《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》3話 博館級目白押しのこと

館級目白押しのこと

「ま、こんなもんかな」

おっちゃんがドヤ顔で俺を見る。

「量が多い・・・多くない?」

たぶん、俺の表は困マックスだろう。

目の前にあるのせいだ。

そこには、年季のったがある。

えっと、行李・・・だっけ?確か。

竹的なもので綺麗に編んである。

時代劇でよく見るだ。

なんでもあるなあ・・・ここの倉庫。

ここは、モンドのおっちゃん宅の庭。

昨日泊まらせてもらった俺は、朝食の後すぐにここに呼ばれたのだ。

しかしまあ、朝の涼しい空気に似つかわしくないだあ・・・

「昨日中かかって倉庫ひっくり返したんだ、中々いいもんが見つかったぜ」

「悪いねえ、本當に・・・何から何まで」

おっちゃんには足を向けて寢れないなあ。

前に借りた脇差を紛失したってのにまた何か貸してくれるらしい。

・・・帰ったらこの家の方角に足が向かないようになベッドの配置を考えよう。

「中が気になりますねっ!田中野さんっ!!」

縁側に腰かけ、目をキラキラさせている神崎さん。

何か本能的な恐怖をじるのか、橫にいるレオンくんはいつもより明らかに距離を取っている。

すら恐れる好奇心・・・!

「ま、とにかく開帳といこうや」

おっちゃんはそう言うと、蓋を外す。

はかなりぎっしり詰め込まれているようだが、覆いの布があるので何があるかわからない。

「ホレ、まずはコイツだ」

ひょいと一番上の布包みを放り投げられた。

そんな雑に・・・!?

「うおお!?」

見かけのサイズよりずっと重いのでびっくりした。

は・・・なんだろ。

布をズラすと、これまた時代劇で見たことのあるモノが現れた。

「ちぇ、チェインメイル・・・!」

「著込みって言えよ日本人・・・鎖帷子とも言うんだけどな」

おっちゃんが言うように、布袋にっていたのは俗に言う鎖帷子だ。

形狀は・・・うん、半袖のシャツだな。

「ボウズの戦い方からして、手首まで覆うタイプはアレだろうからよ。こいつなら両腕のきを阻害しねえ・・・まあ、その分防能も低いんだがな」

において両腕の可域の広さってのはそのまま戦闘力に直結する。

流派によって差異はあるが、こと南雲流においては顕著だ。

これはありがたい・・・

「すげえ・・・急所の部分だけ若干厚いんだ。職人技だねこりゃあ・・・あ?」

いつの時代製かわからん著込みを持ち上げてマジマジ見ていると、さらなる違和

なんていうか・・・場所によって鎖の質も違うような・・・?

「おう、気付いたか」

「・・・おっちゃん、これってニコイチ的なじ?」

そう、いつかの朝霞が言っていたように『共食い整備』でもしたかのようなじなのだ。

「脇腹、左、下腹部・・・まさか」

いやに新しい部分を見つけるにつけ、冷や汗が出てきた。

「なあに、戊辰戦爭でちょっとな」

「銃でぶち抜かれてるじゃん!!著てた人明らかに死んでるじゃん!!!」

これじゃ意味ねえ・・・わけじゃないか。

防弾チョッキの下に著ることになるんだから、そこは考えなくてもいい・・・のか?

いや、でも前の人が戦死した著込みをに著けるってのは・・・その、なあ?

縁起擔ぎって意味でも完全な悪手じゃね?

「いや、生きてるぜ」

「さすがに噓過ぎるでしょ、こんだけ急所撃たれて生きてるわけないじゃんかよ・・・っていうか誰が著てたんだ?これ。作りからしてそこら辺の一兵卒の持ちってわけじゃないんだろうけどさ」

さすがにこのレベルの著込みを全軍に流通させられるわけはないだろう。

恐らく指揮とか部隊長とか、そういう偉い人の持ちだったはずだ。

「生きてるっての。大正の終わりまでどころか、昭和までいって大往生だぜ?」

え?マジでこの狀態で生きてんの?撃たれた人。

そんな人間いるわけないじゃん・・・あれ?

なんか心當たりがあるような気が・・・しないでもないぞ?

5年くらい前の大河ドラマに出てた・・・か?

俺の反応に目を細めながら、おっちゃんはニヤニヤしつつ口を開いた。

「―――舊幕府軍の神宮司時三郎、有名だろ?」

「・・・マジ?」

ビンゴだった。

それが本當なら偉人も偉人じゃん、この持ち主。

「っか!?『カノン砲斬りの神宮司』ですか!?本當に!?本當ですかっ!?中村先生!!!!」

ウワーッ!?神崎さんが凄い勢いで俺にタックルを!?

でも目線はおっちゃんだ!用!!

「お、おうともさ・・・」

すげえ!おっちゃんが明らかに引いてる!!

さすが神崎さんだ!!(現実逃避)

テンションがぶちあがる神崎さんを橫目に、俺は著込みに視線を落とす。

マジか・・・博館級の代がまた出てきやがった。

メンテナンスはバッチリだが、まさか幕末の、それも戦爭中に使用されたもんが殘ってるなんて・・・

『神宮司時三郎(じんぐうじ・じさぶろう)』

さる舊藩に仕えた彼は、『三世観音流(さんぜかんのんりゅう)』という現代では途絶えた剣の使い手だった。

今では詳細は定かではないが・・・なんでもあえて死中にを置くことで疑似的な死を意識し、意識しているからこそ限りなく死から遠い心境を得る・・・だかなんだかっていう、控えめに言ってマジキチレベルなを持った流派だったという。

その技の冴えは、神仏すら切り伏せると言われたほどだ。

錦絵?だか浮世絵?だかで現代に殘っているくらい有名な武人だ。

友人がやってた某歴史ゲーにも登場していたが、武力レベルがカンストしてるチートキャラだったな、そういえば。

彼は藩が新政府軍との戦爭に舵を切った時、まだ若年だったにもかかわらず常に最前線で戦い続けたという。

數えきれないほどの傷を負い、遂には利き腕を元から吹き飛ばされても退くことはなかったという。

さっき神崎さんが言ってた『カノン砲斬り』、その異名はまさにその・・・腕を失った戦いでの伝説のことだ。

に侵攻してきた新政府軍を押さえつつ、彼は子供の避難のために部隊を率いて何度も何度も決死の突撃を繰り返して時間を稼いだ。

新政府軍の潤沢な銃砲によって仲間は1人減り、2人減り・・・ついには彼以外はほぼ瀕死の狀態となった。

『せめて、あの砲を潰す。あれがあっては、逃げる民百姓が撃たれて死ぬゆえ』

引き留める仲間を振り切って、彼は銃火にを曬して走り出した。

びを上げ、まるで獣のように。

最期まで手放さないように・・・両手に、先祖伝來の大刀を縛り付けて。

人間が銃弾よりも速く走れる道理はない。

走る彼のいたる所に銃弾は食い込み、貫通し、抉った。

それでも、その足は止まることは決してなかった。

偶然か、必然か。

殺到する銃弾は、急所だけは撃ち抜かなかった。

『あれは、人ではない、獣でもない。鬼だ、鬼だ!!』

新政府軍の指揮は彼を恐れ、遂には『個人』に向けてカノン砲を発するように指示した。

銃弾をいくら浴びせても倒れない、そんな相手を恐れたのだ。

された砲弾は、彼の右腕を吹き飛ばした。

―――それでも、彼は止まらなかった。

殘る左腕1本で握った大刀の一撃は、重厚な鉄で作られたはずのカノン砲本に突き刺さり、そして砲口を縦に切り裂いた。

紐で大刀に繋がっている右腕の殘骸をぶらつかせつつ、彼は新政府軍の指揮に向けて凄絶に笑ったのだという。

中の至る所から鮮を噴き出しながらも、その戦意はいささかも衰えていなかった。

彼はカノン砲の殘骸に足をかけ、こう言い放った。

『次は、おのれらじゃ。これよりも―――よほど斬りやすかろう』

それが発端となったのか、新政府軍は踵を返して撤退した。

たった1人の、死にかけの侍に恐れをなして逃げ出した。

意味不明な悲鳴をあげ、子供のように泣きわめきながら。

それはまるで、敗軍の様相だったという。

彼のこの行によって、この藩の非戦闘員は1人の死者も出すことなく避難することができた。

生き殘りの味方が、せめて丁重に葬ろうと彼のを回収した。

が、彼はではなかった。

彼は1カ月間生死の境をさまよった後・・・奇跡的に生還したのである。

その後も激の時代を生きた彼は、昭和の時代に眠るように息を引き取った。

明治政府から何度も仕を要請されながらも、決して職に就くことはなかった。

生まれ故郷で道場を開き、ほぼ自給自足の生活を送ったのだという。

彼の葬儀には、民を問わずに數多くの弔問客が訪れた。

その中には、かの戦場で相対した指揮の子息も含まれていたのだという。

噓のような、本當の話である。

「うわあ・・・俺博館で見たことあるよ、斬られたカノン砲」

まるで豆腐でも斬ったような鋭利な切り口だった。

『鋼斷』で師匠が斬った兜より何倍も厚い金屬をどうやって斬ったんだろう・・・なんて寒気を覚えた記憶がある。

「どうだ?縁起的にもいいもんだろう?」

おっちゃんが凄まじいドヤ顔を披している。

そりゃあ・・・そうだけどさあ・・・

「ご安心ください、田中野さんの腕が吹き飛ぶようなことは私が決してさせませんので!」

何故か神崎さんも凄まじいドヤ顔である。

お目目がキラキラしていてたいへんかわいいですね、ははは。

「ああ・・・うん、はい。ありがとうおっちゃん、神崎さん」

こうまでお膳立てされちゃ、け取らない訳にはいかんよなあ。

重いといえば重いが、この程度ならなんとかなるだろう。

への即死を防げるかもしれないと思えば、著る価値はある。

銃弾は無理だけど、斬撃には耐えられるだろうしな。

あとで著てきを確認しておこう。

「お次はボウズお待ちかねの脇差だぞっと」

さっきの衝撃から立ち直る暇もなく、おっちゃんは新たなブツを取り出した。

っていうか放り投げてきた。

大事に!!扱えよ!!!

コレもたぶんすっげえ貴重なモノでしょう!?

知らねえぞ罰が當たっても!!

「うっぉお!?おっも!?!?」

おっちゃんが投げてよこした棒狀の包みを片手でけ取・・・ろうとして両手を沿える。

さ、さっきの著込みよりも重い!?

脇差の癖になんちゅう重量だ!

兜割よりちょっと軽いじなんですけど・・・

「・・・なに、これは」

包みを開くと、今までに見たどんな脇差よりも異質なそれが姿を現した。

「隨分と・・・その、重そうですね」

キラキラと困が混在した神崎さんが言うように、その脇差?は重そう・・・っていうか重い。

「分類は大脇差・・・になるのかな、これ」

鞘は朱で、俺が所持しているどの刀よりもしい。

その長さから察するに、刃渡りは2尺行くか行かないかだろう。

長さとしては、前に鍛治屋敷に飛ばして行方不明になった長脇差と同じくらいか。

柄糸は落ち著いた紺で、鍔はし厚みのある黒。

それ以外には何の裝飾もない、質素ながら地味ではない落ち著いた様相だった。

「・・・『厚さ』以外は普通だな」

言いつつ、鯉口を切って抜く。

を反して、凄みのある鋼が顔を出した。

反りは若干強いが、それは問題じゃない。

この脇差・・・『厚い』のである。

が、縦にも橫にも。

刃を上にして確認すると、明らかに『魂喰』より厚い。

ここが厚いってことは、それだけ頑丈だということを表す。

そしてもう1つの厚みである。

刃から峰までの厚さも、『魂喰』よりある。

そこまで太くはないが、なんというか中華包丁みたいなじだ。

もしくは剣鉈である。

重さに任せて叩き斬るようなじを一瞬けたが・・・この刃の輝きは、切れ味も凄そうだ。

重くて、丈夫で、よく斬れる。

俺からすれば求めるもの全部乗せってじ。

この重さなら、軽く振るだけで十分な殺傷力を得ることができるだろう。

『魂喰』?アレはもう言葉で説明できる頑丈さじゃないから・・・

あっちは妖刀だが、こっちは徹頭徹尾『戦場刀』ってじかな。

もう妖刀のおかわりはいらんでござる。

しかしなんだこの脇差は・・・まるで、アレだ。

「刀を殘欠(ざんけつ)したみたいなじ・・・か?」

殘欠というのは、暴に言えば刀を意図的に折って短く加工したものだ。

第二次世界大戦後なんかにはよく見られた手法で、今でも舊家の蔵なんかからよく出てくる。

は銃刀法に引っかからない長さまで短くして、狩猟刀やナイフみたいに加工するんだが・・・コイツは違う。

この長さではバリバリの違反である。

「おう、そうだ。持ち主曰く、長くて邪魔くさいから脇差にしたらしいぜ」

「邪魔くさいからって・・・元々古くてかなり価値のある刀だったんじゃないの?よくそんなことしたね」

この分厚さからしても、本來はかなり長いものだったんじゃないかな。

もったいない・・・品としても一級だったと思うんだが。

持ち主ってのはの価値をわかってたんだろうか。

これでは銘もなにもわからないから、二束三文にしかならんぞ。

俺には関係ないけども。

「聞いてる話じゃあ元々は刃渡り6尺だな、恐らく古刀の類だろう」

「うぇっ!?」

6尺ゥ!?

なげえ!!

刃渡り180センチだと!?

榊ソードの2倍もあるじゃねえか!?

た、たしかにこの馬鹿みたいな厚さだとそれくらいの刀でも大丈夫だろうが・・・なんだろう、神事とかに使われる儀禮刀の一種だろうか?

・・・いや、俺みたいなヘッポコでもこいつが何人も人を斬ったことはなんとなくわかる。

こいつは、社殿におとなしく飾られているような種類の刀じゃない。

「さっき言った神宮寺の大刀だよ、元はな」

「デスヨネー」

そんな気がしてた。

おっちゃんがニヤニヤしながら紹介するんだ、生半可なモンじゃないだろうとは思ってた。

思ってたが・・・

「刃渡り6尺の野太刀・・・いや、もう斬馬刀って言った方がいいか。そりゃあ、そんな化けならカノン砲くらい斬れるか・・・」

正確に言えば、『そんな化けを振り回せるくらいの膂力と技があれば』だが。

『三世観音流』・・・後継者が消えた理由もわかるよ。

南雲流以上にピーキーな流派だもん。

たまーに生まれるバグみたいな天才、もとい天災人間にしか扱えないって、そんな流派。

南雲流は『一応』死ぬほど頑張ればなんとか使えるくらいにはなれるけどなあ・・・俺がいるわけだし。

しかしまあ・・・神宮寺の錦絵、確かにクソ長い刀を持ってるものばっかりだったけどさ。

二次創作的な意味で盛られてるもんだとばっかり思ってたよ。

大河ドラマでも3尺くらいの刀持ってたし、役者さん。

・・・現実がフィクションを超えるんじゃないよ!!

そりゃそうだ!ただの役者さんに6尺の斬馬刀なんか持てるわけないもんね!

俺も持つだけならできるけどそれで戦うなんて無理だ!

もう一つ分かった。

そりゃあ新政府軍も撤退するわ。

刃渡り180センチの斬馬刀持った侍が、雄び上げながら銃弾の雨の中をダッシュしてくるんだぞ?

さぞ恐ろしい景だろう、俺も同じ立場なら絶対逃げる。

おおかたパニくったのもあって照準がブレブレだったから、有効打が與えられなかったんじゃねえのかな。

その後でカノン砲まで叩き斬られちゃ、ねえ?

逃げるわ、逃げる。

誰も勝ち戦で死にたくないもん。

「は、拝見しても・・・」

プルプルし始めた神崎さんに脇差を渡すと、一級の品でも鑑賞するかのように口に布を咥えている。

うーん、ブレない。

お目目がキラキラして綺麗ですね。

「・・・おっちゃん、さっきの著込みといいこの脇差といい、どれもこれも貴重品だけど族の許可は?」

「取ってるよ、心配すんな。死蔵してしいってんで俺が預かったもんだ・・・『もしもこいつらが活躍するような世の中になることがあれば、上手く使える奴にタダでくれてやれ』っていう、本人からの言伝付きでな」

・・・うわーい、今が末法の世でよかったあ。

よくない!!!

「・・・おっちゃんってば顔が広いねえ」

四方八方の武家に顔がきくし。

武道店なんだから當たり前か。

「こいつは別口だ。かあちゃんのご先祖様だからな、神宮司はよ」

「あっふーん、おばちゃんの方だったかあ・・・」

本當ならここで驚くんだろうが、今までのインパクトがデカすぎて何のもない。

隨分と有名なご先祖様がいんだなあ、おばちゃん。

ってことは舊姓神宮司なんか、いいなあ、カッコイイ。

俺なんか田中野とかいうメジャーなんかマイナーなんかよくわからん苗字だぞ。

「おや、懐かしいねえ。三郎お爺ちゃんの刀じゃないか」

そんなことを言っているとおばちゃんが縁側にやってきた。

お盆の上にはお茶と菓子がある。

・・・『三郎お爺ちゃん』?

神宮司時三郎さんも、俺のように名前を略される宿命にあるんだな・・・なんか親近

「あのっ!もしかしてご本人と面識がおありですか!?」

神崎さんがキラキラを維持したまま話しかけている。

報の洪水によって早い段階でお仕事をポイしたらしい。

「・・・凜ちゃん凜ちゃん、アタシがそんなお婆ちゃんに見えるってのかい?」

「も、申し訳ありません!!つい興して!!!」

謎の迫力を持ったおばちゃんの返答に、神崎さんは一瞬で我に返って謝っている。

に年齢の話は厳、無職覚えてる。

「ふふふ・・・さすがに會ったことはないさ、三郎お爺ちゃんは昭和の初めに死んじゃったからねえ」

幕末ので片手失って、そのあと明治大正ときて亡くなったんだよな。

長生きだなあ・・・が死ぬほど丈夫だったんだろう。

「それはウチの床の間に飾ってあった守り刀でね。死んだ爺ちゃんに、よく三郎お爺ちゃんの話を聞かされたもんさ」

おっちゃんの隣に座ったおばちゃんは、俺達の前にお茶を置いて懐かしそうに微笑んだ。

「あの・・・どのようなお人柄だったんですか?」

神崎さんがおずおずと聞いた。

ビビっても好奇心が抑えられないらしい。

ブレねえ。

「いっつもニコニコしててね、怒った所なんか全然見たことがなかったらしいよ。ドラマとか本に出てくる三郎お爺ちゃんとは、同姓同名の別人だったんじゃないかって思うくらいにね」

まあ・・・主に登場するのは幕末の期だもんな。

サツバツ&サツバツ時代と、まがりなりにも平和な時代じゃ格も違うだろう。

道場をやってたって話だから、それなりにコミュニケーション能力もあったろうし。

「でもねえ、こと木刀で悪さなんかしたり、習った技で弱いモノいじめをした子なんかには・・・そりゃもう怖かったらしいよ。怒鳴りなんかはしないで滾々と諭すんだけど、どんな悪ガキでも最後には小便らして泣いて謝ったって聞いたねえ」

あ、師匠とおんなじじか。

そこらへんには厳しかったもんなあ・・・

俺も散々『罪咎のない弱い者に技を振るったらわしが直々に殺してやる』って言われたもん。

もっとも、俺としてもそんなことをする気はなかったけども。

「これはねえ、この人と結婚する時に形見分けで貰ったのさ。いわば嫁り道の一部だね」

「まあ・・・そんな貴重なものを!?」

神崎さんの驚きポイントがおかしいぞ!!

普通は嫁り道騒なところに驚愕するべきでしょうが!!

なんだよ脇差に鎖帷子って!?

濃のマムシの娘でももうちょっとおとなしいモノ貰ってたわ!

「いいのいいの、一朗太ちゃんみたいな子が使うんなら三郎お爺ちゃんも大喜びするってもんさ・・・きっとね」

俺への信頼が本當に重い件について。

「一朗太ちゃん!それは本當に頑丈だから気にせずにどんどん使いな!三郎お爺ちゃんなんか85の時に、そいつで集落に出た熊の脳天を叩き斬ったって話もあんだからさ!」

・・・まあ、そりゃあ、カノン砲よりはらかいだろうさ、熊の頭は。

もうツッコミが追いつかないんだよ。

なんだよ85って。

そんな年で、しかも片手しかないのにこのクソ重い脇差をどうやって・・・ああ、現役時代は6尺振り回してたんだよね、そうだよね。

うーん、脳がパンクしそう。

「かあちゃんの許しも出たしよ、次はこれだ」

おっちゃんが軽く出したのは、年季のったベルトだった。

いい皮を使っている上に手れもしっかりされていて、かなり頑丈そうだ。

ん?何か所か普通のベルトには見慣れない部分が・・・ああ、そうか。

「ついでにこいつも持ってけ、ボウズのベルトも大分痛んでるだろうからよ」

これは、洋裝に刀を差す時に使われていたベルトだ。

うわあ・・・っていうことはこれも神宮司さんの品ですか?

俺の持ちに幕末要素がどんどん増えて行くな。

「あー、これは違う。西南の役で使われてたもんだ・・・誰が使ってたかは知らねえが狀態がよかったもんでよ」

「・・・賊軍で?」

「おう、賊軍で」

どうすんだよおい。

脇差が舊幕府軍でベルトが薩藩だぞ。

俺の腰で戊辰戦爭が始まったらどうしよう。

・・・大先輩の戦國産『魂喰』が仲裁してくれることを祈るしかないな。

まあ、とにかくこれはありがたくもらっておくとするか。

さて、行李に殘った包みはあと1つだが・・・でっかいな。

何がってるんだろう。

「そしてこいつが・・・今回の大本命だ!」

おっちゃんは包みを持ったまま立ち上がり、大聲を出してばさっとそれを開いた。

包みから出てきたモノは・・・

「正真正銘、神宮寺時三郎が実際に使用した―――陣羽織だ!!」

黒を主とした、袖のない半纏。

うん、陣羽織だ。

一瞬見えたが、背中部分には合掌した仏様の立派な刺繍があった。

うん、どこに出しても恥ずかしくない陣羽織だ。

どうしろってんだよ、そんなの。

「いらないかな」

「がはは、冗談だ。いいオチ、付いただろう?」

このためにわざわざ陣羽織を倉庫から出してきたのか・・・

暇だねえ、おっちゃん。

悪戯が功したことを誇るクソガキみたいな顔でニヤつくおっちゃんに、俺は苦笑いするのだった。

おまけ

「おっちゃんなら知ってるかな?結局『三世観音流』ってどんな流派だったの?今じゃ失伝してるからイマイチわからんのだよね」

「わた、私も気になります中村先生!!」

「俺も聞いただけだがよ・・・簡単に言うと、カウンター技二種類しかねえ」

「「え」」

「死中に活を求めるって流派だからな。『合掌』とかいう能的な技と、『禮拝(らいはい)』っつう的な技が基本技であり、奧伝であり、伝だった、らしい」

「・・・そら失伝するわ、流派も」

「す、素晴らしい・・・ですね」

「難しすぎて皆伝になる前にだいたい戦場で死んだらしいからなあ」

「・・・な、なるほど」

「(南雲流でよかったと思う日が來るとは思わなんだ・・・)」

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