《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》452話「昔取った杵柄」

~ Side バルバトス軍 ~

セイバーダレス公國の南東部。バルバトス帝國の國境を越えたすぐ先にある平原に陣が敷かれている。そこにいるのは、今まさにセイバーダレスに攻めろうとするバルバトス帝國が、虎視眈々とセイバーダレスの様子を窺っていた。

「特に目立ったきは見けられないとのことです」

「わかった」

部下が寄こした報告に短く答えた指揮は、そのまま思案を巡らす。彼もまた上層部の意向によって派遣されたお飾りの指揮であり、要はのいい駒でしかない。獨斷でいて下手に上層部の怒りを買えば自分の首が飛ぶということを重々に理解している彼は、上の指示があるまで待機する。

だが、指揮は平民出の人間であり、頭の固い上層部が何故今になってセイバーダレスを攻めようなどという行に至ったのかその真意を図りかねていた。戦爭とは、政治的な側面も含まれており、彼のあずかり知らないところでセイバーダレスとの渉が決裂したためによる武力行使なのかと考えていたが、結局のところ政治的であるにせよないにせよ、すでに國境付近にこれだけの戦力を集めておいて何もしないなどということはないだろうと彼は判斷した。

「指揮殿。皇帝陛下直々の書狀が屆きました」

「了解した。下がっていいぞ」

震える手で書狀を寄こしてきた部下に労いの言葉を掛け、皇帝からの書狀をけ取る。書かれている容は大の察しが付くものの、開いてみないことにはその詳細はわからないため、彼はすぐに中を確認することにする。

そこには、形式的な文面をすっ飛ばした用件のみが書かれており、実に単純明快な容だった。

「“軍備が整い次第、セイバーダレスに向け侵攻を開始せよ”か」

現在バルバトス帝國側の軍備狀況は九割が完了しており、後はセイバーダレスに向けて侵攻するのみである。バルバトス帝國の帝都からセイバーダレスと隣接する國境まで早馬でも十日以上の時が掛かってしまうことを考えれば、この手紙が軍備が整う直前で屆くよう計算されて出されたことが何となく理解できる。

指揮としては、意味の見い出せない戦爭はするべきでないという意見だが、彼もまた國という一つの組織に所屬くしている以上、上の人間に逆らうことは死を意味するということを理解しているため、すぐに自分のやるべき行に移った。

「誰かある」

「はっ、お呼びでございますか指揮殿」

「全軍に通達。各自準備を整えたのち、一晩休息を取ることとし、明朝セイバーダレスに進軍する」

「了解しました。直ちに全軍に通達いたします」

指揮の指示をけた部下が、各部隊の伝令にその旨を伝え、それが全の指示として各兵に通達されていく。その様子を見ながら、彼は誰に聞かせるまでもない獨り言をぽつりと呟く。

「なるようになるしかないか」

そう言いつつ、彼もまた明日の侵攻に備えて休むことにした。しかし、彼を含めたすべての兵士が目覚めた時、目の前に広がっていたのは、自國の主要都市である帝都であった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

セイバーダレスとの國境にやってきた俺は、兵士にバレないようを潛めながら敵陣営の様子を探る。兵士たちのはそれほど張りつめたものでないことから、今夜辺りは力を溫存して明日の朝か晝に進軍してくるのではないかと當たりを付ける。

それまでにやっておきたいことはあるものの、下手にいて兵士に見つかってしまえば面倒なことになりかねないため、ここは大人しく夜が來るのを待つことにする。

數時間後、辺りがすっかりと暗くなり、兵士たちも寢靜まった頃合いを見計らい、俺は敵陣営を近付いていく。気配と姿を消した狀態の人間を視認することなど不可能に等しく、見張りの兵士を掻い潛って陣営に潛り込むことに功する。

今回の俺の目的は、前回セコンド王國に使った手で行こうと考えているが、さすがの俺でも十五萬という大軍を一度に移させることができる手段を持ち合わせてはいない。ならば、何回かに小分けにして運べばいいという結論に至るのは當然のことであり、俺はさっそく行に移る。

「【ハイエリアワイデンスマジック】・【スリープ】」

特定の魔法を超々広範囲化するハイエリアワイデンスマジックと、その対象となる眠りの魔法スリープを組み合わせることで、とてつもない広範囲に魔法の効果を拡散することができる。起きている相手にはもちろんのこと、すでに眠っている相手にもさらに深い睡眠効果を與えることができ、ちょっとやそっとのことでは起きることはない。

裏に敵陣へと侵した俺は、その魔法を陣地のど真ん中で使用した。すぐにその効果が現れ、殘っていた気配が消えうせまるでそこに誰もいないかのような靜けさが支配する。

「よし、次は。來いプロト」

次にストレージからプロトを呼び出す。すぐさま俺の呼び出しに応え、何もない空間からプロトが姿を現した。

「ご主人様、お呼びでございますでしょうか」

「ああ……。というか、お前なんか喋り方が流暢になってないか?」

「申し訳ございません。勝手ながら、ストレージの高ランクモンスターの魔石を拝借させていただきました。そのおで、更なる進化を遂げることができたのですムー」

「まあいい、とにかく仕事だ」

進化しても口癖は変わっていないんだなと心の中で思いつつ、さっそくプロトに指示をする。特に難しいものではなく、これからゴーレムを出していくので、そのゴーレムに指示をするのと、この周辺に近づく存在がいればすぐにそれを知らせるという単純なものだ。これから、ちょっと大掛かりなことをするため、すぐさま俺はゴーレムをストレージから取り出す。

このゴーレムは、以前セコンド王國との戦爭時に一人の犠牲者を出さないという條件を達するために作ったゴーレムであり、一部はオラルガンドの自宅にある工房で稼働していたが、その大半はストレージで死蔵されていたものだ。

その數は実に三萬という大軍であり、同數の兵士たちを運ぶためだけに生み出されたゴーレムだが、今回このゴーレムたちが再び日の目を見る日が來たというわけである。

「とりあえず、こいつらに指示を出しておいてくれ。俺はこの間に帝都の近くまで行ってくる」

「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませムー」

三十センチほどしかないプロトの頭をぽんぽんとでると、俺はそのまま飛行魔法を使って帝都に向かって飛び去って行った。

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