ボグフォレスさんとの話を終える頃には、丁度良い時間を迎えていた。

ドナとアーツも満足したようなので、バーレーン家を後にする。

「また、いつでも遊びに來るのだぞ。いつでも歓迎する」

「はい。ありがとうございます」

「ウォルト様……。この度は、老いぼれの命を救って頂き……旦那様とも…。私は……無量でございます…」

「気にせず靜養して下さい」

ドルジさんは、無事に発作も治まり回復した。これからも、頑固執事としてバーレーン家を支えてもらいたい。

「ウォルト！今度はたくさん遊ぼう！」

「楽しみにしてるよ」

アーツはドナの前に立つ。

「ドナ！またね！今度はぼくが勝つよ！」

「負けない！また遊ぼう！」

短い時間に友を育んだ子供達。二人とも笑顔だ。

ただ、アーツは土にまみれて、ドナは綺麗な服を著ている。どっちが貴族かわからない。

「では、ご馳走さまでした」

「ご馳走さま」

「今度は、ボグフォレスも一緒にあそぶよ！」

「はっはっは！…元気な娘だ。しならいいが」

「ダメだよ！ねるまで遊ぶの！」

「死んでしまうかもしれぬぞ」

「死んじゃダメ！」

「參ったな…」

笑顔の皆に見送られながら、屋敷を後にする。

「楽しかった！」

「ドナは、アーツと仲良くなったわね」

「アーツはいい奴！面白い！」

「また遊びにくればいいよ。溫かく迎えてくれるはずだ」

「あら。ウォルトは來ないの？」

「來るけど、リリサイドとドナだけで來ても大丈夫って意味だよ」

「そうかしら」

「間違いない」

王都の人混みを上手く避けながら歩を進める。

「ドナ。初めての街はどうだい？」

「おもしろくて、人がいっぱい！」

「住みたいと思うかしら？」

「すみたくない！くさいし、うるさい！」

「でしょうね」

「先のことはわからないけどね」

「ウォルトはすみたい？」

「住みたくない。臭いから」

「だよねぇ～！！ドナといっしょ！」

「貴方達は、まるで親子みたいね」

「そうかな。そろそろ著くよ」

遠くにテラさんの家が見えてきた。外で修練しているのか、テラさんの聲が聞こえる。

「せぇぇい！！」

「まだまだ甘いな」

遠目に見えてきた。どうやらテラさんとダナンさんが手合わせして、シオーネさんが見守ってる。その隣には、カリーとルビーの姿も見える。

「あの白馬ね？」

「そうだよ。この距離でわかるの？」

「えぇ」

グラシャン同士には、通じるものがあるのかな。

かなり近くまで來たけれど、手合わせ中の２人は気付かない。シオーネさんと目が合う。

「あれ？ウォルトさん」

「えっ…？！」

「なに…？」

「ヒヒーン！」

「ヒッヒ……？！」

カリーだけ困した風。

ルビーが駆けてきて頬りしてくれる。皮を優しくでた。

「ルビー。久しぶりだね」

「ヒッヒン！」

テラさんとダナンさんは、手合わせをやめて歩み寄ってきた。

「ウォルトさん！お久しぶりです！」

「ウォルト殿。ご無沙汰しております」

「こちらこそ。手合わせを中斷させてすみません。気にせず続けて下さい」

「そうはいきません！ダナンさんとはいつでも手合わせできるので！」

「そうですぞ。そちらの方は、友人ですかな？」

リリサイドが前に出て、口を開いた。

「ウォルトの番のリリサイドよ。こっちは私の連れ子のドナ」

「な、な、な、なぁ～～！？！？」

「ヒ、ヒヒーン？！」

リリサイドの冗談に、テラさんは目が飛び出そうなほど驚いてる。何故かカリーもだ。いつも真顔で冗談を言うから、信じそうになるんだよなぁ。

「つ、つがいって、いつの間にっ！？」

「リリサイドの冗談です。２人は友人ですよ」

「こんにちは！ドナだよ！ウォルトのともだちで、リリサイドはお母さん！」

「か、かわいい～！こんにちは！私の名前はテラだよ！ウォルトさんの友達で、カネルラの騎士なんだ！」

「きし？しらないけど、テラのふくはかっこいいね！」

「そう？やっぱりわかっちゃうかぁ～！」

ドナはシオーネさんとダナンさんにも話しかける。

「よろい、かっこいい！」

「はっはっは！そうか。ただの甲冑ジジイだが」

「嬉しい。褒めてくれてありがと」

ドナと三人は盛り上がってる。そんな中、ボクとリリサイドにカリーが近づいてきた。

『ウォルト。久しぶりね』

『うん。久しぶり』

『連れてきてくれたのね』

『やっぱりわかるんだね』

『もちろんよ』

カリーとリリサイドは見つめ合う。けれど、『念話』で會話する素振りはない。

気になったのか、テラさんが口を開いた。

「今日は何か用があって來たんですか？」

「はい。カリーに會いたくて」

「そうでしたか…。私じゃないんですね…」

「い、いや…！そういうわけではなく…！テラさんにも會いたかったです」

「ふふっ！冗談ですよ♪」

「今日は、私のワガママでお邪魔したの。急に來てごめんなさい」

リリサイドがフォローしてくれる。

「全然構わないけど、わがままって何ですか？」

「ウォルトの友人に、凄く賢い騎馬がいると耳にしたから、馬の獣人として會ってみたかったの。ドナもね」

馬の獣人だと言われたら、確かにそう見える。匂いでもバレないはず。

「なるほど！カリーはもの凄く賢いです！」

「そうなのね。私達は種族が同じだから、話もできるの。信じられる？」

「信じますよ。ウォルトさんの友達だから」

信じる理由は、それじゃダメだと思うな…。

「とにかく中へどうぞ♪」

「ありがとう。でも、ちょっとカリーと話してみていいかしら？そのあとお邪魔したいわ」

「ごゆっくり！」

「じゃあ、ボクが食事を作ります」

「やった！食材はふんだんに使って下さい！ドナも食べる？」

「たべる！」

「ウォルトさんの料理、味しいよね～」

「ウォルトはてんさい！」

「あはははっ！よくわかってる！行こっか！」

「うん！」

テラさんはドナの手を引いてくれる。みんな子供に優しいなぁ。

『リリサイド。カリー。ゆっくり話して』

『念話』を飛ばすと、同時に頷いてくれた。

★

カリーと２人きりになったけれど、先ずは自己紹介が必要でしょうね。

向き合って、聲は出さず會話する。

『私はリリサイドよ。出は、同じだと思うわ』

『私はカリー。貴のことは、ウォルトから多聞いてる。良い名前ね』

『ありがとう。會って驚いた』

『そうでしょう』

『貴は…もうこの世に生はないのね』

『こうして此処にあるのは、ウォルトのおかげよ』

『今さら驚かないけれど』

『ウォルトに出會ってどのくらい？』

『２ヶ月くらいかしら』

『もう慣れたと思うでしょう？…まだまだ驚かされるわよ』

『そんな気がしてるわ。それにしても、カリーは落ち著いていて、私よりお姉さんなのね』

『う～ん。それはどうかしら？』

カリーは可く小首を傾げた。

『グラシャン同士では誤魔化せない。でしょ？』

『ふふっ。ウォルトには緒よ』

『…良かったわ。貴とは、靜かに話ができそう』

中には冗談が通じないグラシャンもいる。そんなところは人族と同じだ。

『なまじ話せるだけに、騒がしい者も多いグラシャンだものね』

グラシャンあるあるというやつね。カリーとの會話には、安心をじる。

『私は、もう何十年もグラシャンに會ってなかった。カリーは？』

『４百年も土の中にいたから忘れてしまったわ。この世に戻ってからは初めてよ』

『そうは見えない。不思議ね』

『こう見えて、首から上が無くなっていたの。今はあるけれど』

『ホントに？！』

『戦爭で首を落とされて死んだのよ』

『グラシャンは、生命に関わる怪我でしか命を落とさないから納得ではあるけれど…激しいわね』

『ほぼ不老でも不死じゃない。グラシャンはちゃんと死ぬわ』

『あはははっ。貴はそう言い切れるわね。……顔に、れてもいいかしら？』

『構わないわよ』

首筋にれると、しっかりした皮の。

『どうなっているの？』

『わからない。おそらくウォルトの魔力の影響だとしか言えない。さっきの甲冑騎士も私と同じ』

『えっ？！あの２人も蘇ったの？！』

『そうよ。ただの魔法使いのおかげでね。はない。人も馬もお構いなしなんだから』

信じられない…。なんて魔法使いなの…。

とりあえず今は置いておくとして…。

『ねぇ。カリーは人型に変できる？』

『できないわ。何度か試したけど、力が阻害されてしまう』

『ウォルトに頼んでみたら？』

『できるでしょうね。けれど、今は必要ない。私はこの姿が気にってるの』

『ただの馬として生きるのもいいわね』

『そういうこと』

これは、答えてくれるかしら。

『カリーが騎馬になった理由って、人族への嫌悪？』

『そうよ』

正直なのね。益々好が持てる。

『人族は下らない理由で爭う。最もらしい思想を旗印に掲げてね。背に乗せて、堂々と殺し合いに參加するのは面白いと思えた』

『私も理解できるわ』

人は…私達に理解を示そうとしなかった。人を襲う怪だと決めつけ忌み嫌った。

祖國で発生した１つの殺人事件。それが生起するまで、グラシャンと人族は上手く共存していたのに。

真実は、人が起こした事件だったにも関わらず、「グラシャンの仕業だ」とあっという間に拡散された噂を消し去る手段は私達にはなく、故郷を離れた今も伝承されているに違いない。

何故、無実の私達が肩の狹い思いをしなければならないのか。そんなことを考えたのは一度や二度じゃない。

人族を憎んでいた。いや…今も憎んでいる。

『別にカネルラの騎馬でなくてもよかった。元々は流れ著いたのがこの國だっただけ。グラシャンを忌み嫌う者達に、自分でも鉄槌を下したけれど、思い通りにはいかないものよ。完全な自業自得ね』

ブルルルとカリーは笑う。

結果、命を落としたのは自分。幾人かを屠ったとしても、果たして己の命と釣り合うものだったのか。

『さっきの甲冑オジさんがカリーの相棒？』

『そう。今はかなり落ち著いたけど、生前は騎士の使命に突きかされる中年で…。人族が憎くて仕方なかったのに、ちょ～………っとだけに流されてしまった。油斷したわ』

『ふふっ。いい人に出逢ったのね』

今なら…ほんのし理解できる。

『腐れ縁よ。クソジジィだし。リリサイドも人が嫌いなのね』

さすがにバレてるわね。

『そうよ。グラシャンに人族が好きな者なんているかしら？』

『此処にいるわ。ある貓人限定で』

『私は違う』

『ふふ。そういうことにしておく。けれど、獣人の子まで育てているのに、人嫌いでは通らないわよ』

『それは…たまたまよ』

「ブルルル」と、またカリーは笑う。

『なんで、グラシャンは素直じゃないのかしらね』

『あるあるでしょ？そんなひねくれ種族は、なくとも世界に３０頭はいるみたい』

『何故知っているの？』

『ウォルトが教えてくれたの。霊の友達に聞いたんですって』

『ふふふっ。まったく…どこまでもね』

『ねぇ、カリー。今、幸せ？』

『そうねぇ～。おそらく、そう言えなくもない』

『あはははっ』

し気持ちが軽くなった。

『そろそろ中にろうかしら。また話し相手になってもらえる？』

『お姉さんとして、いつでも話を聞くわ。話したいことは、まだ沢山あるでしょうし』

『貴に會えて良かった』

『私もよ。リリサイドに一言だけ言っておくけど』

『なにを？』

『カネルラは、私達の生まれ故郷…ディートベルクとは違う。グラシャンも、此処に住めば多なりとも考えが変わると思える。そんな國よ』

『私も最近知った。この國は違うわね』

カリーや蘇った騎士達をけれている。それだけで、この國の大らかさが理解できる。

ゆっくり並んで歩き、故郷について會話しながら家に向かう。

『リリサイトが産まれた時はどうか知らないけれど、魔法だけは優れた國だったわね』

『現在進行形よ。誇れるものがそれしかない國だもの』

カリーが言うように、ディートベルクは魔法先進國。世界でも常に先頭を走る國だと主張していて、んな國を渡り歩いた私も、そこに異論は無かった。

魔法をる馬、グラシャンのような存在が生まれたのも、あの國だったからじゃないかと思える。

『なのに、最高の魔法使いはカネルラにいる。おかしな話だと思わない？』

『今でも聲高らかに世界最高を謳っているかしら。帰るつもりはないからどうでもいいけど』

『國民は変わってないはず。私なんて、仮に帰ったとしても、魔法の研究材料にされる未來しか見えない』

『英霊であることを生かして、ここぞとばかりに滅茶苦茶やってやればいい』

『いい考えね』

祖國の悪口を利いて、心が晴れる。

何十年かぶりなのだ。

たったこれだけのことが、グラシャンにはできない。理解してくれる者がいるということが、どれ程幸せなのか気付く。

『私はカリーに會うまで怖かった。変なグラシャンだったら、笑える自信がなかったから』

『私もよ。ただ、ウォルトが繋いでくれる縁は、良いモノだと信じている』

『本當に好きなのね』

『酷い出會い方だったけど、ビビッと來た。この貓人は好ましいと直ぐに思った。初めての経験だったわ』

『今頃、ご飯を作りながらむずくなってないかしら』

『まぁまぁ酷いこと言ってる自覚はあるわね？』

心の広いお姉さんと一緒に中にると、食事の準備が整っていた。

「ドナ。絶対味しいよね～！」

「はやくたべたい！」

「食べてみないと、口に合うかわかりませんよ」

「「わかる！」」

事も訊かずにドナと仲良くしてくれる人間達。甲冑の２人も、談笑しながら酒やお茶を飲んでいる。

こんな現象が生まれているのは、間違いなくウォルトのおかげ。

彼自がかなり常識外れの獣人であるが故に、知人は大抵のことでは揺しない。もちろん本人も。

まるで、引き寄せているかのように非常識な者達が集まっている。彼等と接していると、生まれ故郷で疎外されたとはいえ、を潛めて生きているのが馬鹿らしくなった。

此処にいる者達に私の正を暴したとしても、スケ三郎達と同じく平然としているに違いない。「そうか」の一言で済まされるのでしょうね。

より激しい非常識の前では、グラシャンの存在などちっぽけで霞んでしまうことを學んだ。

空に瞬く數多の星の１つ。

その程度だと。

『リリサイドの気持ちはわかるわ。全く同じことを思ったから』

『さすが年の功』

『…長い付き合いになりそうなのに、言ってくれるわね』

『ごめんなさい。つい、嬉しくて』

『お姉さんだから許すわ』

さて、味しいニンジンをお腹一杯食べるとしましょうか。

一際輝く非常識な１等星が作る料理は、とても味しいことを知っている。