《聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】》第92話 ずっと続くと思っていた穏やかな日常は

***明日もお晝12時更新予定です。

いつもと同じ朝。同じ景。同じ日々。

ずっと続くと思っていた穏やかな日常は、ある日突然ガシャンと音を立てて壊れた。

あわてて侍たちが割れた皿を片づけに來るのを見ながら、私は戸った顔で雙子騎士のジェームズに聞き返していた。

「ごめんなさい、を割ってしまったわ。……それで、今なんて?」

「はい、あの……國王陛下より、忙しいため本日の朝食は別室でとるとのことです」

朝、朝食の席にユーリ様の姿が見當たらなかったから、ジェームズに聞きに行かせていたのよ。その結果返って來た返事が、これだった。

「そうなの……? わかったわ、伝達ありがとう」

「ママ、パパは? おねぼうしたの?」

既にご飯を食べ始めているアイが、おくちをもぐもぐさせながら聞いてくる。

「パパはお仕事が忙しいみたい。だから今日は、アイとママのふたりで食べましょうね」

「わかったぁ!」

アイの返事を聞きながら私は考えていた。

ユーリ様は今まで、どんなに忙しくても必ずみんなで朝食を取る時間を作ってくれていた。そんなユーリ様が忙しいだなんて……何かのっぴきならない事件が起きたのかしら?

ユーリ様や、民たちに負擔の大きいでことないといいのだけれど……。

それでも、この時はまだ深刻には考えていなかった。

なぜならその後ユーリ様は、何度かアイの様子を見にやってきてくれていたのよ。

アイが絵本を朗読するのを楽しそうに聞く姿はいつも通り穏やかだったし、私とアイのことについて話す姿もいつも通り。

だからてっきり、忙しかったのは朝だけで、もうすんだことかと思っていたの。

でも……。

「ママぁ……パパは? アイ、もう眠いよぉ……」

寢室で、私の太ももに頭を載せたアイが、うとうとしながら言った。

「そうね……。ずっと待っているけれど、遅いわね……」

いつもだったら、アイが寢る時間になるとユーリ様はどこからともなくやってきて一緒に寢かしつけをするのに、今日はいつまで経ってもやってくる気配はない。

そのせいで、既にアイはまどろみかけている。

どうしたのかしら? 朝の件は片付いたのかと思っていたけれど、違うのかしら?

「パパの様子を見にいこうかしら……」

「アイもいくぅ……」

いつもより遅い時間。もう眠くてしょうがないだろうに、それでもアイは目をこしこしするとなんとか起き上がった。そのきはのろのろとして重く、眠りの沼に落ちる寸前だとわかる。

それでもアイは、パパに會いに行きたいのだろう。……あるいは、ひとり取り殘されるのが嫌なのかもしれない。

「わかったわ。なら、抱っこしていきましょう?」

「うん……」

抱っこの言葉に、アイの両手がゆるゆるとびてくる。私は小さなを落とさないよう、ぎゅっと抱きかかえた。最近よく食べるようになったアイはまだ軽いながらも、子どもらしいずしりとした重みが腕にのしかかる。

アイを抱っこし、トントンと背中を叩きながら、私はユーリ様の執務室に向かった。

聲だけかけて、もし忙しそうならすぐに引き返すつもりだった。

「……あら……?」

異変に気付いたのは、執務室の前に來てすぐだ。

ユーリ様は普段、國王にしては驚くほど警備が薄い。それはユーリ様自が一番強いから護衛を必要としないからであり、自分の護衛を削る分、他に回している。

だから執務室の中にも前にも、いつもなら誰もいないはずなのだけれど……。

「こんばんは。ユーリ様は中にいらっしゃるかしら?」

執務室の前に立つ、見慣れない騎士ふたりにわたくしが聲をかけると、彼らはうやうやしく私に挨拶をした。

「大変申し訳ないのですが、現在國王陛下より、誰も中に通すなとの命令です」

「そうなの……」

執務室の前に誰かがいることも初めてだけれど、中にるなと斷られたのも初めてだ。

そんなに忙しいのかしら、とちらりと扉の方に目を向けて、私は息を呑んだ。

「っ……!」

しだけ開いた扉の隙間から覗き見えたのはユーリ様と――ラフな格好のリリアンが、楽しそうに話している姿だったのよ。

どうしてリリアンがここに……!?

確かに彼の勤務時間は既に終わっている。けれど、それとユーリ様の執務室に彼がいることは全然別の話だ。

最近のリリアンは、時折ユーリ様と雑談をわすこともあった。けれどそれはあくまで王と家臣としてであり、きちんと禮儀や距離も保たれている。

決して今みたいに髪をゆるく下ろし、友達と雑談をわすような砕けた雰囲気ではない。

なのに急になぜ……!?

それから私はハッとしてアイを見た。

……よかった、もう寢ている。

アイはもうとっくに限界を迎えていたのだろう。私の肩にほっぺをあずけたまま、すぅすぅと穏やかな寢息を立てている。

私は今の景をアイが見なかったことにホッとし、それからすぐに考え直す。

別にただ話をしていただけなのだから、アイが見ても大丈夫よね……?

なのになぜ、こんなにも心がざわつくの。

ドキドキする心臓には気づかないふりをし、ぎゅっと腕の中で眠るアイを抱きしめる。

いえ、大したことじゃないわ。騎士同士だもの、きっと何か盛り上がる話もあるのでしょう。最近のリリアンは本當に一生懸命やってくれているもの……。

今日はたまたま、偶然よ。

自分に言い聞かせるようにして、私はアイを抱えて逃げるように自室へと戻った。

――けれど日が経てば経つほど、事態はどんどんよくない方向へと向かっていった。

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