《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》327.殺し合う尖兵
ケビンが創ったもう一匹のハネクモは、これまでの量産型のものとは違った。白金や漆黒の、謎の金屬で創られたハネクモがバラバラに分解されると、その一つ一つがアーマーパーツに変形した。クモの特徴を殘した白金のパーツや、格好良い仮面が裝著された。
本気で戦うつもりらしい彼の背中を見ながら、のぞみはケビンを止め、二人を救う方法が分からない自分が辛かった。
「ウェスリーさん……」
アーマースーツを著たケビンは、のぞみを一瞥した。
「カンザキ先輩は、ハネクモの後ろにを隠してください」
ケビンの意思に呼応して、六のハネクモがのぞみを守るように囲む。
背中のパーツを蟬の翅のようにバタバタ振ると、ケビンは地面を蹴った。クモの跳躍力が付與されたブーツアーマーにより、ケビンは超人的な能力で高く飛び上がる。中空でまずはリディに照準を定めると、腕のアーマーに蔵されたバスター砲の糸弾を連した。
だが、糸弾はリディには屆かなかった。直徑1.2クルの円形の章紋が、燃える盾のように糸弾を焼失したのだ。それはリディの展開した六つの章紋の一つだった。
『スコールジャベリン』と『ブレーズヴォルテックス』が二つずつ、計四つの章紋が重なるようにる。ケビンに向かって、炎の竜巻が噴き出した。
ケビンは飛び上がり、リディのによって引き起こされた上昇気流が弱まるエリアまで退避する。そして、リディの頭上から糸弾を撃ち込み、強気に反撃した。
糸弾が風に吹き散らされても、ケビンは諦めず撃ち続ける。散らばる糸弾が繋がり、クモの巣のように展開された。巣は糸弾が積み重なり厚くなっていく。厚いクモのがリディに降りかかった。
ケビンは左手の腕のアーマーからビームソードをばした。リディを斬るつもりだ。
だが、その直前、ハワードがケビンのそばまで飛び上がり、攻撃を邪魔するように大きく手を振り払った。
ケビンはまたも急回避し、リディもその場を飛び退く。
そして、これまでとは比べものにならないほど大きな章紋を綴りだした。
「邪魔するなら、まとめて倒す」
ハワードが猛スピードで追撃してくる。ケビンは間一髪、逃れると、すぐさま糸弾で反撃。
狂った猛牛のように攻めてくるハワードを、ケビンは冷靜を保ったまま、巧妙な回避行で何度も避けると、瞬時に近距離で糸弾を撃ち続けた。
ハワードは次第にクモの巣まみれになっていき、きもしずつ鈍くなる。
準備は整いつつあった。
次にハワードが攻めてくると、ケビンはその顔を狙って糸を出する。顔に糸を付けられたハワードは、一時的な混に陥った。
ケビンはさらに、両の掌の裝置からクモの糸を出する。巣が漁網のように広く展開され、ハワードをしっかりと捕らえた。
続けて創ったクモ糸の縄を摑む。縄はハワードと繋がり、ケビンが振り回すと狂った男の巨が宙を飛んだ。ぶんぶんと遠心力を使って大きく振り回されたあと、ハワードはリディに向かって投げ飛ばされた。
長い『章紋(ルーンクレスタ)』を詠唱していたリディは、急にそれを止められず、ハワードと激突した。二人はそのまま地面を転がり、リディの詠唱は強制的にストップさせられた。
ケビンが士(ルーラー)らしからぬ機敏なきで戦闘しているのを見て、能力では勝っていると思っていた闘士(ウォーリア)たちは驚いた。
「あんなきができるなんて……。あの人、本當に士なの?」
驚く蛍(ほたる)に、藍(ラン)も応える。
「きが速いだけでなく、瞬時の判斷も凄いですね」
「これが三年生の強さですか……」
ラーマはケビンに敬意を示し、ティムも頷いた。
「さすがは『尖兵』資格者。苦手分野すらも何とか克服してしまうというのは、戦闘経験の厚さを語っていますね」
ハネクモの群れは、ハワードとリディに向かい糸弾を吐き続けた。きを完全に制圧できるまでは気が抜けない。ケビンは宙を飛んだまま、クモの爪の形をした左腕のアーマーパーツを抜き取り、源気(グラムグラカ)が凝された剣をばした。
「楽になれ」
二人同時に斬ろうとした時、捨てのハワードが飛び出した。ケビンが先にハワードを斬ると、がとなって散った。
次に、リディを振り向く。斬りかかろうとした時、目の前に『章紋』がった。それは、真人が飛び込んだ空間のだ。
ケビンはまで三歩の空間を殘し、バク転。急回避すると、一番近くのハネクモをり、糸弾を章紋のに撃ち込んだ。案の定、式によりが開き、糸弾はと共にどこかへと消えた。
「ふっ、君は一幾つのトラップを用意した?」
カロラの源気が背後から急襲してきたことに気付き、ケビンはすぐさまその場を飛び離れる。
「おっと。また新しい人形を創ったのか」
新しいハワードが創られていた。その數、七人。
「あんな厄介な奴を、七も……」
蛍が絶句し、修二がケビンにぶ。
「オイオイ、一人で大丈夫かよ?!」
數的にも不利なケビンは、「ふ」と笑った。
「ペースを上げないとな」
七人のハワードが一斉にき出す。源気を手に集め、それぞれがケビンに向けて弾を放った。ケビンは咄嗟に床を蹴り、その場を離れる。低空飛行で七人の間を飛び回りながら、まずは三人のハワードを糸弾で足止めした。すぐさま周囲のハネクモを追撃させ、ハワードが白い繭(まゆ)になるまで糸を吐かせる。人型の繭ができ、三人のきは完全に封じられた。
殘るハワードたちは、ハネクモ軍団を破壊していた。ケビンは両の掌から蜘蛛の巣を出し、それぞれの手で一ずつハワードを摑んで自分の元へと引き寄せると、ブーツアーマーで強く蹴りをれる。蹴り飛ばされた二のハワードのうち、一は繭に包まれた別のハワードとぶつかり、もう一はリディに衝突した。
その時、章紋がり、また空間のが開いた。投げ飛ばされたハワードがそのままにっていく。距離を取ることで相手の攻撃を上手く回避し、攻める時には接近戦に持ち込み相手にチャンスを與えないようにする。ケビンは敵のスキルも活かして巧妙に相手の數を減らしていった。
ケビンは笑みを絶やさない。まだ、勝ち目はあると思った。
「やっぱりね。使役の數が増えれば、その分、きのパターンはシンプルになる」
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