《気になるあの子はヤンキー(♂)だが、裝するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!》

タケちゃんの新作映畫が公開されることを知らなかった俺。

本當は観たくて仕方ない……が絶対にダメだ。

計畫が狂う。

敢えて、今日は映畫の『大パニック』を観ることにした。

事前にインターネットで調べたところ。

この作品をカップルで観に行くと、の余り、劇場から出ると、すぐにラブホテルへ直行するカップルが続出したとか。

いや、俺の目的はそっちではないのだが……。

とにかく、今日はこの映畫を観るのだ。

そのためにチケットも、珍しく前売り券を購しており、座席もインターネットで予約している。

カップルシートを。

なので、チケット売り場に並ばず、スクリーンへと向かえる。

途中、ポップコーンと飲みを買おうと、売店に並ぶ。

どうもアンナの顔が悪く見える。

「アンナ? どうした、なんか元気がないな?」

「うん……ごめんね。タッくんに會えるのは、すごく嬉しいし、楽しみだったけど」

「何か、心配なのか?」

「心配ていうか……タッくんが別人みたいに変わった気がして。怖いかな。どこか遠くへ行っちゃいそう」

え? 俺ってそんなに変わったかな。

筋トレのしすぎとか?

「な、何を言っている、アンナ。俺がアンナから離れるわけないだろ」

「本當? 今のタッくん。アンナじゃなくて、別の人を見ている気がする」

「……そんな訳ない! 俺は今日、自分の意思でアンナとデートをしたい、と思って來たんだから!」

なんで、こんなに暗いんだ? アンナ……。

デートをしているのに。

ブーッという音と共に、幕が上がる。

20年以上前に公開された名作、『大パニック』は當時、売れに売れて。

公開から約1年間のロングラン上映……という伝説を持つ。

俺が予約した座席は、カップルシート。

二人掛けのソファーみたいなもので、互いの間にひじ掛けが無い。

そのため、彼が彼氏の肩にもたれ掛かったり、暗闇に乗じてイチャイチャすることも可能だ。

巨大なスクリーンを前に、アンナが好きなチョコ味のポップコーンを右手に持ち。

しれっと左手を、彼の細い肩に回してみる。

アンナも嫌がる素振りは無い。

これぞ、カップルらしい映畫の楽しみ方じゃないか!

しかし……肝心の彼は。

「……」

終始無言。

そして、大食いのアンナがポップコーンを手につけていない。

何故だ!?

と、とりあえず、この映畫を観れば、アンナもしてくれるだろう。

~約3時間後~

大型客船は氷山に衝突してしまい、船はまもなく沈沒。

パニックが起きる船で、どうにかして生き延びようとする主人公とヒロイン。

壊れたドアの上にヒロインを乗せて、主人公はそれに摑まり極寒の海中を漂っていたが……。

最後は力盡きて、ひとり海へと沈んでいくのであった。

全てはするヒロインを守るため。

エンディングロールが流れ始めたころ。

予想通り、観客席からすすり泣く聲が聞こえてくる。

主にの観客だ。

そして俺の隣りに座っているアンナにも、同じ現象が起きている……かと思ったら。

「うわぁあああん!!!」

両手で顔を覆い、號泣というより……ギャン泣き。

他の客が引くレベル。

「お、おい。アンナ、どうしたんだ?」

「ひどいよぉ! こんな映畫、観たくなかったぁ!」

そんなこと言うなよ。監督やキャストに失禮だろ……。

「どうしてだ? 好みじゃなかったのか?」

「だってぇ! 最後に主人公が死んじゃったじゃん! この前のタッくんと重なったの! アンナのために死んでしくないっ!」

「あぁ……」

タイミングが悪かったようだ。

どころか、トラウマを植え付けてしまったみたい……。

悲しいラストシーンを観たせいで、アンナはかなり落ち込んでいた。

次から次へと、涙が溢れ出て來る。

見かねた俺がハンカチを貸したが、すぐにびしょびしょに濡れてしまう。

アンナ自も取りしていることを自覚したのか「とりあえずお手洗いに行かせて」とよろけながら、子トイレへ向かった。

「……」

の後ろ姿を見守りながら、を嚙みしめる。

クソっ、選んだ作品が良くなかったか。

これなら、タケちゃんの方が良かったのかな。

20分ほど経ってから、恐らくメイクを直してきたアンナが戻ってきた。

暗い顔で……。

「ごめんね、タッくん」

「いやぁ……俺こそ、すまん。あの映畫を選んだから」

「ううん。アンナも良い映畫だと思ったけど。どうしても、ラストの主人公がタッくんと重なって……」

「そうか」

でも、俺はあんなイケメンではないぞ。

失敗したことは、仕方がない。

やり直しなら、いくらでも出來る。

ここは一年前と同じことをやってみよう!

「なあ、アンナ。良かったら、プリクラを撮らないか? 初めて出會った時も、一緒に行ったよな」

「あ、うん……いいよ」

しだが、笑みが戻った。

ここから彼のテンションを上げさせて、良いムードにしないとな。

スクリーンから長いエレベーターに乗り込み、出口に到著すると。

すぐ左手に、ゲームセンターとプリクラ専用のブースがある。

アンナと初めて來た時、プリクラを撮影するのは人生で初めてだったが……。

過去に何度か、経験しているので慣れてきた。

そして今日のために、最新機種は全て把握済みだ。

「なあ、アンナ。今日はあの機種にしないか?」

「え……どうして?」

それを聞かれた俺は、自信満々に答えてみせる。

「ふふっ、プリクラの最新機種やんな盛り方など。スマホに専用のアプリをインストールしたから、俺も詳しくなったのさ」

なんて格好つけてみる。

「そ、そうなんだ……」

あれ? なんかめっちゃ暗い顔をしてる。

視線も逸らされてるし。

「とりあえず、撮影するか!」

「うん」

機械に貨を投して、いざ撮影タイム。

撮影する人數や背景、全モードなどは全て俺が選んだ。

慣れた手つきで、畫面をタッチしていると、背後にいたアンナが呟く。

「タッくん……見ないうちになんか、すごくプリクラに慣れたね」

「え?」

「前は何も分からなかったのに。アンナはもう要らないのかな?」

「あ、いや。そんなことないぞ? この機種に慣れているわけではなくて、事前に報を……」

言いかけたところで、また彼に遮られる。

「ひょっとして、マリアちゃんに教えてもらったの?」

「ち、違うぞ! 俺は自分で作方法を覚えたにすぎん」

正直に説明したつもりだが、今の彼には伝わらなかったようだ。

「一年前とは違うもんね。もうあの時のタッくんとは違う。アンナがひとり占めにしちゃダメだもん……強くなったし、んな子にモテるし」

「いやぁ、そんなことないぞ? 俺はこの數ヶ月、アンナのことしか考えていない」

ここだけは真実であると、強調したかったのだが。

「タッくん、優しい……だからモテるんだよね。もう一般人のアンナとは違って、有名な作家さんだし」

ちょっと理解に苦しむ。

そんな有名人なら、俺は博多を歩けないって……。

何故、今日のデートは、こんなにも上手くいかないんだ?

俺はこの1日に、全てを賭けているのに。

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