《不死の子供たち【書籍販売中】》641 報告

の処理を終えて上階に戻る途中、別の食料品店で人擬きの群れを発見する。我々の存在に気がついていないのか、それとも栄養失調による休眠狀態だったのかは分からないが、群れは息を患っている年のように、特徴的な呼吸音を立てながら暗闇に立ったままこうとしなかった。

気づかれなければ脅威にはならなかったので、その狀態で放っておいても良かったのだが、後々面倒なことにならないように処理することに決めた。

事前に端末からダウンロードしていた案図を確認しながら、店の裏口が閉鎖されていることを確認したあと、〈収納空間〉から焼夷手榴弾(しょういしゅりゅうだん)を取り出す。

「テルミットを使って焼き払う」

『了解』カグヤの聲が耳に聞こえる。

『シャッターを下ろして店のり口を閉鎖したあと、反応の確認作業を行う』

複數の手榴弾と一緒に焼夷弾を放り込んだあと、安全な場所まで離れる。炸裂音のあと、店から騒がしい音が聞こえていたが、やがてその音も聞こえなくなった。敵の増援がないことを確認すると、吹き抜けまで歩いて柵を越える。

重を支えられる出っ張りを探したあと、上階に向かってグラップリングフックを出する。ワイヤロープを引っ張ってフックがしっかり固定されているか確認していると、大蜘蛛が音もなく近づいてくる。

「どうしたんだ、ヨル?」

ハクに通訳を頼んでヨルの話を聞くと、どうやら彼はこの區畫に殘って探索を続けるようだった。姉妹を死に至らしめたのが〈インフェクスムスカ〉の戦闘部隊だということは判明していたが、ムスカの目的と、この場所で何をしていたのか探る必要があるとのことだった。そしてそれは、〈ヴィードルの墓場〉にいる姉妹たちから與えられた大事な仕事でもあるという。

「俺たちは上階に戻って前哨基地を設営する。ヨルも探索に疲れたら休みにきてくれ。――それから、手助けが必要なら言ってくれ。俺たちにできることなら何でも協力する」

肢を使ってトントンと床を叩くと、暗闇に溶け込むようにしていなくなった。

ヨルと別れたあと、ハクを連れて上階に戻る。相変わらず薄暗く、骨の山が積み上げられた奇妙な場所だった。それに加えて人擬きの死骸も大量に橫たわっていて、死のニオイが漂っていた。それらの死骸をすべて処理することは難しいが、このまま放置することもできないだろう。

機械人形に協力してもらい、周囲に散していた死骸を一箇所に集めてもらっている間、ムスカの変異が殘した外骨格の一部を回収しに行くことにした。

暗闇のなか、干からびた骨を踏み砕きながら歩を進めると、ムスカの変異が反重力弾の効果によって変化していたが見えてくる。生によって形されるソレは、厳には鉱の一種なのかもしれない。球狀のは手のひらで包み込めるほどの小さなモノだったが、度が高く異様に重たい。

舊文明期の裝置を用いて加工することで、軽くて度のある、極めて純度の高い鋼材になるとは想像もできなかった。

ムスカの変異から切斷されていた腳と殻の一部、それに重たいを拾って〈収納空間〉に放り込んだあと、前哨基地を設営するための道を取りに行くことにした。

「カグヤ、必要になるモノを教えてくれ」

『警備制を強化するため〈アサルトロイド〉の追加に、敵の侵を防ぐための自迎撃裝置が必要だね。とりあえず検知機能を備えていて、敵が接近すると自的に攻撃してくれるセントリーガンがあれば充分だと思う』

「ほかには?」

『この気の滅るような暗闇をどうにかしたほうがいい。それに長時間の探索に備えて、避難所や休息場所として使えるテントが必要になると思う』

「発掘調査で使う投とテントなら、ジャンナたちが余分に持っているかもしれない」

『休んでるときに襲われたくなければ、バリケードフェンスも設置したほうがいい。〈鋼材製造機〉を使えば、すぐに用意できるから忘れないでね』

「あの3Dプリンターみたいな裝置のことだな」

『うん。素材は反重力弾で生されたムスカの素材が使えるから、鋼材を用意しなくてもいいんだ』

「それなら、あとは飲料水と食料だけだな」

『調査員たちのために醫療品を用意しておいたほうがいいかも』

「フロアの安全が確保されるまでは、彼らの立ちりは制限するつもりだけど」

『準備しておいても無駄にならないから、いくつか用意しておこう』

拡張現実で投影される必要な資のリストを確認したあと、ハクと一緒に〈エリア十八〉に向かう。発掘現場で手にらない資は、カグヤが輸送機を使って運んでくれるから、在庫の心配をする必要はないだろう。

周囲は奇妙な靜かさに包まれていたが、すでに脅威となる生の多くを排除していたからなのか、あの息が詰まるような神的ストレスをじることはなかった。それでも警戒しながら暗闇を進むと、巨大な隔壁が見えてくる。

アサルトロイドによって警備されていたフロアに出ると、やっと人心地つけることができた。この場所までくれば、とりあえず安全だった。フロアの巡回警備にあたっていた機械人形の様子を確認したあと、また別の隔壁を通って、ペパーミントたちが〈インフェクスムスカ〉の調査をしていた場所に出る。

すぐにジュジュたちがワラワラ集まってくる。さっそくハクは得意げに探索の様子を語り始めた。人擬きの群れやムスカとの戦闘、それに探索で手にれたの自慢をする。ジュジュたちはハクの言葉を理解しているのか「ジュジュ、ジッ、ジュージュ!」と騒がしく鳴きながら返事をしていた。

ハクたちを橫目に見ながら、ペパーミントとサナエが作業していた無菌テントまで歩いていく。ジャンナも彼たちと一緒にムスカの死骸を調査しているようだったので、ついでに彼にも地下で見たモノを報告する。〈サイバネティクス〉の販売店を見つけたことや、骨の山が広がる奇妙な空間のこと、それにムスカの変異と戦闘になったことも。

ペパーミントに回収していたムスカの殻を見せると、彼は目をキラキラと輝かせるが、すぐに真剣な表に戻る。

『その奇妙な卵は回収することができなかったの?』と、彼の聲が耳に聞こえる。

「貴重な研究材料を臺無しにして申し訳ないけど、回収する選択肢があることすら気づかないほど衝撃的な景だったんだ」

『だから全部潰しちゃったの?』

「あの景を目にしていたら、きっと君も同じことを考えたと思うし、そうするべきだったんだ」

の化學防護服をにつけていたペパーミントは、腕を組んでじっと考えたあと、コクリとうなずいた。

『そうね、きっとそうするべきだった。死骸すら手に負えないのに、いつ孵化するのかも分からない卵なんかに手を出すべきじゃない。でも、機會があったら――』

「わかってる。もしまた卵を見つけるようなことがあったら、そのときには回収できないか考えておく」

は満足そうな笑みを浮かべたあと、サナエの質問に答えて、それから手元の端末を作しながら言った。

『レイはこれからどうするの?』

「ヨルのために前哨基地を準備したあと、廃墟の街で見つけた教會に行こうと思う」

『地下に舊文明の施設がある教會のこと?』

「そうだ。教會を警備しているトゥエルブと協力して、〈販売所〉として使える狀態にする」

『そっか……ハクも連れていくの?』

「そのつもりだけど、警備のことなら心配しなくても大丈夫だと思う。フロアのあちこちにアサルトロイドがいるし、前哨基地にはヨルがいてくれる。それに、その前哨基地が攻撃されたら、すぐに知らせてくれるようにしておく。だから安心してくれ」

『わかったわ。私とサナエはここで調査を続ける』

「ああ、よろしく頼むよ」

すぐに結果が出るとは思えなかったが、彼たちの研究は必ず役に立ってくれるはずだ。

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