《聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】》第96話 一どうしたら
雪が解け始めた王宮の庭を窓から見下ろしながら、私はハァとため息をついた。
そばでは、アイがショコラとともに楽しそうに部屋の中を走り回っている。
その顔は無邪気そのもので、今王宮中に立ち込めている暗雲には、まったく影響をけていないように見える。
でも私は知っていた。
何てことのない顔をしながら、アイもしっかりと異変をじ取っていることに。
なぜならユーリ様が朝食の時にいないことも、寢る時にいないことも、まったくれてこなくなったんだもの。以前までは「パパは?」と事あるごとに聞いていたのに。
ごめんね、アイ。私が守ると決めたのに、不甲斐ないわ……!
私はぐっと拳を握った。
この間ハロルドがリリアンと話をすると言っていたけれど、実はあれ以來、全然彼と連絡がつかなくなっていた。それはユーリ様の時とまったく一緒で、突然謎の護衛騎士がハロルドについたかと思うと、通してもらえなくなったのよ。
本當に笑ってしまうわ。ユーリ様の近衛騎士である彼に護衛って、一何の冗談なの?
けれどそれがユーリ様の命令なのだとしたら、皆は何も言えない。
どうしたらいいのかしら……。この間はついに、ユーリ様の部屋に繋がっている寢室の扉を使おうとしたのに、そこにも鍵がかけられていた。
呼んでもだめ、會いに行ってもだめ、何より、確信にれようとする度に発作が起きる。
一どうしたらこの狀況を打開できるの……!
「王妃陛下。サクラ太后陛下がお呼びなので、すぐ來ていただけますでしょうか?」
そこへノックの音がしたかと思うと、サクラ太后陛下付きの侍が顔を覗かせた。
この間も呼びに來た侍だ。
「サクラ太后陛下が……?」
「はい。それで、あの……今日は王妃陛下おひとりで來てほしいとのことです」
「私ひとりで? アイは?」
「王妃陛下が戻るまで、騎士たちとともに私が面倒を見るよう言付かっております」
……つまり、アイには聞かせられない話なのね。
「わかりました。伺います」
私はアイに、戻ってくるまで待ってほしいと伝えると、何かを察したアイはすぐさまこくんとうなずいた。その姿も健気で、私のがぎゅっと痛くなる。
――太后陛下が待つ部屋には、太后陛下のほかに、ホートリー大神の姿もあった。
大神はいつも困ったように眉を下げているけれど、今日の下がり方は特に激しい。
……きっと、私たちのことが耳にっているのね。當然だわ、あれだけ噂になっているんだもの……。
「エデリーン。私が何を言おうとしているのか、敏い貴方なら既にわかっているでしょう」
「……ユーリ様と私のこと、でしょうか」
予想通り、サクラ太后陛下はゆっくりとうなずいた。
「その通りよ。でも、勘違いしないで。私は決してあなたを責めたいわけではないわ。むしろ申し訳ないと思っているのよ」
申し訳ない?
意味が理解できなくて目を丸くする私に、ホートリー大神が言った。
「実は、彼――リリアンが企みを持っていることには気づいていたのです。ですが、そこまでの力はないだろうと甘く見積もった結果が、エデリーン王妃陛下を悲しませることに……。本當に申し訳ない……!」
下げ眉をさらに下げて、ホートリー大神が私に頭を下げた。
「それを言うなら私も同罪よ。ホートリーから話を聞いて、彼ならもしかして……あなたがたの背中を押してくれる、いいスパイスになるのではと、期待してしまったの。でも出過ぎた真似だったわ。本當にごめんなさい、エデリーン」
同じく頭を下げるサクラ太后陛下に、私は仰天した。
「ふたりとも頭を上げてくださいませ! おふたりが何を言っているのかはわかりませんが、リリアンの企みを知った上で野放しにしたというのなら私も同罪ですわ……。だから本當に、謝るのはよしてくださいませ」
「ありがとう、エデリーン」
痛ましい表のまま、サクラ太后陛下が言う。
「代わりと言っては何ですが、私たちにも罪滅ぼしをさせてちょうだい。明日、ユーリを私の名で呼び出します。その場にエデリーン、あなたも同席なさいな」
「わたくし、こう見えても大神位ですので、必ずやお力になれると信じております」
ふたりの言葉に、私はパッと顔を輝かせた。願ってもいない助けだった。
「ありがとうございますわ!」
そんな私を見て、サクラ太后陛下がホッとしたように言う。
「……思ったよりも元気そうで、安心したわ。貴方は強いのね。私は先代の國王の心が離れた時、立ち直るのに十年もかかってしまったのに」
その言葉に、私はしばらく考えた。
「……強い、というわけではないですわ。ただ、ユーリ様を信じているだけで」
「信じている? ……ユーリの心が、絶対に貴方にあるということをですか?」
「いいえ、まさかそんな」
そもそも私たちは、ちゃんとした夫婦にはいまだになれていないのだ。寢室をともにしてはいても、アイがいる中でそんなことは當然しないし、くちづけだって未遂のまま。
サクラ太后陛下が心配してあれこれ後押ししたくなるのも、仕方のないことなのよね。むしろ々気を遣わせてしまって、申し訳ないわ。
「私は、私に対してではなく、ユーリ様のアイへの気持ちを信じているんです。きっとアイに顔向けできなくなるような、傷つけるようなことはしない、と……」
「そう……」
サクラ太后陛下はまだ何か言いたそうにしていた。
けれどこれ以上は、と思ったのだろう。
「わかりました。なら、今はこれ以上何も言いません。明日だけ同席なさい。まずはユーリの目を覚まさせないといけませんからね」
「ありがとうございます、サクラ太后陛下、ホートリー大神」
私はうやうやしく禮をすると、その場から立ち去った。
……明日になれば、何か解決の手立てが見えるかもしれない。
思わぬ形で舞い込んだ朗報に、私が張り詰めた息をほんのしだけ緩めた時だった。
部屋に戻る途中、廊下の向こうから、マクシミリアン様が歩いてきたのよ。
「やあ、エデリーン」
ごめん……!!!
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