《裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚》367話
アリアは今、村人が裏切ったっていったのか?
以心伝心の加護での言葉だから聞き間違いってことはないと思うんだが、あの村人たちが俺を裏切る?俺を崇めるとかいう意味不明な教會で毎朝祈りを捧げてるとかいうあいつらがか?まぁ、俺を英雄だのと化しすぎたせいで妄想と現実の差に勝手に落膽して許せなくなったって可能もなくはないのかもしれんが、アリアの説明を聞く限りでは本當に裏切りなのかと疑問に思う。
なくとも本人は裏切り行為と思ってはいないんじゃねぇか?
リキ教とやらについてはいったん置いておくとしても、村人ならセリナが村民區畫程度は全範囲把握できるくらいに気配察知に優れていることは知っているだろうから、どこから侵させたとしてもすぐバレるってわかるだろう。
村人は全員子どもだが、そこまで淺慮ではないはずだから、裏切るつもりで誰かを村にれるならセリナがいない日を選ぶはずだ。でもアリアが裏切り者と斷定するってことは何かしらの拠があるってことか?
もしかしてセリナにバレないように目的地まで侵させるルートがあって、そこを使われたとかか?
そこまで計畫的に行われたのなら、たしかに害意を持った裏切りの可能は高いな。
「侵者は今はどこにいるんだ?」
俺がアリアに視線を向けながら以心伝心の加護で確認を取ると、アリアはドルーゴに視線を向けたまま答えた。
「…村にる前にセリナさんが止めにったので、今は門の外で対峙しているようです。」
「門の外?その侵者ってのは門からろうとしたのか?」
「…はい。門番が確認作業も行わずに不審者をれようとしたことに気づいたセリナさんが駆けつけて止めにったら、門番がセリナさんに刃を向けたようです。明確な裏切り行為にもかかわらず、セリナさんは門番を殺さず手足を切ってきを封じ、そのまま侵者を殺そうとしたそうですが防がれたとのことです。なぜ裏切り者を殺さなかったのかはわかりません。」
アリアはずいぶん殺意高いんだな。
たしかに止めようとしたセリナに攻撃したのなら間違いなく裏切り行為ではあるが、その攻撃を向けられたセリナが対処したんなら俺らが怒るほどのことじゃねぇだろ。
……いや、むしろなんで俺は裏切り者が出たのに落ち著いてんだ?
あらためて裏切られたと確定したのに、なぜかたいして怒りも湧いてこないし。
これは俺が長したからなのか?それとも村人たちはとりあえず保護してやっただけでそこまで仲間意識がなかったからこのくらいは裏切りとは思わなかったとか……いやまぁ、裏切り者が出たって聞いてマジで?と驚きつつ勘違いじゃねぇのと思う程度には村人を信用していたっぽいから、たぶん長したんだろう…きっと……そういうことにしておこう。
「セリナが判斷したことなら何かしらの理由があるんだろ。それよりセリナの攻撃を防いだ相手の方がヤバいだろうから早めに加勢に向かうべきだと思うんだが…この場はアリアに任せていいか。」
「…セリナさんが敵を殺せなかったのは裏切り者の手足を切り落としただけでを潰したわけでもないため、背後からの魔法に警戒したせいではないでしょうか。セリナさんからの救援に焦りがなかったので、殺せなくとも負けることはない相手なのだと思います。なので、わたしも行きます。」
「さすがに客人のドルーゴ1人放置はまずいだろ。」
視線をアリアからドルーゴに戻すと、俺らがいきなり黙ったせいで困った顔を浮かべているドルーゴと目が合った。
「…大丈夫です。ニアさんを呼んだので、そろそろ到著するはずです。」
アリアがいい終える前にドアがノックされ、室許可を出すとニアがってきた。
以心伝心の加護に集中していたせいで気配察知が疎かになっていたから気づかなかったが、走ってくる音はしなかったからアリアは最初から門に向かうつもりでセリナからの連絡の直後にニアを呼んでいたんだろう。
「申し訳ない。門のところで問題が起きたようだからし席を外す。なので、先ほどの提案についてもひとまず保留にしてもらいたい。あと、門での問題が解決するまではここにいてもらうことになってしまうから、何かあったらこいつにいってほしい。名前はニア。奴隷ではあるが俺の代理だと思ってもらえると助かる。」
俺がドルーゴに謝罪を述べると、ニアが俺の隣に立って頭を下げた。
「ナルセニアと申します。この部屋にいる間の護衛を擔當させていただきます。よろしくお願いいたします。」
「ご、護衛?…いえ、失禮しました。ご丁寧にありがとうございます。私はシュンカトー商會の會長を務めているドルーゴです。よろしくお願いします。」
ドルーゴは立ち上がって軽く頭を下げてから、ニアに微笑みを向けた。
べつにニアに護衛を頼むつもりはなかったんだが、まぁ問題はなさそうだと判斷して立ち上がり、ドルーゴに軽く禮をしてからニアに顔を向けた。
アイテムボックスから金貨を10枚取り出し、それをニアの手を取って無理やり握らせながら顔を近づけた。
「突然呼び出して悪いな。無言で部屋にいるだけってのが気まずいじになったら、これで買える範囲で商談でもしていてくれ。」
小聲で話すために顔を近づけただけなのにニアはし頬を染めた。
ニアは最近は大人しくなったが、し前まではかなり積極的に好意を向けてきていたくせにこういうので照れるのはなんなんだろうな。
「リキ様のお役に立てるのは嬉しいので、いつでも呼んでください。こちらの金貨は有益に使用できそうであれば使わせていただきます。ありがとうございます。」
照れがし殘った微笑みを向けてきたニアにドルーゴの視線が釘付けとなっているのが気配でわかったが、その気持ちはわからんでもない。俺もいつもと違うニアの表にし驚いた。
いや、そんなこと考えてる場合じゃなかったな。
ドルーゴの相手はニアに任せ、俺はアリアを連れて応接室から出た。
裝備を整えながら門に近づくと、確かに外でセリナと3人組が向かい合っていた。
正確には1人のを護るように全鎧を著た2人組が戦闘勢を取っているってじか。
気配察知で周囲を確認したが、この3人組以外は倒れてる門番たちと木々に紛れたトレントだけだ。
倒れている門番たちは手足がないのにあまりが出ていないっぽいんだが…そういやあの雙剣には熱したり冷やしたりする機能がそれぞれにあるんだったか。その魔法だかで焼いたか凍らせたかしたんだろう。
気配察知にもちゃんと生きとして気配があるし、門番たちはまだしばらくは大丈夫そうだな。
とりあえず仲間の確認を済ませ、近づきながら目を凝らして唯一顔出ししてるを見た。
よく見ても記憶になさそうだから、たぶん會ったことないやつだろうと思ったところで目が合った。
「よかった!雰囲気からして君があのリキ様だよね!?誰でもいいからこの子を止めてくれる男の子が來てくれないかって思っていたらまさか君が來てくれるなんて驚いたけど、ちょうどよかったよ!早くこの子を止めて!いきなり仲間の手足を躊躇なく切斷してそのまま初対面の相手を殺しにくるとか怖いんだけど!」
ずいぶん馴れ馴れしくてやかましいんだが、俺が覚えてないだけで知り合いか?いや、たぶん見たことねぇし、こいつも俺を初めて見たような反応だから初対面のはずだ。なのになんで俺がお前を助ける側だと思ってるんだ?でも、なぜか助けてやるべきかと一瞬思っちまったから何もいえねぇ。
とりあえず門から外に出ると、セリナが橫にズレて両手にクナイを構えたまま俺らの橫に並んだ。
ん?なんでクナイ?
「ごめんにゃさい。2人とも雙剣をけられる武を持っていて、私の攻撃に反応出來る実力があるから、私じゃ時間稼ぎしか出來にゃかった。」
セリナの攻撃に反応出來るのか…正面から堂々と侵しようとしてんのはそれだけ腕に自信があるってことなのかもな。
「なんでクナイなんだ?」
「え?えっと、私の実力だと相手の武ごと切ることも武を避けて鎧の隙間を切ることも出來にゃかったから…。」
よくわからない答えが返ってきた。
いくらセリナの雙剣の斬れ味が凄まじいといっても、なんでも切れるわけではないだろ。
なんで武ごと切れないとクナイなんだと思っていたのが顔に出ていたのか、俺の顔を見たセリナが何かを察したように言葉を続けた。
「この雙剣は補修する素材がにゃいから刃が欠けるのは困るからだよ。斬れ味を保つためには研ぐしか出來にゃくて、既に最初より一回りくらい小さくにゃってるのに刃が欠けたりにゃんてしたらその分研いで調節するしか出來にゃいから、あまり打ち合いたくはにゃいんだよね。クナイにゃら複數あるし、シュリケンを素材とすれば補修も出來るからさ。」
……そういうことも考えて戦ってんのか。そういや俺のガントレットは黒龍の素材がないと強度を保ったままの補修が出來ないっていわれたのに全く気にせず使ってたな。壊れたらとかなんも考えてなかったわ。
「……あぁ、いい判斷だ。」
俺がとくに構えを取らずにセリナと話していても、3人組は隙を窺うような様子もなく、話が終わるのをただ待っていた。
このじは敵対する気はなくて、本當にセリナを止めてほしかっただけなのか?だとしたら門番と組んでまで村に侵しようとした意味がわからん。
「一応聞くけど、何のようだ?」
「え?あれ?その子まだ武持ってるよ?」
なぜかが驚いたように俺とセリナを互に見ているが、こいつの頭ん中はお花畑なのか?
村に侵しようとしたやつを目の前にして武を下げるわけがねぇだろ。俺が構えを取ってねぇのはあえて隙を見せてるだけなのに理解してないだけでなく都合よく勘違いしてるっぽいな。戦闘とは無縁のお嬢様か?
セリナと打ち合える護衛を連れてることを考えたらその可能が高い気もするが、見た目は普通の町娘ってじなんだよな。
この世界の住人らしくそれなりに整った顔はしているが、特別綺麗というわけでもないし、服裝もロングスカートのワンピースの上からコルセットという平民が普通に著ているような町娘ファッションだ。髪だって黒髪ショートと貴族令嬢らしくない…ってのは偏見か。
そんなことを考えながらを見ていたら、が俺の右斜め後ろあたりに視線を向けて目を見開いた。
の視線の方向からしてたぶんアリアに目を向けたんだろうと意識だけは3人組に向けながら俺も振り返ってアリアの方を向き、咄嗟に手をばした。
「フレアバウっ!?」
アリアが俺のやや後ろにいることはわかっていたが、普通に俺らと同じく3人組と対峙していると思っていたから、振り向いた先で手足を失った門番に対してゴミを見るような目を向けながら杖を構えて魔法名を口にしようとしたアリアを見て、慌ててアリアの服の背中部分を摑んで引き上げた。
アリアはよほど驚いたのか、持ち上げられたまま直して無抵抗だ。
というか咄嗟に摑んじまったが、アリアが著てるのが魔法繊維だかの裝備として著用しているワンピースで良かった。もし普通の服だったら破ける勢いで摑んで引っ張っちまったからな。
今も子どもとはいえ人1人を服の耐久力だけで持ち上げてるし、服もそうだがアリアの強度が一般的な子ども並みだったら肩が外れて肋骨や肺がぐしゃぐしゃになってたかもしれねぇ勢いだったから、気をつけねぇとな。
そのままゆっくり下ろし、自分の足で立たせてみたが問題なさそうだ。
完全に直してるからどこか痛めたのかと思ったが、回復魔法を使わないってことは問題ないのだろう。
「大丈夫か?」
「…………はい。し驚きましたが、大丈夫です。」
しばらく直したままだったアリアがゆっくりとこちらを向いてから答えた。
「悪いな。俺も驚いたからお互い様だ。……一応聞くが、何しようとしたんだ?」
俺の質問に対してアリアは不思議そうに首を傾げた。
「…裏切り者の処分です。」
…………。
「…セリナさんは元部下の処分に戸いがあるようでしたので、代わりに処分しようと思いましたが、確かに責任者のセリナさんに確認を取ってからするべきでした。」
俺が返事に詰まって黙っていたら、勝手に解釈したアリアがセリナに目を向けた。
……あぁ、これは俺のせいなんだろうな。
むしろなんで俺は裏切り者と確定した門番たちを殺さないどころか、アリアを止めたりなんてしたんだ?
今でも裏切り者は死ねばいいと思っているはずなのに門番を殺そうって気にはなっていないし、とくに怒りもない。意味わからん。
まぁいい。とりあえずはアリアだなと宥めるために頭を軽くでた。
「ありがとな。裏切り者を許さねぇって気持ちはよくわかるが、ちょっと落ち著け。……セリナが殺さないって判斷したってことはなんか理由があるからかもしれねぇだろ。」
「…そうなのですか?」
俺が思いついたことで誤魔化そうとしたら、アリアがあらためてセリナの方を向いた。それに合わせて俺も目を向けたら、セリナは困った顔をしていた。
「確証があるわけじゃにゃいんだけど、たぶん本人の意思ではにゃいと思うんだよね。今だって意識はあるのに痛がりすらしにゃいでじっとしてるし、おかしいでしょ?だから殺すのは待ってもらえると嬉しいかにゃ。」
とりあえずアリアを落ち著かせるためにてきとうなことをいっただけなんだが、セリナが殺さなかったのは理由があってのことだったんだな。セリナの格的に仲間を殺すのに躊躇しただけかと思ってた。
まぁセリナが疑うってことは何かしらの狀態異常にかかっているんだろうと確認のために無表で倒れている門番の1人に鑑定を使ったら、勢いよく頭が弾かれた。
クソ痛え…。
油斷しているときに眉間を毆られたかのように頭と首が痛い。
そういや外部のやつと関わる可能のあるやつは鑑定対策のアクセサリーをしてるんだったな。
あらためて倒れている門番たちを確認し、ネックレスをしていないやつに鑑定を使った。
予想通りこいつは鑑定対策のアクセサリーごと腕を切り離されていたようで、普通に鑑定できた。
セリナの読み通り、どうやら魅了されているようだな。
このタイミングでの魅了なんて、犯人はこの3人組で間違いないだろう。殺せば魅了は解けるんだっけか?
どうせ殺さなきゃ魅了を解いてもまた魅了されるだけかと3人組に向き直ると、がキョトンとした顔で首を傾げた。
「こいつらを魅了したのはお前か?」
アリアたちに知らせる意味も込めて念のために確認を取ると、はあからさまに目を泳がせた。
「わ、わざとじゃないよ?私が魅力的過ぎて魅了されちゃったんじゃないかな〜……罪なでごめんなさい。」
「あからさまな噓をつくんじゃねぇよ。何が罪なでごめんなさいだ。そんなちんちくりんな見た目に魅了されるやつなんていねぇだろ。」
「はぁ!?誰がちんちくりんよ!噓だと思うならスキルで確認すればいいじゃない!私は意図的に魅了はしていません。その子たちが勝手に魅了されたんですー。」
そこまでいうならと識別を使ったんだが、マジかよ。こいつがいっているのは本當らしい。俺にはそこまでの魅力をじはしないが、門番は全員獣人だし、もしかしたら獣人ウケする顔なのかもしれん。
まぁ聲はいいかもな。敵のはずなのに話していて落ち著くというかなんというか…悪くはない。
「本當みたいだな。疑ったのは悪かったが、こいつらが魅了されたのとお前がうちの村に侵しようとしたのは別の話だ。だからあらためて確認するが、何のようだ?」
無意識に威圧がれたのか、護衛の2人組がを護るような位置にいた。
「あれ?おかしいな。もっと私を見て!私はあの魔が異常に好意を向けているリキ君に會いに來たんだよ!嬉しいでしょ?」
が大きく手を広げて意味不明なことをいってきた。さっきから會話が噛み合わないし、こいつは何がしたいんだ?
「嬉しくねぇよ。俺に用があるなら普通に來ればいいのになんで侵しようとした?」
「あれー…なんで?…いや、そもそも勝手に侵しようとなんてしてないよ。門番の子にリキ君に會いたいかられてってお願いしたら、あの子がいきなり現れてその子たちの手足を切斷して私に襲いかかってきたんだよ?私可哀想じゃない?」
「あぁ、確かに可哀想かもな。」
「でしょ?じゃあまずはその子の武を取り上げてくれないかな?」
にいわれてセリナに目を向けると、セリナが驚いた顔で俺を見てきた。
何に驚いてんだ?もう武を構える必要なんてないんだから……。
……ん?
「いや、まだお前が誰かもわからねぇのに武を外すわけがねぇだろ。」
「あれー?おかしいなー。ちゃんと私が見えてる?私の聲が聞こえてる?私を見て何か思うことない?」
「たいして強そうでもないのに危機がねぇな?」
「そういうことじゃないよ!私のお願いなのに聞いてくれないの?」
「なんで知らねぇやつの頼みを聞くと思ってんだ?」
本當に意味がわからん。というか會話が立しねぇんだが。
どうしようかと思ったら、ちょうどローウィンスが俺の気配察知の範囲にり、馬車を引いてるっぽいエイシアと一緒にこっちに向かってきているのが確認できた。それなら話し合いはローウィンスに任せてもいいかもなと思ったところで、が目を見開いた。
「やっぱりリキ君は運命の相手だった!?あの魔が惚れるような相手だからもしかしたらって思ったけど、これだけ私のことを見ながら話してもお願いを斷ってくるなんて、間違いないよね?」
「間違いですよ。あなたの運命の相手は今生では現れません。」
「げっ!?なんで魔がいんの!?」
さらにが訳の分からないことをいい始め、アリアから若干の威圧が背中にぶつけられたタイミングで、ローウィンスが會話に割り込んだ。
今の反応からしてこいつがいっていた魔はローウィンスのことか。というか、知り合いか?
「ここは私の領地なのですから、領地の唯一の村に私がいることは當たり前かと思うのですが、違いますか?」
「ち、違わないけど、今日は用があって出かけてるんじゃ…。」
「おかしいですね。私が用事で外出しているという噓の報はお兄様にしか伝えていないのですが、なぜあなたがそんな勘違いをしているのでしょうか?」
はローウィンスの言葉を聞いて驚き、あからさまに目を泳がせた。表が正直すぎるだろ。それともそう思わせるための演技か?
「リキ様には関わらないでほしいとお願いしましたのにあなたを差し向けてくるなんて、お兄様は何を考えているのでしょう。いえ、お兄様は心配ですからどうしてもリキ様のことを確認しておきたかったのだとは思いますが、その結果どうなるかまで考えが及ばないなんて愚かしいにもほどがあります。…リキ様、不快にさせてしまい、申し訳ございません。」
ローウィンスが俺の方に振り返り、深く頭を下げてきた。
話の流れからしてローウィンスの兄が原因なのはわかるが、妹のローウィンスが謝るようなことではないだろう。だが、先に真面目に謝罪をされてしまったからか、ローウィンスの兄に文句をいう気が起きなかった。ローウィンスはこれが狙いで必要のない謝罪を最初にしたのかもな。
ローウィンスの兄って3人いるんだったか?第三王子は既に會っているから、確認がしたいって理由だとしたら第一王子か第二王子なんだろうけど、ただの冒険者の俺の何を確認したいんだ?
「べつにローウィンスのせいじゃねぇみたいだから気にしなくていい。ただ、俺の確認ってのはどういう意味だ?」
「お恥ずかしながら第二王子であるお兄様は心配なため、味方となってくださる方々が自の持つ武力で対処できる相手か、どういった場合に敵対する可能があるかなどを確認しなければ気がすまないのです。なのでお兄様には前もってリキ様に敵う戦力はアラフミナにはなく、調べる行為が敵対と取られる可能があるので関わらないようにと説明はしていたのですが、愚かなお兄様の小さな頭では覚えることが出來なかったようです。愚兄の愚行、申し訳ございません。」
ローウィンスが本當に申し訳なさそうな顔であらためて頭を下げてきた。
ローウィンスは第二王子とやらの確認を愚行だといっているが、普通に考えたら首都の近くに居を構える冒険者の実力やら思想やらを確認しようとするのは王族やら領主なら普通なんじゃねぇのか?いや、いわれて気づいた俺が普通とかいうのもおかしな話ではあるが。
でも、俺が今まで出會った冒険者には頭がおかしいやつらもいたから、冒険者ってあんまいいイメージないし、危険人かの確認は最低限必要なのは確かだろう。
「ちょっと待ってよ!なんか第二王子がリキ君を調べるために私を送ったみたいな話になってるけど、私は私の意志で來てるだけだよ?第二王子とはしばらく會ってないし。」
このまま黙っていれば第二王子とやらの責任になり、ローウィンスの謝罪で全てが片付きそうな流れだったのに、なぜかが口を挾んできた。
頭を上げたローウィンスが呆れたような顔をへと向けた。
「あなたがリキ様にお會いしたいと思われたのは確かなのでしょう。ですが、お兄様の意思がなければあなたは地下牢から出られていないはずです。」
ん?地下牢?こいつはこんな普通な見た目なのに犯罪者なのか?というか第二王子とやらは犯罪者を俺のところに寄越しやがったのか?
「そんなことないよ?たまに出てる……いや、べつに悪さしてるとかじゃなくて、ずっと地下牢は辛いから、たまの息抜きに出てるだけで、城壁からは出てないし、人には話しかけてもいないしれてもいないからね?ちゃんと約束は守ってるから。」
「あなたがたまに外に出ていることは存じていますよ。そもそもあなたは勘違いしているようですが、地下牢から出る隙をお兄様がわざと作っているからあなたが外出できるのです。心當たりはありませんか?あなたがどうしても外に出たいと思い始めたあたりで都合よく見張りが男だけになり、あなたの擔當責任者となっているお兄様の近衛騎士のバニラが休みだということを見張りたちがたまたま話しているのを耳にするなんてことがありませんでしたか?」
「……え?……噓でしょ…。」
思い當たることがあったのか、が嫌そうに顔を歪めたのに対し、ローウィンスは笑みを深めた。
「そして、本日は見張りが普段とは違いなぜか全員お兄様の近衛騎士となり、その者たちの會話に私が晝前からミルラーダ辺境伯のもとに向かうという容があったのではないですか?まるで町から抜け出しても問題ない戦力と條件が揃っていたなんてことはありませんでしたか?」
「……魔の兄は悪魔かよ…。」
「先ほどから私のことを魔といっていますが、魔はあなたでしょう?18年前に噂になった『魅了の魔』がご自のことだと忘れてしまったのですか?」
首を傾げるローウィンスの微笑みに対する苦い表のというのは変わらないのに、なぜか関係ないセリナがビクッと反応を見せ、なんともいえない顔をした。
というか18年前って、このは何歳なんだ?ぱっと見では俺とあまり変わらないくらいだと思っていたんだが、18年前に噂になるくらいならこの見た目で30歳は超えてるってことか?
「ちょ、ちょっと!私が國に盡くしている間はその話はなかったことにするって約束でしょ!?」
「そんな約束はしていませんよ。あなたと結んだ契約はこちらが提示する條件をのむ限りは死刑を延期し、食住を提供するというものですよ。まぁ契約した當時は8歳だったのですから、18年も経って気持ちが変わることもあるというのは理解できます。なので納得いかないというのであれば契約を破棄いたしましょうか?」
「それって死ねってことじゃない!……もうかなりいい歳なのに巫でいるために今までずっと1人でめてきて、國に盡くしてもきたっていうのにあんまりよ…。」
は悲しげな表で俯きながらチラチラとローウィンスを窺っているようだが、ローウィンスは微笑みのままを見ていた。
「というか、こいつはけっきょくなんなんだ?有能だからと死刑を免除されてる犯罪者なのか?」
「違うわよ!」
「リキ様のいう通りなのですが、彼の犯罪は能力の暴走に近いものがあり、當時はまだい子どもだったことも考慮して、國王が生かす道も用意したとのことです。そして、紹介が遅れてしまい申し訳ありません。彼はアラフミナ王國の切り札の1つである『の巫』です。」
「……もしかして第二王子とやらは村ごと魅了するつもりだったのか?」
「いえ、今の彼は忌魔法を使用しておりません。門番の方々が魅了されているのは彼が常時無意識に発してしまっているスキルのようなものなので、距離を置けば自然と解ける魅了でしかありません。それに彼が忌魔法を使うには膨大なMPを必要とするため、急に使用することも出來ないので村ごと魅了するのは不可能でしょう。」
「……は?無意識で魅了のスキルを垂れ流してんのか?」
「はい。正確にはスキルでもないため、抑えようがないそうです。そのせいで6歳から8歳の間にただの村娘が領主を陥落し、伯爵領を手中に収めたという伝説も殘っています。本人は地位やお金よりもに興味があったようですけどね。6歳でに選ばれるほどなのですから納得ですが。そのおかげで無駄に消費された金銭はなく、死者が出なかったため、生かす道を用意するという話が出たのでしょう。普通は領主一族とその側近を魅了した者は即死刑でしょうから。」
「あぁ、忌魔法の副作用か。」
たしか憤怒ならイライラしやすくなったり、嫉妬なら嫉妬しやすくなったりとかあったな。
「いえ、の副作用はの増幅です。常時無意識に発している魅了のスキルのような何かは生まれつきのようです。ただ、彼の両親は彼と接し過ぎてしまったせいか既に亡くなっているため、いつから発しているかは確認は取れていませんが。」
意味がわからずローウィンスを見ていたら、ローウィンスが話を続けた。
「今判明している彼の魅了のスキルのようなものの発條件は彼を見る、聲を聞く、匂いを嗅ぐ、れるです。このどれか1つでも異であり、神攻撃に抵抗するスキルがなければほぼ魅了されてしまいます。2つなら同でも神攻撃に抵抗するスキルがなければ魅了されてしまいますし、異ならばそれなりの神攻撃耐がなければ魅了されてしまいます。3つとなれば同でも強い神攻撃耐がなければ魅了されてしまいます。異であれば神攻撃無効でもなければ耐えられないでしょう。4つとなれば異でも同でも関係なく神攻撃無効でもなければ廃人となるだろうといわれています。接の仕方によっては命すら奪うのではないかとのことです。」
マジかよ…。
まさに最終兵彼だな。
「そんなものを野放しにしてんなよ。」
「申し訳ありません。すぐに城に連れて帰りたいと思うのですが、よろしいでしょうか。」
「あぁ、悪いが早く連れて行ってくれ。じゃないと門番たちの治療も出來ないからな。」
「えー。リキ君とお話ししたくてここまできたのにこのまま帰っ!?」
急に驚いたの視線を追うといつも通りに微笑んでいるローウィンスがいた。
「彼にはいい聞かせておきますので、今回のことはお許しいただけないでしょうか。」
ローウィンスが申し訳なさげな顔を俺に向けた後、の方に視線を向けると、はビクッとしてから俺を見た。
「えっと、迷かけてごめんね?」
なんで疑問系の謝罪なんだよ。絶対悪いと思ってないだろ。でもまぁ、ローウィンスがいい聞かせるっていってるし、今回は死人は出なかったからいいか。
「あぁ、今回は許すからそいつを早く連れ帰ってくれ。」
「ありがとうございます。それでは失禮します。」
俺の返答を聞くとすぐにローウィンスがに近づいていき、困するに小聲で話しかけた後にエイシアが者席に座る馬車にを押し込んだ。
そして俺に向かって一禮してすぐにローウィンスも乗り込み、馬車はが連れてきた護衛2人に護られながらラフィリアへと向かって進み始めた。
けっきょく意味不明なまま騒がせるだけ騒がせて帰っていったな。
あれが『の巫』か。
もっとっぽいお姉さんだと想像していたんだが、能力だけがやばい年齢詐欺のちんちくりんだったな。
最後にローウィンスがに対していった言葉は小聲だったから聞こえはしなかったが、観察眼のせいかローウィンスののきがなんとなくわかっちまった。
おそらく「あなたの能力の効果があるうちにこの場を離れないと殺されてしまいますよ。」といっていたはずだ。
それを見て俺は気づけたが、どうやら俺も魅了まではいかずともあのの能力に侵されていたようだ。
あのを殺す気どころか怒りすら湧いていないうちに許しを得ようとしたローウィンスにはしてやられたとは思うが、まぁいい。
今回のおかげで認識がおかしいときの違和はなんとなくわかったから、いい勉強にはなったしな。
ソフィアの『魅了の歌』のときとは違い、魅了は防げているのに聴き心地がいいだけでなく思考すら影響されるような狀態というのがあることを知れたうえに命の危険がないところで経験できたのだから悪くはないだろう。まぁ同じ狀況になったときに気づけるかはなってみないとわからんがな。
「アリア、悪いが門番たちの手足をくっつけてやってもらっていいか?」
「…裏切り者を許すのですか?」
問題も片付いたからとアリアに治療を頼んだら、不思議そうな顔をして俺を見上げてきた。
「今回は魅了をばら撒く化けだったからな。仕方ないだろ。」
「…神攻撃に耐える能力が足りなかった門番が悪いと思うのですが。獣人だから匂いを強く嗅いでしまったなどがあるのかもしれませんが、セリナさんは平気なのですから鍛え方の問題かと思います。」
「今回は相手が化けだったから、むしろ耐えられたセリナが凄いんだと思うぞ。実際俺も魅了されかけているからな。」
アリアが驚いた表で俺を見て、返す言葉に迷っていた。
かなり狡いとは思うが、いいくるめさせてもらおう。
「だから、そいつらが弱だから回復するべきでないっていうなら、俺もそいつらと同じく手足を切り落とさなきゃグループリーダーとして示しがつかなくなるが、それは困る。だから頼めないか?」
これでダメなら神薬を使うかと思っていたら、アリアが頭を下げた。
「…ごめんなさい。…セリナさん、どの手足が誰のかを教えてもらってもいいでしょうか。」
「もちろん!ありがとね!」
アリアが納得していたかは微妙なところだが、とりあえずは大丈夫そうだな。
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目の前には白と黒のしましま。空の方に頭をあげると赤い背景に“立ち止まっている”人が描かれた機械があります。 あたしは今お兄ちゃんと信號待ちです。 「ねぇ、あーにぃ」 ふと気になることがあってお兄ちゃんに尋ねます。お兄ちゃんは少し面倒臭そうに眠たそうな顔を此方に向け 「ん? どうした妹よ」 と、あたしに話しかけます。 「どうして車がきてないのに、赤信號だと止まらないといけないの?」 先ほどから車が通らないしましまを見ながらあたしは頭を捻ります。 「世間體の為だな」 お兄ちゃんは迷わずそう答えました。 「じゃああーにぃ、誰もみていなかったらわたっていいの?」 あたしはもう一度お兄ちゃんに問いかけます。お兄ちゃんは右手を顎の下にもって行って考えます。 「何故赤信號で止まらないといけないのか、ただ誰かのつくったルールに縛られているだけじゃないか、しっかり考えた上で渡っていいと思えばわたればいい」 ……お兄ちゃんは偶に難しい事を言います。そうしている間に信號が青に変わりました。歩き出そうとするお兄ちゃんを引き止めて尋ねます。 「青信號で止まったりはしないの?」 「しないな」 お兄ちゃんは直ぐに答えてくれました。 「どうして?」 「偉い人が青信號の時は渡っていいって言ってたからな」 「そっかー」 いつの間にか信號は赤に戻っていました。 こんな感じのショートストーリー集。 冬童話2013に出していたものをそのまま流用してます。 2016年3月14日 完結 自身Facebookにも投稿します。が、恐らく向こうは二年遅れとかになります。 ストリエさんでも投稿してみます。
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あらゆる生産職を極めた勇者が日本に帰ってきて人生を謳歌するお話です。 チート使ってイージーモード! この小説はフィクションです。個人名団體名は実在する人物ではありません。
8 197香川外科の愉快な仲間たち
主人公一人稱(攻;田中祐樹、受;香川聡の二人ですが……)メインブログでは書ききれないその他の人がどう思っているかを書いていきたいと思います。 ブログでは2000字以上をノルマにしていて、しかも今はリアバタ過ぎて(泣)こちらで1000字程度なら書けるかなと。 宜しければ読んで下さい。
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