《骸骨魔師のプレイ日記》ミツヒ子の勧
アルトスノム魔王國への移住を募るよう依頼をけたミツヒ子は、謎の小島から帰還した直後から力的に活し始めた。『ノンフィクション』の記者達には普段通りに取材をしてもらいながら、彼が知っている魔プレイヤークランの中でも特に信頼出來る人を選んで移住とけれの話があると伝えたのだ。
伝える手段はメッセージなどではなく、わざわざ相手の拠點に出向いて直接口頭で伝える方法をとった。そうすることでより信頼の強い報だと教えるためである。
この説得にはミツヒ子が赴いたクランの全てが食い付いた。これは彼と相手クラン間に十分な信頼関係が構築されていたということも大きいが、それ以上にジゴロウと源十郎のネームバリューは大きかったらしい。説得の際、彼はイザームによって撮影された、二人と自分が一緒に映ったスクリーンショットを見せていたのだ。
超が付く有名人二人が加わっている魔の王國。しかもその國は最も裕福なプレイヤーとされるコンラートとも取引がある。そんな國に移住可能と言われたのだ。興味を持つなと言う方が難しいだろう。
ただ、あまりにも都合が良すぎる話では逆に疑わしく思う者もいる。そう予見していたミツヒ子はきちんと魔王國についての注意點についても説明していた。
魔王國には多くの住民(NPC)が暮らしており、彼らを尊重出來なければ追い出されること。街に拠點を置く場合、街の所有者である國王に稅金を納めなければならないこと。そして何よりも、國王からの許可が下りるまでは決して口外しないこと。これを守れる者だけがけれてもらえると言うのだ。
プレイヤーによってはそこそこ厳しく映るかもしれない縛りであるが、難を示す者はいなかった。多の縛りが付くことなど、安全な街に拠點を置ける安心の前には霞んでしまうようだ。
條件を飲んだクランのリーダーには、ミツヒ子の手から一通の手紙が贈られた。これはクランへの招待狀である。この招待狀には場所と日時が三通り記されており、そのの都合の良い日時に指定の場所に行けば魔王國行きの船に乗れることになっていた。
この場所と日時は全て把握していたミツヒ子は、最初の日に彼が率いる『ノンフィクション』の記者達を連れてその場に來ていた。この勧をもってカキアゲの無禮は完全に許されると同時に移住を認められたのである。
隠蔽と隠が得意な記者とはいえ、安全な拠點を構えたいとは常々思っていた。特にスキャンダルをすっぱ抜いた相手からは命を狙われており、命を狙う者達が簡単には來られない場所というのは非常に都合が良かった。
指定されたのは海辺にある小さな窟の深部にある地底湖だった。この窟は生息する魔と採取可能なアイテムが両方ともあまり利益が見込めないことから人気はない。待ち合わせに使うのに最適と言えた。
「それにしても…どうしてここなのでしょうか」
ミツヒ子は地底湖を眺めながら常々抱いていた疑問を口にする。この窟そのものが見付かり難い場所にあり、人気もないので窟の口前でも良かったはず。それに地底湖まで降りてしまったら、窟から外に出るのに戻らなければならない。どう考えても非効率的であった。
疑問を抱いている彼を他所に、地底湖には続々と彼が勧したクランの魔プレイヤー達が集まっていく。ひっきりなしにプレイヤー達が集まっており、気が付けばまさかの勧した全てのクランが集結していた。
「全員集まるとは…やはり安全な拠點を求める気持ちは、プレイヤーに共通しているようですね」
「うわっ!?しょっぺぇ!」
「ギャハハハハ!」
「はぁ、何してんだか」
魔プレイヤー共通の悩みが自分の見込み以上に大きなモノだとミツヒ子が再認識していると、魔プレイヤーの一部が騒がしくなっていた。ふとそちらを見ると、どうやら一人のプレイヤーが地底湖の水を飲んだようなのだ。
この窟が不人気な理由の一つがこの地底湖の水である。通常、窟の地底湖などでは品質の良い真水が手出來ることが多い。だが、この地底湖の水は海水なのだ。
どうやら地底湖の湖底に窟があり、それが海へと繋がっているらしい。その窟が非常に深い位置にあり、海中での行に特化した者達でなければ到達することすらも難しいのだ。この地底湖が窟のボスがいる空間に続く通路からは離れた位置にあるというのも、地底湖に訪れる者が滅多にいない理由の一つであった。
地底湖の水を飲んだ者のリアクションに笑する者もいれば呆れる者もいる。怖いもの見たさに水を舐め、同じように悶絶する者もいた。異なるクランの者同士でも和気あいあいとしており、地底湖の空気はほのぼのとしていた。
「そろそろ時間ですか…」
「うん、そうだね」
「っ!?」
結局、待ち合わせの時間になっても地底湖に集められた意図がわからなかったミツヒ子だったが、彼のふと零した呟きに応える聲が耳元から快活そうなの聞こえてきた。あまりに急だったこともあり、彼は短く息を吸い込んで大きな聲を出さないようにするのが一杯であった。
ミツヒ子に話しかけたのは、いつの間にか彼の肩に乗っていた粘(スライム)である。明でありつつも、角度によっては寶石のようにキラキラと輝いて見えるしい粘(スライム)にミツヒ子は目を奪われていた。
「何だ、お前!」
「編集長から離れろ!」
驚愕するミツヒ子にいち早く気付いたのは、他のクランの斥候職プレイヤー達だった。応えた瞬間から察知していた彼らは、その粘(スライム)を追い払おうとする。粘(スライム)は肩に居座ることにこだわらず、肩から跳躍してこれを回避した。
一連のやり取りによって直前までの和やかな雰囲気は一変し、謎の粘(スライム)に対して多くの者達が強い敵意を向けている。地底湖前はいつ戦闘が始まってもおかしくない迫に包まれていた。
「待って下さい!貴はひょっとして魔王國の…?」
「正解!ボクはルビー。魔王國から迎えに來たよ」
間に割ってったミツヒ子の推測は當たっていた。冷靜に考えれば今日、それもこの時間に部外者が來る可能は非常に低い。しかし、この粘(スライム)に見覚えはない。ならば答えは一つ。魔王國側の人であるということだ。
ルビーが名乗りを上げた瞬間、地底湖の底から何かが上がってくる。湖面を突き破って姿を表したのは、鯱の魔に乗った人類プレイヤー達だった。
「お、おい!こいつら『蒼鱗海賊団』じゃないか!」
「へぇ?ウチを知ってる奴もいるんだね」
『ノンフィクション』の記者の一人が大聲でぶと、一際大きな鯱の上に乗っていたが濡れた髪をかき上げながら不敵に笑う。悪名高いPKの中でも海賊団を名乗る數ない集団として有名だった。
神出鬼沒な集団としても有名だったのだが、一般的に認知されていない魔王國に潛伏していたのならば合點がいく。同時に魔王國はPKであろうともけれる場合があるようだ。
「アタシはアンってんだ。まあアタシらのことはどうでも良いさ。アンタ達は魔王國に移住するってことで良いんだね?良いならコイツに乗り込みな!」
『蒼鱗海賊団』のリーダー、アンが言うが早いか湖面を突き破って新たに別のモノが現れる。それは金屬製の巨大な直方だった。所々に縄が繋がれており、その縄は水中へと続いていた。
その直方はゆっくりと地底湖の岸に接岸すると同時に、直方は口を開くようにして扉が開く。中は広く、いくつもの腰掛けが設置されていた。
「コイツは泳げないだろうアンタ達を運ぶ方舟さ。乗ったら後はアタシらが運んでやるよ。小窓はないから海中の観は出來ないけどね。突貫工事で作ったモンだから仕方ないって諦めておくれよ?ああ、あと変なことをしたら棺桶に変わるからね」
アンが話している間にも方舟と呼ばれた直方は次々と水中から現れる。魔プレイヤーはの大きさに差異があるのだが、事前にサイズを聞いていたこともあって全員がっても十分な広さが確保されていた。
しかも天井には魔石式のランプが設置されており、窓はなくとも部の明るさは確保されている。突貫工事とはいえ、わざわざこれほどのモノを作る魔王國の技力は移住希者達の期待を大きく膨らませた。
PKというプレイスタイルの者達を信頼しても良いかどうかは微妙なところだが、この金屬の方舟にらない限り魔王國へ行くことは出來ない。集まった者達はおっかなびっくりといった様子で中にった。
全員がったことを確認すると、方舟の扉がゆっくりと閉まる。その後、方舟は地底湖の中へと沈んでいく。下へ下へと沈む覚はどこか不安を抱かせる。彼らは一様に張の面持ちとなっており、一部は座席にしがみついていた。
しばらくの間、方舟は一定の速度で進んでいた。その速度は緩慢である。どうやら地底湖と海を繋ぐ窟に狹い場所があり、そこは方舟がギリギリ通る広さしかないらしい。どの方舟も一度とは言わず窟の壁に船をり、その度に乗っていた魔プレイヤー達は肝を冷やしていた。
「おわっ!?」
「揺れっ、って急に速く!?」
船がるほど狹い場所を越えたのか、方舟が進む速度はし上昇した。このままの速度で魔王國まで運ばれるのか。彼らがそう考え始めた辺りで、方舟は急停止したのか部は大きく揺れる。彼らの驚きも束の間、方舟は一気に加速し始めたではないか。
急加速によって船で転がる者達が多數現れたものの、速度が乗れば部は安定する。暴な扱いに辟易しつつも、彼らに今更ここから出るという選択肢はない。魔プレイヤー達は既に濃い疲労のを顔に浮かべながら魔王國に著く時を待つのだった。
次回は9月27日に投稿予定です。
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