《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》450話「帰還、そして新たな問題」
「おかえりなさいませローランド様」
「ああ、今戻った。何か変わったことはなかったか?」
「いえ、特に変わりはありません。強いて言えば、新しくメイド見習いとして迎えたルルミーレが、メイドの仕事に慣れ出したくらいでしょうか」
「ほう」
モンスター農園からティタンザニアの屋敷へと久々に戻ってきたところ、それに気付いたソバスがすぐにやってくる。一いつの間に俺の気配を察知しているのかは知らないが、仮にも俺が鍛えた実力者であり、その実力もSランク冒険者としてやっていけるほどともなれば、俺の気配を察知するくらいはできると納得する。
それから、何か変わったことがなかったかの業務連絡を聞いてみたところ、エルフの里から拐……もとい、連れ出したルルミーレだが、この短期間で仕事を覚えて一端のメイドとしてやっていけるくらいの技量をに著けているとのことらしい。
使用人として必要最低限の実力については、元々の素養があったらしく、すぐに他の使用人ともまともに戦えるようになったとのことだ。これがエルフの才能なのかと思ったが、それでも周りに付いている脂肪が邪魔をしているらしく、その分負け越しているとのことだ。
そのことであまり部に膨らみのないメイドから睨まれているが、それは決していじめなどではなく、持たざる者が持っている者に対する僻みであるため、ソバスもメイド長のミーアもあまり注意していないとのことだ。……まあ、ミーアはどちらかというと持っている者だからな。
そんなこんなで、屋敷の使用人たちの間ではルルミーレ以外は特に変わったことはなく、いつも通りだったとソバスの口から語られたため、その點については気にすることはなかった。
「でだ。いつまでそこで気配を消して隠れているつもりだ? モチャ」
「さすがはご主人様ですのん。何故わかったですのん?」
「俺はお前の主人だ。理由はそれだけで十分だろう」
モチャの問いに俺がそう返すと、それで納得したかのように一禮する。こいつも俺の気配を即座に察知し、ソバスがやってきたとほぼ同時といってもいい時間差で部屋に潛んでいた。
尤も、常にレーダーのように覚を研ぎ澄ませている俺からすれば、どこに誰がいるのかくらいは簡単に把握できるため、俺を騙すことはできなかったようだ。
それから、ソバスの口から俺が帰ってきたらすぐに訪ねてくれと國王からのメッセージをけ取り、そのまますぐに瞬間移で國王の執務室へと移する。
「む、お前か」
「お呼びだと聞いたが、面倒事か」
「それもある。だが、その前にそっちの首尾を聞こう。どうだった?」
何か問題が発生したようだが、こちらの狀況を聞くくらいの余裕があると判斷した俺は、すぐに國王の問いに答える。
「とりあえず、相手には罰を與えた」
「どんなものか聞いても?」
「セコンド王國と同じだ。結界で閉じ込めた。それだけだ」
「國一つを閉じ込めるのが、それだけではないのだがな」
「それよりも、そちらの狀況を説明してくれ」
俺の気のない返答に半ば呆れながらも、実際にセコンド王國やセラフ聖國の末路を知っている彼からすれば、俺にて期待したアルカディア皇國がどういった末路を辿ったのかは想像に難くないらしく、それ以上追及することはなかった。
俺としても、観のついでにやったことなので、特に興味も湧かない容だった。そのため、すぐに國王側の話がどういったものであるのか聞き出すことにする。
そんな俺の態度に溜息を吐きつつも、現狀を鑑みてそのことについて言及する以前にやることがあると判斷したのか、國王が手短に話し始める。
「シェルズ王國を南下した先にあるセイバーダレス公國。そして、その公國をさらに南下するとバルバトス帝國という軍事國家が存在する」
「その國が戦爭でも吹っ掛けてきたか?」
「そのまさかだよ」
「また戦爭か。セコンド王國とやり合ったばかりだというのに、忙しないことだな」
「実際は、お前がすべて片付けてくれたから、こちらの被害はゼロなのだが……」
國王の言葉に當てずっぽで言ったことがまさかの當たりで、俺は眉を顰めながら皮をらす。それに対し、申し訳なさそうな顔で國王が先の戦爭での國の損失がないことを言っていたが、俺はそれを黙殺して詳しい容を聞き出す。
「それで、何故そのバルバなんちゃら帝國が戦爭を吹っ掛けてきたと判斷したんだ?」
「バルバトス帝國だ。隣國のセイバーダレスとは、にやり取りをしていてな。特に國境付近の帝國のきについては、逐一報告するという取り決めを結んでいる。そのセイバーダレスから送られてきた書によれば、セイバーダレスの國境付近に帝國の軍隊が集結しつつあり、今にもこちらに進撃してくるきがあるとあった」
「軍隊の総數は?」
「なく見積もっても十萬、下手をすれば十五萬とのことらしい」
「それは、奴さんはかなり本腰をれてきているみたいだな。それだけの兵力を數年やそこらで用意することはできない。おそらくは十年以上の歳月を掛けて周到に用意されたものだろうな」
「軍部の人間もその見方が強い。それで、心苦しいのだが……」
「わかっている。皆まで言うな」
俺は國王の言葉を途中で遮る。彼にとって俺一人に頼るというのは、大人として國王としての矜持が許さないのだろう。
「本來であれば、子供のお前に頼るのは良くないことなのだが、事が事だけに此度はどうしようもなく――」
「皆まで言うなと言ったはずだ。それに、セイバーダレスを挾んでいるとはいえ、いずれそいつらはシェルズにも攻め込んでくるのだろう? だったら、俺が対処することになったはずだ。今回との違いがあるとすれば、遅いか早いかだけの話だ」
今回の件は間違いなく面倒事なのだが、仮に俺がかずに國と國との爭いに発展した場合、公國側と帝國側で多くの命が奪われるという結果になる。そして、俺一人がけばまず間違いなく被害者を一人たりとも出すことなく戦爭を終結させることができるだろう。実際問題、セコンド王國では被害者を出すことなく本當に戦爭があったのかも怪しいくらいに靜かな決著となった。
そして、國王にも言ったが、仮にバルバトス帝國がセイバーダレス公國に侵攻し、公國が帝國の手に落ちたその後、次の標的となる國がシェルズ王國であることは國王の言葉からも間違いない。であるならば、最初から俺がいて一人の被害者を出すことなく処理すれば何も問題ないという結論になるのは當然のことであり、寧ろ面倒事ではなく必要なことであるとすら思えてくる。
「すまない」
「問題ない。お前は、俺に支払う報酬の心配でもしていろ。これでまた借金が増えるな」
「ふっ」
そう言うと、俺はさらに詳しい事を聞くため、セイバーダレス公國の上層部の元へと向かうのであった。
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