《【書籍化】初の人との晴れの日に令嬢は裏切りを知る〜拗らせ公爵はを乞う〜》得たものは
無事に挙式は終わり、レオンと私は王宮の庭での披宴を行った。
「やぁ、素敵な式だったね」
「おめでとうございます」
「カミラ皇子とべレオ団長も披宴に參加していただきありがとうございます」
聲をかけてくれた二人に挨拶をするも、レオンは無言で舌打ちをする。
「ティツィアーノ、本當にこんな無想な男と結婚していいのかい? 僕はけれ態勢が取れているから、いつでもリトリアーノにおいでね」
そう言って私の手の甲にキスをしたカミラ皇子にレオンが「オイ」と聲をかける。
「ところで、昨日はありがとう。おかげでマジックボックスも全て回収できて、僕はを張って帰れるよ」
そう言って、にこやかな笑顔で言った彼にレオンが真面目な顔で聞いた。
「昨日の間者からは何か有益な報が得られたのか?」
「全然。持ちも『あいつ』につながるものは無かったしね。あいつのした事も憶測の域を出ない。まぁ、今回は言われた仕事を完了しただけでもよしとするよ」
『あいつ』とは、第二皇子の事だろう。
結局のところ、あれだけの高位の魔を放ったにも関わらず、人的被害は無かった。
カミラ皇子は、第二皇子が戦爭を起こし、功績を上げる為に今回のマジックボックスの売買を行ったんだろうという事だった。
使いにならない高額なマジックボックスを、裕福な王族貴族に売ってその資金源を得ようとしたのだろうと。
前回の遠征での失敗でリトリアーノの皇帝は戦爭を起こす気はなく、寧ろ資金を注ぎ込んだマジックボックスの失敗を他國に知られることを恐れたようだ。
皇を魔の國に連れてきたことによって死んでしまったことにしようとしたアストローゼ公爵はそのアイテムに飛びついたようだ。
リスクを知っても尚、購したのは『妖の涙』を所持していたからだ。
たまたま利害の一致で手を組んだだけの第二王子とアストローゼ公爵。
「しょうがないかな」と笑ったカミラ皇子を一瞥した後、レオンがスッと左手を上げる。
「セルシオ」
「はい」
レオンが聲をかけると、後ろに控えていたセルシオさんが封筒をレオンに差し出だした。
「これで貸し借りは無しだからな」
そう言ってレオンがカミラ皇子にその封筒を渡すと、カミラ皇子は中を見て小さく息を呑んだ。
「これは……」
「昨日うちの騎士団がティツィの指示の下、手したものだ。奴らのアジトを制圧した時に押収したものだが……。『指示者』のものと思われる押印と、アストローゼ公爵の押印がある契約書がっている。使い方は任せる」
その件に関しては、私も大會から帰ったあと報告をけていたので、中も確認済みだ。
第二皇子とアストローゼ公爵の取引に関するものから、エリデンブルクに送り込まれたカミラ皇子殺害の為のスパイへの指示書は、彼の弟へとつながる証拠だ。
「はは……。これは決定的だな……。これであいつを引き摺り下ろせるよ」
愉快そうに微笑んだカミラ皇子の表にゾクリとする。
「もう一回言っておくが、貸し借り無しだからな」
「……何か貸したっけ?」
一転してきょとんとしたカミラ皇子にレオンが非常に不愉快そうに口を開いた。
「ティツィを助けたろう? フェンリルから」
レオンがそう言うと「あぁ!」と言った。
「え、待って。奧方の命とこの資料で貸し借りなしって隨分軽くない⁉︎」
「我が家にも匿ってやったろう?」
「いやいや…! あれは匿うっていうか監き……」
「賑やかね」
レオンとカミラ皇子の會話にくすくすと微笑ながらフィローラ皇が聲をかけた。
「フィローラ皇。この度はティツィのドレスをご用意いただきましたこと、心より謝申し上げます」
レオンのお禮に続けて私も謝を述べると、フィローラ皇は優しく微笑んだ。
「いいえ、お禮を言うのは私の方で、騒ぎを起こした元兇であるのにも関わらず、晴れの日に一役買わせていただいたこと、嬉しく思うわ」
その、花開くような笑顔は、の私ですら、が高鳴るほどだ。
「こんな素敵なドレスでお式を上げられて、幸せです」
そう言うと、フィローラ皇は微笑むも、申し訳なさそうにレオンを見た。
「本當に申し訳なかったわ、レオン様。貴方がせっかく用意したドレスをダメにしてしまって」
「とんでもございません。ティツィが嬉しいなら私も嬉しいですから、貴方に謝しかありませんよ」
「……そんな顔も出來るのね」
「え?」
フィローラ皇が橫で小さくつぶやいた言葉はレオンは拾い切れなかったようで、思わず聞き返した。
「……言い換えるわ。私のドレスをティツィアーノ様が著てくれてうれしいわ」
「ん?」
今までのレオンに向けていたらかな笑顔とは異なり、なぜか不敵に口角を上げた皇殿下にレオンが一瞬固まる。
「悪いわね。私が彼をしくしてしまって。貴方が彼を大事にする気持ちが良く分かるわ」
皇殿下が私のしれた前髪を直しながら、「とても綺麗よ」と、後の眩しい神の微笑で言葉を紡ぐ。
そのこの世のものとは思えなほどのしさに息を呑んだ。
「そのドレス、貴方に著てもらえて幸せだわ。それから、これから仲良くして頂けるととても嬉しいのだけれど」
「も、もちろんです。ありがとうございます」
そのしさになぜか赤面してしまう。
「……っ、ティツィ! 今すぐそれをぐんだ!」
「何言ってるんですか? ……似合ってませんか?」
突然の彼の言葉に今更ながら、やっぱり分不相応だったのかとたじろぐ。
「ですってよ。公爵」
「ぐっ……。似合ってる、ものすごく似合ってるが」
「ははは、公爵。新手のライバルだね」
カミラ皇子が心底愉快そうに言った言葉にレオンが凄んだ。
「何を訳の分からないことを言っているんですか。カミラ皇子」
と、視線を向けると彼の背後から、パタパタと可らしい足音が聞こえた。
「姉上! おめでとうございます!」
「お姉様! お兄様! おめでとうございます。とっても素敵なお式でした」
フィローラ皇のデザインしたドレスを著たリリアン様をオスカーがエスコートしながら、はじけんばかりの笑顔でこちらに駆けてきた。
「ありがとう、オスカーもとても格好いいし、リリアン様も素敵な裝いですね。妖が祝福に來てくれたのかと思いました」
「お姉様ってば! 今日は、いいえ、いつもそうですけれど、特に今日は、お姉様のお姿の前には、どんな方も敵いませんわ! お兄様の選んだドレスももちろん素敵でしたけど、今日のドレスもとてもお似合いで! ふんわり広がったヴェールは羽のようで、天使か神か! そのパールのーー」
「リリアン嬢」
今日も嵐の如く褒めてくれるリリアン様の會話にオスカーがにこりと微笑みながら聲をかける。
「は…はい?」
「僕は、今日リリアン嬢よりも素敵な方にはお會いしていませんよ」
「え……、え?」
オスカーはリリアン様に添えていた手を持ち上げ、真っ赤になったリリアン様の手の甲にキスを落とした。
「その真珠の髪飾りもとてもよくお似合いですね」
「あ、これはお兄様から頂いたもので……」
「僕も、何か貴方に真珠のアクセサリーをお贈りしても?」
オスカーのその言葉に困しながらリリアン様が、「あぁ!」と妙に納得した聲をあげる。
「サルヴィリオ産の真珠の広告塔ですわね! そんなことをしていただかなくても、ぜひ『レアリゼ』に置かせていただきますわ」
そう言った言葉に今度はオスカーがきょとんとし、一拍した後クスリと笑った。
「違いますよ。純粋に貴方を飾る名譽をいただきたいのです。貴方の白いにきっと真珠が映えると思ったんです」
カチンっと言葉通り固まったリリアン様のその様を見てオスカーがらかく目を細める。
「ところでリリアン様。ダンスのお相手をお願いしたいのですが、貴方の予約リストに空きはありますでしょうか?」
オスカーが、ふわりと笑って聲をかけると、リリアン様が真っ赤になる。
「え? あ…ええと。まだ、どなたともお約束しておりませんわ……」
「では、貴方の初めのダンスのお相手をさせて頂く栄えある権利を僕に頂けますか?」
リリアン様の目線の高さに合わすようにして禮を執り、オスカーが手を差し出すと、頬をほんんり赤く染めながら、リリアン様が彼の手の上にそっと自分の手を重ねた。
そのまま二人はこちらに軽く會釈をして特設の石畳が敷かれたホール會場に向かって行った。
「な……らか……」
驚きと共に呟いたとその言葉に、『君もに対してはあんなだよ』とレオンに突っ込まれ小首を傾げた。
「サルヴィリオ家のは爭えませんわね」
「そうなんです、フィローラ皇。サリエ様を筆頭に、昔からお嬢様もオスカー様もあんなですよ」
「リタ⁉︎ 私は違うわよ!」
困ったもんですとやれやれと首を揺らすその態度に納得いかない。
「そうそう、だから公爵様はこの先もずっと油斷できないってことっすよ」
「テトまで……」
「あはは、この周りは華やかですね」
にこやかに會話のにってきたアッシュ王子に慌てて禮を執ると、その後ろには、父と母や前レグルス公爵夫妻とウォルアン様もいた。
「この度はおめでとうございます」
「ありがとうござ……」
「そして、謝申し上げます」
私の言葉を遮り深々と頭を下げるアッシュ殿下の言葉に何のことかと目を見開く。
「謝?」
「ええ。先程式と披宴との合間にウィリア帝國の皇帝陛下と話をしたんです。今回の件についてティツィアーノ様に謝の意を込めて、こちらからの輸出品にかかる関稅を向こう三年間ゼロにして頂けると。そして皇殿下との業務提攜に関しても全面的に國として後押ししていくとのお言葉をいただきました」
「? 皇帝陛下と話?」
ウィリア帝國の皇帝陛下は今回いらしていないはずで、疑問符ばかりが頭に浮かび、アッシュ殿下の言葉がってこない。
「はい、コレを使って」
そう言って差し出されたのは、金細工の繊細なデザインのブローチだ。その中心には妖の涙と思われる石が嵌っていた。
「治癒の力が何か関係ありましたっけ……」
「これは魔道に加工された『妖の涙』で、元々ひとつだった妖の涙を二つに分けたものです。対となる『妖の涙』の持ち主と離れたところでも會話ができるんですよ」
その言葉に、もう一つの隠されたの妖の涙の効果を思いだす。
『妖の涙』
魔に襲われて死んでしまった妻を抱きしめ、こぼれ落ちた妖の涙が、深い悲しみによって力を與えた。
瀕死の狀態でも完全の治癒を発揮し、永遠に二人を結びつけると。
その結びつけというのが、ひとつの妖の涙を二つに分けると、対となった妖の涙と離れたところでも會話できるという効果だった。
「でも、どんなに効果が素晴らしくても、簡単に扱えるものではないと聞いています。距離に応じた魔力量に、高度な魔力作が求められると……。遠く離れた帝國と繋がるなど……」
高価で、希価値が高いだけでなく、一般の騎士に扱えないからこそ軍事利用されていないのだ。
「我が國にはいるではありませんか」
にこりと笑ったアッシュ殿下の後ろにいたのは不敵に笑う母だった。
「私だけでなく、レグルス公爵でも使えると思うぞ」
「今、海外との繋がりを強化していくウィリア帝國と、この三年間だけでも輸出に関わる関稅の撤廃は我が國にとって、他國よりも大きくリードするための大きな手札です。貴方に頂いたこのチャンスを必ず活かして、國の繁栄に繋げることをお約束します。改めまして、謝申し上げます。レグルス公爵夫人」
アッシュ殿下の言葉に周囲の視線が私に集中するのが分かる。
「ティツィアーノ嬢が息子を選んでくれたことも、レオンが貴方を妻にしたことも、誇りに思うよ」
「本當、ティツィちゃんが娘になってくれて嬉しいわ」
ヴィクト様とライラ様も、にこりと笑って微笑んだ。
周囲のどこからともなく拍手が始まり、會場全を包む。
「僕からも良いかな?」
「カミラ皇子」
「リトリアーノも今回の件で何かしらお禮をしよう。公爵は貸し借りなしだと言ったけど、僕にとっては『これ』は何より価値があるからね。ティツィアーノ、君がいてくれたことに謝の意をきちんと目に見える形で返すと第一皇子の名にかけて約束するよ」
カミラ皇子がレオンから渡された封筒を軽く上げてそう言った。
驚きに固まった私に、レオンがポンポンと背中を優しく叩き、視線が絡む。
「誰も、君を『公爵夫人にふさわしくない』などと言うものはもういないだろうな」
「レオン……」
しは何か出來たのだろうか。
じわりと滲む視界に言葉が出ない。
「レグルス公爵夫人、貴方がくれた言葉も、示してくれた行も、常に心に留め置いて私もウィリア帝國で頑張るわ。そしていつか、貴方に憧れてもらえるような王になることを約束するから」
「もう、十分に素敵です……」
「ティツィアーノ様には敵わないわ」
ふわりと香るフィローラ皇の香りがしたかと思うと、ハンカチで涙を拭われたことに気づく。
「と、言うわけで。國の基盤を盤石にするためにも、ぜひお二人の娘さんを僕のお嫁さんに下さい。貴族からも、他國からも信頼の厚いお二人の子となれば誰より素敵なに違いありません。もちろん、一生彼をして、幸せにすることを誓います」
突然のアッシュ殿下の発言にざわめきが広がる。
「何が、と言うわけなんだ! 関係ないじゃないか!」
レオンがありえないという顔でアッシュ殿下に言った。
敬語! 敬語忘れてますよ!
っていうか、まだ存在すらしていません!
「る程、その手があったか。アッシュ王子、隣國との強化を狙うなら我がリトリアーノにお嫁に來てもらうのがベストじゃないかな」
「まぁ、アッシュ殿下もカミラ皇子もずるいですわ。それならティツィアーノ様の息子さんは私の娘のお婿さんに下さいな!」
「フィローラ皇! 貴方はまだ未婚でしょう!」
二人に負けじと參戦したフィローラ皇に思わず突っ込んでしまう。
「あら、今から素敵な殿方を見つけますのよ! 婚活して帰りましょうかしら」
ほほほと笑う殿下に、母は、「私の孫たちはモテモテだな」と存在すらしていないのに嬉しそうだ。
「どっちもやらん!」
レオンがそうぶと、彼は指笛でシルヴィアを呼んだ。
バサリと現れた漆黒のしい翼馬に誰もが目を奪われると、彼は私を抱えてシルヴィアに飛び乗る。
「れ、レオン」
「失禮、し外の空気を吸ってきます」
そう言って、上空に駆け上がって行く。
「「「初めから外なんですが……」」」
「あいつ、逃げたな」
「あの子、本當に変わったわね……」
「はは、の力は偉大なんだよ、ライラ」
だんだんと小さくなる地上から聞こえる母や義父母のツッコミに、私は恥ずかしすぎてしばらく戻れないと力した。
ここまで読んでいただき、本當にありがとうございます。
面白い、続きが気になると思って頂けたら、勵みになりますので、ブックマーク、下の★★★★★評価をしていただけたら嬉しいです。
あと、一話お付き合い下さい☆
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