、最初の一撃ですべてを終わらせることは簡単にできる。だが、周囲に転がっている人間だったものが六、七ほどおり、それだけあの姫を守って死んでいったのだろう。そんな護衛たちに報いるためにも、こいつには相応の罰をけてもらうことにした。

「おらっ、このっ、とうっ」

「ぐべっ、ぐばっ、ごぶっ」

を吹き飛ばさないよう、加減した攻撃がヴァイオレットオーガにクリーンヒットする。それでも威力が強すぎるようで、俺の拳が奴のにめり込むたびに骨や臓がつぶれていくのがでわかった。

圧倒的実力差をじ取ったヴァイオレットオーガの顔が恐怖に染まる。だが、Sランクモンスターとしての矜持か、それとも生存本能なのかはわからないが、一際大きな雄びを上げ、決死の覚悟で俺に向かってきた。

「いいだろう。せめてもの手向けに最後のチャンスをくれてやる」

「グオオオオオオオ」

そう言い放つと、俺は迫りくるヴァイオレットオーガの捨ての攻撃をけ止めるべく構えた。避けることは容易いが、最近的な耐久力強化などにも力をれたいと考え始めているので、ここは一つSランクモンスターの全力の一撃をけてみることにした。

「見せてもらおうか。Sランクモンスター、ヴァイオレットオーガの能とやらを」

「ガアアアアアアア」

圧倒的巨から繰り出される拳による攻撃は、掠っただけでもダメージは避けられないほど凄まじい威力であることが窺える。傍から見れば、そんな攻撃を生け止めること自が不可能だと考える者がほとんどだろうが、更なる強さを求めている俺からすれば必要なことであり、それが可能だと確信している。

「グオ?」

「所詮はSランクだったというわけか。他の人間であれば間違いなく即死だっただろうが、殘念ながら俺には通じなかったようだな。終わりだ。最後はせめて一瞬で仕留めてやる」

そう言うと、俺は手刀でヴァイオレットオーガの首を橫薙ぎに払う。その一閃は、強靭なを持つはずのヴァイオレットオーガの首をいとも簡単に斷ち切り、その傷口から鮮を滴らせる。

いかに生命力の強いモンスターとて、首をちょんぱされてはその生命を維持することはできず、その巨を地面に橫たえたままかなくなった。もう二度と立ち上がってくることはないだろう。

すぐさまストレージにヴァイオレットオーガの死骸を回収すると、分離解で骨やら皮やらの素材に仕分けしていく。その作業の最中靜かになったことを不審に思った生き殘りの騎士がんだ。

「おい、どうしたんだ? 戦いは終わったのか!?」

「ん? ああ、そうだった。忘れてた」

途中から戦いに集中していたため、ギャラリーがいることをすっかりと忘れていた。ギャラリーといっても、視界を奪っているため俺の姿はおろか戦っている様子すら見えてはいないだろうがな。

ヴァイオレットオーガが死んだ瞬間にちょうどウインドウォールの魔法が切れたようだ。だからこそ、周囲の音が靜かになっていることを不思議にじたのだろう。

俺は二人の近くまで歩んでいくと、聲が屆く位置で止まる。騎士は姫を庇おうと彼を背に臨戦態勢を取っているが、何かするつもりはないため、用件だけを伝える。

「オーガは死んだ。これからどうする?」

「まずはこの目を何とかしてもらいたいのだが?」

「それはできない。正確には、俺が姿を暗ますまで解除できないという意味だがな」

「何だと!?」

俺の言葉に非難の聲を上げる騎士だったが、冷靜に王騎士を窘めると、俺に語り掛けてきた。

「助けていただきありがとうございます。是非ともお禮がしたいのですが、お姿を拝見できないでしょうか?」

「ダメだ。その狀態でしばらくいてもらう。そのかわり責任を持って安全な場所まで連れて行ってやろう」

今回の一件は貴族ではなく王族が関わっている。そんな人間に目を付けられては面倒事が大挙して押し寄せてくるようなものだ。ただでさえ、アロス大陸では王族どころか國王と友人関係であり、その娘が俺との婚約を畫策しているという絶妙に面倒臭い狀態なのだ。これ以上王族の知り合いは必要なく、お腹一杯なのである。

俺の言葉に納得せずまだ何か言ってくる様子だったが、それを黙殺しながら俺は亡くなったを適當な布に包んでストレージに回収する。いつもの癖で分離解を使おうとしたが、寸でのところで気付いて思い留まった。危ない危ない。人間なんて解しても使える素材なんてないからな。

「これから、安全な場所へと連れて行くから大人しくしていろ」

「一どこへ連れて行こうと――」

「え? それはどういう――」

「では行くぞ」

たちの抗議も聞かず、俺は瞬間移で都市の近くの街道に移した。そして、ストレージから彼たちを守って亡くなったを綺麗に並べると、困している様子の二人に聲を掛ける。

「転移の魔道を使って安全な場所まで移した。ここから舊王都も見えているから、徒歩でしばらく歩けば問題ないだろう」

「転移の魔道だとっ!?」

「そんな貴重なものを」

「では、俺はこれでおさらばするとしよう。ああ、お前たちの目を覆っている魔法は、俺がいなくなってからし経てば見えるようになるから問題ない。では、さらばだ」

「あ、お待ちくださいっ」

転移の魔道という俺の咄嗟の言い訳に困している最中、俺は無理矢理に話を終わらせ、その場を去って行く。こちらに向かって何かをんでいたが、俺の姿を見ていない以上俺を見つけることは困難だろう。

などと、タカを括っていた俺だったが、本気を出した王族の力がこれほどまでとは、この時の俺は思いもしなかったのであった。

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