《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》60話 出のこと(第三部最終回)

出のこと(第三部最終回)

「ねえねえにいちゃん!どっちの方がエロい!?ねえ!」

「・・・どっちもやめとけ、っていうかなんだそれ。もはや面積が絆創膏じゃん・・・引くわ・・・」

「ちょっと!そんなにドン引きしないでしいしっ!!」

「するわ・・・お前何を目指してるんだよ・・・」

ねえちゃん宅の2階。

そこにある朝霞の部屋で、何故か俺は下著の品評會に參加させられていた。

主催は朝霞、そして観客は俺1人だ。

もうやだ。

「ぶぅ~」

「ぶぅじゃないの。お前高柳運送に住むんだろ?子供の教育に悪いっていうレベルじゃないからなソレ・・・持ってきたら一生口きかないからな」

「にいちゃんの前でしか著ないからぁ」

「なおさら駄目に決まってんだろ」

俺がそう言うと、渋々朝霞は手に持った・・・限りなく布面積のない下著のような何かをタンスにしまい込んだ。

そんなとんでもない下著、どこに売ってるんだよ・・・

「ボクサーパンツとスポーツブラみたいなのでいいじゃんよ」

「よくないしっ!下著もオシャレの一員なんだよ!!にいちゃん!!」

「そ、そうですか」

この話題はやめておこう。

「あ、そうだ。朝霞、これだけは約束しろ・・・高柳運送で暮らすんなら下著姿でうろつくのはナシだかんな」

「當たり前っしょ!子供の前でそれはナシだし!!」

中を電流が通り抜ける錯覚を覚えた。

・・・噓、だろ・・・?

朝霞がそこら辺をちゃんと認識してるだって・・・!?

「にいちゃんの前だけだし!」

「俺の返してくれる?」

「みゃわぁ!?」

とりあえずアイアンクローはかましておいた。

っていうかお前、石川さんの前でも下著姿だったじゃん・・・

「とにかく、荷は・・・下著以外はこれで全部か?」

「うん!服以外は持っていきたいないし!釣竿とか漁に使うもんは竜神丸に積んでるしね!」

朝霞が示すのは、さほど大きくない段ボール3箱。

・・・さっきの下著はともかく、この前までJKだったにしては荷ないな。

「楽しみだね~!向こうに著いたら服屋にも行こうね!にいちゃん!」

あー、なるほど。

向こうで調達するつもりだったのか、納得。

龍宮には服屋もいっぱいあるだろうしな。

「ん~・・・制服どうしよっかな。ねーねー、にいちゃぁん、興する?」

ハンガーにかけたままの制服をに當て、朝霞が振り返った。

なにやら蠱的な表を浮かべている。

なんだその質問は。

「俺を興させてどうし・・・おい、絶対持ってくなよソレ。なんだそのスカート丈!?膝上何センチなんだ!?」

「短い方がきやすいし、かーいいじゃん!」

・・・朝霞がセクハラ発言けまくってた理由の一端が分かったわ。

こんな格好してたら、そりゃ軽いだと思われるよ・・・

お前は全く悪くないけど、お前が悪い。

「・・・外に探索に出る時なんかは、前みたいに出は絶対NGだ。畑仕事とかもするし、そいつは置いてけ」

「だよね~。んじゃ、向こうでいいじのパンツでもさがそっと」

朝霞にしても本気ではなかったようで、改造制服はまた壁に戻された。

「じゃあこれ下に運んじまうぞ。その後はねえちゃんを手伝うか」

「あいあいさーっ!」

段ボールを持ち上げ、部屋から出る。

軽いなあ、マジで服しかってなさそう。

なぜ今こんなことをしているのかといえば、今日が牙島を離れる予定の日だからだ。

昨日やってきた船で各種資の搬出は終わり、今南地區に殘っている一般人は俺達くらいのものである。

その他の民間人はとっくの昔に龍宮へ渡っている。

なので、俺達は竜神丸に乗って島を離れるのだ。

ちなみに乗員は、俺、朝霞、ねえちゃん、そしてアニーさんと神崎さんだ。

式部さんは古保利さんたちと一緒に、今日來る予定の別の船に乗る。

石川さんは一足先に龍宮へ渡っているのだ。

今は向こうで単獨行中らしい。

またこっちへ攻め込むときに合流する予定だ。

この島に殘る!って主張する人が何人かいるかと思っていたが・・・どうやら南地區の人たちは住み慣れたここをみんな離れるらしい。

まあね、詳しくは説明されてないけどドンパチがあったしこれからもあることは察されているだろう。

いくら故郷とはいえ、非戦闘民にとってはこんな危ない島にいられるか!ってことらしい。

全員しっかりした避難所に収容してもらえることもあって、スタコラサッサとなったわけだ。

自衛隊や駐留軍からしても、有事の際に敵の人質になるかもしれん人員がいないのは都合がいい。

・・・それに、『レッドキャップ』に関しては人質どころか『実験材料』にされるかもわからんのだ。

リスクは避けたいだろう。

それを考えれば、避難所に迎えれるくらい何の問題もないというわけだ。

「ねえちゃん、こんなもんかな」

「ええ、日持ちするものはこれで全部よ~。楽しみねえ、子供たちにいっぱい食べさせてあげなくっちゃ!」

庭先に荷を搬出した俺の前で、ねえちゃんは嬉しそうにしている。

その橫では、同じように嬉しそうななーちゃんが飛び跳ねている。

「梅干しだけでも無限に飯が食えそうだ・・・朝霞以外」

「むう!あーしは海苔で食べるからいいもんっ!」

庭に出されているのは、ねえちゃんが今までに作った數々の保存食である。

梅干し、海苔、魚の干、乾燥ワカメ、味噌に調理用の日本酒。

その他には備蓄の米や野菜の種、各種調味料といった所か。

どれもかなりの量があるが、かさばらないので全部持っていく。

こんなんどれだけあってもいいですからね。

「イチロー、さっさと運ぶぞ!我々のの巣が待っているのだからな!」

「勝手に子供たちの家をラブホテルみたいな魔境にしないでいただけますかね」

この島から出できるのがよほど嬉しいのか、アニーさんは朝からテンションが高い。

の巣って言い回しも気にってるみたいだな、この3日間で100回は聞いたぞ。

「・・・そうなのですか?」

神崎さんもとんでもないこと聞いてこないの!

「んなわけないでしょ。アニーさん流のオシャレジョークですよ、ジョーク」

とりあえず保存食から運んじまうか。

俺はテンションがとんでもないことになっているアニーさんを半ば無視しながら作業を開始した。

「バウ!ワウ!」

「手伝ってくれるのか、かしこいかしこい!じゃあ・・・キミにはこれをお願いしよう!」

目をキラキラさせながら寄ってきたなーちゃんに、バスケットを噛ませる。

この中にっているのは、彼のお気にりのオモチャや布などだ。

「モフフ!ハフ!」

それを咥えたなーちゃんは、誰よりも早く桟橋方面にダッシュしていった。

うーん、マジで賢いな。

サクラといい勝負かもしれん。

「・・・知っているぞイチロー。今のが『塩対応』というのだな?そうだな?」

「はいはいそうですよ~・・・これは自分で持ちましょうね~」

楽しそうに近付いてきたアニーさんが俺に持たせた半明のエコバッグを即座に押し付ける。

そのけて見える中は、カラフルな布地・・・そう、下著である。

何故朝霞といいこの人といい、俺に下著を持たせようとするのか。

そして見せようとするのか。

「これなどはお気にりなんだが、どう思う?」

「うわぁすごいもう紐じゃんそれ・・・子供と朝霞に悪影響なんで砂浜に埋めて封印しますかね、100年くらい」

とんでもないを見せつけてきたアニーさんにそう言うと、彼はにやりと笑った。

「安心しろ、キミと2人きりでいる時しか見せないからな」

「安心する要素が微塵もじられないので遠慮しますね~、神崎さん味噌の運搬お願いしまーす」

「は、はい!」

付き合っていられないので心を鬼にして移を開始する。

とりあえず乾燥ワカメの束は全部持っていこう。

「チエコさんチエコさん、イチローがひどいんだ」

「あらあら、大丈夫よ~照れてるだけだからね~。アニーちゃんはお米をお願いね~」

「ウン」

アニーさんはおとなしく米袋を擔ぎ上げた。

急に子供みたいになったな・・・甘えてるんだろうか。

しかしねえちゃん・・・そつがないなあ。

この家最強は間違いなくねえちゃんだな、うん。

「朝霞は梅干しの運搬を頼む。海に捨てたら向こう1年は許さんからな」

「ぴえん・・・ぱおん・・・」

朝霞はこの上なく悲しそうだが、食い末にする人間はうちの子じゃないので許しません。

元々うちの子じゃないけど。

既に姿が見えなくなったなーちゃんを追いかけるように、俺は歩き出した。

4人もいれば作業はあっという間に終わる。

何度かの往復を経て、竜神丸にすべての荷を運び終えることができた。

さて、これでいつでも出発できるぞ。

「いざ離れるとなると名殘惜し・・・くはないな。一刻も早く逃げてしまいたい今日この頃」

煙草に火を點け、中央地區の方角に目を向ける。

ここからは山しか見えないが、あの先にはまだややこしい奴らが大量にいるのだ。

龍宮で準備を整えて戻ってきたら、全員仲良く地獄に送ってやる。

「んお!?・・・あのねえ、新しいのあげますから」

1回喫い、2回目・・・といったところで、俺の煙草はアニーさんに掻っ攫われてしまった。

「ふふふ、イチローの喫いかけが一番おいしいのだよ」

「プラシーボ効果って言うんですよ、それ」

竜神丸を係留している出っ張りに腰かけ、アニーさんは子供のように笑っている。

俺の唾にうま味分があるみたいな変態発言はやめていただけませんかねえ。

朝霞まで影響されたらどうしてくれるんだか。

「まったく・・・」

新しいのを取り出し、火を點ける。

・・・ここから見れば平和で自然がかな島なのになあ。

とんでもなく面倒な奴らが引っ越してこなければよかったのに。

「『レッドキャップ』めが・・・いっそのこと別の外國にでも行ってりゃ・・・いや、それだとアニーさんにも知り合えなかったなあ」

アニーさんのおでねえちゃん達は安全だったのだ。

うーむ、禍福は糾える縄の如しってやつかねえ。

「嬉しいことを言ってくれるな?んん?」

いかん、アニーさんを必要以上に喜ばせてしまった!

・・・まあ、そこは事実だからいいんだけどさ。

しかしすぐにしなだれかかってきますね、この人。

煙草で火傷しそうになるから怖いんですけど。

「こちらとしてはよかったと本當に思っていますよ。向こうにそのままいたら、アニーさんと戦うことになったかもしれんので」

何度か一緒に行したが、この人の戦闘能力は高い。

っていうか以前に戦った・・・ええと、リッパー?とかもそうだけど、『レッドキャップ』はトンデモ戦闘能力持ちが多數いそうだ。

ミサイル陣地にいたのは雑魚ばっかりだったが、あの赤い帽子を被っている連中は油斷できないな。

「だな、私としてもこんなにカワイイ敵を作りたくはない」

「むめめめめ」

何が嬉しいのか、アニーさんは後ろから俺を抱きしめて顔をもちもちしてくる。

やめてください!著しないでください!

いい匂いがする!!

「・・・」

そして神崎さんの方向から凄く恐ろしい気配がする!

はい!一応急事態なのに遊んでてすいませんでしたっ!!

「うあー!?アニーちゃんずるいし!あーしが準備で大変な時に限ってずるいし!!」

舵室から顔を出して朝霞が吠えている。

「ははは、これが大人の役得だよアサカ」

「おーぼー!おーぼーだし!」

言い爭うのはいいけど、まず拙者の頭を解放してはいかがかな?

落ち著かないことこの上ないんですがねえ!?

「むうう・・・にいちゃん!みんな!出港準備完了したよ!!とっとと乗れし!乗れーっ!!」

朝霞船長がそうおっしゃるなら逆らえない。

いよいよこの島から(一時的に)離れる時が來たようだな。

思えば々大変だったが・・・これで帰れるってもんだ。

慨深い。

「みんな、忘れはないわね~?家の鍵も閉めたし、行きましょ行きましょ。子供たちに會うのが楽しみだわぁ♪」

ねえちゃんはスキップするような気軽さで船に乗り込んだ。

・・・そういえば子供が産まれるまで旦那さんの仕事手伝ってたって聞いたことがあるな。

きが軽やかだなあ。

「よし!一刻も早くこの忌々しい島から出するとしよう!イチローとの・・・」

の巣キャンセル!!」

拘束が緩んだ隙にアニーさんから出し、ツッコミもれておく。

「つれないサムライだなあ」

アニーさんは、まるで映畫のように肩をすくめた。

まったく、何しても絵になるんだからこのは。

「帰れますね、田中野さん」

いつも冷靜な神崎さんも、この時ばかりは嬉しそうだ。

「・・・ええ、夕飯までには帰れませんでしたけど。それでもお土産はいっぱいあるから許してもらえるでしょう」

サクラや子供たちのことを考え、俺も笑った。

そんな時だった。

何かが落下するような風切り音に続き、地面との衝突音。

戦闘員の俺、神崎さん、アニーさんは一斉に振り向いた。

桟橋から見て、南地區の奧・・・石川さんの家にほど近い地面に、何かが突き刺さっている。

あれは、まさか・・・!

「―――朝霞ァ!エンジン始!!早く!!」

そうびつつ懐から単眼鏡を取り出し、展開させて覗き込む。

「damm!!」

「・・・!」

神崎さんとアニーさんはライフルの安全裝置を外したようだ。

単眼鏡によって拡大された視界に、一本の杭のようなが見える。

杭というか、むしろあれは・・・

「あの時の謎アンテナじゃねえか!!」

東地區に行った時に見た、ネオゾンビを導してるっぽかったアンテナ。

その上部が左右に分かれ、あの時のように赤いランプが點滅を始めた。

「このタイミングでかよ・・・マジで格悪いなあ!畜生!!」

「田中野さん!通信です!!」

ボヤく俺に、神崎さんが鋭くんだ。

それと同時に、彼が持っている通信機から聞き馴れた聲がする。

『こちら古保利!こちら古保利!!』

古保利さんだ。

それも、今までにないような切羽詰まった聲を出している。

誰かが戦っているのか、遠くからは明らかに銃聲のような音まで聞こえる。

『牙島から撤退せよ!繰り返す!牙島から撤退せよ!!』

それを聞くや否や、俺達は続けざまに船に乗り込んだ。

「こちら神崎!狀況は!?」

神崎さんが怒鳴り返す。

『神崎ちゃん!そっちは―――』

「既に桟橋の船に乗り込んでいます!いつでも出可能!」

朝霞がエンジンをかける。

が軽く震え、頼もしいエンジン音が響く。

『中央地區で急にきがあった!北地區から例のアンテナが大量に出!導はなく、何らかの発機を使った模様!!』

・・・あそこに突き刺さってんの、北から飛んできたってのか!?

俺達の方に飛んでこなくてよかったぁ・・・

『それと同時に、中央地區の病院から特異個が多數出現!!こっちは撤退しながら進行方向が被る奴を処理中―――足を狙え!出し惜しみするな!!』

またも銃聲。

『あの繭みたいなからバンバンわいて來てる!とても倒しきれる數じゃない!!無數!!10や20じゃない!―――構うな!グレネード投擲!!』

今度は発音。

どうやら偵察場所から逃げてるみたいだ。

「そちらは―――」

『大丈夫!今・・・車両に到著!出せ出せ出せ!!!』

スターター音とエンジン音。

続いて何かが走るような音も聞こえる。

『銃座!どうせ放棄するから殘弾全部ぶちこめ!全力撃!!―――ってわけでこっちは大丈夫!そちらも即時撤退を!細かいことは龍宮で!!』

「了解しました!ご武運を!!」

神崎さんがそう言うと同時に、波を蹴立てて船が走り出す。

「みんなつかまってて!一気に外海まで行くし!・・・うわわわ!にいちゃんアレ見てアレ!!」

舵室からこちらにを乗り出して後方を指差す朝霞。

その方向を見ると・・・

山の方になにやらく影が見えた。

アレは・・・!?

「・・・早めに準備していて助かったな、イチロー」

アニーさんが言うように、それは山を疾駆する大量の黒ゾンビの群れだった。

あっという間にこちら側へ殺到してきたそいつらは、電気柵にぶち當たる。

「なるほど、一気に來るとああなるのか・・・おっかねえ」

初めに接した個群は電が原因で止まったようだが、その後から新手が殺到していく。

しばらくすると・・・機能停止した黒ゾンビの山を、黒ゾンビがついに昇りきった。

その後はもう、津波のように山を駆け下りてくる。

あの様子じゃ、南地區まですぐに來ちまうな。

「カンイッパツ!ってやつだね~・・・んじゃ、龍宮に向けてよーそろ!」

既にこの船は十分遠くまで來ているので問題ないだろう。

ゆるく左旋回し、龍宮方面へ舳先が向いた。

「ミサイル陣地の破壊と船の修理、同時並行しといてマジでよかった・・・」

ここまで來れば安全なので、すっかり灰になった煙草を咥えたまま座り込む。

ゾンビは海にれないからな、空でも飛ぶ新型にでも進化されないかぎり安全ってわけだ。

・・・これフラグじゃないよな?

「なにはともあれ祝杯だな、祝杯」

アニーさんはおのポッケからスキットルを取り出し、ぐいっと呷った。

まだ日も高いうちからこの人はもう・・・

「式部さんたち大丈夫かなあ・・・大丈夫だろうけど」

「あの三等陸佐がこの程度でどうこうなるはずはありません。かなりの安全マージンを取っていると思います」

俺も神崎さんの言う通りだと思う。

いつでもすぐに出できる準備くらいしてるだろうしな。

黒ゾンビに続々と侵されつつある南地區を見ながら、俺は新しい煙草を口に咥えた。

結論から言えば古保利さんたちは大丈夫だった。

あの後しばらくして、彼らはなんとジェットスキーで追いかけてきたのだ。

その數、4。

どうやら4人しか殘っていなかったらしい。

「いやー・・・迎えの船にトラブルがあった時に備えておいて助かったよ、ははは」

巧みにジェットスキーをりながら、古保利さんは笑った。

牙島に置いていたらしい。

用意周到である。

「肝が冷えたであります!」

式部さんもそう言って笑っていた。

・・・いいな、ジェットスキー。

かっこいい。

俺も機會があったら乗ろう。

「朝霞ちゃーん!龍宮の第二埠頭ってわかる?そこまで導するから乗せてね~」

そう言って古保利さんたちは船に飛び乗ってきた。

足場の悪い海面からぴょんぴょんと。

・・・ニンジャ!

ってオイちょっと!?ジェットスキーは!?

「燃料持たないもん、キミたちがいてくれて助かったよ~・・・漂流しながら無線で助けを呼ぶ羽目になるとこだった。迎えの予定は夕方だったもんでねえ」

あっという間に海の藻屑と化すジェットスキーを見ながら、俺は盛者必衰を噛み締めたのだった。

・・・いや、なんか違うな?

というわけでそれ以外には何も起こらず、頼もしき竜神丸は龍宮の港までたどり著いた。

どうやらここは『掃除』されているようで、新しいフェンスで囲まれている。

チラホラ見える人影は駐留軍で、ここに常駐している雰囲気もある。

「食料調達のために抑えているであります!取り放題でありますよ~」

式部さんがそう教えてくれる。

なるほど・・・軍隊の組織行ってすげえなあ。

俺みたいな個人じゃとても考えつかんねえ。

「この船はキミたちの私だからね。ここに係留しておいても問題ないよ」

「いいんすか!?マジで!?」

「全然大丈夫!荒川さんには島で々お世話になったからねえ」

「ざーす!あざます!!」

朝霞は相変わらず古保利さんには禮儀正しい?な。

一応目上には敬語を使用している。

「古保利さん、すいませんけど神楽まで乗っけてってくれます?そこに迎えを呼ぶんで・・・」

ここから神楽までさすがに歩くのは危険だ。

俺単ならともかく、荷もあるしねえちゃんもいる。

「あー、多分もう來てるよ・・・ホレ」

接岸しつつある船の上で古保利さんが指差した方向には・・・なんと!!

「懐かしき我が車!!」

竜神大橋で別れたっきりの軽トラくんの姿が!!

魚河岸の人たちが駐車していたであろう駐車場に、頼もしく鎮座しているではないか!

・・・あれぇ!?なんか前に見た時よりボロボロなんですけどォ!?

全然頼もしくねえ!?

それにしても、一だれが迎えに來てくれたんだろう・・・あ。

俺達の船を見つけたのか、誰かが運転席から降りてこちらに大きく手を振っている。

あの孤獨なシルエットはまさか・・・!

「大木くんじゃん!!」

隨分久しぶりに見るその姿は、この前よりも一層日焼けしているじだ。

逞しくなったなあ・・・あ?

大木くんの反対方向、助手席の窓から小さな影が飛び出した。

綺麗に地面に著地した影は、すぐさまこちらに向けて走り出す。

あの

あの姿。

そしてあの尾。

「―――サクラぁ!!!!」

「うぇえ!?にいちゃん!?」

それを見た俺は我慢ができず、いまだ接岸していない船からジャンプ。

2メートルほどの距離を飛び越え、一足先に地に足を付けた。

「おおおおおい!!サクラぁあああああ!!!」

「ぎゃわん!!わぉおん!!ひゃん!!あおぉおおん!!!」

そのまま止まらず走り出すと、あっという間にサクラのかわいい顔が近付いてくる。

もうなんか今まで聞いたことがないような鳴き聲を上げながら、サクラは猛然とダッシュ。

「たっだいまああああああああああっ!!!會いたかった痛い!!!!!」

そうしてサクラは、足を止めて両手を広げた俺の鳩尾にとんでもない勢いで飛び込んできた。

おごごご。不意打ちいいい・・・!!

だが俺はそのままサクラを抱きしめ、地面の上をゴロゴロ転がる。

「くぅううお~ん!!きゃわん!!ひゃうぅうん!!」

サクラはそのまま上へズレ、俺の顔を舐めまわす。

うははは、久しぶりだな!!

「帰ってきたぞ!おとうちゃんは帰ってきたぞお!!心配かけてごめんなあ!!!!」

「わぅん!!ぎゃん!!あおぉん!!!」

『本當ですよ!』か『許しませんよォ!!』か知らんが、かなりご立腹の様子のサクラである。

そりゃなあ・・・長い事留守にしたしなあ。

「いっぱい遊ぼうな!いーっぱい散歩しような!!」

「わぅう!!ぎゃん!!わふ!!」

『當然ですよォ!!』的なニュアンスで吠え散らかすサクラをで、抱きしめる。

ああ、いつも通りお日様みたいないい匂いだ。

誰かが風呂にれてくれてたんだなあ。

ひとしきり吠えたサクラは、そのつぶらな瞳でじっと俺を見つめてきゅんきゅん鳴いている。

心なしか涙目に見えるな。

「―――ただいま、サクラ」

改めてそう言うと、サクラは嬉しそうに俺の鼻の頭を舐めたのだった。

俺はそのくすぐったさに笑いつつ、やっと帰れた喜びに深く息を吐いた。

というわけで、第三部『牙島激闘編』はここで終了です。

長い間お付き合い頂いてありがとうございました。

1週間ほど空けた後、第四部を投稿し始めます。

これからも田中野のドンパチにお付き合いください!

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