～　Side　マレリーナ　～

「これはこれは王殿下。このようなところへいかがされましたでしょうか？」

「私はもう王ではないわ。だから、そんなにかしこまらなくともいいですよ」

「では、お言葉に甘えてそうさせていただきます。それで、一俺に何の用ですか」

ローランドの手がかりを見つけるべく、マレリーナとミリスの二人は冒険者ギルドのギルドマスターであるオイトを訪ねた。ローランドの危懼した通り、マレリーナは彼の聲音から年代層を突き止め、その実力から普段どのようにして生活の糧を得ているのかを推測し、オイトへと辿り著いた。そして、彼はオイトに問い掛ける。

「実は、ある年を探しておりまして。最近、腕の立つ人していない年に心當たりはありませんか？　年は十二、三くらいだと思うのですが」

「そ、それは一どういう？」

マレリーナの突然の問い掛けにオイトは怪訝な表を浮かべる。だが、彼の問いに該當する年に一人心當たりがあり、彼の顔が思い浮かんでくる。オイトとしては、マレリーナの問いに答えないという選択肢はある。件の年に迷をかけたという負い目があるため、元王族の相手をさせるというのは、目立ちたくないと考えている彼にとっては更なる迷となるのは想像に難くない。

そうオイトが頭の中で思案していると、マレリーナは事を説明する。自分がモンスターに襲われているところを年に助けられたこと、年が使った魔法でその姿は見ていないものの、聲質から人前の年であるということ、あれほど強力なモンスターを倒せるのならば冒険者を生業としている可能が高いことなど必要な報を淡々と口にする。

「そういったわけで、私は恩人である年を探しております。何か知っておりましたら、教えていただけないでしょうか」

姿を見せないようにしたのは、後で起こる面倒事を回避するためだということはマレリーナも理解しているのだろう。だが、それでも助けられたとしては何もせずにただそれをすることはできない。

ましてや、彼は元王である。けた恩はなにがしかの形で返さなければならない。けた恩に報いることは、王族の矜持として以前に人として當たり前のことなのだ。

「一人、心當たりがあります」

そんな彼の心を汲んでか、オイトは申し訳ない気持ちを抱きつつも心當たりのある年の話をすることにした。

「數日前にふらっとやってきた年がおりまして、ギルドカードの報からEランク冒険者らしいのですが、指名依頼を斷るなどの不審な行を取っておりました。調べてみたところ、最近SSランク冒険者として承認されたクエストブレイカーという冒険者ではないかという疑いが出てきたのです」

「SSランクですか！？　まさか、それほどの方だったとは……。その方のお名前は？」

「名前はローランド。尤も、本人にSSランク冒険者のリストにある名前と年齢層が同じだということを伝えたところ、たまたま名前と年齢が酷似していただけだと言われてしまいましたが、俺は彼が件のSSランク冒険者であると考えております」

「そうですか。報提供に謝します」

それから、彼が泊まっている宿の場所を聞き出したマレリーナはミリスを伴ってその宿へと向かう。まさか、自分たちを助けてくれた相手がそれほどの大であったことに驚愕と戸いを隠せない二人だったが、あれほどのモンスターをいとも容易く屠ってしまう実力を考えれば、彼がSSランクであるということは妙に納得のいく話であった。

「ああ、王様じゃないかい。こんな安宿に何か用かい？」

「ええ、人を探しておりまして」

マレリーナとミリスが宿に到著すると、それを見た宿の店員が駆け寄って來る。そして、用向きを伝えると、眉を歪めながらこう答えた。

「ああ、そのローランドって坊やなら確かにこの宿に泊まってたよ。でも、急用ができたとかなんとかで宿を引き払って出て行っちまった」

「なんですって。それはいつですか？」

「今夕方前くらいだから、確か晝過ぎくらいだったかねぇー」

「……」

まるでこちらのきを呼んだかのようなきに、マレリーナは絶句する。もし本當にかの年がこちらのきを読んでの行だとすれば、かなり警戒心が強くかなりの切れ者だ。自ら正がバレないように細工を施したにもかかわらず、見破られることを見越して既に先手を打っているとはさすがの彼も考えが及ばなかった。

そのあまりの手際の良さに言いようのない敗北をじていると、そんな彼に追いうちを掛けるように宿の店員が言い放った。

「そうそう、もし自分のことを探しに來た人間がいたら伝えてほしいって坊やから言われてたんだ」

「……どのようなことですか？」

「“俺のことは諦めろ”だとさ」

「っ！？」

その一言に込められた意味を理解した時、マレリーナは戦慄する。宿の人間に伝言を殘したということは、やはり自分がここまで辿り著くことは彼に見破られており、彼に先手を打たれた形となってしまった。

仮に年の次の目的地を突き止めたところで、それすらも彼の手のなのだとしたら、手の打ちようがない。マレリーナは完全に年との接を諦めるしかなかった。

宿の人間にお禮を言うと、マレリーナは項垂れながらも宿の外へと出た。この先、件の年を諦めるしかないことへの無力とまだ人していない年に手玉に取られたことで、それなりの人間だと思っていたマレリーナからすれば、數ない挫折を味わった気分なのだ。

「姫、これからいかがいたしましょうか？」

「とりあえず、ここに居ても仕方がないから城に戻りましょう」

こうして、マレリーナにとっては不本意な、ローランドにとっては上出來といった展開となり、彼と彼の追い掛けっこは、ローランドの勝利という形に決著するこになったのである。