《骸骨魔師のプレイ日記》魔王との謁見

プレイヤー達が訪れた魔王國の王宮は、意外なことに真っ白であった。城壁や街の建が黒やそれに近いばかりだったこともあり、こちらも黒いと思い込んでいたのだ。

王宮の城門前には武裝したメタリックな質の骸骨兵が直立していたが、コンラートが一言聲を掛けると無言で城門を開けてくれる。彼に続いて城ると、そこは絢爛豪華な裝飾によって飾られていた。

天井にはしいシャンデリアが吊られ、床にはらかな絨毯が敷き詰められている。雄々しい戦士やしい神、兇暴そうな魔や邪悪そうな骸骨魔師の彫像なども一定の間隔で並べられていた。

「ここにあるのは彫像こそここの國の作品だけど、他は全て超高級品さ。君達が來るんだから綺麗にしようって提案してね。いやぁ、揃えるのはちょっと苦労したんだよ?」

コンラートはしみじみとそう語った。この裝にかかる費用は莫大であることを疑う要素はない。それを自分達が來るからとコンラートは準備してくれたらしい。彼にとっても額ではないらしく、自分達がそれほど歓迎されているのだと理解させられた。

王宮の廊下を進んだ先には巨大な扉が待っていた。扉の橫には城門の前にいたメタリックな骸骨兵士が控えているのだが、その雰囲気は城門前にいた個よりも強そうである。そんな兵士に守られた重厚で真っ黒、しかし艶のある石材で作られた両開き扉には何かの戦いを抜き出したかのような意匠が彫り込まれていた。

右側の扉に刻まれているのは無數の魔と、それらを迎え撃つ魔達だ。立ち向かっている者達には街で見掛けた謎の人型種族(レイス)が多く、傷だらけになりながらも果敢に立ち向かっていた。

左側の扉に刻まれているのは巨大な翼を持つ異形と、それに立ち向かう魔達である。遠近の尺が正しいとすればここに來た魔プレイヤー達が遭遇したこともない大きさであろう。対峙するのは多種多様な魔達。きっと魔王國に住む魔プレイヤーが多く參加したのだろう。それほどに種族(レイス)に関しては統一はなかった。

そして扉の上部には王冠を被った三眼の骸骨が杖を攜えて立っている。魔プレイヤー達はその骸骨が高みから見守っているというよりも、その両方のレリーフにおける戦いの指揮を執っているのだとじていた。

「この扉はね、昨日完したんだよ。凄いだろう?ここの職人が一丸になって、王様のために作ったんだ」

「あれは…」

館で飾られていてもおかしくない出來栄えの扉に魔プレイヤー達が圧倒される中、ミツヒ子の視點は上部にある骸骨にだけ注がれている。彼だけはあの骸骨に見覚えがあったからだ。

ミツヒ子はコンラートを橫目で見るが、彼はそれに気付いていないようである。コンラートが兵士達に向かって手を振ると、兵士達はゆっくりと扉を開けていった。

「「「…っ!」」」

扉の向こうに広がっていたのは謁見の間なのだろう。中央から上座に向かって金糸で縁取られた真紅の絨毯がび、その左右には様々な魔達が控えている。この景だけでも魔プレイヤー達は気圧されずにはいられなかった。

そして冷靜になれば、誰もが何らかの裝飾品を裝備していることに気付く。魔であっても強力な裝飾品を得られる環境がここには揃っているのだ。

だが、最も目を引くのは最上座であろう。そこには當然ながら玉座が鎮座されている。黒を基調とし、金や寶石でしく飾られているように見えるかもしれない。だが、良く見れば玉座は絡み合った無數の骸骨という見る人によっては恐ろしさしかじないデザインだったのだ。

眼窩に寶石を埋め込まれた、黒い骸骨と金の骸骨が絡み合った玉座。その左右に伏しているのは二頭の龍(ドラゴン)だ。片方は力強く兇暴そうな黒い龍(ドラゴン)で、四枚ある翼をかしながら大欠をしている。もう片方は白銀で細の優な龍(ドラゴン)で、こちらはジッと魔プレイヤー達を眺めながら長い尾をユラユラと揺らしていた。

そして玉座に座っているのは謁見の間の扉にもいた三眼の骸骨である。その骨は闇を固めたかのような漆黒で、頭蓋骨の上には豪奢な王冠が乗っている。ゆったりとした純白の服の上に沢のある群青のマントを羽織り、一本の杖をその手に握っていた。

さらにそのからは滲み出るかのような黒いオーラが垂れ流されている。外見もそうだが、このオーラが並々ならぬ迫力を演出していた。

プレイヤー達が口に見えない扉があるかのような圧をじる中、コンラートは一瞬の躊躇もなく謁見の間に足を踏みれる。魔プレイヤー達は慌てて彼の後ろに続いた。

「ご苦労だったな、我が友コンラートよ」

「苦労などと。陛下の為とあらば、何事も苦とはじません。ご機嫌麗しゅう存じます、魔王陛下」

「うむ」

玉座にある程度近付いたところで、コンラートは膝を著いて臣下の禮を取る。友人と言っていたが、魔プレイヤー達の目にはどう見ても家臣でしかない。彼らは慌ててそれぞれの方法で跪いた。

彼らが跪くと左右にいた魔達がざわめいた。自分達の対応が間違ったかと彼らが心で冷や汗をかいていると、玉座の主が手を振ると一瞬で謁見の間は靜けさを取り戻した。

「騒ぐな、癡れ者共。さて…良く來たな、風來者の諸君。我がアルトスノム魔王國は君達を歓迎しよう」

玉座に座る骸骨が迎えれると宣言した瞬間、左右にいた魔達は一斉に拍手で迎える。魔王の決斷で全てが決まるようだ。彼らの目には眼の前の魔王がこの國に君臨する絶対者として映っていた。

再び魔王が手を振るうと、拍手はピタリと止む。その後、魔王はゆっくりと立ち上がって杖で軽く床を叩いてコンと音を立てた。

「はい、これまで。これで良かったか、コンラート?」

「ブフフッ!最高だったよ、イザーム!」

床を叩いた瞬間、謁見の間の空気は一気に弛緩する。魔王の聲からは威厳が消えているし、コンラートに至っては笑うことが抑えられないようだ。左右に並んでいた魔達も「楽しかった」やら「演技が良かった」やら好き勝手に話していた。

呆然とする魔プレイヤー達に玉座のある段から降りた魔王が歩み寄って來る。そして彼はどこか満足そうに語りかけた。

「楽しんでもらえたかな?改めて自己紹介をしよう。私はイザーム。『夜行衆(ナイトウォーカー)』というクランのリーダーにして、このアルトスノム魔王國の魔王をやっている君達と同じプレイヤーだ」

◆◇◆◇◆◇

コンラートプロデュースの『魔王國がNPCの王國ドッキリ』は大功に終わった。私としてはまだ為人も知らない者達にドッキリを仕掛けるということには抵抗があったものの、アイリスを初めとした他の者達が面白そうだとノリノリだったこともあって実行されることになったのだ。

正直に言えば、魔王のロールプレイはとても楽しかった。特に手を振って靜かにさせるのはアドリブだったのだが、仲間達が空気を読んで黙った時はモノであったよ。私も十分に楽しませてもらった。

意外にもドッキリを仕掛けられた側のプレイヤーに反発はほぼなかった。張はしたものの、誰かが傷付くようなドッキリではなかったことが大きかったらしい。カキアゲなど『ノンフィクション』の記者は一部が騒いだものの、それもリーダーのミツヒ子が黙らせていた。

ちなみに、ミツヒ子とカキアゲは私を目撃しているので気づかれないように工夫している。仮面を外して王冠を被り、あの時とは全く異なる服を著て、杖も用のモノから以前に手して修復した王笏を持っていた。そのおで彼らは全く気付いていなかったようだ。だからこそカキアゲは『騙された』と喚いていたのだが…人類を騙し続けて來た者が言って良い臺詞ではないだろう。

ただ、その瞬間を天井に張り付いていたルビーによってスクリーンショットを撮られていたのは驚いた。彼しがる者達全員にそれをバラ撒いてしまったのだ。私も演技は楽しんだが、こうして第三者視點から見せられると恥心に悶えそうになってしまった。

「…以上が魔王國に拠點を置く際の注意點と避けてしい事項だ。何か質問はあるか?」

謁見の間での顔合わせを終えた後、私達は場所を変えて説明會を行うことにした。説明會と言っても全てを口頭で説明していては時間がかかるので、事前にミツヒ子からけていた説明に補足を加える方式を取った。

補足容は私が【國家運営】の能力(スキル)で定めた法律関連や決して手を出してはならない相手についてである。住民と相談しながら決めた法律だが、現実の法律とほぼ同じだ。ただ、し異なる點があるとすれば法律を三回破った場合は魔王國から追放という形を取らせてもらうことになっていた。

こちらから強要することは稅金くらいで、それも借りているクランハウス代くらいだ。何かをしろとは基本的に言わないのだから、他の者達に迷を掛ける者には去ってもらう。その後、何をどう言われようがそこだけは徹底するつもりだった。

そして手を出してはならない相手とは魔王國に有効的な住民に加え、『の闇森』や深淵の二(・)大領主、そしてフェルフェニール様などの勝手に手を出されると魔王國全に多大な被害が出る可能がある者達だ。こちらは手を出したことが発覚し次第、即座に追放ということになっている。

「まあ、すぐに質問が思い付かなかったとしても後で聞いてくれて構わない。堅苦しい話はここまでにしよう。実は君達を歓迎する用意がある。移しよう」

私は新たな魔プレイヤー達を引き連れて移を開始する。その行く先は…闘技場であった。

次回は10月5日に投稿予定です。

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