～　Side　ミリス　～

ローランドがヴァイオレットオーガから救い出した二人を舊王都近くの街道に置き去りにしてしばらくのこと、彼が自の正を知られたくないという理由で掛けた【ブラインド】の魔法が解け、二人が視界を取り戻した。

「こ、ここは」

急に視界が戻ったため、その太で目がしばしばとしているミリスだったが、すぐに仕える主のことを思い出し、近くにいた王に聲を掛ける。

「姫、ご無事ですか！？」

「え、ええ。問題ありません。ここはどこですか？」

「おそらくはバルルツァーレ近郊の街道ではないかと。あそこにバルルツァーレの城壁が見えているので、間違いありません」

見慣れた都市の城壁が目にったことで、ローランドの言っていたことが真実であったことを二人は確信する。だが、そうなってくると々困ったことが出てきた。それは、ここまでのことをされておきながら王族として何もせずにいることである。

「こうしてはおりません。急ぎ私たちをお救いくださったあの方を見つけねば」

「しかし、我らはその恩人殿の姿は見ておりません」

「わかっております。おそらくは、私たちを救った後のことを考えて正を知られないようにしたものでしょう。ですが、だからといってこのまま黙って恩だけをけ取るなど許されません。姿は見えませんでしたが、幸い私は耳が良い。聲の質から考えて十二、三歳の年であると私は見ています」

「さすがは姫。ではさっそくバルルツァーレの該當する人を招集して――」

「いいえ、あまり公にけば、かの人は行方がわからないまま逃亡するでしょう。周囲にも正を悟られないよういている可能が高いです」

戦闘という一點において他の王族よりも才がある姫君は、あの短い時間でローランドという人像を的確に捉えていた。そして、彼の使った噓の方便である転移の魔道を所持しているということを考えれば、王族が自分を探しているという話が耳にれば、そのまま逃亡する可能は高いと姫は結論付けていた。

だからこそ、彼の捜索には慎重に慎重を重ねく必要があるのだが、ここでローランドは致命的なミスを犯していた。それは、聲である。

いくら姿が見えなくとも、聲変わりしていない年の高めの聲音というものは大聞けばわかるものだ。ましてや、耳のいい姫にとっては聲を聞いただけでその年齢もほとんどぴたりと言い當ててしまう。助けた相手がそんな能力を持っているとはローランドも夢にも思わなかっただろう。彼の解析スキルでもその報は出なかったため、姿さえ見られなければ問題ないと判斷してしまったのだろうが、それだけでは不十分だったようだ。

それに加えて、ローランドが普段から目立った行を取りたがらないという気質も言い當てられてしまっており、これでかなり候補が絞られてしまっていた。

「ミリス。冒険者ギルドのギルドマスターにこう伝えなさい。“最近腕の立つ人していない年に心當たりはないか？”と」

「冒険者ギルドでございますか？」

「ええ、そうよ。あの恐ろしい化けをもろともしない実力は本よ。その腕っぷしを利用して生きているのなら、冒険者か傭兵をやっている可能が高い。でも、傭兵だと実力者の名はすぐに知れ渡ってしまう。だけど冒険者なら自分の実力を隠して活することも不可能ではないわ。ソロでいているならなおさらね」

「なるほど、さすがは姫です。そのご慧眼服いたしました」

主の鋭い推察にミリスは心の底から嘆する。あのない報の中で、的確に相手の正を見極め、相手に悟られず外堀を埋める様子に彼はますます王に傾倒していく。

「必ずやあの方の尾を摑んでみせます。元ディノフィス王國第一王マレリーナ・フィル・ディノフィスの名とお婆様の名に賭けて！」

どこかで聞いたような言い回しだが、それを指摘できる人間がいないため、ただただ彼に向かってミリスが頭を垂れる景があるだけだ。

しばらく沈黙が場を支配したのち、改めてミリスが「バルルツァーレへ帰還いたしましょう」という提案をして、二人は一度王都へ帰還した。ローランドが置いていった王の護衛の亡骸は後で王たちの指示をけた騎士たちによって回収された。

こうして、圧倒的な考察能力を持つマレリーナの手によって、ローランド包囲網が確実に敷かれていくのであった。

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「おお、マリーよ。戻ったか！！　狩りから戻らぬと家臣から聞かされた時には肝を冷やしたが、無事で何よりだ」

「ただいま戻りました。お父様」

バルルツァーレの王城の一室までやってきたミリスとマレリーナの主従二人は、事の次第をマレリーナの父であるカルヴァンに報告する。

元ディノフィス王國國王カルヴァン・フィル・バイセウス・ディノフィス。アルカディア皇國との戦爭に敗北する以前は、文武に秀でた武賢王として名が知れ渡っていた名君であり、名実ともに優れた為政者であった。

その武の才をマレリーナは濃くけ継いでおり、その才を活かして定期的にモンスターを狩ることで貢獻していたのだが、今回の一件で高ランクのモンスターとかち合ってしまい、危うく死ぬところであった。

マレリーナの報告に驚愕のあまり椅子から何度も立ち上がる一幕がありつつも、彼は事の顛末をカルヴァンに伝えた。もちろん、自分を助けてくれた恩人である年のことも含めて。

「その年のおで生き延びることができたと」

「はい。でなければ、今私はここにおりませんでした」

「その年には褒を與えねばならないが、マレリーナの話では姿を見ておらぬのだろう？　聲から年と斷定したのだろうが、それだけではこの都市で該當する一人に絞り込むことなどできぬぞ」

今は國の政を代行する執政に甘んじているが、カルヴァンとて元は國一つを治めていた國王だ。マレリーナの報告容から、彼がいかにして姿の見えない相手の年齢層を割り出したのかはすぐに思い至った。家族である彼ならば彼の耳の良さは理解しているだろうし、他の人と比べてその能が高いということも把握している。

だが、それでも年という一つの報だけではたった一人の人に辿り著くには漠然とし過ぎており、カルヴァンとしてはもうし報がしいところであった。

「お父様、その點についてはある程度當たりを付けております。私の予想では、その方は冒険者である可能が高いと思われます」

「その拠は？」

「まず、私たちが殺されかけた相手をいとも簡単に倒してしまう実力からして、その力で生計を立てているはず。つまり、冒険者か傭兵のどちらかです。ですが、私たちに姿を見られないよう細工をした人が、力を示せば目立ってしまう傭兵をやるとは思えません」

「なるほど、道理だな」

「一方、冒険者であればソロでの単獨活も可能であり、簡単な依頼であれば実力がなくとも日々の糧を得ることは難しくありません」

「故に、お前は件の年が冒険者だと判斷したわけか」

「このあと、冒険者ギルドに使いを出し、ギルドマスターに問い合わせてみるつもりです」

「その方が良いだろう」

といった合に自の推察をカルヴァンに聞かせると、彼も娘が出した結論に同意する。常人が聞けば荒唐無稽も甚だしい考えであり、実力者の世捨て人や通りすがりの旅人などの可能もあるのだが、何の因果か今回は彼たちの推察が的をてしまっている。

さらにローランドにとって不幸なのは、今朝方まで冒険者ギルドに顔を出しており、SSランクの冒険者の嫌疑を掛けられていたために冒険者ギルドとめ事を起こしたばかりだったということであった。そのため、その噂が彼らのやり取りを見ていた冒険者から他の冒険者へと伝わってしまっていたのだ。

今彼らが件の年の報を求めてけば、まず間違いなく冒険者ギルドでの一件が耳にって來るだろう。そして、その騒に関係する年の存在も……。

かくして、ローランドの知らないところで、著々とマレリーナたちの魔の手（？）がびようとしていたのであった。

余談だが、そんな狀況の中ミリスはどうしていたかといえば、父親と話を詰めているマレリーナをうっとりと眺めていた。どうやら、彼の忠誠は崇拝に近いものらしい。