～　Side　コレット　～

時はローランドがアルカディア皇國本土を目指して數日後、國境付近を越境しようとする集団がいた。

「コレット騎士団長。ザイマール區に隣接する區畫線が見えてきました」

「わかった。準備が整い次第これよりザイマールへとる」

部下である騎士の報告に凜とした聲で答えるがいる。アルカディア皇國第二騎士団団長のコレットという人である。

年の頃は二十代前半の赤い艶のある長髪にすべてを見かしたような瑠璃の鋭い眼を持ち、雰囲気は覇気を纏っているかのような威圧を周囲にまき散らしている。かと思えば、その整った貌と世にいるすべての男を虜にするのではないかという満なつきは、彼の普段の戦いぶりからは想像もつかないほどにかけ離れていた。

その冷徹なまでの見た目や言と、人並外れたしさを持つことから人々は彼を【氷の騎士】と呼び恐れられている。

仮に彼の別が男であった場合、まず間違いなく第一騎士団の団長になっていたと言われているほどの実力を持っており、その力はSSランクのモンスターと互角以上に渡り合えるほどだと噂されている。

そう言われているのには理由があり、彼がまだ騎士団の団長になる以前、SSランクのモンスターと戦ってこれを撃退しているのだ。出會った時點で生きることを諦めろと言われているほどに強大な存在であるはずのSSランクモンスターとまともに戦えるというだけで、彼の才覚がどれほどのものであるかは想像に難くない。

そんな彼が現在アルカディア皇國中央區から隣接するザイマール區へと移をしようとしていた。目的は、反分子として今も抵抗を続けている組織を鎮圧することだ。

アルカディア皇國が大陸統一を果たしてからというもの、コレットはこれといった活躍を見せておらず、戦場でのみ結果を殘してきた彼にとってそれ以外の何かで國に貢獻する選択肢を持たなかったのだ。

最近では、その貌に心を奪われた男たちから縁談の話が舞い込んでいるものの、自分よりも実力で劣る男の子供を産みたいという気にもなれず、他國に戦爭を行っていた頃と比べてコレットは肩の狹い思いをしていた。

そんな中、皇帝直々に反分子の鎮圧という勅命に彼はこれ幸いとばかりに飛びついた。すでに敗戦國とり下がった國々に彼の脅威となり得る存在など皆無であったが、それでも面倒な貴族のしがらみや群がって來る男どもから逃げられるとあれば、戦爭の事後処理ともいうべき鎮圧戦でも、喜んで現地に赴くということを今のコレット選択した。

騎士たちの準備が整い、いざザイマール區へとろうとしたその時、突如として周囲の様子が一変する。突然の出來事に戸う騎士たちだったが、コレットだけは冷靜に狀況を分析していた。

（あの薄いのようなもの……まさか、結界か。っ！？　いかん、このままでは閉じ込められる）

戦場で常に戦ってきた彼の勘が目の前で出現するものを見て即座に結界であることを看破する。そして、その結界にひとたび覆われてしまったらそこから出ることも葉わないということも瞬時に理解する。

「はあっ」

「だ、団長！」

すぐさま乗っていた馬を走らせる。部下が何か言っているが、今はそんな狀況ではないため、コレットはそのまま結界へと突っ込む。そうこうしている間にも、結界がかつて他國との國境だった場所に沿うようにして張り巡らされていく様子に、彼にも焦りのが浮かぶ。

「ふっ」

そんな中、全力疾走で走る馬の上に立ち、走る馬を踏み臺にしてコレットは大きく跳躍した。圧倒的な能力により、狀になっている結界の壁を蹴って跳躍し、完全に結界が國境を覆い盡くす前に外へと飛び出してきた。

（危なかった。もうしで閉じ込められるとこだったな）

咄嗟に飛び出したことだとはいえ、自分の勘に従っていた結果、その判斷は正しかったようで、すべての國境に沿って結界が覆い盡くした。結界に近寄って扉をノックするように叩いてみると、それはまるで鉄のようにくなっており、とてもではないが破壊できるような代ではないことが伝わってくる。

すぐにコレットは結界の破壊を諦め、結界を張ったであろう人を探し出そうと振り返ると、そこにいたのは意外な顔をした年が立っていた。

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「地図が正しければ、この辺りになるはずだが」

ラガンドール區ゲッシュトルテを出立して約二日後、執政の部屋で見せてもらった地図に従い、俺はアルカディア皇國の本土があるとされる中央區の境界線までやってきた。元は國境線ということもあってか、ここまでやってくる際に関所のような城塞がいくつか確認できた。

とりあえず、いろいろと寄り道をしてしまったが、べラム大陸へとやってきた目的……俺のモンスター農園を攻撃した愚か者に罰を與えるという報復行為を行うべく、さっそく行に移る。

その方法とは単純で、アルカディア皇國の領地と他國の領地の境界線に沿って結界を張るだけという簡単な作業であり、特に難しい工程は一切ない。かつて同じ方法でセコンド王國とセラフ聖國を閉じ込めたとしては、すでに三回目ということもあり、スムーズに準備を進めていく。

今回の結界の條件としては【アルカディア皇國に屬する人間】と【側から外側に出られない】という條件を付け、結界に一度ったアルカディアの人々を外に出さないという名目で結界を張ることにする。期間は前回と同様五百年で、國境周辺に結界を維持させるための魔石をいくつか設置することで、自的に結界を維持させるという仕様にした。

「うし、じゃあさっそく結界起！」

準備が整ったので、すぐに結界を発させる。すぐさま薄い狀のようなものが現れ、それが次第に國境に沿ってアルカディア皇國全土を覆い盡くしていく。そんな様子をボーっと眺めていると、結界が完全に覆い盡くしてしまう直前で小さな隙間から何かが飛び出してきた。

よく見ると、それは人間だったらしく、鎧にを包んだ騎士のようだった。顔とつきからしてらしく、端正な顔立ちだが、どことなく格が強気なイメージを抱いてしまう騎士だ。

こちらに気付くことなく、たった今皇國を完全に覆った結界を叩いて確認している。そして、不意に彼が振り向き、こちらと目が合った。俺がきょとんとした顔をしながら彼の向を窺っていると、姿勢を正した彼がづかづかとこちらに向かってきて開口一番こんなことを聞いてきた。

「まさかとは思うが、この結界を張ったのは貴様か？」

「そうだと言ったら？」

「元に戻してもらおうか」

「一度張ったものを、はいそうですかと元に戻す馬鹿はいない」

「ならば、力づくで解除させるまでだ！」