《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》321.活かし合う心苗たち
ティフニーは、目の前の巨大なミラドンキスに意識を集中させると、『ルビススフェーアゾーン』を一瞬で膨張させた。一斉に打ち込まれる首を同時に食い止める。アーチを描き、バリアを突き破った首は、そのままバリアから抜け出せなくなった。
首の攻撃が封じられた瞬間を見定め、ティムたちはバリアから飛び出し一気に反撃を開始した。修二が鋭く切り上げた首を、ラトゥーニがさらにメイスで叩き潰し、のぞみがとどめの一撃を加えようと飛び上がる。銀の刀は護の構えで。途中、急加速すると、金の刀を使って首を刺し貫く。
「『日月明神剣(ひつきみょうじんけん)・月日突(げっこうひとつ)』!」
ラーマは別角度から他の首を狙う。『テンペストナグナム』で連続の刺撃を繰り出すと、背後から飛び上がったティムが一撃で斬り倒した。
巨人コンビも健闘している。デュクは首の上に乗ると、両手を組んで振り上げる。
「『ボンバーハンマー』!」
かけ聲とともに脳天を叩き潰すと、正面に回っていたヌティオスが肘で突き、対空用の『吼門頂肘突(くもんちょうちゅうつき)』で砕した。
藍たちブースタータイプの心苗(コディセミット)は、ティムの指示に従って大人しく後方にいたが、蛍は前線で戦っている。
蛍はブーメランのように戻ってくる『六紋手裏剣』をキャッチすると、クナイで切り上げ、蹴り技『雷刃(らいじん)斬り』も駆使して、一人で一つの首を倒した。
蛍のそばに、のぞみが著地する。
「森島さん、大丈夫ですか?無理しないでください」
「まだ戦えるわ。私の心配をする暇があるなら、さっさとあの化けを倒しなさいよ」
憎まれ口を叩くと、蛍は次のターゲットを定め、飛び上がった。
「森島さん……」
蛍は、自分も予言に関わりがある以上、擔う責任があるとじていた。授業の手合わせや中間テストよりも、蛍はずっと真剣に戦闘に參加していた。
蛍は後方で補給を行う代わりに、戦闘中、僅かな隙間をってポーションアイテムをこまめに飲み、失ったスタミナを補充している。一刻も休んでいられないと、蛍は紫の源気(グラムグラカ)を強く纏っている。
誰よりもパワーをじさせる戦闘の様子を見て、のぞみは心が熱かった。
投げ出されたメイスが一つの首を潰し、そのまま地面に突き刺さる。ラトゥーニはメイスを回収する際に、
「ノゾミ、ぼぅっとしてないで!次の首を倒しに行くよ!」
「あっ、はい!」
喜びに浸るのは後だ。のぞみは足をかした。
援軍の心苗たちも戦果を上げている。真人(さなと)がミラドンキスの首を綺麗な太刀筋で捌き、京彌(きょうや)は他の個を押しつけて、燃える拳をマシンガンのように打ち出した。
エクティットは短剣を翳すと、同時に複數の首を狙う。『ミラージュターン』のスキルを活かし、高速移による殘像で聖霊を翻弄すると、四頭の首の間を何度もターンしながら連撃で刻んだ。
宙に浮かぶエクティットとは対照的に、地面ではジェニファーが健闘している。
の刃を長くばした二本の釵(さい)を手に、『ホワイトスワンクラッシュ』で、跳び進みながら右手で頸部を斬り払い、急停止したかと思うと、その間に左の刃を差し込み、今度は高く飛び上がると、逆の唐竹斬りで首を両斷した。
ティフニーが中心となって展開されている補給陣地では、藍は他の二人の心苗と、『章紋(ルーンクレスタ)』によるヒーリングをけている。を使えば、自然治癒に頼るよりも早い回復が可能だ。長い戦闘による神的な疲労を癒すこともできる。
ヒーラー役を擔ってくれているのは、黒とクリームの武服を著た二人の心苗だ。そのから、藍は二人が第八、第九カレッジの心苗だと分かった。治療をけ、ようやく息が楽になってきた藍は、自分の治療に當たってくれた心苗に尋ねる。
「あなた、『章紋』が使えるんですね?」
エメラルドグリーンのつややかな髪を揺らして、ヒーラーの心苗が微笑んだ。
「はい。実は、今回の作戦のためにタウラス先生がいくつかのを教えてくれたんですが、それよりも前から獨學で學んでいて」
「闘士(ウォーリア)で『章紋』を習得するのは難しいと言いますよね。すぐに実戦で使えるなんて、凄いですね」
「たしかに源気の本質が安定していないと、式を綴る時に不安定になりますから、失敗することもあります。……なので、式は制限されますが、今は補助スキルとして使えるだけでも満足なんです」
藍(ラン)は兄弟や従兄弟たちのことを思い出していた。藍家は『章紋』に強い家柄であった。全く『章紋』の才能がない藍は、獨學でそれらを習得した彼が羨ましい。
「私、けなくて……。皆の力になりたいのに。親友なのに。上手く守れない、けない……」
藍はまだ実戦の経験が淺い。目の前の聖霊に怯え、肝心の戦闘でがかなくなってしまったのは、経験値のなさだ。
「コールちゃん。無力さや絶に浸ってはいけません。あなたはこの戦いにおいて、戦況をさらに優勢に変える、大きな力を持っています」
藍はティフニーの言葉に反応したが、まだ自分の持つ力の真価を悟ってはいない。
「私が……?」
ティフニーは慈の神のような微笑みを見せた。
「ええ。あなたの技は、ミラドンキスに大きなダメージを與えるだけでなく、そのきを封じることもできるでしょう」
ティフニーに勵まされ、藍は冷靜になって七星翠羽(しちせいすいは)を見た。
「そうですか、そういうことですね」
「そういうことです。皆、三戦目にりますから、今のうちになるべく力を回復させておいてくださいね」
「分かりました」
藍はぎゅっと目を閉じる。嫌な思い出を忘れさせるように、何度も首を振った。
(私のバカ。こんな時に、勝手に一人で過去を振り返って挫折を味わってちゃいけない。作戦はまだ終わってない。まだ、挽回するチャンスもあるはず……!)
悩みも悔しさも、藍は斬り捨てた。回復にはメンタルも大きく左右する。藍は表を一変させ、戦意を高く引き上げ、治療に集中した。
ティフニーの細やかな応援は、のぞみたちアタッカーの攻撃効率を飛躍的に上げた。防や回避のために思考、力を削られることなく、攻撃のみに集中できる。37の首は、一度目の戦闘にかかった半分の時間と力で倒すことができた。
全ての首が倒れ、一同は殻に意識を集中させる。
「衝撃波が來るぜ!」
ミラドンキスの殻が開く瞬間、ティフニーは聖霊に強く意識し、『ルビススフェーアゾーン』部の源気の一部分を噴き出す。磁気嵐が起きたように源気の気流が吹き上がり、ミラドンキスから放たれた衝撃波を中和した。
想定通り、ミラドンキスはひるんだようにきを止めた。
「今です、攻めてください!」
「おう!!!」
「はい!!!」
「了解しました!!」
蛍が『六紋手裏剣』を鋭く投げ出し、真人が反対側から飛び上がって刀を振るう。赤い手を斬り付けて、玉に攻撃が當たりやすいよう、道を作った。そして、修二、ラトゥーニ、ティム、ラーマが、順番に決め技を次々に浴びせかけた。
補給陣地では、全快した楓がもう一人のヒーラーに聲をかけている。
「助かったぁ。あなたのおでまた戦えるべ」
オレンジのミディアムヘアの心苗は、嬉しそうに笑いかけた。
「いえ、命を救うことは私にとっても意味のあることですから、この作戦に參加できて栄です」
二人が『章紋』を使う様子を見ながら、楓は思い出すことがあった。
「そういえばあんたたち、他に怪しい人を見なかったべか?」
オレンジ髪の心苗が首を橫に振る。
「いえ?他には誰も見ていませんが……」
幻系の『章紋』は、特別な才能に恵まれた者でなければ數日で覚えることはできない。ましてや獨學で簡単に覚えられるものではない。だとすると。
「姫巫ちゃんに幻をかけたのは、一誰なんだべ?もしその人がこの空間にいれば、聖霊に始末されるはずだども、なして聖霊は、私たち以外には反応しないんだべな?」
「ミラドンキスは源気に反応しています。だから、私たちもを展開し、源気の気配を消している間は攻められることがありませんでした」
「ははぁ、んだば、何らかの方法で、源気と姿を消しているんだべ?」
「そうでしょう。ただし、姿や気配を消しても、存在が消えるわけではありません。私には、相手の不條理な意識が、混沌の中にはっきりとじられました」
「気配を消すのは、戦いに巻き込まれないためのギミック……?つまり、相手は力を溫存できてるってことだべ?……私らを消耗させて、暗殺を容易にするためかもしれねぇ」
楓は鋭い視線を、前方で戦うのぞみに寄せた。
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