「ありがとうございました！」

商業ギルドへ向かった俺は、薬草採集の時に狩ったモンスターの素材を売り払う。その時し気になったのは、買取り擔當の一般職員が対応してくれるはずだったのを、俺がやって來たと知ったミョンベルとファゴットが職員の仕事を奪って対応したことくらいだ。

個人的には買取りをしてくれるのであれば、末端の職員だろうと幹部クラスの職員だろうとどちらでも構わないのだが、組織的には部下の仕事を奪った形になり、本來彼らがするべき仕事が滯るのではないかと思った。

取引容については、モンスターの素材買取りだったが、前回提供した品を依頼主に出したところいたく気にったということで追加の買い取りができないかという打診があったため、それも提供しておいた。

そんなわけで商業ギルドでのあれこれを終わらせ、晝食を挾みつつ頃合いのいい時間帯まで街をぶらついたのち夕方になる時刻に冒険者ギルドを訪れる。

「依頼の報告に來た」

「わかりました。では、ギルドカードをお願いします」

職員の指示に従いギルドカードを提示後、今日採ってきた薬草を提出し依頼達を報告する。薬草の數は端數などの余分な數はなく、依頼容に記載されていた必要數のみだ。

特に怪しまれることもなく、依頼達の手続きはつつながく完了し、微々たる報酬をけ取って冒険者ギルドでの用事も終了したので、宿へと帰還することにした。

そこからは特にやることもなかったが、最近鍛錬を怠っているということもあって、夕食の時間の小一時間ほど魔力の鍛錬を念りに行い、夕食後は就寢の支度をしてすぐに床に就いた。

さらに翌日も翌々日も似たようなルーティーンで活を続けていたのだが、特筆すべきイベントは何も起こらなかった。

さらにその翌日、このまま薬草とモンスターの素材を商業ギルドに卸すだけの生活を続けるというのもアレなため、ここからは真面目に潛活のための報収集を行うことにする。

さすがにアルカディア皇國の中心部に隣接する場所だけあって、いろいろと濃い報が流れてくる。現在アルカディアは目立った行を取ることはなく、鳴りを潛めているようだが、元々は好戦的な気質を持っている國であるため、庶民の間では足元を固めるための準備を整えているのではないかと噂が飛びっていた。

大陸を統一したとはいえ、現在支配圏にあった國々の上層部や組織自の枠組みは今も殘っているため、未だにアルカディアに抵抗を試みる反分子は一定數存在している。皇國としては、そんな連中をのさばらせておくほど余裕がないため、規模は小さいが鎮圧のために今後派兵を行う予定らしい。

しかも伝え聞く話では、その軍自は貴族の私兵ではなく國直屬の國営軍が主となってく予定で、特に第二騎士団団長のコレットという人が中心となるらしい。

「コレット？」

「ああ、アルカディアの騎士団の中でもない騎士で、大陸中に名を轟かせる有名な人だな。その見目のしさと、ひとたび戦場に赴けば生還者はいないとされる戦いぶりから【氷の騎士】と恐れられている」

「氷の騎士ねぇ。氷の魔法を使うとかか？」

「いや、そんな話は聞かないが、どちらにせよ恐ろしい騎士様だよ」

そう締め括った店の店員の顔には、明らかな恐怖が浮かんでいた。それだけ、そのコレットとかいう人間の悪行が響いているのだろう。元々、調査した場所がアルカディア皇國の所領ではなく他國だった地域だからというのも理由だろうが。

（これは、し急いで中央區に移した方がいいかな）

何度も言うが、俺は現在アルカディア皇國に潛しているである。そう、こう見えても潛しているのだ。そして、その潛での俺の目的は、セコンド王國やセラフ聖國のように反省を促すことであり、かの二國にやったことをこのアルカディア皇國でもやるつもりなのだ。それがなにかといえば、籠の鳥である。

大規模な結界を國境に張り巡らせることで、その中に閉じ込めてしまおうという魂膽であり、今回もそれを行うつもりだ。だが、さすがの俺も大陸一つをすべて覆い盡くしてしまうような超結界を張ることはできないため、元々アルカディア皇國だった土地のみを結界で覆うべく、こうしてわざわざべラム大陸までやってきたのだ。

「であれば、今夜あたり出掛けるとしよう」

誰にともなく呟いた俺は、報収集を切り上げ、來たる夜に向けて準備を進めた。

そんなわけで、外が闇夜に包まれ人々が寢靜まった頃、俺は行を開始する。

宿の人間にも気付かれないよう瞬間移を使って外へと出すると、俺は気配を殺しつつとある建へと向かって行く。その建とは、王城である。

正確には元王城ということで、國王が住んでいた場所なのだが、今は執政という形で國のあれこれを仕切っていると聞いている。俺はある目的のため、その執政に接することにしたのだ。

人気のない真夜中ということもあって、日中は人通りのある場所も靜けさに包まれている。そんな中を一人歩きながら都市の中心部に位置する王城へと辿り著く。

「見張りか。であれば……【スリープ】」

り口には見張りの兵士が二人立っており、明らかに眠気を堪えている様子が窺える。俺は、二人に向かって睡眠を発するように魔法を使用し、しばらくすると舟をこぎ始め、最終的にその場に座り込んで眠ってしまった。

眠り込んだ兵士を目に、簡単に王城へと侵に功する。ちなみに、兵士たちは一分ほど経てば起きるようにしてあるから、他の人間が侵することもないだろう。

巨人族でも余裕で歩くことができそうな大きな回廊を進み、気配を探りつつ歩を進める。道中見張りの兵士が立っている場所がいくつかあり、おそらくは元王族たちが休んでいるのだろうと當たりを付ける。

「あそこっぽいな」

その中でも一際大きく、一際豪華な扉の部屋に辿り著いた。おそらくはそこに執政が休んでいるのだろうと予想し、王城のり口で使った手口で同じように部屋の中に侵する。

部屋の中は、どうやら執務室となっており、部屋の奧には隣の部屋へと続くであろう扉が存在している。扉の奧に気配があり、おそらくはそこで誰かが眠っているようだ。

俺としては、目的を達できれば執政と接する必要もないため、俺はさっそく部屋を家探しする。音が外にれないよう遮音の結界を張り、できる限り迅速に目的のものを探していく。

「……ないな」

探すこと數分、機の中やら壁際にあった棚にある書類なども見ていくが、そこに目當てのはない。俺が今回王城に侵したのは、アルカディア皇國が大陸統一を果たす前に敷かれていた國境線がどうなっているのかがわかる地図であり、それを見るためにやってきたのだ。

アルカディア皇國のみを結界で覆うためには、ある程度國境線に沿った形で行いたい。そのため、かつてアルカディア皇國以外の國々が國として機能していた頃の地図が見たかったのである。

正式な手順を踏んだところで、地図どころか執政に會うことすらかなりの時間を要してしまう。それならば、裏に潛して誰にも気づかれずに執政と接し、地図を見せてもらえばいいと考えた。

もっと言うのなら、執政にすら會うことなく地図のみを閲覧できればよかったのだが、さすがに國の重要機らしく表立った所には置かれていなかった。

「そこにいるのは誰だ」

（まずい、気付かれたようだな）

そうこうしているうちに違和に気付いたのか、隣の部屋で寢ていた人が起きてきた。暗がりで顔は良く見えないが、四十代くらいの中年男らしく鋭い目つきで部屋を見回している。

（仕方がない。予定通り執政と接するか。【ブラインド】、【ボイスチェンジ】）

「むっ、め、目が」

「初めまして。國王……いや、執政殿」

こうして、執政とのやり取りが始まった。