《チート能力を持った高校生の生き殘りをかけた長く短い七日間》第六話 奴隷商

馬車が目的地に到著して停まった。

やっと説教から解放される。

「待て!リン・フリークス」

馬車から降りようとしたときに、ハーコムレイに肩を摑まれた。

「はい。なんでしょうか?」

ハーコムレイの手を払いながら振り返る。

「迎えを出しておく」

「は?」

いきなり、”迎え”と言われても意味が解らない。

そんな思いを込めて、ハーコムレイを睨んだが、俺の意思は伝わらなかったようだ。

「お前の用事が終わったら、屋敷に來い。ローザスにも報告が必要になっているはずだ」

「・・・」

一応、説明をしてくれたのだが、それでも意味が解らない。

「殿下の事だ」

やっと、何を言っているのか納得ができた。

確かに、殿下の現狀を報告した方がいいと思うのだが・・・。セトラス商隊やハーコムレイが行えばいいのでは?

「あぁわかった。俺の妹が、教會の大門近くにある宿屋に居る。伝言を頼んでいいか?」

「大門近く?”夜の蝶”か?」

やはり、知っていた。

フェナサリムのことも知っている可能が高いな。

「そんな名前だったはずだ」

「っ!?まぁいい。わかった。どうする?屋敷に泊るか?」

流石だな。失言に気が付いたようだ。

これで、ローザスやハーコムレイと、フェナサリムのオヤジさんが繋がっていると思っていいようだ。

確定はさすがにさせてくれないだろうけど・・・。

「もう一人、連れが居るから、彼?次第だな」

ナナの紹介に困ってしまう。

見た目は、”彼”で大丈夫だろうけど、本質は、”彼”だ。

「連れ?」

「あぁニノサのパーティーメンバーだった。ナナ。あぁアスタの方がいいかな?」

「アスタ殿か?!」

やっぱり、知っていたな。

「やっぱり、ナナのことは知っているのだな。何か、問題なのか?」

「はぁ・・・。解った、丁重にお迎えしておく、アスタ殿にも事を聞く必要が有りそうだな」

”丁重”という言葉が付いた。俺が知らない事があるのだろう。ナナの話を聞くと、ニノサよりも、サビニとの繋がりが強いようにじる。

馬車の扉が閉められて、走り始める。

ハーコムレイは、屋敷に戻るようだ。

「ようこそ。リン様」

いきなり後ろから話しかけられた。

アッシュ=グローズだ。

「驚かせないでください」

「失禮いたしました。本日のご用向きは?」

「人材がしい」

「かしこまりました」

アッシュが俺の背中を推すようにして、奴隷商の中に押し込んでいく、事を知らなければ、俺が無理矢理、奴隷商に連れていかれるように見えないか?大丈夫なのか?まぁ大丈夫だろう。

気にしてもしょうがないのだろう。

アッシュに案された部屋は、前に通された部屋よりも豪華な部屋だ。

アッシュは部屋に居たメイドに飲みを持ってくるように指示を出す。

ソファーに俺を座らせてから、自分は正面に腰を降ろした。

「本日は?どのような奴隷をお探しですか?」

ん?これは、事を知っているのに、あえて聞いているのか?

ハーコムレイとローザスが、アッシュの所に居たのは確定なのに、何を考えている?

「アッシュは、俺の狀況を聞いているよな?」

直球の方がいい。

回りくどい言い方は、俺には向かない。貴族が使うような言い回しで會話をされると、意味が解らない。それに、俺の意図していることが伝わらないほうが怖い。

「・・・。はい」

「どこまで聞いている?」

「”どこまで”?」

「マガラ渓谷に神殿があることは?」

「・・・」

教えられたようだな。

「知っていると解釈する。そして、その神殿が、メルナにある屋敷とアロイの先にある場所と繋がっている」

「・・・」

この反応は、知っていると思ってよさそうだな。

「あと、二つほど出口があるが、一つは森の奧地だ」

「え?森というと、魔の森ですか?」

「そうだ。俺たちは、門のある場所を開拓した。俺が、神殿を見つけるに至った経緯で、最初に見つけたのが、魔の森にある門だ」

これから、ハーコムレイとローザスにも、これから會う者たちにも説明を行う。

その時のカバーストーリーだ。ナナやギルドのメンバーには、本當の事を教えてある。一時的に、を寄せているアデレードには伝えていない。伝える必要はないと思っている。

カバーストーリーは、ほぼギルドのメンバーに説明をした容と同じだ。

村に帰る時に、メルナからアロイに向かう道中で、マガラ渓谷に落された。その時に不思議な力で、死ななかったが理由は不明。そして、気を失っていた。気が付いて、帰る方法を探している時に、魔の森の中央から出る門を見つけた。

その後、神殿にて他の出口を探した。

結局は、大きくは変わらないのだが、最初に見つけたのが、魔の森の門だと伝える事にしている。

「リン様?」

「なんだ?」

「大きくは、外れていないとは思いますが、作は、お任せいただけないでしょうか?」

「ん?作?」

「はい。セバスチャンと話をさせてください」

「構わないが、セバスチャンはメルナの屋敷を任せているぞ?」

アッシュが態度を改める。

背筋をばして、俺をまっすぐに見て來る。そういえば、今日は俺が上座に座っている。絶対は、下座だったはずだ。

「リン=フリークス様にお願いがあります」

「願い?」

「神殿に、奴隷商を開けませんか?」

「奴隷商?アッシュが來るのか?王都の店はどうする?」

奴隷商といいながら、アッシュの店は人事斡旋みたいな業態だから、奴隷商ではなく、人材斡旋業と説明すればギルドのメンバーもれては貰えると思うけど、アッシュを側にれるのには、しだけ抵抗が”まだ”ある。

それに、アッシュが働ける場所は他にあると思う。

「王都は、見所がある者が跡を継ぎます。私は、見所のある奴隷たちを一緒に、神殿にお世話になりたいと考えています」

王都の報網の構築は変らないのだな。

それなら問題は、れる側の考え方だな。神殿の報を渡しつつ、アッシュたちとの関係を良好に保つ方法を考えないとダメか?

「それは、アッシュの考えか?ミヤナック家やローザスの考えか?」

「私の希を全面的にれてもらいました」

引退を言い出したのか?

違うな。アッシュが神殿に拘る理由が解らない。

「奴隷商は、俺の考えでは必要ない。しかし」

「しかし?」

何かを確信しているのだろう。

どこまでの報を摑んでいるのか解らない。

そうか、セトラス商會が得ている報と同等の報だと思えば、納得ができる。

作は、俺の様な素人がやるよりも、専門家たちに考えてもらったほうがうまく行くだろう。

「アッシュが、魔の森にある村の長をしてくれるのなら、俺としては嬉しい」

奴隷商は必要ない。しかし、人手はしい。

だから、アッシュが神殿に來るのなら、奴隷商という一つの役割に使うのはもったいない。

村長をやってしいと思う。

ナナと反対側の村だ。これで、両方の村のバランスが取れる。可能が高まる。

「村長ですか?」

「そうだ。そして、魔の森の門が、これから、神殿を経由した出口の一つとなる」

「出口とは?」

「アロイ側からったら、出る場所が必要だろう?まさか、貴族と商人や一般の旅人を同じに扱えないだろう?」

アッシュは、俺の言葉を聞いてから何やら考え始める。

「貴族は、アロイのリン様の屋敷からですか?」

「そうだ。偶然、屋敷の近くにある門を見つけた。使い道が解らなかったが、神殿が活化されて、神殿に繋がる門だと解っただ」

意味がないカバーストーリーなのは解っているが、俺のスタンスを伝えるのには十分だろう。

アッシュは、また何かを考え始めた。

カップに殘っていた飲みを飲み干してから立ち上がって、俺に対して手を差し出す。

大筋で納得したのだろう。魔の森の村を任せられる人材が得られて嬉しい。いくつかの村から來た者たちも存在している。その村長たちをまとめる役割をしてもらえばいいだろう。

細かいことは、これから決めなければならない。

アッシュは、王都の店を任せる者を連れて、ローザスやハーコムレイに話をする。

俺も、これからミヤナック家に行くことになるので、一緒に向かうことになった。

どうやら、奴隷の9割近くは連れて行くことになるらしい。全部で、180名だ。殘されるのは、新しく店を任せる者が買い付けてきた者で、店を運営するために仕込んでいる奴隷だと教えられた。

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