《骸骨魔師のプレイ日記》航者の正

航者が現れたという報告をけた私は研究區畫から急いで『エビタイ』に移する。その際、私はリンの背中に乗ってアマハが駆るヨーキヴァルを追い掛けていた。カルに比べて空中での機力に勝るリンだが、機力に特化しているらしいヨーキヴァルには付いていくのがやっとであった。

ただ、スピード重視で進んだこともあって私達はあっという間に『エビタイ』に到著する。ここは港町ということもあって普段から賑わっているのだが、今日は一段と騒がしい上にピリピリとした雰囲気が漂っていた。

航者がいた、という事実が既に広まっているのは間違いない。街に出る前に捕まっているから騒ぎはこの程度で収まっているのだろう。喧嘩くらいは起きるものの、これまで魔王國では犯罪らしい犯罪が起きたことはない。それが起こったのだから、捕まっていなければどうなっていたことか。

「それで、どこに行けば良いんだ?」

「あそこよ」

ヨーキヴァルから降りたアマハが指差した先にあったのは『コントラ商會』が所有する商船だった。確か『コントラ商會』の商船に航していたと言っていたっけ。では船の外に出る前に捕まえたということか。

ならば外は見られていないということになる。ならばまだこの街のは保たれていると言って良いだろう。とりあえず一安心だ。

航者の素はわかっているのか?」

「プレイヤーなのは確実よ。だからこそ面倒なんだけどね。こっちに…」

「よォ。航者に會うんだろォ?面白そうじゃねェか。俺も連れてけよォ、兄弟ィ」

私とアマハが商船に乗り込もうとした時、聲を掛ける者がいた。私を兄弟と呼ぶのはジゴロウしかいない。大人しくしているらしい航者が何をするかわからないので、護衛として連れて行くのは問題ないどころか心強い。連れて行くのは全く問題なかった。

それよりもどうして『エビタイ』にいるのだろうか。戦闘狂であるジゴロウは基本的にフィールドか闘技場で戦っているはず。あまり港町に來るイメージがわかないのでとても気になってしまった。

「珍しいな。ここにいるのは」

「龍人(ドラゴニュート)達に頼まれてなァ。素手ゴロのやり方教えてしいんだってよォ」

「そうか…アマハ、構わないな?」

「いいと思うわ」

「ハッハァ!そうこなくっちゃァなァ!」

どうやら格闘戦のインストラクターとして招聘されたようだ。魔王國において格闘戦と言えばジゴロウであるのは間違いない。そして水路を守護する龍人(ドラゴニュート)達の戦力増強は歓迎すべきことだ。

ということで妙にテンションが高いジゴロウを加えた三人で私達は商船に乗り込んだ。先導するアマハは迷うことなく下へ下へと降りていくことから、航者は船倉に拘束して放り込んでいるらしい。さて、どんなプレイヤーなのだろうか?

「やぁ。來てくれてありがとう。迷をかけてすまんね」

「コンラート、それにセバスチャン。そこにいるのが、件の航者か」

「おっしゃる通りでございます」

船倉のドアは開かれていて、その前には普段と変わらないコンラートと久々に武裝している姿を見たセバスチャンがいた。基本的に武裝を出すことを避けるセバスチャンが武裝しているということは、それだけ油斷ならない相手なのだろうか。

そんな航者は積荷を全て運び出されてガランとした船倉に簀巻きにされた狀態で放り込まれている。さらに目隠しで視界を封じ、猿轡を噛ませて発言すらも封じていた。どちらが悪役かわからんな…まあ、私は悪役なら臨むところなのだが。

「んー!んんんー!」

「あれでは話を聞くことすら出來ないだろう。とりあえず猿轡だけは外した方が良いのではないか?」

「そうだねぇ。あ、気付いてないかもしれないけど、コイツに余計な報を與えないようにあえて名前を呼んでないよ。耳栓は持ってなかったし。僕達に関しては最初からバレてるからどうでも良いけど」

「ああ、言われてみればそうね。気付いてなかったわ」

あ、危ない…私もアマハと同じく気付いていなかった。二人の名前を出さなかったのは偶然であり、運が良かったと言える。ジゴロウは…どうでも良さそうだな。

付いて來る時はあんなにヤル気に満ちていたのに…ああ、なるほど?実は強者だった時に戦いたいと思ってついてきたんだな?全く、寢ても覚めても戦うことしか頭にない奴だ。

「プハッ!ゲホッ!お前ら、覚えとけよ!このことを公にして、商會そのものを潰してやるからな!」

口だけは自由を取り戻したらしい航者だったが、最初に口から飛び出したのは謝罪でも命乞いでもない。まさかの恫喝であった。チラリとコンラートの方を見ると、彼は肩を竦めてから事を説明してくれた。

「彼の名前はカキアゲ。『ノンフィクション』ってクランに所屬してる新聞記者らしいね」

味そうな名前だが…新聞記者だと?」

「あ、『ノンフィクション』なら知ってるわ。どうやって撮影したのかわからないスクショを載せた記事が売りの新聞よね。新聞って言うよりはゴシップ誌ってじらしいけど」

ゴシップ雑誌の記者か。確かにそれは非常に面倒だ。プレイヤーなのでここで殺害しても遠くで復活してしまうし、そうなればあることないこと書き連ねて『コントラ商會』の評判を下げるだろう。

では買収するしかないのだが、簀巻きにされて激怒されているカキアゲがそれに応じるかと言われれば難しい。足元を見られるのは間違いないだろう。

「ゴシップゥ〜?胡散臭ェなァ。サクッとヤッちまえば良いじゃねェか。何書かれたって噓吐き扱いしてやりゃァ、誰も信じなくなると思うぜェ」

「確かに。人の噂も七十五日と言う。後腐れのないように始末した方が手っ取り早いか」

飽きたジゴロウはこれ以上付き合いたくないからか急な解決手段を訴える。ただ、私はそれも悪くないと思えた。ゴシップ雑誌は所詮ゴシップであり、本気で信じる者の方がない。話を盛っていることはしょっちゅうであるし、そもそも噓ということも多いのだ。

ならば記事にされても間違いだという態度を一貫すれば問題ないのではなかろうか。噂を払拭するべくコンラートは奔走する羽目になるが、忍び込まれてしまった不手際が原因だ。自分の不注意の後始末を頑張ってもらうとしよう。

「はぁ、それしかないね。口止めしたって、どうせ約束破っちゃいそうだし」

「決まりだな。では…」

「ちょっ、ちょっと待った!さっきの聲…ひょっとして、ジゴロウさん!?闘技大會の優勝者の!?」

カキアゲのレベルは50臺と決して高くないので、私は【邪】によってサクッと即死させようとした。だが、カキアゲは聲からジゴロウのことに気付いてしまったらしい。

私は心で舌打ちしていた。目隠しをしていたので、私達はコンラートの協力者くらいにしか思われていなかったのだろう。しかしながら、ジゴロウの聲を知っていたことでジゴロウとコンラートの間に…魔プレイヤーとの間に強い繋がりがあることが知られてしまったのだ。

ここで殺すべきか否か。私は迷った。だが、この迷ったことで生まれた時間が話の流れを大きく変えることになった。

「自分、ジゴロウさんのファンなんですよ!ああっ、目隠しさえなけりゃ生で見られるのにっ!」

「…あァ?」

カキアゲは心底悔しそうな聲を出しつつ、を捩って目隠しを取ろうと闘していた。ファンだと言われたジゴロウだが、かなり嫌そうな顔になっている。兄弟にとって闘爭そのものが目的であり、名聲などに興味はない。武名を聞いて討ち果たそうと襲い來る強者こそ歓迎するのだ。

その點、カキアゲはジゴロウのお眼鏡に適う相手ではないらしい。ただ、上手くやればこちらにとって有利に話を進められるのではないだろうか。ジゴロウに想良く振る舞ってもらえば…

「ちょいちょいちょい!待て待て待て!」

「このタイミングで殺ろうとする?普通…」

そんなことを考えている間に、ジゴロウはカキアゲの直ぐ側まで無造作に接近して、彼の頭を踏み潰そうとしていた。もう々と面倒臭くなったのだろう。暴力でさっさと解決したいらしい。ついてきたことを後悔しているのかもしれない。

自分からついてきておいてそれはないだろうと思いながらも、ジゴロウだしなと納得してしまう自分がいる。アマハは呆れ返っているが、私は『らしさ』全開だからこそ苦笑するだけで済ませてしまった。

「ええい、仕方ない!またを探さなきゃだけど、生でジゴロウさんを見る機會を逃せるかってんだ!フンッ!」

「「「はぁっ!?」」」

自分が踏み潰されそうになっているのに興でそれに気付いていない様子だったカキアゲだが、これまでは拘束から逃れようとジゴロウの足下で藻掻いているだけだった。しかし何かを決意したかと思えば、彼の首の付け辺りがボコリと大きく盛り上がる。そして皮を突き破って何かがから現れたではないか!

それは手のひらサイズの昆蟲である。全は白に近い黃で、頭部と部は極端に小さい。六本ある腳も細く、とても貧弱そうな印象をけた。

だが、最大の特徴はその腹部だろう。頭部と部に比べて數倍の大きさがあり、その先端からは糸を思わせる赤い繊維がびている。その本數は何十、いや何百とありそうだ。それらは風もないのに揺れていることから、昆蟲そのものの意思でかしているようだった。

側から皮を突き破って昆蟲が出てくるという映像は中々にショッキングである。セバスチャンを除く私達は思わず素っ頓狂な聲を上げてしまった。平靜を保っているように見えるセバスチャンも目を見開いて直している。聲を出さなかったのは執事としての矜持であり、驚いていない訳ではないようだ。

「おおおっ!本だ!」

「その聲…まさか…」

「そうさ!これこそ敏腕記者、カキアゲの真の姿だ!」

姿を表した昆蟲は前腳を上げつつ繊維を尾のようにゆらして喜びを表現している。引きつった顔であってもジゴロウならば何でも良いようだ。

そして昆蟲からはカキアゲの聲が聞こえてくる。自稱・敏腕記者のカキアゲ。その正は昆蟲系の魔だったのである。私達は驚きから言葉を失わざるを得ないのだった。

次回は9月11日に投稿予定です。

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