橋のり口では、扉を開けたところで子六名がどよめいていた。

制限時間まではまだ、時間はたっぷりとある。だが、

「ローランド様……！柱の間が開く様子が見えました。一何が起きているんでしょう？」

ローランドも、開いたままの扉をじっと見つめ、険しい表になった。

「これは面倒なことになりましたね……」

柱の間にってすぐのところで、のぞみは電球がるように意識を取り戻した。

目の前には、天然の源気(グラムグラカ)濃度が高すぎるゆえに結晶化した、巨大な柱が聳え立っている。のぞみはまだぼうっとしたまま、頂點の見えない柱を見上げた。柱の表面には謎の文字と、神的な紋様が刻まれ、臺座の部分は５０人の大人が手を繋げるほどの太さがある。

辺りを見回すと、そこは広々とした部屋で、床には直徑１０ハルもあろう石板があり、古の怪か何かの彫刻が施されている。

「あれ……？ここ、どこ？私、さっきまでヌティオスさんと……」

「ノゾミ！何してるの！？」

ラトゥーニが張り詰めた表で駆け寄ってきた。後ろから他の心苗(こコディセミット)たちもやってくる。

「ラトゥーニさん、メリルさん、皆さん……！あの、今は、どういう狀況でしょうか……？」

ティム、楓、蛍(ほたる)たちも続々と柱の間へってくる。皆、張のある面持ちだ。

「ノゾミが自分でここへ來たんだよ？」

「えっ？私が、自分で……？」

蛍はのぞみの様子をじっと見つめながら、近付いていく。

「あんた、何ぼうっとしてるのよ、しっかりしなさい」

「彼を責めるのはおやめなさい。何かのにられています」

ラーマにかばわれても、のぞみにはまだ、自分が何故ここへ來たのかよく分からないままだった。

「でも、怪しい人なんて見かけなかったヨン？」

「魔導士(マギア)であれば、狀態修飾系の『章紋(ルーンクレスタ)』を使って、気配や実を消すことも可能です」

「つまり、その魔導士がまだ近くにいるってことですか？」

そう言うと、藍(ラン)は見えない暗殺者を意識するようにを屈めた。

「そいつ、神崎さんを狙ってる暗殺者なんじゃないのか？」

修二は直的に言っただけだったが、ジェニファーはゾッとして彼を一瞥した。

（ここで狙ってくるとは）

治安風紀隊として、のぞみの事件について報を與えられているジェニファーは、未來から來た刺客の中に、魔導士がいることも知っていた。

マスターからの指示は、第三勢力である未來の刺客よりも早く、任務達することと言われていた。だが、その條件さえ諦めれば、未來の刺客を利用してのぞみを始末することは可能だろう。暗殺者としての評価は下がるが、最低限の目的を達できている限りは家族の命は守られるはず。ジェニファーは打算的な考えから、魔導士の介を朗報だと思った。

のぞみも修二の言葉から、自分を幻でる人について考えていたが、

「皆さん、気を抜いてはいけません。柱の間に侵してしまった以上、何が起きてもおかしくありません」

「確かに源気の気配は濃いッスね。でも、今んとこ何も起きてないッスね？」

その時、彼たちの足下に刻まれた聖霊の石板がった。地鳴りとともに床が強く揺れだす。のぞみがその場所を跳び離れると、十數ハルもある、大きな貝が現れた。

殻の表面には、月のクレーターのような複數のを持ち、そのから太く長い、ハオリムシの手のような首がびている。のような特徴を持つその蟲は、鱗のない蛇のようなきで、気流の流れに応じてを揺らしている。無數のから、ざっと數えて３５本の首が生えだした。

首はのぞみたちの源気に気付くと、エサと認識したらしく、獰猛にを揺らし始める。口が大きく裂けるように開き、鋭く立派な歯が見えた。

「ギャオオオオオオオオオオオ！！！！！」

魔獣たちの威嚇の雄びを聞いて、のぞみは自分のの中のもやもやを一旦置いておき、意識を取り戻したように気を引き締めた。

兇暴な外見と見下すような目つきに、藍が怯えたように聲を上げた。

「こ、これが柱を守る守護聖霊ですか……？」

っからのファイターである修二は、魂が震えるほどの闘志が湧き上がり、目をらんらんと輝かせた。

「ハハ、これは面白いことになるぜ！」

のぞみは目の前の貝を見ながら、教養の授業で學んだ容と照らし合わせる。

「……古の典籍に記録されています。ミテラス王國の守護聖霊……ミラドンキスです。巨大な貝竜ですよ」

クラークもその名には覚えがあった。

「ウソだろ……。あの、侵略者は全て呑み殺すっていう聖霊か……？」

「え？ミラドンキスって東の島國を守る守護聖霊じゃないの？何でイトマーラにいるわけ？」

「それは今考えることじゃない！」と、ルルがラトゥーニに言った。

「と、とんでもなくデケェんだな……」

聖霊は、巨人級のヌティオスでさえ見上げるほど大きい。

「攻撃が來るぞ！」

首たちはそれぞれが自我を持っているかのように、ランダムに弾を吐き出した。

間一髪。心苗たちは威嚇攻撃を避ける。

「皆、出しよう！」

ジェニファーの聲を聞き、のぞみたちはり口に向かい全力疾走する。

だが、扉に最も近かった蛍が、「扉が！」と指差した。

扉は閉じていた。

のように赤い寶石が扉の真ん中にり、全に刻まれた細かな彫刻紋様もっている。

楓が金屬竹刀を振り上げ、衝撃波を扉に當てた。ラトゥーニとルルも、飛び道で攻撃を加えていく。Ａ組の鋭たちの技は、魔獣など木っ端微塵にするレベルのものだったが、扉にはかすり傷一つ付かなかった。

「決め技なのに！全然効いてないじゃん！」

ラーマが扉を見ながら、冷靜に言う。

「これは國の結界と同レベルの代なのでしょう。私たちの技で簡単に壊せるではないかもしれません」

「退路は封じられたってことだべな」

「逃がさねぇってことか……？」

楓とクラークの聲を聞きながら、藍の顔は恐怖のを帯び始めている。

「背水の陣ということですか……。フェラーさん、どうしましょう？」

ティムののは複雑だったが、実はまだ、ティフニーの予想の範囲の展開だった。

もしも柱の間にった時は総力戦で聖霊と戦い、後の策は自分に任せるようにと、彼は言ったのだ。聞いた時は半信半疑だったが、ここまで來るともう、信じるしかない。ティムはクラスメイトたちを鼓舞する道を選んだ。

「皆！聞いてください。私たちはこれから、命を賭けて、全力で、ミラドンキスに抗いましょう！」

皆がティムの言葉を聞いて、ミラドンキスを見た。

しかし、修二だけは足りなさそうに、ティムを見ている。

「抗うだけか？倒したら良いじゃんか、ティム？」

「ふふ、君のその、単純で前向きな闘志には嫉妬しますよ」

「不破(ふは)さんは守護聖霊とも戦ったことがあるんスか？」

「ない！」

そう言い切った修二に、悠之助は鼻白んだが、「これから倒すところだろ？」と、修二は続けた。

「戦爭時代の英雄は、あちこちの帝國の守護聖霊を倒してきたらしいじゃん。だから今の連邦國があるんだろ？」

「不破さんの言うことも一理あるとは思いますが……。でも、どうすれば倒せるんでしょう？」

「コールちゃん、戦いながら弱點を探すしかないヨン」

メリルはもう戦闘態勢にり始めている。

「來るぞ！」

地殻ごと揺るがすようなきで、ミラドンキスが追ってくる。それぞれの首は長くび、扉の方へと迫ってくる。ティムは聖霊をよく観察しながら指示を出す。

「陣形を散らします、最大限の力で、そして互いに協力しながら戦いましょう！」

「分かりました！！」

「はい！！」

「おう！！」

「了解ヨン！！」

「ラジャー！！」

ミラドンキスは無數の口を開き、のぞみたちを丸呑みにしようと迫り來る。Ａ組の心苗(コディセミット)たちは、各々得意な武を翳すとミラドンキスの攻撃を避けるように跳び離れ、直ちに反撃を加えた。

修二が鋭い斬撃で一本の首を討ち、ラトゥーニがメイスの叩き技で別の首を潰す。

二人の攻撃を食らった二つの首はみ、頭がクラクラしているのか、し首を左右に振った。

のぞみはまた別のミラドンキスの攻撃を避け、中空のままで金銀の刀を構え、『雙暈(ふたかさ)』を繰り出す。だが、のぞみの繰り出した衝撃波は、イソギンチャクのようにらかい首にけ流され、あまりダメージを與えることはできなかった。

さらにその首は、揺れた反でのぞみを狙う。排水管のように太い首は、巨大な鞭のようにしなり、のぞみの目の前に振り出され、そのまま直撃した。