《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》316.帰ってきた羅漢王
「トヨトミ先生?」
とメッキーが呼びかけ、蘇(ソ)も驚いたように言う。
「何故あなたがここにいる?教え子たちはテストの真っ最中でしょう?」
「ああ、先頭グループの何人かはもうゴールしたはずだぜ。俺の教え子たちがどの程度の績を取るかは把握してる。それより、蘇副部長は、俺が家庭訪問に出かけた本當の目的は分かってるか?」
蘇は首を傾げている。數秒の間、特に思い浮かぶものもなく、沈黙が続いた。
それから、ハークストが興味深げに笑みを浮かべて、
「ただの家庭訪問ではないんでしょうね」
含みのあるハークストの言い方に、痺れを切らすように蘇は訊ねる。
「本當の目的というのは?」
「……ジェニファー・ツィキーに暗殺指示を行った組織の粛正、かしら?」
メッキーがそう言うと、義毅(よしき)は拍手を送り、
「ハハ、さすがはメッキーちゃんだぜ」
殺し屋の容疑者についてはすでに怪しい者を洗い出し、取り調べを行っている。今さらになってその名が出てきたことを、蘇は信じがたいような思いで聞く。無意識に目を大きく開いていた。
「ジェニファー・ツィキーが、神崎のぞみを狙う暗殺者……?だが、彼は無実のはず……」
「ツィキーの取り調べはチャロスがやったはずだ。おそらく奴は質問の仕方を間違ったんだ」
取り調べには聖霊も付くが、言っていないことまでを判定できるわけではない。あくまで、取り調べ人の質問に対する答えが噓偽りでないかどうかを確かめるだけだ。
おそらくチャロスは、「神崎のぞみに対して恨みがあるか」と聞いた。それでは、「はい」か「いいえ」かしか分からない。もし暗殺者が、のぞみへの恨み以外の理由で暗殺を企てていれば、見過ごしてしまうような取り調べしかされていないのだろう。
話を聞いて、蘇は溜め息をついた。
「チャロス番隊長の取り調べが甘かったのか……」
ジェニファーがチャロスから取り調べをけたのは、のぞみの寶を作らせた一件からだ。その頃は、未來からの刺客のことなどはまだ明らかになっていなかった。
グラーズンはそこまで考えると、今はそのミスについて追及する時ではないと判斷した。
それよりも、義毅のアドバイスを信じ切れず、アーリムが暗殺者であるという確たる証拠を握ることもできなかった自分のミスの方が深刻だと思った。
「英雄トヨトミ。予定よりも帰りが遅かったが、地球(アース)界での一件はどうなった?」
グラーズンは、なるべく義毅を尊重するような口調で訊いた。
「ああ。ツィキーに命令を出していた『レッドドラゴン』は消滅した。組織には6人のマスターと呼ばれる中心人がいるが、そのうちの一人、キャロリン・アンネートは逃亡中だ。ツィキーは家族を人質に取られていたため暗殺依頼に従っていたとみられる。今、彼の家族は保護され、命の安全は保障されている」
蘇は寢耳に水だったのか、義毅の語る言葉にいちいち驚いている。
「本案件だけでなく、彼は校で複數の心苗(コディセミット)に対する暗殺行為を犯してきたということか?」
「そうだ。ツィキーはこれまでに39件の暗殺を遂行した。それと、ツィキー以外にも、『レッドドラゴン』と関わりを持つ心苗が複數名いることも分かった。組織に殘っていた暗殺命令の記録を見れば、これまでに行方不明になった心苗について真相が明かされるものもあるだろう。それとな」
といって、義毅はマスタープロテタスを取り出した。
「今回、俺が摑んだ事件の証拠データだ。データを揃えて帰ろうと思ったら、ちょっと滯在時間が長くなっちまったぜ」
義毅がセンターに來た最も重要な目的は、ローデントロプス機関で得た、このデータのけ渡しだった。
そもそも『レッドドラゴン』は、アース連邦政府が裏で支える、北アメリカ州の半グレ組織だ。彼らについては未開示の報も多いため、もしもローデントロプスからダイラウヌスに直接データを送れば、政府はローデントロプスに対して不信を増すだろう。それは、機関の問題では済まされず、地球界にいる源使いたちが、現在よりもさらに不利な立場に落ちる可能をも意味する。
義毅には、自分という英雄を仲介させることで、機関同士の月を否定し、一般人(ガフ)と源(グラム)使いの軋轢をしでも軽くしたい思いがあった。
義毅は親指と人差し指を水晶札にれ、奧から水晶のかけらをつまみ出す。
「英雄トヨトミ、本當にご苦労だった」
グラーズンは恭しくデータをけ取る。義毅の功績は多大なものだった。
「これはずいぶん作業が増えそうですね」
ハークストは、ひとまずジェニファー・ツィキーについての一件が落ち著いたことにホッとしたように笑った。
「あなたはいつも定石から外れた打ち方をするが、だからこそ誰よりも実績を上げる方ですね」
「ソ副部長。後はこの案件をどう収めるかだな……」
グラーズンに言われるまでもなく、蘇はのぞみたちとミラドンキスの激戦に注視し続けていた。だが、柱の間へってしまった以上、悲観的なことも考えなければならない。
「はい……。Ms.ツィキーには改めて拘束令を出す予定ですが、今はツィキー本人も危うい狀況にあり……」
「我々の立場からすると、柱の間への侵攻は許されない行為ですからね……」とハークストも苦い表だ。
「でも、あの子たちは自分の意思ではなく、図られて侵させられたのよ?」
「そうだとしても、彼たちがあの間にって生き殘るには、柱を除き、守護聖霊を倒すしか道はない……」
「諦めるのはまだ早いぜ」
楽観的な義毅の言葉に、蘇はし腹に不満を抱えたような顔で訊ねる。
「二年生が、ミラドンキスに勝てると?」
「人數では厳しいだろうが、現場にいるメンツなら、勝算はある。多のケガはするだろうけどな」
メッキーは、義毅の聲に確信めいたものを見出した。
「教え子の力を、信じていらっしゃるんですね?」
「英雄トヨトミ」と、グラーズンが言った。
「カンザキノゾミの件で、君の教え子多數が柱の間へ侵している。擔任である君には、ソ副部長の配下にある『尖兵(スカウト)』とともに、現場の救援へ向かうことを要求したい」
「そうだなぁ。迎えに行ってやらねぇとな」
義毅はジェニファーが傭兵団にったこと、その後、殺し屋に買われたことも無論、知っていた。擔任教諭は、このように特別な背景を持っている心苗には、より注意をしてやらねばならない。
蘇は、義毅がかなり早い段階から、彼が暗殺行為を犯していると気付いていたのではないかと思った。
そして、それを知っていながら、見逃してきたのではないかとも。
「トヨトミ先生、あなたは自分の教え子だけを、溺しているのでは?」
「ん?どういう意味だ?」
蘇の心には、怒りの火に薪がくべられていく。
「あなたは、人殺しの心苗を庇っていたのでは?」
「ハハ、俺は真実が明らかになるまでは、結論付けたくないだけだ。たしかにアイツは、任された仕事は忠実にやる。指示に従っただけとはいえ、暗殺もした。だが、先に全を洗い出すことが、擔任に求められる対応だろ?」
「これだけのことを犯しても、彼の本意ではないと?」
「そういうことだ」
「ソ副部長。君の気持ちも分かるが、今は警護人の安全、および犯人の柄の確保を優先してくれたまえ」
グラーズンが割り込み、蘇はを鎮めるよう心がけた。
「……分かっています。だが、逮捕後の取り調べは、是非とも私に手伝わせていただきたい」
蘇の強い視線をけ、義毅は肩をそびやかすと、気楽に応じた。
「ああ、納得するまで付き合ってくれ」
「では、私の捜査班の心苗とともに、ダンジョンへご同行願う」
その時、イーブイタがグラーズンに報告した。
「部長。サイバスチャン・ロヴァートの源気(グラムグラカ)反応が完全に消失しました。ハッキングされていたダンジョンの機元端もコントロール下に戻っています」
「現場の様子はどうなっている?」
「発に巻き込まれたヘーラ小隊の四名ですが、生命反応はあるものの、損傷があります。結界は正常稼働しているため、半徑3ハルの建には被害なし。通りがかりの男數名が、衝撃波による怪我を負った模様です。すでに急ヒーラー隊が現場へ向かっています」
一同は報の再整理ができた。
戦況は傾いてきている。グラーズンは士気を高めるように激勵した。
「よーし、戦況は我々にある。最後まで気を抜くなよ」
「「「「「はい!!!」」」」」
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