その日の夜。

俺らは早百合さんを新居に招いて、稲のお疲れ會をした。

『かんぱーい！』

陣による料理を食べながら、紅茶を飲み、俺らはおおいに楽しんだ。

うちの陣は昨今の子らしくもなく、みな料理ができるので助かり過ぎている。

ちなみに、稲自も料理を作ろうとしたのだが、それではお疲れ會の意味がないと全力で止めた。

強制的に休ませるため、さっきまで俺と一緒に麻彌をぽよぽよもちもちしながら遊んでいた。

的には、俺が撮影している間に稲が麻彌の髪形を変え、そのたびに二人で麻彌の頭とあごをなでたりほおをつまんだりした。

そうしていると、麻彌はとても機嫌が良いのだ。

「ほぉ、これはおいしいな。貴君はいつもこんなおいしいものを食べているのか？」

「はい。桐葉を中心にみんな料理ができるので、作り手には不自由しません」

「マヤも作りたかったのです」

「麻彌さんも一緒に暮らしたら作りましょうね」

「もちろんなのです」

「ところでお父様のご機嫌はどうですか？」

「最近、趣味にクレー撃を始めて妙に機嫌がいいのです」

――それは何を撃ち抜く練習なのかな？

俺の不安を拭うように、桐葉が卵焼きをハシに挾んで突き出してきた。

「はいハニー、あーん」

照れ臭くて普段はことわるあーんも、素直にけてしまうくらい不安だった。

「ぱく、うんおいしいぞ」

「えへへ、ありがとうハニー。ボクの、いっぱい食べてね」

「なっ、いつもは斷るのに、ハニー、あたしのから揚げも食べてほら」

「シサエのつくったロールキャベツも食べてしいっす」

「わ、わたしの作ったじゃがも」

「おいおい、一度に三つ出されても食えねぇよ。あと舞は無理に流れに乗らなくてもいいぞ」

「はぅぅ……」

「ふふ、ハニー君モテモテだね。じゃあ私も」

「増やすなよおい」

史上初、稲に寸止め空手チョップを浴びせると、稲は幸せそうに目を細めた。可い。

なのに、俺の幸せに水を差すようにして、壁に表示させていた７０インチＭＲテレビが、不機嫌なニュースを流した。

『急ニュースです。先程、以前より創設が検討されていた超能力者管理委員會が、國連にて正式に発足しました』

「あ～、そういえばそんな話もあったな」

最後に聞いたのは夏休み前だったか？

それすらも忘れるぐらい、懐かしい話題だった。

「確か総理って、これへの牽制として異能部を異能省に格上げさせたんですよね？」

「そうだ」

頷いて、紅茶を一口飲んでから早百合さんは説明した。

「総務省の中の一部署に過ぎない異能部を局、庁、省へと格上げし大臣まで選定することで、能力者は自國で管理するという強い意思表示をするのが、総理の狙いだ」

アビリティリーグの時、手前勝手な都合で桐葉と稲を拘束した時はとんだバカ総理だと思ったけれど、一応、稲のことを考えてくれてはいるらしい。

「でもずいぶんと時間かかったっすね」

「新たな組織を作るとなれば、人員編などの関係で時間がかかったのだろう。ＯＵ國にも利権爭いや派閥爭いはある。メンバーをＯＵ國民や息のかかった者で固めるにしても、それなりの時を要する。だが……」

『超能力者管理委員會、通稱、超管では一人で世界のパワーバランスを左右する人材を【人間寶】に指定し、國連の管理下に置くことを決定したもようです。人間寶の第一號は日本の峰稲、他の人間寶は決まり次第、順次公開するとのことです』

「ミイナちゃんが拐されるっす！？」

「あいつらマジでやりやがったわ！　ハニー、今すぐＯＵのトップをここにアポートするのよ！　あたしのヒーリング千本ノックで改心させるわ！」

「茉って野球やって、いやわかったからシャドーボクシングやめろ」

茉のパンチを一千発も喰らったら確実に壊れるだろう。心が。

「待て待て、早百合さん、これ、意味ないんですよね？」

「無いな」

早百合さんは、凜々しい聲はそのままに、だが語調はあっけらかんと答えた。

詩冴と茉が同時に「え？」と目を見開く。

「これも條約と同じ。法的拘束力も強制力もない。國連の組織ができるのはあくまでも勧告まで。つまりは言葉で意思表示するだけだ」

早百合さんに続いて、桐葉は呆れ口調だ。

「やれやれだよ。相変わらず拘束力のないことにばかりを出して、ご苦労なことだよ。まっ、雑魚の悲しい抵抗だね」

俺も同意する。

「怖いのは國際社會からのバッシングだけど、國民の柄をよこせ、なんて無茶苦茶な要求、賛するのはそれこそ一部の過激な反日団とＯＵ系団代だけだろ？　稲が海水から金屬を作るのをやめたいま、世界には日本を叩く理由がない」

「むしろ、人権を無視して勝手にＯＵへ連れて行くという理論が強引過ぎる。バッシングをけるのは、むしろＯＵであろうなぁ」

「よかったっす」

「安心したわ」

二人で背中を合わせながら絨毯にへたり込み、詩冴と茉は安堵の息を吐き出した。

ひとりで張していた舞も、ほっと大きなをなでおろした。

「それに、早百合大臣はそれこそ大臣様だ。異能省の新設も間に合ったし、稲にはそう手出しできないだろ」

「もしもまたパワードスーツで來たら、ボクの新形態が火を噴くよ」

言って、桐葉が一瞬でドレスアップ。

純白のウエディングドレスの上から、蜂の鎧をまとった姫騎士スタイルになる。

「自衛隊の基地で計測した出力は舊・最終形態の十倍以上。戦車隊も戦闘機編隊もボク一人で躙しちゃうよ」

桐葉がから取り出した鉛筆をぐっと握り込むと、鉛筆はへし折れて絨毯の上に落ちた。

小學校のとき以來、とんと使わなくなった鉛筆の存在をなつかしみつつ、桐葉のアピールをショボくじた。

茉も呆れ気味だ。

「あのねぇ桐葉、鉛筆ぐらいあたしだって握り潰せるわよ。握力アピールするならせめてスプーンやフォークを潰しなさいよね」

桐葉が開いた手の平には、おがくずの中でる、明な芯が転がっていた。

それを指先でつまみ上げると、桐葉は頬を染めて俺に突き出してきた。

「ボクのお手製ダイヤモンド、婚約の証にハニーにあげちゃう」

『あ、握力で炭をダイヤに変えたぁあああああああああああああああああ！？』

その場のほぼ全員が絶した。

「あ、ありがとう」

俺が苦笑いを浮かべながらけ取ってからも、みんなの熱狂ぶりは変わらなかった。

「ちょぉっあんた！　炭がダイヤになるには１００トンの握力が必要なのよ！」

「わ、私以外にもダイヤモンド作れる人いたんだ……」

「ふゃっ？　桐葉それ絶対に他の人の前でやっちゃだめだよ！　約束だよ！」

「貴君は、常識の埒外だな……」

「キリハちゃんのこと！　今日からオーガって呼んでいいっすか！？」

「ボクはハチだよ？」

桐葉は、得意満面で可く舌を出した。

★本作はカクヨムでは２２９話まで先行配信しています。