《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》335.令と再會の予告
汐の聲で、のぞみは現実に引き戻された。間もなく遼介たちは未來へ戻る。話したいことはたくさんあるが、諦めるしかなかった。
「遼介兄ちゃん。そんな個人的な話よりも、もっと重要な話を伝えてください」
「そうだ。のぞみ、お前にある機任務を頼みたい」
遼介の言葉に、のぞみは目を丸くさせた。
「え……?機任務を?」
「ああ。お前に、アーリム・ラメルスを捕まえてほしい」
「三年後も、ラメルス先生はまだ捕まっていないんですか?」
「……恐らく彼はリディたちの支配に功してすぐ、自分の犯行を告発する人について口を割らせた。彼は突然の事故で亡くなったことになっている。それがラメルスと関わっているという証拠がないまま、ラメルス自も六ヶ月後、何者かに暗殺された。それ以降、彼に関わる案件は迷宮りしている」
のぞみは目線を伏せ、思案顔になった。
「そんなことに……。ということは、私は六ヶ月以にラメルス先生を捕まえなければいけないんですか?」
「そうだ」
突然の依頼に、のぞみは俯き、思案顔になった。暗殺事件もまだ完全に解決していない狀態で、さらに危険な任務に足を踏みれなければならないのぞみを慮り、ラトゥーニが腹を立てる。
「ちょっと待ってよ!それって機関とか、『尖兵(スカウト)』の役目じゃないの?そんな危険な任務を二年生のただの心苗(コディセミット)に頼むなんて、どういう了見なの?」
満創痍のクラークも、のぞみを擁護するためならばと重いを引きずってやってきた。
「そうだそうだ、そもそもトラブルが起きたのはお前ら未來から來た奴らのミスだろ?その責任をカンザキさん一人に丸投げするなんて、俺には納得できないぜ」
憤慨するクラークを抑えたのはラーマだ。
「ティソン、私たちの命を助けてくださった方々に向かって、言い過ぎです」
ラーマはそう言ったが、この場にいる心苗の多くが、のぞみが依頼をけることを認められなかった。
「過去の時間點に長く滯在することは、無関係なものごとにも変化を與えるリスクが増える。だから、俺たちは手出しできない。たしかに機関の本部長は、三年前ののぞみに任せるのは早いと言った。だが、四人が死ぬはずだった運命を変えたのはお前だ、のぞみ。今のお前なら、任務をけられる。それだけの力があると俺は思っている」
遼介(りょうすけ)はそう全員に向かって言うと、のぞみを振り返り、その目を見た。
「俺はお前の力を信じている。勿論、斷ったって構わない。この時間點においても、他に依頼できる人はいる。お前次第だ」
仲間が反対していることは分かった。それでものぞみは、遼介の頼みをけたいと思った。澄んだ瞳がまっすぐに遼介を見る。
「けます。私が、けます」
想いを伝える時間はない。のぞみはせめて、自分を信頼してくれる彼の力になりたかった。それは、長年の願いでもあった。今、そのチャンスがとうとうやってきたのだ。誰にも譲りたくはなかった。
のぞみは恐れを知らないままの自分で、思い切って依頼をけることを決めた。
「のぞみさん……。さすがに無茶ではないですか?」
藍(ラン)が心配そうにのぞみに聲をかけた。
「そうだよ!」と、藍の加勢をけてラトゥーニが猛反発する。
「どうしてけるの?ノゾミはまだ二年生だよ?『尖兵』資格が必要なレベルの任務をけるには早いんじゃない?」
ティムは理的に事をけ止めていた。
「もしもそれが正式な令なら、この時間點の機関からカンザキさんに、通知が屆くはずです」
遼介が応じる。
「ああ、意思確認は済んだから、後から正式な通知書が屆くはずだ」
「ノゾミ、こんな危ない依頼、ける必要ないよ。予備の人選があるんだから、他の人に任せたらいいじゃん」
「……ラトゥーニさん。でも、任務には學年に関わらず、學校や機関から任命されるものもあります。私はきっと、今がその時なんだと思います」
「そうだけど……」
のぞみが意思を固めたことは誰の目にも明らかだった。もう、ラトゥーニにも止めることはできない。今回のように任務の容によって、命令として下級生を指名することはある。指名された者は任務をけるか斷るか、自分で選ぶことができる。全て、本人の意思が尊重される。
「決まりだな」
のぞみは再度、任務容を確認した。
「はい。六ヶ月後に暗殺されるよりも前に、ラメルス先生を逮捕すること、ですね?」
「詳しい容は通知が屆いてからだ。指導者が教えてくれる」
「分かりました。必ず証拠を摑んでラメルス先生を捕まえます」
遼介はのぞみの答えを肯定する。
「お前ならできる」
レンが遼介に呼びかける。
「ミツノさん、そろそろ戻る時間です」
「先に行け。後から追いつく」
「では僕たちは先に行きます」
「カンザキ先輩、皆さんも、お元気で」
そう言ってケビンとレンは、それぞれリディとカロラを抱え、時空のに飛び込んだ。
「あ!待ってください、皆さんが戻ってしまったら、機関と學校へは誰が証言するんですか?」
遼介は一枚の水晶のかけらをのぞみに渡した。
「のぞみ、このメモリーピースをグラーズン支部長に渡してくれ。それで事件の全貌は明らかになる」
「分かりました」と、のぞみはそれをけ取り、握りしめた。
「遼介兄ちゃん、行きましょう」
汐(うしお)が促すと、「そうだな」と遼介が頷いた。
遼介の背中を見て、のぞみは激しくを揺さぶられる。
「野様、私たち、また會えるでしょうか?」
遼介は許嫁(いいなずけ)の聲に足を止め、振り返る。汐も振り返り、二人とも笑みを見せた。
「ああ。お前の時間點から11ヶ月後、どこかで會える。その時にまたよろしくな!」
「そうですか……楽しみにしています」
のぞみはし切ない微笑みを浮かべた。いずれ來る二人の運命の出會いを期待した。
「では、さらばだ」
汐が翼をばし、時空のへと飛び去る。遼介は背を向けたままで手を挙げ、別れを告げるようにその手を振った。すぐさま赤いコートがに消え、時空のは閉じるようにみ、最後にが散った。
のぞみは時空のが消えたあとのその虛無をしばらく見ていた。奇跡的な出會いだった。全のが沸騰したように、激しいがなかなか収まらない。
「行ったか」と、クラークは気が抜けたように言った。
ラトゥーニは危険な依頼をのぞみに任せる遼介に強い不信を覚え、時空のに消えた後もまだ睨んでいる。
のぞみと遼介の付き合い様子を見って、藍は二人の関係に気になって、のぞみに問う。
藍は遼介とのぞみの関係が気になって仕方がなかった。
「のぞみさん、あの方は……?」
「可児ちゃん、彼は野(みつの)遼介さん。私の許嫁です」
「本當なんですか!?」
藍は興味津々な様子で、頬を上気させている。
「それにしては、カンザキさんは彼に慣れていないようにお見けしましたが?」
「フェラーさん。彼が許嫁であることは知っていたんですが、実際にお會いしたことがなくて。まさかこんな形で出會うとは思いませんでした」
あれだけの人員でも押さえ込めなかった相手をたったの一瞬で戦闘不能にし、さらにリディとカロラを支配下から解放した手腕。彼は恐るべき強さだった。修二は遼介の強さに惚れ込み、戦士の魂を震わせている。
「……なんて強さだ……。神崎、次に奴と會った時は、ぜひ俺様と手合わせさせてくれ」
「それは私が決めることではありません」
「ノゾミちゃん、私たちの戦いは、終わったんだヨン?」
「もう不審な人もも現れないってことは、きっとそうだべ」
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