《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》451話「大公と宰相と第一公と第二公」
「これは、ローランド様。お久しぶりにございます」
「ああ。ビスタも一緒か」
「大公であるアリーシアを補佐するのが私の務めですから」
「相変わらず、仲のいいことだ」
俺の言葉にお互い見つめ合いピンクの世界にり込もうとする二人を宥めると、俺はさっそく帝國のきについて問い掛ける。
「さっそくで悪いが、シェルズの國王から聞いた。バルバトス帝國という國が攻め込んでくると。詳しい話を聞かせてくれ」
「わかりました。事の始まりは、一月ほど前でしょうか。普段國境付近に在中しているバルバトス兵の數が目に見えて増え出したのです。その數は日に日に増え続け、現在國境付近に在中している兵の數はなくとも十萬ほど、多く見積もって十五萬程度だと見ております」
「それほどの數を短期間で揃えるのは不可能。それこそ、用意周到に十年以上の歳月を掛けて用意されたものであるというのが、私とアリーシアで出した結論です」
俺が詳細を聞くとアリーシアが答えてくれる。それを捕捉するようにビスタが付け加えた容は、シェルズの國王と上層部が出した結論と同じであった。
ただ、何故このタイミングでいたのかというのも気になるところだ。俺は、二人に推測の域を出ていない容を話す。
「このタイミングでいたということは、おそらくはシェルズがセコンド王國に足止めを食らっている最中、セイバーダレスを落としてしまおうという算段だったはずだ。聞いた話では、今の時期はセコンド王國との小競り合いをやっていて、他國に目が向きづらいという話らしいからな。だが、肝心のセコンド王國が沈黙してしまったタイミングで準備が整ってしまった。セコンド王國はかない。仕方なく、國境に兵を進め相手の出方を窺うとしよう。そんなところだろう」
俺の予想に二人とも頷くことで肯定の意志を示す。
しかしながら、それに加えてもう一つ何かよからぬことを考えているのではないかと俺は予想している。
アリーシアたちのところへ向かう直前に、シェルズの國王からバルバトス帝國の國柄について聞いていた。なんでも、定期的に他國へ攻め込んでいる軍事大國ではあるものの、その攻め方は実になものが多く、こちらが攻めてきてほしくない時に限って攻めてくるとのことであった。
そのことから、バルバトス帝國の気質としては何かしらの勝算がなければかずにずっとその機會を窺い、機がせば躊躇うことなく噛みついてくるという臆病とも慎重とも取れるやり方を実踐しているのではないかと判斷した。
そして、そんな連中が表立っていたということは、今回の進攻において功する何らかの勝算が出揃ったためにいたのではないのだろうかと俺は予想している。
だが、的にその勝算が何であるのかがわからない以上、下手に藪をつついて蛇を出すような真似をすることはできないため、セイバーダレスサイドとしては迂闊にくこともはばかられるといった狀況である。
進攻してくるのは確実であったとしても、現在は國境付近に大軍勢が集結しているだけであり、実際に國境を越えてきたわけでもなく、セイバーダレス側の兵士に被害があったわけでもない。
これは予想だが、バルバトス帝國側としてはセイバーダレスに攻め込む口実……所謂大義名分がないため、他國からも納得できるような大義名分を模索しているが故にこちらの出方を窺っているのではないだろうか。
「というのが、俺の見解だ」
「そんなところでしょうね」
「まったく。こちらとしてはいい迷です」
俺の予想と二人の立てた予想が合致していたようで、苦蟲を噛み潰したような苦々しい顔を浮かべている。
そりゃあ、國の統治をやっていたところに攻め込まれるようなきを見せられたら、セイバーダレスとしても対応しないわけにもいかないため、ある程度守りを固めるため國境に兵を差し向けざるを得なくなる。仮にそれが帝國側の狙いであったとしても、帝國ほど軍事に明るい國でないため、かなり真剣にかの國を相手にしなければならないだろう。
しばらく、帝國についての考察で話し込んでいると、突如として部屋の扉が勢いよく解放される。そこにいたのは、アリーシアの娘でありセイバーダレス公國の第一公と第二公であるアレスタとアナスターシャであった。
「ここにローランド殿が來ていると聞いてきたのだけれど」
「あ、ローランド様。お久しぶりにございます」
「お前らか」
何の目的で二人がやって來たのか知らないが、今は大事な話をしているため、できれば相手をしたくはない。それに、なにか嫌な予がするからな。
そんな俺の心などお構いなしとばかりに、アナスターシャは作法に則った一禮を、アレスタは態度こそ以前よりも改まったが相変わらず偉そうな態度で接してきた。
「話は聞いたと思うけど、バルバトス帝國が攻めてくるわ」
「そうだな」
「私は戦うぞ。マンティコアの件では後れを取ったが、今回は國のためにも引くことはできん」
「……」
「お、お姉様……」
アレスタの宣言に、こいつは一何をほざいているのだというジト目を俺は向ける。それは、アナスターシャも同じだったようで、姉の言葉を非難するかのような態度を示す。
「やはりお前は、あの時から何も長していないらしいな」
「な、何がよ」
「はあ……まず、現時點でバルバトス帝國は侵攻してきてはいない。確かに、國境付近に兵を配置しているが、それはあくまでも軍事演習の一環であり、セイバーダレス公國に侵攻するためのものではないという言い訳がまだできるんだよ」
「で、でも、あれだけの大軍を配備するなんて、軍事演習としては度を越えているわ」
「それもまた正論だ。だが、現時點でセイバーダレス公國に攻め込んできていないことと、セイバーダレスに何か実害があったわけではないという點を見れば、いくら度を越えているとはいえ、何もしていない相手に対しこちらから攻め込んだ場合、悪いのは先に手を出したセイバーダレス側ということになる。てか、寧ろバルバトス帝國側はそれを大義名分とする可能が高い。“何もしてないのに攻撃されたから、その報復に攻め込むぞ”といったところか」
「そ、そんなっ」
何も狀況を理解していないアレスタに、俺は一つ一つ説明してやる。そんなことになっているとはほども思っていないかったのか、俺の説明を聞いて目を見開いて驚いている。
アレスタは驚いているが、狀況はあまり芳しくはなく、寧ろさらに悪い方向へと向かいつつあるのだ。
「で、では、このまま何もせずに放っておけば……」
「ところが、そういうわけにもいかないんだよ」
「な、何故だ!?」
「お前公だろ? しは頭を働かせてみろよ」
「な、なんだとっ!?」
「お姉様。ローランド様は、バルバトス帝國が我が國に攻め込むための大義名分を仕立てて攻め込んでくると仰っているのです」
「どういうことだっ!?」
「第二公は気付いているようだな」
説明しよう。バルバトス帝國は、セイバーダレス公國に攻め込みたいが、その大義名分がないためこのまま攻め込むと周辺諸國から反を買ってしまう。そのため、帝國側としてはこじつけでも何でも構わないから大義名分を無理矢理に作って必ず攻め込んでくる。
例え、先に攻撃を仕掛けたのが帝國側であったとしても、帝國側は“あくまでも攻撃してきたのはセイバーダレス公國であり、自國はそれを迎え撃つ形で応戦したに過ぎない”という主張を押し出してくるだろう。
どのみち、帝國との衝突は避けられず、このまま黙っていたとしても帝國が攻め込んでくることは必定なのである。
「ということなのです」
「そんな筋の通らない話があってたまるか!!」
「アレスタ。それが大國の力というものなのよ」
「そうだ。バルバトス帝國の力は侮れない。そういった主張がまかり通る程度には帝國の力は強大なんだ」
アナスターシャの説明に憤慨するアレスタだったが、アリーシアとビスタの二人が宥める。それを聞いてますますぷんすかするアレスタと俯いているアナスターシャに俺は言ってやった。
「だからこそ、そんな理不盡をまかり通らせないために俺が出張ってきたというわけだ」
「行くのですね」
「まあ、できる限りのことはする」
そう言って、俺は部屋を後にした。部屋を出て行く際、アレスタが何か言いたげな表を浮かべていたが、アナスターシャに腕を摑まれ窘められていた。
とりあえず、現場を確認するため、俺はすぐにセイバーダレスとバルバトスの國境付近へと向かった。
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