《【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~》第292話 返し技と返し技

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★

本日BookLive様にて、単話版最新話が更新されました。

ルネット復活? さらになりそこないとのバトルシーンは必見です。

是非読んでくださいね。

「ぼくを斬ったところで、何も変わりませんよ。この世界も、今レクセニル王國に侵攻する蠻族たちを止めるのも……」

ハシリーの言う通りだった。

今、レクセニル王國に侵攻している兵士たちは、ガダルフの部下でも、ハシリーの考えに共する狂信者というわけでもない。

バロシュトラス魔法帝國の侵攻によって起きた流れに乗じて、レクセニル王國の領土を脅かそうとしている不埒者たちだ。

ここでハシリーを討ったからといって、侵攻する兵士たちが引いてくれるわけではない。

それでもヴォルフは引かない。

握った柄から手を離さず、荒い息を吐き出しながらヴォルフは決著をんだ。

狀況は混沌としている。

でも、自暴自棄になったわけではない。

(実質的な危機を演出しているのは、敵兵たちだ。でも、彼(ハシリー)は世界の自殺(ヽヽヽヽヽ)をんでいる》

ヴォルフは背後に背負うレミニアを見る。

「娘のためにも、君を救うためにも……」

斬る……!!

覚悟を示すようにヴォルフは刀を振る。

赤く煌々とした空のけて、【カグヅチ】は持ち主の意志が宿ったかのように反する。

文字通り、刀が燃えているように見えた。

そんなアラフォー英雄の意志を嘲笑うように、ハシリーは首を振る。

「やはり野蠻ですね。これだから英雄というのは……。人の命を奪ってからしか、何も考えない、反省しようとしない」

「奪うんじゃない。救うんだ、君を」

「言葉が通じないようですね。まさしく蠻族だ」

最初に仕掛けたのは、ハシリーだった。

ヴォルフは一気に間合いを詰められる。

気が付けば、側面が侵略されていた。

剣が閃くのがわかる。

ヴォルフはただそのに、蟲のように反応して、【カグヅチ】を放つ。

金屬ががなる(ヽヽヽ)。

凄まじい剣圧にレミニアの紅蓮の髪が激しく靡いた。

始まった超常決戦に、魔力を使い果たした【大勇者(レジェンド)】ができることは、ただ互いの無事を祈ることだけだ。

初撃をなんとかけたが、ハシリーの攻撃は留まることを知らない。

あっさりとヴォルフの剣を弾く。離れたところをヴォルフは返す刀で狙ったが、ハシリーは大きく沈み込み、橫薙ぎを躱した。

前に出ていた足を狙い、掬う。

ヴォルフはあっさり払われ、勢を崩した。

宙を舞う。

一瞬じた無重力の最中、見えたのは大上段に剣を構えたハシリーの姿だった。

鬼の形相を浮かべ、空中でマグロになっているヴォルフに向かって振り下ろす。

ヴォルフは【カグヅチ】を自分のに引き込む。腕で刀の腹を押して、防姿勢を作った。

う゛ぃぃいぃいいいいぃいんんんん!!

鈍い金屬音が響く。

ハシリーの剣をけることに功したが、直後待っていたのは、赤黒くなった大地の堅さだった。

「がはっ!!」

その上でヴォルフはゴムボールのように跳ねる。

一瞬、気が失いそうになったが、もはやそれどころではない。

殺気をじて、視界を広く保つと、すでにハシリーが二の太刀の姿勢にったところだった。

「ぐぐっ!!」

がバラバラになり、全の空気が一気に吐き出されたような衝撃を味わいながらも、ヴォルフは必死にをねじる。

「おおおおおおおおおおお!!」

足をばし、ハシリーの脇腹に向かって、必死に蹴りを見舞った。

これにはハシリーも驚く。

ダメージこそないが、必殺の瞬間を逃してしまう。

だが、ヴォルフの方のダメージはでかい。

「がはっ! はあ……! はあ……!!」

立ったには立ったが、膝立ちが一杯だった。

打ち込みの衝撃を諸にけ、そこから間髪容れず、を捻って反撃したのである。ハシリーの速度ももはや人間を超えているが、ヴォルフの反撃能力も人間離れしている。

顔を上げると、叩きつけられた地面に大きな凹みができていた。

(強い……、というよりは速い)

強化魔法の水準が下がったことによって、視力も下がったのだろう。

の反応速度も下がって、けるのがやっとだ。

(だが、勝機がないわけじゃない)

ヴォルフが1つ見つけた勝機。

それはハシリーの技水準自が低いということだ。

ヴォルフと比較して、剣がさほど得意というわけではないのだろう。

それに彼には【英雄殺し】という魔眼がある。技的な部分はそれで補えばいい、と高を括っているのかもしれない。

愚者の石(アンチ・エクサリー)がもたらすパワーとスピードは、向こうが上。

ならば、こちらが唯一上回る技でどうにかするしかない。

(そのためには技を見せるしかない)

ヴォルフにはまだ【無業】という絶対の返し技がある。

自信はあるが、仕留め損なえば、【英雄殺し】の餌食となり、【居合い】の時のように使いにならなくなる。

【英雄殺し】はただスキルを真似するだけではない。

相手のスキルを奪うことにある。

【居合い】もそうだが、【無業】はクロエが自分に授けてくれた大事なスキルだ。

それを手放すわけにはいかない。

つまり、チャンスは1度だ。

ヴォルフは腹を決め、【カグヅチ】を納刀した。

「短期決戦を選びましたか。いいでしょう」

ハシリーもまた剣を鞘に収めた。

大きく沈み込む。

その態勢を見て、ヴォルフの心はざわつく。

「【居合い】か……」

【無業】と同じ返し技。

奇しくもこの戦いは【居合い】と【無業】――返し技同士の戦いになる。

先ほどの激しい打ち込みから一転して、靜かな立ち合いとなった。

お互いに足の指を使って、じりじりと近づいていく。

靜寂が満ちていく。

遠くの砲聲すら聞こえない。

ただただ空気が凍てついていった。

達人同士の真剣の斬り合いに、レミニアは息を呑む。

相棒であるミケも手を出さず、主の勝利をひたすら願った。

互いの得の間合いにっても、2人は剣を抜かない。

返し技は抜いた方が負け。

それは両者わかっているらしい。

ピリ付く空気と、相手のおぞましい殺気に耐えきれなくなった方が負ける。

勝負はただ忍耐に持ち込まれる。

「やれやれ……。ここまでして抜きませんか。なら、実力行使しかありませんね」

ついにハシリーがくのか。

そう思ったが違う。

いきなり彼はヴォルフの脇を抜ける。

ヴォルフの後ろにいたレミニアを狙った。

「ハシリー!! お前!!!!」

ヴォルフは激昂する。

反転して、ヴォルフは追いかけようとした時點で、もう彼の頭は冷靜でなかった。

「ヴォルフさん……。ぼくにもぼくの弱點があるように、あなたにもあなたの弱點がある。そう……、レミニアですよ」

匂い立つような殺気に、その時初めてヴォルフはこの戦いにおいて恐怖を覚える。

前を行くハシリーの姿がかすむ。

同時に大きな気配が背後に現れた。

(まさか……! ここに來て、【狼牙(ウルフ・ファング)】!!)

2つの歯牙。その1本がヴォルフに襲いかかる。

ヴォルフの肩の牙が食い込む。

集中した先に見えたスローな世界の中で、ぜるの滴が1つ1つはっきりと見えた。

側で娘が悲鳴を上げている。

ミケが「ご主人」と聲を荒らげているのがわかった。

頬をでる冷ややかな気配。

これが死か……。

ヴォルフは妙に達観したような気持ちのまま、ついにあの技を繰り出す。

を切らせてまでギリギリに引きつけたこの一瞬を、ヴォルフは見逃さなかった。

ついに【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】の牙が抜かれる。

神殺しの名が與えられた刀は雷鳴のように迸った。

【無業】!!

最短にして、最速の抜刀技が唸りを上げた。

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