《骸骨魔師のプレイ日記》到著する魔プレイヤー達

金屬の方舟に乗り込んだ魔プレイヤー達だったが、ヒヤリとすることが起きたり大きな揺れに襲われたりしたのは最初だけであった。それからは特に何か起きる訳でもなく、ただ到著するまで待ち続けるだけになっていた。

待つだけとなれば彼らは途端に暇をもて余してしまう。方舟には窓も何もなく、船の景が変わることはない。自然と彼らの暇つぶしは船に乗り合わせた者達との流になっていた。

方舟は一つ一つが大きく、相応に部も広い。クラン毎に固まって方舟に乗っているのだが、一つのクランだけで方舟が埋まることはない。どこも相席狀態になっていて、他のクランと親睦を深めるにはうってつけ…というよりもそれしかやることがなかったのである。

「魔の王國って話だったけど、魔だけって訳じゃないんだな」

「それにしたって海賊とはなぁ。こういうのを想像の埓外って言うんだろうぜ」

そんな彼らの話題は自然と魔王國についてになっていた。魔王國という名前から人類プレイヤーがいることに驚く者もいれば、アン達について言及する者もいる。報が絞られているものの、だからこそ突拍子もない推測をして楽しんでいた。

ただ、この狀況で困っている者が一人だけいた。それは唯一事前に魔王國側と接したことがあるミツヒ子である。彼と同じ方舟に乗っている者達は、彼が率いる『ノンフィクション』の記者達までも彼を質問攻めにしていた。

「だから何度でも言いますが、私も知っていることはほとんどないのです」

しかし、聞かれたところでミツヒ子もまた魔王國についてほとんど何も知らなかった。あくまでも彼は人脈を使って良識のある者達を勧するように依頼されただけであり、魔王國側からの詳細な説明などはなかったのだから。

唯一わかっていることは魔王國には『蒼鱗海賊団』だけでなく『コントラ商會』も食い込んでいることだけ。どうせ魔王國にも支店があるのだろうからと、ミツヒ子はそのことだけは話せていた。

「ついに溜め込んだ金が使えるのか!」

「貨幣経済の仲間りだ!」

ただ、その程度の報でも聞いた者達は歓喜していた。彼らはアイテムを得られても換金する手段が得られるようになったからだ。

一応、『ノンフィクション』の護衛などで金銭のやり取りを行ったことはある。しかし、そうやって貯めた金を使って『ノンフィクション』経由でアイテムや武を買うだけで、言うなれば『ノンフィクション』を通販代わりにしていただけなのだ。

だが、魔王國に行けば自分の目で見て自分で品を選ぶことが出來る。それだけのことが彼らにとっては大喜びするほどの革命的な出來事だったのだ。

どんなアイテムが売ってあるのか、またはどんなアイテムを買いたいか。ミツヒ子と同じ方舟に乗った者達はそんな話題で盛り上がることになった。

「あっ、止まったか?」

「うおっ!浮かんでるぞ!著いたんじゃないか!?」

話で盛り上がっていると、ゆっくりと減速し始める。その後、完全に止まったかと思えば方舟が浮上を開始した。ただ、まだ到著した訳ではなかったらしい。方舟は再びき始めた。

二段階で進む意味はよくわからなかったが、なくとも加速は緩やかであったし加速する時間そのものも短かった。どうやら最初の移の時よりも速度を出していないようだった。

「また止まった…今度こそ著いたのか?」

「あっ、今外から音が聞こえた!ザバッて!」

そして二度目の停止と浮上が行われる。二度あることは三度あるかと思っていた魔プレイヤー達だったが、方舟の外から水面に出た音が聞こえてきた。どうやら完全に浮上したようだ。

浮上したと誰もが確信した直後、方舟の扉が開かれる。方舟の部は明るく、また外は曇っているのかに慣れるまで前が見えないという狀況にはならなかった。狹い扉の外に広がっていたのは、しい街並みの港町であった。

「やあやあ、ようこそ。ここは魔王國の港町『エビタイ』だよ」

一列に並べられた方舟の扉から外に出た魔プレイヤー達を出迎えたのは、微笑みを浮かべた人類だった。そのアバターは男のモノで、外見に奇抜さは一切ない。ただ、目端の利く者は明らかに戦闘向きではないただの平服が、自分達の持つ裝備以上の高級品だと気付いていた。

そんな高級品にを包む男の背後には同じく人類が並んでいるが、そこにいるのは人類だけではない。人類に限りなく近いが彼らの知識にはない種族(レイス)がいたのだ。

れ墨のような紋様がった種族(レイス)、下半が四腳の種族(レイス)、淺黒い耳が長い種族(レイス)…どれも人類と定義される種族(レイス)に近いが的特徴が明らかに異なっている。彼らの存在が、この土地は一般的には知られていない場所なのだと強く語っていた。

「僕はコンラート。知ってる人もいるだろうけど、『コントラ商會』の會長だよ。ここの王様とは親友でね。楽しく商売をさせてもらってるんだ」

プレイヤーの中でもかなりの有名人であるコンラートの登場は、彼が魔王國に食い込んでいるとミツヒ子から聞いていた者達以外にとっては青天の霹靂であった。だが、それは彼らに警戒よりも期待を抱かせる。プレイヤーでは最大の資産を持つだろうコンラートが重要視する土地であるとも言えるからだ。

そのコンラートは魔プレイヤー達を直々に先導していく。珍しそうに港町をキョロキョロと見回しながらついていく魔プレイヤー達の姿は、まさしくお(・)の(・)ぼ(・)り(・)さ(・)ん(・)そのものだった。

ただし、彼らが見回すのも仕方がないだろう。彼らは文明とは程遠い場所に拠點を置いていたことも理由の一つだ。だがそれ以上に、街並みが非常にしかったからだ。

街の至る所にをモチーフにしたレリーフや彫像が設置されているし、壁にも複雑でしい紋様が刻まれている。人類プレイヤーが掲示板等にアップロードしている街などよりもよほどしい。彼らはこのしさに圧倒されていた。

「次はこれだね。この水路に乗った先に魔王國の首都『ノックス』がある。さ、乗ろうか」

プレイヤー達が圧倒される景もコンラートにとってはごく當たり前のモノであるらしい。何の慨も見せずに通りを歩き、彼らを案した先にあったのは幅の広い水路であった。

水路はしっかりとした作りであり、街並みと同じく新品に近い見た目である。桟橋には數隻の船が繋がれており、そのの一隻にコンラートは乗り込んだ。

彼に続いて魔プレイヤー達も船に乗っていく。全員が乗ったところで、船はゆっくりとき始める。ただ、そのときに目端が利く者は風が吹いていないことに気が付いた。

「これ、どうやって進んでるんだ?」

「ホントだ。風もないし…スクリューとか?」

「スクリューじゃないよ。技的には可能だけど、危ないからね」

風力ではないのなら、スクリューによっていているのではないか。そう予想した者もいたものの、話を聞いていたコンラートによって否定された。さらっとスクリューを作る技はあると斷言されたものの、今更そこに突っ込む者はいなかった。

一方で、コンラートの語った理由に納得が行かない者がいた。確かにスクリューに巻き込まれる事故を聞くことはある。安全面でスクリューを危険視するのはわからないでもない。

だが、それは回っているスクリューの近くに落ちた時にのみ起こる事故だ。スクリューに巻き込まれることを危険視するのなら、落水しないように対策を講じれば良いだけのこと。それがどうしてスクリューそのものを否定することに繋がるのか。その答えにたどり著く者はいなかった。

「スゲェ…立派な城壁だぜ」

「思ってたよりもデケェぞ」

「あの側で暮らせるって、マジかよ」

なぜなら、水路の先に分厚い城壁に囲まれた都市が見えてきたからだ。スクリューについて考察するよりも、こちらの方が余程重要である。その威容に彼らは目を奪われていた。

水路の先では格子狀の水門が降りていたのだが、船の接近に気付いたようで水門が上へ迫り上がっていく。水門をくぐり、魔プレイヤー達は魔王國の首都である『ノックス』にたどり著いた。

『エビタイ』でも衝撃をけていた魔プレイヤー達だったが、『ノックス』でけた衝撃はそれ以上であった。その理由は街並みのしさや新しさではない。當たり前のように多くの魔らしき者達が闊歩していたからだ。

水路の近くでは『エビタイ』でも見た謎の種族(レイス)達は何らかの仕事をしているし、子供達は彼らに気付いて不思議そうにはしていても恐れる様子はない。見覚えがないだけで魔を見慣れている。そんな反応だった。

また、明らかにプレイヤーらしき者達もいる。彼らは手や前足などを振って歓迎を表現していた。魔プレイヤー達は喜びながら手を振り返していた。

「はいはーい、ここで降りてね。お疲れさん。助かったよ」

「いえいえ、仕事ですので」

「「「!?」」」

停止した船から一堂が降りた後、コンラートは水面に向かって労いの聲を掛ける。異様な行に思えたが、水中から顔を出した者達を見て驚愕した。

そして水路を上から覗き込んだ者はスクリューが危険だと彼が言った理由に合點がいく。水路の中には他にもいくつか人型の影が見えたからだ。水路に住む國民のためにスクリューを避けていたのである。

「じゃ、王宮に行こうか。歓迎の準備をしてるはずだよ」

コンラートは水中の魔との會話を切り上げると、スタスタと王宮に向かって歩き始める。ついに國王との謁見だ。魔プレイヤー達は張と期待がないまぜになりながら彼についていくのだった。

次回は10月1日に投稿予定です。

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