《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》14話 キャラの濃い人のこと

キャラの濃い人のこと

「いいお天気でありますねえ」

「ですね。今日は度が低くていいや」

窓からってくる風が心地いい。

しはきついが、もう慣れた。

「半沢神父、元気かなあ」

俺は、式部さんと一緒に軽トラに乗っている。

行先は、『福音の教會』だ。

龍宮の南あたりにある。

式部さんが昨日言っていたお出かけとはこのことである。

古保利さんからの依頼で、しばらくぶりに様子を見に行きたいらしい。

それで、向こうと顔見知りでもある俺に聲をかけたのだろう。

俺としても半沢神父や子供たちのことは気になるので、二つ返事で了承した。

「運転は慣れましたか?」

「うーん、なんとか。借りなんで気を使いますけどねえ」

本日の軽トラは、七塚原先輩に借りたものだ。

前に借りた後藤倫先輩の軽トラがよかったんだけどな、慣れてるし。

だけどあの車両は・・・昨日先輩がノリでドリフト走行の練習をしていてパンク中である。

パイセン何やってんだよ・・・

ミイラから回復した大木くんが直すらしいが・・・

「楽しみでありますね!大木さんのお造りになる一朗太さんの車が!」

「空とか飛ばないといいなあ・・・」

大木くん、仕事量エグすぎないか・・・?

馬関係のこともやってるし、またミイラにならなきゃいいけどな。

ま、俺は運転に集中しなきゃ。

「そういえば式部さん、神楽の方は何か変わったこととかありますか?」

「いたって平穏そのものであります!」

「へえ、そりゃよかった」

「ええ!一昨日はゾンビが1回、人間が1回襲撃してきましたが撃退しております!」

「ええ・・・?」

フンス!ってじでドヤ顔をしている式部さんの笑顔が眩しい。

いいのかそれで・・・

「あの、怪我人とかは・・・」

「ゾンビは全滅!襲撃者の方も不慮の事故死であります!」

「あっそうですか・・・」

さすが神楽、戦意も練度も高い。

「・・・人間の方は『レッドキャップ』いや、鍛治屋敷関係ですか?」

「いいえ、ただのチンピラであります。最近多いのでし面倒臭いでありますなあ・・・」

「多いんですか?」

「『みらいの家』撃滅からこっち、おバカさんが多いので困ったものであります」

・・・うん、だろうなあ。

おおかた目の上のたんこぶが消滅したからイキり倒してるんだろうけどさ。

自分たちより裝備も練度も上の連中が壊滅してるってのに、なんでそれをした相手に勝てると思うんだろうか。

不思議である。

「こちらとしては防衛に徹しているので引いてくれれば何もしませんが、何故かああいう手合いは初手で攻撃を選択してくるであります」

「困ったもんですねえ」

「みんなが一朗太さんのような方であれば、世界は平和だと思いますね」

・・・嫌だそんな世界。

控えめに言って地獄でござろう?

式部さんは俺を聖人かなにかと勘違いしてらっしゃるのだろうか。

いくら命の恩人だからって、謝しすぎじゃない・・・?

「い、いやあ・・・世界が俺だけなんて嫌ですよ。式部さんとか、サクラとか、他のみんなもいないt」

「ううううん!!!!」

急に式部さんが振したァ!?

ど、どしたんだろう。

お腹痛いのかな?

「だ、大丈夫ですか?」

「(不意打ちは卑怯であります・・・別に困らないのでいいでありますが)・・・いえ、ししゃっくりが出そうになりまして」

「そ、そうですか」

「そうであります」

しゃっくりくらい出してもいいのに、気を遣ったんだろうか。

っていうかしゃっくりを任意でキャンセルできるのってすごいな。

さすがニンジャだ。

「あっ!一朗太さん!貓がいますよ貓が!かっわいいであります!」

「丸い・・・なあ、丸い」

式部さんが指差す方向・・・民家の塀の上に、なんというか隨分丸い貓がいた。

車で通りすぎる時に確認したが、全方向から見ても丸い三貓だった。

・・・隨分、いいもの食ってんだなあ。

誰かに餌でも貰ってるんだろうか。

こんな世界でも貓を気にする人がいるかもしれないという想像に、俺はし嬉しくなった。

「セキセイインコは最高であります!文鳥も最高でありますが・・・」

「懐くはどれもかわいいですよねえ・・・あ、もうすぐですよ」

式部さんと楽しくおしゃべりすること數十分。

特に襲撃されることもなく龍宮市を走り抜け、気付けば見慣れたあたりにやってきた。

あの定食屋とインド人を右に行けば、目的の教會である。

「楽しい時間はあっという間でありますなあ・・・殘念無念でありますよ」

「ですね、あっという間でした」

一人で音楽でも聞きながら運転するのもいいが、誰かと話しながらのドライブもいいものだ。

特にそれが、仲のいい人ならなおさらである。

道を曲がって走ると、すぐに特徴的な教會の屋が見えてき・・・うお。

「ズイブンと・・・鍛え直したな」

「ええ!以前のアドバイス通り、防衛に適した構造になっているであります!」

教會の建は一緒だが、周囲が違う。

教會をぐるりと囲う塀。

その上に、有刺鉄線が設置されている。

「電線があるってことは、電流も流れてるのか・・・」

ゾンビと、対人間用の防態勢なんだろうか。

しかも、見張り臺のような足場も側に見える。

まだ遠いが、そこには長い筒のようなものを持った人間が立っている。

銃も調達したんだな。

そういえば前に來た時、近くの商店街に銃店があるとかそんな話を式部さんがしてたな。

「むーん・・・でも索敵がダメダメであります。ここまで近付いてやっと気付くようではとてもとても」

軽トラの接近に気付いてく見張りを見ながらも、式部さんの評価は辛口であった。

「どうします?いったんここで止まって事を説明しますか?」

「今日ここへ自衛が派遣されるという報は渡っているであります。問題ないのでこのまま門前までお願いするであります」

「・・・撃たれませんかね?」

これ、借りの軽トラなんだが。

「発砲を確認した瞬間に蜂の巣にしますので、問題ないでありますよ」

式部さんは拳銃を持ってにこりと微笑んだ。

いや、全然大丈夫じゃない・・・

神楽から參りました式部陸士長です。以前はお世話になりました」

「あっ・・・は、はい!どうぞおりください!!」

余所行きモードの式部さんに、前見た気がする若い男が顔を赤くしている。

あります口調の式部さんに慣れてるから、この狀態は違和しかない。

いや、外見はすごい人なんだが・・・あの口調の彼はどこか周囲に壁をじるからな。

「護衛の彼も、もちろんいいですよね?」

「え?あ、ああ!はい!どうぞ!」

男が俺を見て目を白黒させている。

思い出したんだろう。

まあ、顔面宇宙海賊で刀裝備の人間は中々いないだろうし。

「どうも」

頭を下げ、開いた門から中にる。

門に立つ他の人間は、周囲に向けて油斷なく視線を飛ばしている。

銃も、いつでも撃てるように構えているように見えた。

・・・ふむ、まあ及第點かね?

式部さんの評価程辛くはないのだ、俺は。

ちなみに軽トラはれないので路駐である。

「あ!前に來たおじちゃんとおねーさんだー!」

敷地に足を踏みれると、畑仕事でもしていたらしい子供たちが聲を上げて手を振ってきた。

「こんにちは、元気そうですね」

「よーう!ちゃんと飯食ってるか―?」

「くってるー!」「はらいっぱい!」「遊びに來たの―?」

式部さんと手を振り返すと、口々に答えが返ってきた。

うおお、俺は聖徳太子じゃないんだけどな・・・

だがまあ、その表つきを見ればここがちゃんと運営されてることはよくわかる。

みんな幸せそうだ。

さすが、半沢神父。

師匠の友達ってだけはあるな。

「やあいらっしゃい・・・田中野くんと、式部さんだね。お茶を出そうね」

教會の建ると、半沢神父が出迎えてくれた。

うん、相変わらず元気そうだ。

「ご無沙汰してます、お元気そうで」

席に著くと、若いがお盆に乗せたお茶を運んできてくれた。

ここの孤児院の職員さんかな?前には見なかったけど。

「お様でね、神楽の自衛隊さんや駐留軍さんが様子を見に來てくれるし、子供たちとも遊んでくれるからみんな大歓迎さ」

「そりゃよかった。子供たちが元気でなによりです」

半沢神父がニコニコと微笑んでいる。

この人が怒った所、見たことないな。

味しいです、これはここで?」

「お口にあってよかった。備蓄の麥があってね。今年からは畑でも育てる予定だが・・・気候もあっているし、大丈夫だろう」

式部さんに続いて飲むと、味しい麥茶だった。

この香ばしさ・・・夏ってじだよなあ。

「備蓄食料や栽培についてのお話を伺いたいのですが・・・」

「ああ、それは加倉井さんの方が詳しいだろうからし待っていてね。今ちょうど資料の整理をしてくれているから」

加倉井さんってのは、ここの責任者のおばさんだよな。

最年長は半沢神父だろうけど、対外的にはあの人が折衝役になってるんだろう。

ご高齢だしな、神父。 ・・・同じ歳くらいの師匠がむっちゃ元気なんでたまに忘れるが、普通に高齢者なのだ。

「あ、あの!俺が呼んできましょうか!」

さっき門の所にいた若い男がそう言ってきた。

視線は式部さんである。

わかりやすいなあ、一目ぼれというやつだろうか。

いや、前にも見たから二目ぼれ、か?

ともかく、ここまでついて來ていたようだ。

・・・見張りはいいんだろうか?

「コウタ。お客様は來たばかりで疲れているんだよ・・・ゆっくりさせておあげなさい」

「は、はい、父さん」

半沢神父が苦笑しながらたしなめている。

しょうがないヤツだ・・・みたいなじかな。

式部さんは人だからなあ、仕方ない。

「お気遣い、ありがとうございます。ですが、ここで待っていますのでお気になさらずに」

「ひゃ、ひゃい!すみません!」

うーん、いつぞやの森山くん(弟)を見るようだ。

そういえば、彼は助けた子供の関係者らしきとどうなったんだろうか・・・?

ちょっと気になる。

基本的にはいいヤツだから幸せになってもらいたいものだ。

「そっちの様子はどうだい?田中野くん」

「うーん・・・俺もし離れてたので、そう詳しくはわからないんですけど・・・変わりはないですね、たぶん」

牙島まで『出張』してたからなあ。

細部まで語って不安にさせても悪いので、適當に誤魔化しておこう。

俺は噓が壊滅的に下手なので、本當のこともえつつ。

「おや、そうなのかい?」

「ええ。牙島ってあるでしょ?あそこに親戚がいましてね・・・遠征したら龍宮に越してきたいって言うんで、その準備を手伝ったりしてました」

噓は言っていないぞ、噓は。

「牙島か・・・3年ほど前に子供たちを連れてキャンプに行ったね。綺麗で過ごしやすそうな島だったけど、こっちに引っ越したいなんて・・・何かあったのかい?」

「よくは知らないんですが、橋が崩落したとかで。閉じ込められるのは嫌だからけるうちに龍宮へ逃げたい・・・ってことらしいですね」

「橋が・・・なるほど、それは大変だ」

・・・なんとかなったかな?

『レッドキャップ』の連中がここまで手をばしてくるとは考えにくいので、今はこれくらいでいいかもしれん。

ここは神楽とも連攜してるし、必要だと思ったら向こうから報が提供されるだろう。

俺が下手に口を出してもいいことがあるとは思えない。

「あ、そう言えばですね・・・これ見てくださいよ、これ!」

懐からスマホを取り出して見せる。

「なんと、綺麗な馬だねえ・・・どうしたんだい?」

スマホに表示されているのは、今朝がたに撮影したヴィルヴァルゲ親子だ。

馬房の中で寄り添って立っている所をパシャっとした。

「迷い馬ですよ。七塚原先輩が大の馬好きだったんで、すぐに保護して・・・気が付いたら放牧地みたいなのまででっち上げてました」

「無我くんか、彼らしいね。末は牧場を作りたいって言っていたなあ・・・夢の一端が葉った、ということかな」

半沢神父は我がことのように嬉しそうだ。

先輩、牧場のことを話してたのか。

「もう勢が落ち著いたら遊びに來てくださいよ。自然もいっぱいあっていい場所ですよ・・・ゾンビや人間よりタヌキの方が多いような場所ですけど」

「この狀況なら何よりの天國だね、それは。子供たちも喜ぶと思うよ」

「でしょ、うちにも小さい子がいるんでお友達が増えて喜びますよ」

もしそうなればいいだろうな。

現狀は長距離移するだけで大変だけど。

俺とか式部さんみたいな戦えるサイドの人間と違って、子供を抱えて移するのはなあ・・・

「ふふぅふ」

式部さんは加倉井さんが來るのを待っているのか、俺たちの會話に混ざらずにニコニコとしている。

リラックスしているようだ。

いい息抜きになっているみたいでよかった。

「そういえば半沢神父、競馬のこととかは詳しい・・・わけないですよね」

「ふふ、さすがにそこまでは手が回らないね」

だろうなあ。

神父さんが競馬場に通うなんて聞いたこともないし。

「いや、その寫真のちっこい方の馬なんですがね。名無しなんで頑張っていい名前を考えてる際中なんで、もしいい名前案があればと思ったんですが・・・」

「この狀況下での主な悩みがそれかい?ふふ、流石は南雲流の弟子たちだ」

「い、いやいや。田舎で人がいないだけですよ・・・へへ」

・・・たしかに、外から見りゃあ能天気な集団だな、ウチ。

抱えてる戦闘力が伊達じゃないけども。

「すみません、お待たせしてしまったようで・・・」

奧の方から前に見た加倉井さんが歩いてきた。

手には、何やら書類の束を持っている。

「いえ、ご無沙汰しています。お変わりありませんか?」

「お様で・・・」

さっと式部さんが立ち上がり、敬禮。

俺はタイミングを逃したので、座ったまま頭を下げた。

「早速で申し訳ありませんが、現狀の説明と今後の連攜についてお話を・・・」

「はい、まずはこの資料を・・・」

そして、この先の話が始まった。

これはここと神楽の話なので、俺の出る幕はない。

さて・・・半沢神父と茶飲み話でもしているか。

そう思った時、ふと部屋の壁に目が行った。

「・・・ん?」

以前にも見た鉄パイプや即席の槍があるあたり。

そこの壁に、教會には全く似つかわしくないが立てかけられていた。

いや、鉄パイプとかも似つかわしくはないんだが・・・ある意味それ以上の異だ。

そこには、綺麗な錫杖があった。

托鉢に出るお坊さんがついている杖のようなアレだ。

式部さんの持つ三鈷剣のように、かつては僧が護用の武として使用したというアレ。

「半沢神父、あの錫杖は・・・」

「・・・ん?ああ、アレは友人の持ちだよ。この前ひょっこり尋ねてきてねえ、今ここに滯在してもらってるんだ」

「お坊さんが教會に泊まるって、字面的には面白いですねえ」

宗教的な軋轢とかないんだろうか。

まあ、今はそんな場合じゃないけども。

「信じる神は違えど、人間が変わるわけじゃないからね。お互いの領分さえ守っていれば、それ以上は何も言うことはないよ」

ふむ、そんなもんか。

この騒前まで宗教戦爭していたすべての人間に、神父の爪の垢を煎じて強制的に飲ませてやりたい。

しかし、神父さんの友人の僧ねえ・・・どんな人だろう。

「會ってみるかい?今は多分、大きい子供たちと畑仕事をしている頃だと思うが・・・呼んできてもらおうか?」

「いやいや、お許しが頂けたら俺が行きますよ。前みたいに子供とも遊びたいし」

このままここにいても役に立つことはない。

それなら敷地の安全を確かめつつ、そのお坊さんに會うのも面白そうだ。

「そうかい?それは子供たちも喜ぶよ・・・『あのカタナのおじちゃんは今度いつ來るの?』って、小さい子たちがよく聞いて來ててねえ」

「はは、そりゃ嬉しいですね。式部さん、ちょっと席を外しますね」

「ええ、どうぞ。ゆっくりなさってくださいね」

加倉井さんと話し込んでいる式部さんに許可を取り、半沢神父たちに頭を下げる。

「畑はそこを出て右だよ・・・おや、道案はいらないな、これは」

部屋の口に、何人も子供たちが待っている。

・・・俺待ちかな?

「よお久しぶり!畑まで案してくんない?」

ニコニコした子供たちにそう聲をかけた。

畑を見たら何して遊んでやろうかな。

ここは普通に鬼ごっこあたりで攻めるかね・・・

「相変わらず元気だねえ、田中野くんは」

「本當に。あの人が來ると子供たちも喜んでいますね」

「一朗太さんはとっても子供好きであります・・・か・・・ら・・・?」

「あら式部さん、どうしたの?」

「あ、あの錫杖は・・・まさか・・・」

「おや、黛(まゆずみ)さんのお知り合いかな?」

「まゆっ!?!?!?!?!?!?」

「おばちゃん、これでいい?」

「ええわあ、この端をもうちょい盛って・・・せやな、完璧や。タカ坊、アンタええ農家になれはるわ」

「えへへ」

「おばちゃーん、こっちは?」

「うーん、そこはもうちょい深く掘らんとあかんねえ、きばりや」

「はーい」

・・・中學生くらいの子供たちに、お坊さんが・・・この場合は尼さんが指示している。

袈裟を著て、白い頭巾を被ったステレオタイプな尼さんだ。

ここからでは顔は見えないが、聲はいかにも優しそうなじだ。

この地方とは違う方言だけど、七塚原先輩のアレと違ってらかい。

「なあ、あの尼さんはいつここへ來たんだ?」

「えっとね、先週!知り合いを探してるんだって!」

「へえ・・・どっから來たんだろうな?」

「ん~・・・わかんないや!でも大きいバイクで來たんだよ、外にとめてあるけどびっくりしちゃった!」

大型バイクで來たのか、あの人。

見た目とのギャップがすげえなあ・・・

それにしても立派で大きい畑だ。

ここの正確な人數は知らないが、これだけの規模ならよっぽどの不作にでもならん限りやっていけそうだ。

・・・他のチンピラ連中もせめて畑でも作るか魚とりでもすりゃいいのにな。

他人から奪おうっていう短絡的なのばっかりで嫌になるぜ。

「―――おはようさん、新顔やね」

俺が子供と話すために顔を橫に向け、そして前に戻した時にはもう目の前に尼さんがいた。

距離はざっと5メートルはあったはずなのに。

「―――ッ!!」「わぅ!?」

ほぼ反で傍らの子供を抱え、後ろに跳ぶ。

なんっ・・・なんだ!?いついた!?

著地すると同時に抱えた子供を下ろし、兜割の柄に手をかけ・・・ようとして思い留まる。

いかんいかん、ここが教會の敷地だっているのを忘れていた。

半沢神父が変なのをれるわけないもんな。

「ええのこなしやな、おにいはん」

が、視線は外さない。

その尼さんは、見た所変わった所はない。

普通の、優しそうで綺麗なおばさんだ。

だが、変わった所が『なさすぎる』

ニコニコと微笑を浮かべたその人からは、殺気も敵意もじない。

それどころか、気配が極端に希薄なのだ。

そこにいるのに、いないような存在

―――これは、ただものではない。

見た目通りの人ではない、確実に。

「・・・みんなァ、離れとくれやす。今からそこのおにいはんとちょおっとおもろいこと、するよってな」

「はーい!」「こっちこっち!」「なにするんだろ?」

子供たちが離れていき、俺たちの周りに円狀に広がった。

何をするつもりだ・・・?

「あの、一何を・・・」

俺がそう問おうとした瞬間だった。

「ほいな」「ッ!?」

俺が跳び下がった距離を一瞬で詰め、尼さんが薄してくる。

なんとか、唸る右腕を下がって躱した。

の細腕とは思えないほどの風鳴りが、辺りに響く。

「っほ」

次の一手は蹴りだった。

予備作なしで繰り出された地面を薙ぐ蹴りを、軽く跳んで躱す。

「ほい」「っご!?」

空中の俺に向け、軽く突き出された左手。

クロスした両腕でけるしかなかったそれは、衝撃と共にオレを吹き飛ばした。

この一撃、衝撃が『貫通』した!?

これは、後藤倫先輩や師匠と、同じ―――!?

著地した俺をニコニコと追いかけ、尼さんが迫る。

「ふふ」「っし!」

その顔面目掛け、牽制の右拳を放つ。

が、その拳にするりと両手が巻こうとしている。

関節を、極められる―――!?

「っしゃあ!!」

右拳を気合で止め、一気に引き戻す。

その反を利用し、左肘を下方向からかち上げるように放った。

狙いは、

いきなりで何が何やらわからんが、反撃しなければボッコボコにされる!!

「よっと」「っぐ!?」

全力で放った左肘が、草履を履いた足裏でけ止められた。

そして尼さんは、なんとその勢いで後方に跳躍。

軽く蜻蛉を切ってふわりと著地した。

・・・なんだ、この人。

まるで空気でも毆ったようなだった。

それに、今のき・・・俺の左肘の高さまで、その場で瞬時にジャンプしたぞ。

だけど、は軽いが打撃の威力は重い。

重心移が抜群に上手いんだ、この人は。

「・・・ふふぅふ、ええ子、見つけはったなあ」

今までの攻防が噓のように、尼さんは両手を口に當ててころころと笑っている。

その笑い方に、既視じる。

「急にオイタしてしもうて、堪忍しとくれやす。おにいはん、お名前は?」

この人は今に至るまで一度も殺気を出していない。

その証拠に、周囲の子供たちはまるでヒーローショーでも見ているように盛り上がっている。

ハナから、殺し合いをする気はなかったようだ。

「・・・南雲流、田中野一朗太、です」

「ああ~!やっぱりやわあ!」

俺の名乗りに、殊更嬉しそうに両手を合わせる尼さん。

何もわからないので直していると、不意に聲が響いていた。

「うわあああ!!師匠!!師匠ううううううううううううううううううううっ!!!!」

ダッシュで現れた式部さんが、何故か俺の背中に抱き著きながらそうんだ。

・・・師匠?

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