《愚者のフライングダンジョン》119 メモ
またこの暗闇に戻ってきた。何度も帰還を試みたが、1秒にも満たない時間でこの暗闇に戻される。
スマホで計測したところ、現世と冥界間を移する時間はちょうど6秒とわかった。往復だと12秒以上だ。
俺の力を持ってすれば、1秒でドラゴンを倒せるが、萬が一ミスったときが怖い。魔力袋を持つ相手を前にして、12秒も無防備な狀態を続けるのは危険だ。もしも、ドラゴンの目の前で意識を失い、12秒の隙に飲み込まれでもしたら、魔力袋で消化されてしまう。
殺されるまでの時間がちょうど1秒であれば、タイミングを見計らってドラゴンを始末できる。だが、殺される時間にはムラがある。0.1秒も貰えないタイミングで戻されたこともあった。
もしも、『しわよせ』を取り込んだ影響とか、何らかの理由で俺の魂が弱まり、あの世の住人になっていたとするならば、もっと法則に沿った戻され方をする。
つまり、これは意図的な殺人だ。
だとしたら、どうやって俺を殺したのか。周りに敵の姿はなかった。攻撃を避けようと思って、家へワープしても殺された。
攻撃の瞬間すら知させず、目標の位置特定もせずに目標を殺す。こんな蕓當ができる武と言えば、ひとつしかない。
そう。ソウルノートだ。ただし、ソウルノートは世界に2冊しか存在しない。俺の所有する複製品のソウルノートと、盜まれたオリジナルのソウルノートの2冊。俺を殺したのは、間違いなく、盜まれたオリジナルのソウルノートだ。
そうなると、気になるのは誰がやったのかだ。それを突き止めるヒントになるのがタイミングだ。ソウルノートが奪われたのは一週間も前のことだ。その間にいつでも俺を殺せたはず。なぜ、今になって俺を殺すのか。
おそらく、犯人は俺の不死さをよく知る人だ。じゃなきゃ、連続して殺し続けるなんて方法を取らない。人間相手なら一度で充分だからな。
殺される間隔から推測するに、前もって俺の名前と行き先をソウルノートに書き込んでいたのだろう。それも大量に。記時に一文字だけ欠けさせておけば、実行時は一文字足すだけで俺を殺せる。
今まで仕掛けてこなかったのは、その準備に時間が掛かったからなのだろうか。いいや、違う。それにしてはタイミングが良すぎる。
仮に、ソウルノートを使って俺を永久に冥界に封印する作戦ならば不可能だ。
俺と同じ〖神パワー〗持ちで、不老不死で、復元能力を持つならば、永久に封印することも可能。だが、おそらく犯人は〖神パワー〗を持っていない。持っていれば、準備に一週間かけずとも俺を永久に封印できるからだ。ちゅーことは、俺を殺し続けることに限界がある。
書いた文字を消しゴムで消したとしてもソウルノートの劣化は消せない。ソウルノートの素材は100均で買ったレポート用紙だし、作る工程でミルクやら木のやらに漬けて用紙をめ倒しているため、ソウルノートは腐りやすく破けやすくなっている。
それほど脆いソウルノートを何度も繰り返し使用して、俺を殺し続けるのは無理がある。一秒につき、一回殺していると仮定して、一日に殺せる回數は約1萬2000回。(生き返るのに12秒掛かるから、実際に死ぬ回數はそれ以下だが、犯人は知る由もないことだ。知られたらタイミングを合わせられる可能もあるが、ノートの節約のためにリスクは取らないだろう)。
ページ數は100枚。用紙一枚に裏表4000字書き込めるとして、ノート一冊に書き込めるのは40萬字。名前と行き先に最低7文字使うとすると、ノート一冊で俺を殺せる回數は約5萬7000回だ。天道の姓を知らないとするならば、ケー・スマイル・ダークの9文字+矢印+(天國or地獄)の2文字だから、殺される回數が更に減る。
消しゴム係の共犯者がいたとしても、封印可能な期間は數日だろう。新しく書き込む時間も必要になる。その間、俺は自由だ。
だが、自由になるまで待つことはできない。のんびりしていたらムツキがドラゴンに食われちまう。
どうにかしてこの狀況を抜け出さないとダメだ。ちくしょう。犯人の顔と名前さえわかれば、ここに呼んで直々に始末してやるのに。
ウヅキさんを頼りたいところだが、ウヅキさんはあの後そのまま寢てしまった。徹夜していたみたいだし、簡単には起きないだろう。となると、山本メイにメッセージを屆けるのがいいか。
家に戻ったとき、まだ彼の気配があった。この狀況を伝えれば、本の代わりにかせる。萬が一、山本メイの中にある魂まで冥界に送られたら詰むため、同期するのはやめておこう。
メモ帳アプリを開き、現狀とこれからの行を軽めに書いておく。細かく書かずとも、もう一人の俺ならやるべきことがわかるはずだ。
そして、現世に戻り、亜空間からスマホを出して、開きっぱなしのままテーブルに置いた。もし、スリープ機能が働いて畫面が消えても再度開けるように、念の為、セキュリティをオフにしてある。これでもしウヅキさんが先に気づいた場合でも、俺の異変が山本メイに伝わるはずだ。
一瞬のうちに冥界へ戻された。さて、俺はこれからどうするか。當分、現世に戻る意味がない。
「天道さーん! 天道さーん! どこですかー! 天道さーん!」
サーベラスの聲だ。俺を探してくれている。
まずは、ここを出るところから始めるか。それに、死んだ主人の言い付けを守り続ける哀れな奴隷も解放してやらねば。
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風呂掃除もしたし、洗濯も干したし、掃除機もかけたし、皿洗いも終わった。天ちゃんの世話はスパルナがやってくれるし、俺の仕事はこれで終わりでいいだろう。
ウヅキさんに添い寢してやりたいところだが、本の俺がめていたし、山本メイの俺がでしゃばるのは野暮ってやつだ。
それにしても、山本メイの生活は最高だ。ベッドで寢れるし、鏡を見たら人が映るし、風呂は気持ちいいし、働かなくても遊び放題で、味しい料理をたくさん食べられる。
本當にを二つに分けて良かったぜ。數日に一度行う本との同期で、それまでの経験がドッとのしかかってくるのが辛いところだが、本の疲労を和らげてやれると思えば我慢できる。
さて、そろそろ帰ろうか。遊んでストレスを発散するのが俺の仕事だ。今日はアニメを観ながら漫畫でも読もうか。結構消化したけどまだ何ヶ月分も溜まってんだよな。
黙って家を出てもいいけど、ウヅキさんに心配かけるのは良くないし、テーブルに書き置きを殘しておこうか。
そう思ってリビングに行くと、ソファに本が座っていた。
「わっ! びっくりした。帰ってたんですか?」
返事が無い。まるでのようだ。
いつワープしてきたかはわからんが、ついさっきまでいていたのだろう。
その証拠に、つけっぱなしのスマホがテーブルにある。
「まさか寢てるわけじゃねぇよな。おい、どうした?」
叩いても反応が無い。魂が抜けている。
普段の俺なら、他人のスマホを覗き見る行為なんかしない。それに、不審な行為は防犯カメラに殘る。防犯カメラの録畫はウヅキさんもチェックするから、バレたら幻滅されるだろう。でも、これは明らかに異常事態だ。リスクを取ってでもスマホを見るべきだろう。
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< メモ + …
急事態
・ムツキが拉致された。韓國にいるカゲワニ
を倒させる気だ。
・奪われたソウルノートでハメ殺しされてる。
取り返さないとけない。
・山本メイがスマホを覗き見た場合は、その
罪を不問にする。その代わり、すぐにウヅキ
さんを起こしてこのメモを見せるように。
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想像以上に追い込まれているな。
しかし、どうしたものか。警察が全力をあげて捜索しても、ソウルノートは見つかっていない。こんなメモひとつ殘したところで、捜索が早まるわけでもない。それはウヅキさんを捜索班に參加させても同じこと。
つまり、これはウヅキさんに宛てたメッセージではない。俺への指令書だ。こんな形でメッセージを伝えやがって。俺より先にウヅキさんが見つけていたらどうするつもりだったんだよ。
「ウヅキさーん。起きてくださーい」
徹夜で泣き続けていたし、あんまり起こしてやりたくない。だが、起こさなきゃ俺がけない。一度だけ起きてくれたらいいんだ。どうせウヅキさんにできることなんかひとつも無いんだし、眠いなら二度寢でもしてもらえばいい。
ちっとも返事がこないので寢室にる。ベッドの上では、ウヅキさんが大の字でグースカ寢ていた。パジャマをはだけさせて、ヨダレまで垂らしている。
今朝、俺がまだ居るというのに、本と二人きりで浴室にり、めマッサージを施していた。余程あれが効いたのだろう。とても今朝まで泣いていたとは思えない。
「ウヅキさーん。起きてくださーい」
ウヅキさんのを揺すって、聲をかける。リラックスしたウヅキさんのは、まるで巨大なプリンを想像するくらいにらかかった。のに慣れた俺ですら、生唾を飲み込むらかさ。のでありながら、にするなんて、まったくボクちゃんの脳みそはどうなってんだ。
ベッドの前で屈み、覆い被さるようにウヅキさんを抱いた。もっと著したい。顔に顔を近づけ、ウヅキさんから流れるヨダレに舌をばす。邪な心に支配される寸前、煩悩を振り払った。
「ウヅキさん。寢てる場合じゃないかもですよ。急事態です」
唸りもしない。全然聞こえていないようだ。今なら何しても起きないんじゃなかろうか。
上下するに目がいく。若くなったのに相変わらず大きい。こんなに大きいと大筋が凝りそうだ。もっとマッサージしてやった方がよいのでは?
もみもみ……
モミモミ……
もみもみ……
モミモミ……
「……何やってるんですか?」
もみもみ……
モミモミ……
「メイさん?」
もみッ……
「やっと起きた。大変ですよ。急事態かもです。これを見てください」
もみもみ……
片手でをみほぐしつつ、スマホの畫面をつけて見せる。
「いえ、あの、そうじゃなくて。どうしてをまれているのですか?」
「そんなことよりも! ほら、これ見てよ。大変ですよ」
「ケーちゃんのスマホ? どうしてメイさんがこれを」
「ほら、自分で持って」
最近のスマホは片手で作できないほど大きい。これでウヅキさんの両手は塞がった。今のうちにをむぞ。
「あっ! ちょっと! メイさん! くすぐったいですから!」
「そんな恥ずかしがらなくても。いやらしい意味は無いですよ。本當に」
「あんっ……。もうっ!」
怒ってるけど強い拒絶はじない。なんなら、本とイチャついてる時のほうが怒ってる。
ウヅキさんの過去の際相手ってヤヨイさんしかいないし、やっぱり同士のほうが居心地がいいんだろうか。
「これは……。メイさん、ごめんなさい。用事ができましたので、今から外に出る準備をします」
「ひとりで? 大丈夫?」
「はい。弱音を吐いている場合じゃありませんから。頑張ります」
「そっか。わかったよ」
むのをやめて、帰る雰囲気を出す。いつまでも遊んでる場合じゃないしな。
「あの、帰られる前に謝らせてください」
ベッドの上で姿勢を正したウヅキさんは、真剣な目で真っ直ぐ俺を見ていた。
「あんなことに巻き込んでしまって、本當に申し訳ありませんでした。メイさんもお辛いでしょうに、私の看病までしてくださったこと、謝してもしきれません。本當にありがとうございました」
ウヅキさんは丁寧なお辭儀を見せた。
「にひひっ。気にしなさんなって。友達でしょう?」
「メイさん……」
ウヅキさんは目に涙を溜めている。
そこまでを昂らせることなのかと思ったが、思い返してみれば、ウヅキさんは學生時代からずっと忙しくしていた。ヤヨイさんを除けば、最近まで友達と呼べる人間が居なかったっけ。友達と言われて嬉しかったのかな。
「じゃ、ボクは帰らせてもらいますわ。あんま気を遣わないでいいからさ。また遊びにってね」
「はいっ! 本當にありがとうございました!」
ウヅキさんに別れを告げ、俺は隣の家に移った。徹夜で介抱してたから、俺もひとっ風呂浴びたい。急がなきゃ間に合わないかもしれないとは分かっているものの、やっぱりだしなみは大事だ。戦闘用のスーツと武も複製しておかないとな。
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