《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》15話 『お師匠』のこと
『お師匠』のこと
「茜ちゃん、元気そうで嬉しいわあ。どこも怪我してへんね、えらいえらい」
「し、師匠こそ、お変わりなく・・・で、あります」
「懐かしわあ、その口癖。自衛隊にならはってもいつも通りやねえ」
さっき俺に飛び掛かってきた尼さんは、なんと式部さんのお師匠さんだという。
子供たちと畑仕事をしていた時も、俺と戦っていた時も、なんなら今でもその表は慈に満ちた微笑みを浮かべている。
・・・恐ろしい。
に抱く想として大いに間違っている自覚はあるが、恐ろしい人だ。
さっき結構いていたというのに、息もれていないし汗をかいている様子もない。
『不自然なまでに自然』だ。
次の瞬間に俺の笛を握り潰しに來たとしても不思議ではないし、抱き著いて來ても不思議ではない。
こんなに一手先が読めない人間、師匠以來だ。
まあ、不自然なことはもう一つあるんだがな。
・・・式部さん、いい加減俺の背中から出てきてはいかがかな?
夏場のセミめいて著されると・・・その、結構恥ずかしいんですが。
當の本人はそれどころではないのか、この狀況を不思議に思っている様子は一切ない。
それだけ、お師匠との再會が衝撃的だったんだろうか。
・・・我慢するしか、ないか。
「師匠、お目にかかれて栄ではありますが・・・その、何故龍宮に?道場はどうされたのでありますか?」
あ、そうか。
式部さんは中學校の事件以後、他府県に引っ越してたんだよな。
道場もそこにあるんだろうし、放っておいてこんな所までツーリングしていていいんだろうか。
「ああ、道場なあ・・・燃えてしもてん」
『今日の晩飯はコロッケですよ』くらいの気軽さで、尼さんはそう言った。
「・・・ひょえぇ?」
俺の両肩に手を置いたまま、式部さんが面白い聲を出す。
見えないけど、比奈ちゃんよろしく目を真ん丸にしていることだろう。
「ま、そんなしょうことないのはええわ。茜ちゃあん、おいでな~」
尼さんは一層笑みを深くして、両手を広げた。
俺も思わず足がいてしまいそうになるほど、慈に満ちたポーズだ。
吸い込まれそう・・・地蔵菩薩かな?
「師匠・・・」
「頑張らはったんやね、々難儀したやろ。わて、お師匠はんとして鼻が高いわあ・・・ほんに、立派になってぇ」
「し、師匠うぅう・・・!」
し鼻聲になった式部さんは、おずおずと俺の前に進み出た。
いつも飄々としてるけど、若いの子だもんなあ。
お師匠さんが急に來て、揺したり嬉しかったり・・・軽いパニックなんだろう。
「ううう・・・わあああん!師匠うぅうう~~~~~!!!」
式部さんは両手を広げ、急に走り出した。
まるで、親と再會した子供のように。
「茜ちゃあん!」
尼さんはより笑みを深くし、変わらぬ姿勢。
2人はあっという間に近付いて―――
柏手を打つような乾いた音が、いくつも重なって響いた。
「・・・へ?」
噓だろ、なんだよ今のき。
てっきり師弟の涙の再會が見られると思ったのだが・・・
抱き合うと思った瞬間、2人の両腕が尋常じゃない速度でいた。
俺は目で追うのがやっとだったが・・・
尼さんが、先手をとって左右の拳を続け様に放った。
式部さんはその手首あたりに左右の手刀を沿え、迎撃した。
先程の乾いた音は、お互いの手が鳴ったものだ。
「茜ちゃん、泣き真似、下手すぎるえ」
「師匠は、逆に自然過ぎるでありますよ」
2人は1メートルほどの距離を置いて、向かい合って立っている。
お互いに抱きしめ合おうとした両手の姿勢は、若干姿を変えていた。
式部さんは、半になって左手を掌の形にして前に出し・・・右手は奇妙な握りでの影に。
尼さんは両手をだらりと下に下げ・・・両手は袈裟の袖に包まれ、見えない。
式部さんの重心が、僅かに前方へ移りかけたその時。
「―――ッ!!」「ふふぅふ」
式部さんが背後に隠した三鈷剣を逆手に握り、斜め上に跳躍しつつ空間を薙ぐ。
ぎゃりん、と金屬音が響き、空中に火花が散った。
「っし!」
式部さんが薙いだ三鈷剣を空中で切り返す。
すると、再びの金屬音と火花。
三鈷剣が空間を薙いだ瞬間、何かが見えた。
手裏剣・・・じゃないな。
軌道が変だ。
見たことのないきだ。
「足元がお留守え」「な・・・訳ないであります!」
著地した式部さんが、重をじさせないきですぐさま後方宙返り。
足元の土が、円狀に抉れて吹き飛んだ。
―――砂が付著してやっと見えた!
尼さんがっているのは、細い細いワイヤーに連結された苦無!
俺が知っているものとは違い、幅広の両刃だ!
・・・あれは、刺すのではなく斬ることに特化したものだろう。
「ふふぅふ」
優雅に舞うように、尼さんのが橫に一回転。
「んにぃ!」
式部さんは宙返りをしながら、三鈷剣を二度振る。
またも、火花。
「はぁ―――ああぁッ!!」
そして、著地しつつ三連続で薙ぐ。
金屬音と、またもや火花。
「ふうぅう・・・」
いつ抜いたのか。
式部さんは左手でも三鈷剣を持ち、迎え撃つように前方に向かって差して構えた。
殘心は、まだ解いていない。
「鈍っとらへんようやね。心、心」
始めの場所から一歩もかぬまま、尼さんは軽く両腕を手元に振って苦無を摑んだ。
そのまま、謎武が魔法のように袖に収納されていく。
ひええ・・・なんだアレ。
リールでも仕込んでるのかな。
「・・・お師匠、変形の『獅子(ししこう)』からの『獅子慧(ししえ)』は普通に死ぬでありますよ」
「しゃあないやん。こおんなかいらしい子供はんらおるとこで、『因陀羅(いんだら)』は使えへんやろ?・・・茜ちゃんなら大丈夫思てなあ」
「信頼が恐ろしいであります・・・」
「茜ちゃんかて『質多羅(しったら)』使わへんかったもんな。周りがよお見えとって心やわ」
・・・なんか凄まじい名前が飛びっているんだが。
たしかいくつかは聞いたことがある。
不明王の三十六子の名前だ。
ってことは、高度な技の応酬があったってことかな。
ウチの流派とは名付けが違うので新鮮にじるし、俺の中の年がウキウキしている。
・・・が、なんちゅう騒な挨拶だよ。
「ん~、稽古はずうっと積んでたんやねえ、ええ子、ええ子ぉ」
「むぎゅう、し、師匠・・・自分はもう子供ではないでありますよぉ・・・」
武をしまった2人は、今度こそ再會を喜び合って抱き合っている。
・・・アレが普通、なのか?『降魔不流』では。
恐ろし、俺は南雲流でよかった。
「すっげー!」「おばちゃんかっこいー!」「おねーちゃんも、すげー!」
子供たちは真っ赤な顔で手を叩いたりんだり、無邪気なモンである。
おおかたヒーローショーでも開催されたような気持ちなんだろう。
・・・俺はあの一瞬の技の応酬で冷や汗が止まらないよ。
「え・・・え・・・あ・・・えぇ・・・?」
気付くと、式部さんにホの字っぱかった例の男が口をパクパクさせている。
気になって様子を見に來たんだろうか。
信じられないものを見たような顔をしている。
・・・俺も全く同じ気持ちだよ、若者よ。
「―――おにいはん、田中野一朗太はん」
優しい聲とは真逆の、恐ろしく強い殺気が突如として叩きつけられた。
認識した瞬間に、ここがどこかも忘れて俺は後方に跳躍していた。
一切の躊躇なく『魂喰』の鯉口を切り、著地の瞬間に抜き放ちつつ下段へ。
迎撃の構えを完させた所で、やっと我に返る。
いかん、敷地で刀を抜いてしまった。
・・・まあ、今更か。
相手も武振り回してたし。
「ふふぅふ・・・これで、最後のおいたはおしまい。(ほんに、ええ男はんやなあ・・・ね、茜ちゃん。よかったねえ、會えて)」
「ふわぁあ~・・・で、あります!」
尼さんは、心から嬉しそうに歯を見せて笑っていた。
抱きしめられている式部さんは、神崎さんのように目を輝かせて何かを答えている。
・・・し、心臓が止まるかと、思った。
神崎さんのお爺さん級の殺気だぜ、ありゃあ。
さすが、一門の長だ・・・師範代ってのは化けしかいないのか。
俺は、ゆっくりとため息をついた。
チンピラよりも・・・いや、ネオゾンビより怖いや、この人。
「改めまして、黛伽羅(まゆずみ・きゃら)言います。よろしゅうたのんます、一朗太はん」
尼さんが、上品に頭を下げた。
伽羅・・・お香の方じゃなくて、絶対に『俱梨伽羅』から取った名前だろうな。
降魔『不』流だし。
「こちらこそ、よろしくおねがいします。田中野一朗太です、黛師匠」
「いややわあ、そないな堅苦しい呼び方やめとくれやす。気軽に伽羅ちゃん、言うとくれやっしゃ」
「・・・さすがに、ご勘弁を。黛さん・・・」
「うーん、まあそれならええわ」
呼べるわけないでしょ。
武道云々差し置いてもさっき會ったばかりの目上かつ年上のだぞ・・・!
無禮講にもほどがあるわ。
あれから俺達は畑仕事を手伝い、教會へ戻って來た。
再びお茶を出してもらって、テーブルについている。
メンバーは俺、式部さん、黛ししょ・・・さん、そして半沢神父だ。
加倉井さんはお晝ご飯を用意している。
心苦しいことに、俺達の分まであるそうだ。
今度何か手土産を持って來よう・・・
「一朗太はんには、茜ちゃんがほんにお世話になって・・・」
「い、いやいやいやまさか。式部さんがいなかったら俺なんてもう100回は死んでますから・・・ほんと、式部さんには足を向けて寢れませ痛ァい!?」
式部さんが俺の脇腹をものっそい捻っている!!
やめて!破けちゃう!!
なんでホントのこと言ったのに怒ってるんですか!!
「もうっ!怒るでありますよ!一朗太さん!!」
もう捻ってるじゃん・・・置き論破ならぬ置き捻りじゃん・・・!
「・・・とまあ、このように自己評価があり得ないくらい低いのが一朗太さんであります。中は自分が知る最も頼りになるお方でありますが」
「しょ、しょんな・・・」
すげえ褒めるじゃん。
やめてくれよ・・・顔が食べごろの柿みたいになっちゃうから・・・
あれ?ていうか今さらっと悪口言われませんでした俺?
「ふふぅふ」
黛さんが口元を抑えてくすくす笑っている。
この笑い方、式部さんとそっくりだ。
師弟は似るって言うからなあ・・・俺は絶対師匠と似てないけども。
「今日はほんにいい日やわあ・・・茜ちゃんに會えただけやのうて、始終言うてはった白馬の王子様にも會えたさかいに」
「っし!?師匠ォ!?」
式部さんが真っ赤な顔でんだ。
「いち、いちろうたしゃ、あにょ、こりぇはアレでありましゅ!命の!命の恩人!そう恩人のことであります!!し、師匠はロマンチストですのでっ!!」
白馬の王子様だぁ・・・?
そりゃ、確かに式部さんを助けはしたが・・・そんなに綺麗な場面じゃなかったと思うぞ。
ぶっ倒れたから覚えてないけど、塗れだったし・・・どっちかというと黒馬の黒騎士とかそういうじじゃ・・・いや、それはそれで別ベクトルの格好よさがあるよな。
「(師匠ゥ!)」
「(なんやの?茜ちゃん心変わりでもしたんえ?)」
「(そんなことは死んでもないでありますが!あの!そういうのは時と場合というか自分で言いたいというかなんというか・・・!!)」
「(・・・慣れた人にだけややこしなるの、変わってへんなあ・・・茜ちゃん。一朗太はんはその最上級やね)」
式部さんは抱き著くように黛さんに詰め寄り、何やら部屋の隅で緒話をしている。
なんだろう、積もる話があるなら席を外すけどなあ。
「田中野くん」
「はい?」
黙っていた半沢神父が、俺の肩を優しく叩いた。
「キミは・・・十兵衛先生によく似ているけど、ある意味全く似ていないねえ・・・」
だが、その目には哀れな子羊でも見るようながあった。
・・・なにが!?
「そうでありました!師匠!道場が燃えたとはどういうことでありますかっ!?」
しばらく後、席に戻って來た2人だったが急に式部さんが泡を食ったようにんだ。
あ、そんなこと言ってたっけ。
その後のインパクトがデカすぎてすっかり忘れていた。
大火事にでもあったのかな?
「あー・・・ゾンビが大群で大暴れしてもうて、近所のガソリンスタンドがこう、ボーンってなってしもてな。道場の周り、空き家ばっかやったから・・・気が付いたらなんもかんも燃えてしもて」
「なんと・・・やはり、そちらでもゾンビが出ていますか」
・・・わかっちゃいたが、我が県とその周辺だけにゾンビが湧いてる疑も払しょくされた。
日本全國、しっちゃかめっちゃかだなあ。
平和な土地はなさそうだ。
「ここは平和やねえ。わての所は人よりもゾンビの方が多いくらいやったわあ・・・そんで、気軽な獨りやしここは一つ茜ちゃんの顔でも見よか、思てなあ・・・來てもうた」
・・・なんとも、フットワークの軽い人だ。
さっき半沢さんに聞いたが、黛さんの道場は我が県と500キロは楽に離れている。
そんな距離を1人で、しかもバイクでやってくるとは・・・この狀況の最中を。
っていうか、マジで他府県ヤバいな!?
ここはまだゾンビの方がないけど・・・何故だ?人口比率的に倍々でゾンビになるってのか?
だとしたら、首都なんてゾンビの國になってそうじゃないか・・・大丈夫かな、この先。
こっちまでは來ないだろうけど、どこぞのバイオゲームみたいに核で『消毒』なんてことになったらさすがに詰みだぞ。
もっとも、核保有國も外國に気を遣ってる余裕なんてなさそうではあるが。
「では師匠、これからどうされるおつもりでありますか?もしよろしければ、自分の裁量で神楽高校に部屋をご用意するでありますが・・・」
それを、黛さんが靜かに、だが厳しく遮った。
「―――あかんで、茜ちゃん。それはあかん・・・避難所は子供はんや病人のためのもんや、こんな元気で人なお師匠はんの席はいらへん」
「し、しかし・・・」
黛さん、しっかりしてるな。
弟子の世話にはならん、ってか。
師匠と同じタイプの人間だなあ。
「心配しいひんでも、龍宮にはアテがあるさかい」
「・・・あの、こちらにお知り合いでも?」
俺が思わず聞くと、黛さんはこっちを見た。
「こっから5キロくらい西に『龍王寺』っちゅう所があるんよ。住職はんが10年前に亡くならはって廃寺になっとるけど・・・言で管理を任されとってねえ、今までも年に2回は來てたんよ」
「そこに住まれるんですか?アレでしたら俺もお手伝いを・・・」
「じぶ!自分もお手伝いするでありますっ!」
式部さんも橫からってきた。
師匠思いだなあ。
「こまい寺やから手伝いはいらへんよ。これも修行やさかい」
しっかりした人である。
「半沢はんとこに來たのも、引っ越しの挨拶みたいなもんや。子供はんらもみいんなニコニコしとって、ここはええ場所やわあ・・・」
「私がどうこうじゃないさ。子供たちが率先して頑張ってくれているだけだよ」
半沢神父はニコニコしている。
これが人徳というやつだろうな。
俺からは逆さにしたって出てこない分である。
「そうですか・・・それでも師匠、神楽に是非顔を出してほしいであります。責任者の方々にご紹介もしたいので」
「そうやねえ、茜ちゃんがお世話になっとる人らには、師匠として筋通さんとあかんねえ」
「そうでありますか!それでは自分が先導いたしますので!都合がよろしければ行きましょう!」
式部さん、いつもより余裕がなさそうだけど・・・この人の前だと年相応のの子ってじで新鮮だ。
俺も、師匠の前だとこんなじなんだろうか・・・?
いやあの爺は積極的におちょくってくるからな、違う違う。
「一朗太さん!申し訳ありませんが・・・」
「運転でしょう?任せといてくださいよ」
「はいっ!!ありがとうございます!!」
嬉しそうにする式部さんを、黛さんが娘でも見ているように眺めている。
いや、年齢差からすれば親子でもおかしく・・・やめとこう!何故か死ぬ予がする!!
の年齢の話はナシ!ナシ!!
「嬉しそうですねえ、式部さん」
「ええ!お師匠をみなさんに紹介するのが楽しみであります!特に古保利三等陸佐には―――」
にこやかに言おうとした式部さんの肩に、瞬時に手が現れた。
黛さん・・・はっや。
いついた?
『起こり』が微塵も存在しなかった・・・ヒエッ。
「―――茜ちゃあん、今『古保利』いわはった?いわはったよねえ」
背後の黛さん、超怖い。
笑顔なのに、超怖い。
うおお・・・あし、足が震える。
なんちゅう迫力だ。
「は、はひ」
「ひょっとして・・・自衛隊の、古保利、文明、いわはるお人?」
「は、はい・・・そうでありますぅう・・・」
目を白黒させる式部さんがちょっとかわいい。
それに対し、黛さんはゆっくりと區切って古保利さんの名前を読んだ。
なん、だろう・・・
知り合いには違いないが、そんなに愉快な知り合いだとは到底思えない。
こ、これ連れてっていいの?
なんか神楽にの雨とか降らない?
「半沢はん、ほんならそろそろお暇させてもらいますえ?また顔出しますよってに、子供はんらによろしゅう」
「ああ、私も懐かしい顔に會えて嬉しかったよ。子供たちも喜ぶから、いつでも來るといい」
そんな空気の中、半沢神父だけは自然だった。
これが年の功ってやつか・・・?
「―――あんまり暴れちゃ駄目だよ、伽羅ちゃん」
あ、逃げたい。
軽トラをここにおいて走って高柳運送まで逃げたい。
切実にそう思った。
結局やむにやまれる事により、晝ご飯をキャンセルしてすぐさま神楽へ向かうこととなった。
黛さんは急かさなかったが、有無を言わさぬ雰囲気だったからだ。
斷る勇気は、俺にはない。
むしろ、それは勇気ではなく蠻勇と呼ぶのだ。
「せめて、敵わぬまでも防に徹すれば・・・」
「一朗太さん一朗太さん、お気を確かに」
冷や汗をかきながらハンドルを握っている。
バックミラーには、大型バイクを乗りこなす黛さんの姿があった。
・・・袈裟にバイクヘルメットが凄まじくアンバランスだ。
背中に錫杖までマウントしちゃってさあ・・・非日常間が凄い。
「確かにお師匠はすごい迫力でしたが、アレは殺すとかそういう類の迫力ではなかったであります。なんらかの因縁があるのは確かでしょうが・・・」
「そ、そうなんですか?古保利さんと何か関係があるんですかねえ」
「自分は職場のことを話したことはありませんので、皆目見當がつかないであります・・・お役に立てず申し訳ありません」
「いやいやいや」
助手席で土下座せんばかりの式部さんをなだめる。
「まあ、さっきの言いから避難所で暴れるような人じゃないでしょうし・・・」
「で、ありますね!お師匠は子供や老人には優しいでありますから!」
「・・・ちなみに悪い人には?」
「・・・自分が門して間もない頃、街中でストーカーに刺されそうになっている若いがおりまして・・・助けにったお師匠がその、犯人の関節の數を2倍に増やして一時的に拘留されたことが・・・」
うわあ。
南雲流と同じタイプのウォーモンガーだ。
あの古保利さんが悪事に手を染めているとは考えにくいが、萬が一そうだったら・・・
「・・・古保利さん、あなたのことは忘れませんよ、お世話になりました」
「一朗太さん!一朗太さんお気を確かに!三等陸佐を亡き者としてカテゴライズしないでいただきたいであります!!」
「ごめんなさい冗談ですから揺すらないで事故る事故るゥ!!」
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「あらぁ、晝間っから繰り合うて、若い子ォはええわあ・・・」
「茜ちゃん、ほんまにえかったなあ・・・幸せそうで、わては嬉しおすえ」
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そして、行きたくなくても車は進む。
あっという間に神楽の正門まで到著してしまった。
こうなったらもう、なるようにしかならんぞ。
開き直ろう。
の雨が降ることはないだろうし。
・・・たぶん。
導されるまま駐車場に軽トラを停車させ、降りる。
今日は正門でめる奴らはいなかったな。
ちなみに黛さんは式部さんが門番に話を通したので無事場できた。
定住希者じゃないってのも効いたんだろうな。
そして、軽トラから降りてすぐに見知った人が玄関から出てきた。
「おや、田中野くんじゃないか。今日來るって聞いてなかったけど、何か急な用事でも・・・」
喫煙のためか、火のついていない煙草を咥えた古保利さんだった。
ある意味渦中の人である。
「あーその、古保利さん、実は・・・」
俺が説明しようとしたその時、軽トラの影に停めた大型バイクから黛さんが降りてこちらへやってきた。
古保利さんは足音で気付いて俺の後ろを見て―――
「大きなったなあ、ボン」
そう聲をかけた黛さんを認識した瞬間。
「―――人違いですっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大聲でび、校舎へ一瞬で消えた。
・・・はっや、100メートル9秒臺じゃない?アレ。
「相変わらず恥ずかしがりややわぁ、ふふぅふ」
穏やかに笑う黛さんを見ながら、俺は式部さんと見つめ合うことしかできなかった。
「古保利さん、安らかに・・・」
「一朗太さん一朗太さん!お気を確かに!!」
※しばらく不定期更新(1週間に1回前後)になります。
申し訳ありません。
詳しくは活報告にて。
傭兵少女と壊れた世界
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