《聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】》第87話 らぶりぃ☆くまさんちぎりパン

「――というわけで、ドーナツを一緒に作ってほしいの」

朝食後、ニコニコした私とアイは、めんどくさそうな顔で立つハロルドを見ていた。

やると決めたら即行! ということで、即、彼を呼び出していたのよ。

「作るのはいいけどなあ、ドーナツはやめておいた方がいいと思うぞ」

「だめなの? どうして?」

「あのなぁ、王妃サマは知らないと思うから説明するけど、ドーナツはたくさんの油を使って揚げるんだ。その時気を付けないと、跳ねた油でケガをする」

「まあ、そうだったのね……!?」

てっきり包丁にさえ気を付ければいいと思っていたけれど、料理にはそんなものもあるのね……。

「食事は毎日食べるものなのに、その作り方を今までずっと知らなかったなんて、なんだか自分が急に無知に思えてきたわ」

「貴族なんてみんなそんなもんさ。むしろよかったな、新しい扉を開けて。おめでとさん」

だるそうに言いながらも、ハロルドがパチパチと拍手をしてくれる。

「あ……ありがとう。それにしても困ったわ。油が危ないのならやめた方がいいけれど、アイはリリアンにドーナツを作ってあげたいのよね」

「うん! だってりりあんおねえちゃん、おいしいってずっといってた!」

「なるほどなあ。そうなると揚げないドーナツもあるにはあるんだが、どのみち味が違ってしまうし……。だったら姫さんや」

言って、ハロルドがアイの目線にしゃがみ込む。アイがこてんと首をかしげた。

「ドーナツじゃなくなっちまうが、ドーナツに負けないぐらい、もちふわでおいしいものがあるぞ。しかもとびきり可い。どうだ、そっちを作ってみないか?」

「かわいい? なあにそれ! アイ、それつくりたい!」

すぐさまアイがぴょんぴょんと跳ねた。

「よっしゃ。ならそれを作るか。全員支度して、廚房に集合しな!」

「はぁーい!」

「にゃあーん」

元気いっぱいにアイとショコラが返事をした。

「おい、そこの貓。さも一緒にやります、みたいなノリで鳴いているけど、貓は廚房には立ち止だからな」

「にゃあん!?」

「いててっ! 爪を立てるな!」

必死な顔をしてふとももにしがみつくショコラに、ハロルドが悲鳴を上げる。その聲を聞きながら、私はじっとショコラを見つめていた。

……ショコラ、やっぱり人の言葉、わかっているわよね?

「よし、それじゃあ今からハロルド先生のらぶりぃ☆クッキング教室だ!」

集まった王宮の廚房。中では私とアイとユーリ様、それからリリアンがエプロンをつけて立っていた。

私とお揃いの髪型の、大きなリボンで髪をポニーテールに結んだアイが、元気いっぱいに拳を突き出す。

「らぶりいくっきんぐ!」

「この間から思っていたんですけれど、ハロルドってずいぶんネーミングセンスが可いらしいのね……!?」

なんとなく見た目からしてもっといかつい、男っぽいものをつけそうな印象があるのに、実際出てくる名前は私ですらつけないようならしい名前ばかり。

ぼたもちの時は既にぼたもちという名前があったから、まさかハロルドにそんな趣味があったなんて気付かなかったわ。

「おう。料理は蕓でありだからな。やっぱ可くないと、やる気もでないだろ」

「そ、そうね?」

確かに、アイが可ければ可いほど、私の創作意も上がってアイの絵をいっぱい描いてしまうから、似ているといえば似ているのかしら……?

考えていると、後ろから戸い気味のリリアンがそっと私に耳打ちした。

「あの、王妃陛下。なぜわたくしもこのような服を……?」

「ああ、実はアイと相談して決めたの。どのみちあなたは護衛としてこの場にいるのだし、それならただじっと見ているより、みんなで一緒に作った方が楽しいでしょう?」

「おねえちゃんも、いっしょにつくろっ!」

リリアンの手を握ったアイが、ぴょんぴょんと跳ねる。

「ご命令とあらば……」

リリアンはまだ戸っているようだ。

「それで、今日は何を作るんだ?」

腕まくりをしながら、ユーリ様が楽しそうに言った。

本當は今日も執務が山盛りだったのに、「……君たちと一緒に料理を作りたい」と言って、予定をすべて変更してしまったのよ。

「聞いて驚け。今日作るのは――らぶりぃ☆くまさんちぎりパンだ!」

「くまさんちぎりパン?」

初めて聞く名に、私とアイ、さらにユーリ様の聲も重なる。

「中はまぁパンなんだが、らぶりー合は尋常じゃねぇぜ」

言いながら、自信満々のハロルドが廚房を指さした。そこには人數分の材料やが用意されて、私たちが料理するのを待つだけの狀態になっている。

「パンはこねるのに力がいるからな。姫さんはユーリと一緒にやってみな」

「わかった! パパいっしょにやろっ!」

「一緒に頑張ろうな、アイ」

アイとユーリ様が同じ機に向かう中、私は私の擔當である機に向かった。

つるつるのタイルを並べてできた機の上には、小麥らしきと牛、バター、それに何かわからないもいくつかある。

「ちぎりパンの作り方は簡単だ。まず機の上にある材料を今から言う順番にれて、ひたすらこねろ。生地がまとまって、表面がつるんとなめらかになるまで、しっかりだぞ!」

ハロルドの指示にしたがって、私たちはいっせいにパン生地を作り始めた。

こねてみて初めて知ったのだけれど、私たちが食べるパンはいつもふわふわやわらかなのだけれど、生地の時は意外とくて、結構な力仕事だ。

ちらりと橫を見ると、アイは顔を真っ赤にしながら、よいしょいよいしょと生地をこねていた。ひとりだとやはり力が足りないらしく、そこへ重ねられたユーリ様の手が、ぐっぐっと力強く生地をこねる。

「パパはちからがつよいねえ!」

「パパは大人だし、騎士は皆力持ちだからね」

騎士といえば……。私が今度はちらりとリリアンの方を見ると、彼は一心不に自分のパン生地をこねていた。鬼気迫る表は真剣そのもので、もしかしするとこの場にいる誰よりも集中しているのかもしれない。

驚いたわ……。てっきり今日こそユーリ様に聲をかけるかと思ったのに、一瞥すらしないなんて。本當に、人が変わってしまったようね?

リリアンが護衛騎士になってからも、隙あらばユーリ様に近づこうとしているのは気づいていた。

ただ幸いなことにユーリ様がまったくそれを気にしていなくて……というよりもそもそもリリアンがユーリ様に気があること自に気づいていなくて、無自覚のうちにいをかわしていたのよ。だから私も放っておいたのだけれど、それがまさかドーナツパーティー以降、こんな風に変わってしまうなんて。

それに三侍のひとりアンが教えてくれたのだけれど、以前のリリアンは出されたご飯を「わたくしは食だから」と言ってほとんど手をつけていなかったらしいの。

でも今は逆に、他の誰よりもたくさん食べるそうよ。

もしかしてこのお城が安全な場所だとわかって、心を開いてくれたのかしら? だったらこの間のドーナツパーティーは大功ね。

私がニコニコしていると、様子を見に來たハロルドが生地を指でった。

「まだ生地が甘めぇな。もっと気合いれてやらないと、膨らまないぞ」

「わ、わかったわ!」

うっ。手厳しい……。私はまたせっせとこね始めた。

\楽しい楽しい(?)ちぎりパン回のはじまりですぞ~/

あとTwitterで2巻の背表紙公開しています。

(すまない、活報告を書く余裕がなくて……!)

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