《【書籍化】初の人との晴れの日に令嬢は裏切りを知る〜拗らせ公爵はを乞う〜》開かない扉

日が傾きかけた頃、長い話し合いが終わり、レオンは陛下と話があると言うことで先に私だけが公爵邸に帰った。

夕食はどうするかと聞かれたが、疲れたからと言って自室に戻る。

ドサリと自分のベッドに橫たわり、顔を伏せた。

「疲れた……」

當然心地良い疲れではないの重さをじ、目を閉じるも睡魔は襲ってきてはくれない。

いっそのこと、眠って、このの奧にある、詰まるような何かから離れたいのに、頭は冴え、瞼を閉じても、『それ』から逃げることが出來ない。

「この半年はなんだったのかしら……」

ころんと上向きになり、誰もいない部屋で、誰が答える訳でもないけれど、言葉にして、吐き出さずにはいられなかった。

全て無駄だった。

――あぁ、どうしてこうなるの。

今回はこそは…きちんと。

完璧に。

何事もなく。

貴方の側に笑顔で立つことを夢見ていたのに。

「……っ」

鼻の奧がツンとしたかと思うと、視界が滲み、目から耳に向かって溫かいが流れていく。

自分では止めることの出來ないソレに、もうも無かった。

とめどなく流れる涙を止めようと袖で目を隠すも、ただ生地が濡れて気持ち悪くなる一方だ。

その時廊下から足音がして隣の部屋の前で足音が止まり、ドアを開ける音がした。

レオンが部屋に戻ってきたようだった。

彼が部屋の中にると、私とレオンの部屋を繋げるドアの前で足音が止まった。

「ティツィ……?起きてるだろう? ちょっと話したいんだけど……」

未だかつて開いたことのないドアの向こうから、レオンの優しい聲が聞こえるけれど、何を話すのも怖くて返事が出來なかった。

レオン側の鍵は常に空いているが、こちら側は結婚式の夜に開けると約束していた。

本來なら、今夜開く予定だった鍵。

「……っ」

話し合いの最中も、レオンと視線を合わすことも、顔をまともに見ることさえ出來なかった。

ただ、淡々と処理にあたっているフリをするので一杯だった。

あの時、本當はレオンにフィローラ皇を預けたくなんてか無かった。

けれど、私が泣きそうな顔を見られることがないように、レオンが間違っても私を追って來ることがないように。

けない姿を曬したくなくて……。

「君が……聲を殺して泣いているのを黙っているなんて出來ない。……私はそんなにも頼りないだろうか」

「ち……違っ!」

その、つぶやくような言葉にベッドから跳ね起きて、思わずドアに駆け寄り、鍵に手をかける。

けれど、その鍵を捻り、ドアノブに手をかけるも、そこから先は、震えてかなかった。

「ごめんなさい、レオン」

ドア越しにそう言う事が一杯だ。

「何も謝ることなんてない」

「でも……、もっと他にやりようがあったかもしれない。貴方の用意してくれたものも、全て無駄にしてしまったわ。……全てよ」

「……ティツィ。結婚式は立太式の前日だ」

「え?」

あまりの突拍子のない言葉に思った以上の間抜けな聲で返事をする。

「で、でも……」

「國王陛下がそう仰せだ。來賓客も來ていて、これ以上先延ばしにはできない。ドレスも彼方で用意するそうだ」

「……そうですか」

分かっている。

貴族の結婚など所詮ビジネスだ。

そこに二人の想いがあろうと、レグルス家と、サルヴィリオ家の繋がりを外に示す必要がある。

い、アッシュ殿下が付ける隙を與えられないように、國の守りは盤石であると示さなければいけない。

「分かりました」

「でも、その後、二人だけで……式をもう一度挙げよう」

「レオン、そんな必要はありません」

「ダメだ!」

ダンッ! とレオンが壁を叩く音がし、目を見開く。

「レオ……」

「ティツィ、私だって楽しみにしていたんだ。君のドレス姿も、を誓うことも、前回のように焦って事を進めるのではなく、全てを完璧に、君に最高の思い出として心に殘してしかった。こんな、付け焼き刃のような式ではなく。だけど、君を守れなくて……ごめんと言う資格すらない」

だんだんと小さくなるレオンの聲に、の奧が震える。

「どうして貴方が謝るんですか? 飛び出したのも私、きにくいからとドレスを裂いたのも私」

「結局君に押し付けただけじゃないか」

はっと渇いた笑いをこぼしたドア越しのレオンに目を見開く。

「押し付けたって……」

「本來ならフィローラ殿下の護衛ももっとちゃんとしておけば君にそんな負擔を強いることも無かったはずだ。肝心な時に頼りにならない男だと笑ってくれていい。でも、君を手放すことなど出來ない。君の気持ちがこんなにも傷ついても尚、何も出來ない自分がけない」

ぱたりと何かが落ちる音がして、まさかと思いドアノブに添えたままの手を捻った。

『カチャリ』と開いたドアの向こうには、窓から差し込む夕日に橫顔を照らされたレオンの顔があった。

驚きに目を見開いたレオンの頬に一筋、涙の跡。

「な、何で貴方が泣いてるんですか」

「ティツィこそ、何でこのタイミングで開けるんだ」

グイッと顔を拭うレオンに、涙の落ちる音が聞こえたなんて言えない。

レオンの照れた顔が可くて、思わずクスリと笑ってしまう。

「笑ったな」

「ふふ、可くて」

「君が笑うなら、泣いた価値があったと思うことにするよ」

拗ねたような顔も可くて、また笑みが溢れる。

「泣き顔に笑ったんじゃないですけどね。照れたレオンも、拗ねたレオンも可いです」

そう彼に言うと、レオンは目を細めて更に拗ねる。

「可いと言われても嬉しくない」

「ごめんなさい。でも可いです」

「ティツィ。可いと言うがどういうものか教えようか?」

「え?」

不意に雰囲気が変わったことに気づくも、レオンの右手は顎に添えられ、左手は背中に添えられている。

「ほら、こうすると、君の耳が赤くなって可い」

赤くなったであろう耳をレオンが優しくでる。

「は⁉︎」

そう言いながらレオンの顔が近付いてきて思わず目を閉じると、レオンのが自分のそれに添えられる。

「いつも張するも、キスの後私を見上げる目も、全部が可い」

を離したレオンを下から睨めつけると、クスリと笑われる。

『キスの後の私を見上げる目』が何なのか分からなかったけれど、この目ではないだろうと対抗心からキッと彼を見る。

「その、悔しがる目も可いい。可いが増えたよ」

そう笑ったレオンにがっくりと項垂れた。

「でも、笑ったきみが一番可い」

そう言って、優しく抱きしめられる。

鼻腔をくすぐるレオンの香りがいっぱいに広がり、えも言われぬ安心に包まれた。

「ティツィ。三日だ」

「え?」

低いレオンの聲が夢見心地から引き戻された。

「三日で全てを解決してみせる。そして何の憂いもなく、式を執り行おう」

そう言われて見上げた先には、騎士団長として凜としているレオンの表があった。

「レオン、私に出來る事は無いですか?」

黙って見ているなんて出來ない。

「じゃあ、その間、『レグルス騎士団』を君に任せていいだろうか」

「え?」

思いがけない言葉に目を見開く。

「私は王國騎士団での調査の指揮を執らなければいけない。君にはレグルス騎士団を使って、王國騎士団の手の回らないところまで調査してほしい。正直なところ、今回の件で來國しているお偉方の警備に人員を割かないといけないから、調査の手が広げられないと言うのが本音だ」

「で、でも……」

「本來、レグルス騎士団の指揮権は當然家長に権限が、その家長が不在の時の権限は配偶者にある。だから君に頼みたい」

「私はまだ婚約者ので……」

「誰が文句を言うと言うんだ? フライングの公爵夫人の初仕事だと思えばいい」

レオンの言葉に目を見開く。

そんな重要な仕事を任せてもらって良いのだろうかと思うも、彼の出來ない部分を補うと思えばどこからかやる気が湧いてくる。

「……。分かりました」

「けど、萬が一でも戦いには參加しないでしい」

「レオ……」

「君が、無事でよかった……。今日、君のあの姿を見た瞬間心臓が本當に止まるかと思った。を流して、切り裂かれたドレスに飛び散ったも……、傷だらけのも、の気の引いた顔も。どれをとっても私の心臓を止めるのは簡単だろう。君がいなくなったら……生きていけない」

そう言って、レオンが私の肩口に顔を埋めながら抱きしめた。

痛い程に抱きしめられたその腕に、どれらだけ彼に心配かけたことか。

「心配かけてごめんなさい」

私に回された震える腕にそっとれる。

「だから、君を前線には出さない。そこは譲れないとわかってしい……。君が約束してくれないと私は王國騎士団の調査に集中出來ないな。今にも君が犯人を見つけて突するんじゃ無いかと、気が気で無いだろうね」

「……分かりました。約束します」

拗ねながら言うと、レオンが優しく微笑んだ。

その時、レオンの部屋と私の部屋のドアが同時にノックされた。

「レオン様、お客様です」

「お嬢様、お客様です」

その夜、思わぬお客様『達』が屋敷を訪れた。

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