《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》17話 神楽一泊のこと

ちょいと短いですが、どうぞ。

神楽一泊のこと

夢を見ている。

昔の夢だ。

道場の真ん中で、俺が寢転がっている。

その足元には、木刀を持った師匠。

『ほれ、起きんか。さほど強くは毆っておらんぞ』

『うーす・・・』

中學生くらいの時かな、これは。

の回りすべてにむっちゃモヤモヤしていた頃だな。

小學生の時からしたら、力も強くなって背もびた。

技もいくつかは使えるようになったし、総合的に強くなったなあ・・・なんて、思ってたんだが。

『ふむ、くさっておるなあ』

師匠にまあ勝てない。

何をしても勝てない。

どうやっても勝てない。

というわけで、スランプというか、壁に當たっていたわけだ。

・・・今に至るまで勝ててはいないから、當たり前なんだが。

ちょいと剣を學んだだけの小僧に、師匠みたいなバケモンが倒せるもんかよ。

ま、この頃はわかっちゃいなかったんだけどな。

『・・・師匠に何しても當たる気がしねッス。どうやっても勝てるビジョンが浮かばねッス』

不貞腐れた俺が吐き捨てると、師匠は笑した。

ニヤリならわかるんだが笑って。

あ、當時の俺が死ぬほど恥ずかしそうだ。

ひとしきり笑った師匠は、微笑みながら俺を見下ろした。

『お主はのう・・・殺気が強すぎるのよ。アレではどこを狙って何をするか丸わかりじゃ』

『そんなこと言われても・・・じゃあアレすか。後藤倫先輩みたいなじで戦えって事っすか』

『無理じゃ』

一刀両斷である。

『あやつの戦い方を真似ても、所詮猿真似に過ぎん。綾は誰かを真似てああしているわけではないからのう』

『・・・じゃあどうすりゃいいんすか』

不貞腐れ継続中の俺に、木刀が突き出された。

床に落ちていた、俺のものだ。

『そのままでよい』

『・・・へ?』

木刀を握ると、そのまま引っ張り上げられる。

『殺気を抑えようとか、上手く戦おうとか、そんな考えは持たんでいい。お主はそののままで、ひたすらに鍛えよ』

『・・・俺の、まま?』

『そうじゃ。斬撃が読まれて躱されるのならば、速度を上げて避ける暇も與えねばよい。防がれるのならば、構わぬ・・・その防ごと叩っ斬れるだけの力を付ければよい』

無茶苦茶な結論が飛び出すが、謎の説得力がある。

『・・・できるんすかね、俺に』

『知らん』

すがるように尋ねた俺に、師匠がにべもなく返した。

『じゃがのう』

俺が木刀をしっかり握ったことを確認すると、師匠は緩やかに正眼へ構えた。

『その手助けが、師匠の仕事よ―――參れ』

『・・・応ッ!!』

元気を取り戻した俺が、師匠に向かって行く。

あ、馬鹿!そんなに不用意に上段で突っ込んだら―――

『ごば!?』

『やーれやれ、先は長そうじゃな』

そして、當てをもろに腹に喰らった若き日の俺は・・・壁に叩きつけられて失神するのだった。

懐かしい、夢だ。

・・☆・・

「・・・むご?」

ざあざあと降る雨の音に、目を覚ました。

ベッドに寢かされているようだが、周囲はすっかり真っ暗で何も見えない。

・・・ここは、どこだ?

高柳運送じゃないよな?

っていうかアレ?俺なんで寢て・・・ああ、そうかあ。

俺は、花田さん・・・神崎さんのお祖父さんとの稽古で気を失ったのか。

ズタボロだったしなあ。

「・・・稽古で失神なんていつ振りだろうか」

だから、あんなに懐かしい夢を見たんだろうか。

暗闇の中で上を起こす。

窓の外・・・グラウンドがライト越しによく見える。

そして、窓ガラス越しにもハッキリ聞こえるほど、雨音が激しい。

珍しいなあ、こんなに雨が降るなんて。

そうか、電力が復活したから外のライトは使えるんだよな。

防犯制はバッチリだ。

・・・その分、よく目立つからチンピラ共に狙われるんだろうけども。

「んで・・・ここどこ?」

窓から見える高さから判斷して・・・たぶん1階かな?

「・・・置、か?」

スマホを取り出し、ライトモードにして周囲に向ける。

金屬製の棚がいくつも並んでいて、その中には古い教科書っぽいモノや百科事典が雑多に並んでいる。

周囲には他にもいくつかベッドがあるが、寢ているのは俺一人だ。

元々置かなんかだった場所を、仮眠室にでもしたってじかな?

「・・・うああ~」

腕時計を確認すると、もう夜の8時だ。

どうりでよく寢たがあると思ったよ。

仮眠じゃなくて就寢じゃないか、睡眠時間。

「みんな心配して・・・ないか、神楽行っただけだもんな」

たぶん、式部さん辺りが連絡をれてくれてるだろうしな。

あ、でも軽トラで一緒に來たから式部さんも帰れなくなってんじゃん・・・高柳運送にバギー置きっぱなしだし、二度手間にしちまったなあ。

・・・明日謝ろう。

夜に歩き回れるほど、神楽に慣れていない。

夜の學校とかお化け出そうだし。

二度寢するには早すぎるし、どうしよう・・・と考えたその時。

ノックの音がした。

「はーい、どうぞ」

そう言うと、暗がりの中でドアが開いたような気配がした。

誰だろう?

この中には変な人間はいないだろうけども・・・一応用心はしておくか。

左手に棒手裏剣を握り込んだところで、來客が外からのライトに照らし出された。。

「あっ・・・どうも」

「よく眠れたようだね、夕飯だよ」

そこにいたのは、洋服に著替えた花田弦一郎さんだった。

手には、給食トレーのようなものを持っている。

「古保利くんからの差しれだ、遠慮は無用・・・とのことだよ」

「い、いやあ・・・それはありがたい」

花田さんはベッド脇まで來ると、そこにあった機にトレーを置いた。

その上に乗っていたのは、手作りっぽい造形のパンとサラダ、それに謎のカロリーバー的な存在だった。

添えられたコップにはコーヒーまでっている。

うーん、デラックス。

居住者じゃないのに悪いなあ・・・

「いやあ、申し訳ない。年甲斐もなくはしゃぎ過ぎてしまってねえ・・・は大丈夫かい?」

「あ、そこはもう大丈夫です、はい。丈夫だけが取り柄なもんで」

アレだけ跳んだり跳ねたりしたのに、花田さんは元気だ。

師匠と同じタイプか・・・と、思ったが。

よくよく考えれば跳んだり跳ねたりは俺だけだった。

花田さんは俺が攻めた時にだけ、ほんのく。

そのほんのしのきで俺の攻撃は逸らされ、ほぼ同時に俺の攻撃を100%返した衝撃がやってくるのだ。

花田さん(息子)の合気道もヤバかったが・・・お父さんのアレはマジで何されてるのか皆目見當もつかん攻撃だった。

まるで魔法だ。

「儂はもう食べたからね。さ、遠慮せずに」

「はい・・・いただきます!」

とりあえず腹は減っているので、お言葉に甘えて食べることにした。

ふお・・・このパンふわふわだ!

式部さんの手作りパンを思い出すなあ・・・

「儂は、きみを見誤っていたよ」

遅めの夕食を平らげ、コーヒーで一服していると不意に花田さんが口を開いた。

花田さんは俺が飯を食っている間、一言も発しないでベッド脇の椅子に腰かけていた。

「・・・へ?」

見誤って・・・?

アレか?稽古したら思ったより弱くってガッカリ・・・とか?

そりゃ、申し訳ないなあ。

そう思ったのが伝わったのか、花田さんは俺を軽く睨む。

ヒエッ・・・眼がコワイ!

「・・・凜からさわりだけは聞いていたが、なるほど呆れた自己評価の低さだね。そういう意味ではない、きみは強いよ・・・儂が、思っていたよりな」

神崎さんが俺をどのように紹介しているのか、とても気になる・・・聞けないけども。

「きみと、鍛治屋敷が戦う前のことだ。『良くて相打ち悪くて負ける』と言ったのを、覚えているかい?」

「・・・あ~、はい、そういえばそんなこともありましたね」

もはや懐かしい記憶だ。

だけど、あの時は『そりゃそうだよなあ・・・』って思っただけだし。

師匠が取り逃がすくらいの相手なんだから、並大抵の使い手じゃないだろうとは思ってたしな。

「ところが、だ。蓋を開けてみれば鍛治屋敷は片目が潰れ、きみは大怪我とはいえ五満足で生き殘った・・・儂の見立てが狂ったのは、後にも先にもアレが初めてだ」

・・・そう聞くと大金星なんだが、なんか実が湧かない。

ぶっちゃけ死にかけたし。

腕も足もあるけども・・・なんかの間違えで死ぬこともあり得た。

「いえいえ、神崎さんの援護撃がなかったら娘の不意打ちで死んでた可能もありますからね・・・っと!お孫さんにお怪我をさせたこと、遅れましたが申し訳ありません!!」

慌てて謝る。

俺が再會した時にはすっかり治ってたけど、傷とか殘ってないだろうな・・・?

「ふ、ふふ。やはりきみは面白いね・・・傷のことは気に病む必要はないよ。あの子はそういう仕事をしているんだから」

花田さんはからから笑っている。

「・・・とまあ、そういうわけで今回きみと稽古をしてみたわけだ。実際に向かい合って確かめたいこともあったしね」

「ご、ご満足いただけましたか・・・?」

俺、投げ飛ばされてばっかりだったんだけども。

花田さんはしばし黙り込み、真剣な顔で口を開いた。

「―――きみは、十兵衛と本當によく似ている」

「・・・はえ?」

またそれか。

なんかいろんな人に言われるんだよなあ、それ。

何度も言うけど、師匠は若い頃すっげえイケメンだったんだぞ?

ははは、ないない。

「姿かたちではない。似ているのは目だよ、目」

「・・・鍛治屋敷にも言われましたよ、それ」

目ねえ・・・自分じゃなんとも思わんがなあ。

「儂は、若いころに南雲流の先代・・・春蔵先生に會ったことがある。あの人も、よく似た目をしていた」

大師匠?

夢で會ってるけど特には・・・って、夢だから當たり前か。

「目とは言ったがね、どちらかというとや魂といったほうが正しいか。心の奧底にあるモノは、目を通してよく『視える』・・・それが、よく似ている」

・・・?

?魂?

まいったな、観念的な話は苦手なんだが。

「―――憎んでいるんだろう?怒っているんだろう?誰かか、それとも何かを。その人生の、大半を費やして」

息が止まり、溫が下がった。

脳裏に広がったのは、夕暮れの教室。

そして、笑顔の影と・・・泣き崩れるご両親。

最後に、裁判の傍聴席から見た・・・領國の、薄ら笑いを浮かべた顔。

噛み締めた奧歯が、軋んだ。

「みんなそうだ。儂が知っている南雲流の相伝者は、みんなそうだよ・・・きみたちが、皆一様に優しいのは、抱えているものがあまりに悲しいからさ」

黙り込んだ俺に構わず、花田さんが続ける。

「戦い方もそうだ。稽古相手の儂にさえ・・・抑えきれぬ殺気が飛んでくる。儂以外の誰かに向けた、度の濃い殺気が」

「そしてきみたちは・・・自分の命を、計算にれずに戦う。防や回避はするが、それは生存や逃走のためではなく・・・相手を倒すためのきだ」

花田さんが一拍置いた。

降りしきる雨音が、やけに大きく聞こえる。

「例えばの話をしようか。戦いの最中で、『あと三手で自分が死ぬとわかった』とする」

花田さんがにっこり笑ってこちらを見る。

「儂やトシなら、殘り一手までに何としても相手を無力化するか、それとも逃走するかを考える」

「だが」

「きみたちは違う。『三手が來るまでに相手を殺す』か『最低でも三手目で相討ちを狙う』・・・そうだろう?」

・・・うん、まあ、そうだな。

あと3ターンで死ぬとわかってんなら、そうするだろう。

「そこが、南雲流さ・・・儂らとは違う。たとえ自分が死んでも・・・なんていう次元の問題ではない、『自分が死ぬことは當然として』相手を倒す・・・それが、きみたちの魂にあるものだろう」

花田さんは椅子から立ち上がった。

「ああ・・・勘違いしないでくれ、別に儂はそれが悪いだのやめろだの言いに來たわけではないよ。言ってやめられることではなかろう?」

「ええ、まあ・・・」

「きみたちにとって、そのは戦法と深く結びついている。どだい無理だが・・・もしできたとすれば、あり得ないほど弱くなるだろうね」

だろうなあ。

・・・しかしあえて言語化するととんでもないが、今更変えるわけにはいかんなあ。

それしかできないし。

「儂が言いたいことは一つだけだ」

立ち上がった花田さんは、俺の顔を覗き込んだ。

迫力のある狼のような視線が、全を貫く。

「いいかい」

両肩に、手が置かれた。

まるで車でも乗っているような重さをじる。

「―――死ぬのはかまわない。だがね、後に殘った者たちが嘆くような死に方は、するなよ」

それだけ言うと、花田さんは手を放していつものような自然で部屋を後にした。

「ゆっくり休みなさい。式部さんが心配していたよ」

どこにでもいるような、優しそうな老人の笑みを殘して。

しばらく、俺はくことができなかった。

花田さんの視線で金縛りにでもあったようなじだ。

「嘆くような死に方、ね」

自然に言葉が出た。

同時に想起されたのは、ゆかちゃんの葬式。

みんながみんな、嘆き悲しんでいた。

間違いなく、俺が參加した中で一番悲しい葬式だった。

ああいう死に方をするな、ってことか・・・

次に思い出したのは、父方の婆ちゃんの葬式。

みんな悲しんではいたが、嘆いてはいなかった。

途中からなんて、親戚のおじさんおばさんが思い出話で泣き笑いしてたっけ。

死んじまったのは悲しい。

悲しいことだけど・・・それでも嘆きはなかった。

婆ちゃんは大往生だったもんな。

「つまり、長生きしろってことか。鍛治屋敷とか他の連中とバチバチにやりあって、それでも生き殘れって・・・こと、だよな?」

うわあ、花田さんの要求が厳しすぎる。

一層努力せにゃならんな。

厳しいねえ。

・・・でも、なあ。

確かに、俺の葬式で玖ちゃんとか子供連中が泣きんでたら・・・なあ。

萬が一あの世監視システムが存在するとしたら、俺はそれを見ながら悔やんでも悔やみきれないだろう。

・・・神崎さんたちも、泣くんだろうなあ。

むむむ、さすがにが苦しいぞ。

「・・・頑張ろう、俺。有意義な余生の為に」

今の生活が余生みたいなもんだけども。

それなら余計な障害は叩いて砕かんとなあ。

ベッドにを投げ出し、天井を見る。

「とりあえず寢よ、寢よ」

ちょっと早いが、晝間運して疲れてるし。

しっかり寢てダメージを回復させなければ。

・・・今気付いたが、アレだけ投げられたり毆られたのに急所は無傷だ。

「ああ畜生、かなわねえなあ・・・」

「今は、まだ」

・・・今は?

どうした俺。

・・・稽古にあてられたかね?

らしくないなあ。

・・☆・・

「隨分と嬉しそうですね、花田先生」

「ふふふ、長生きはするもんだねえ、文明くん・・・孫もいい男を捕まえたもんだ」

「・・・捕まえてますかね、あれ?」

「余計な連中がくたばれば、意外とすんなり進むものだよ。よくあることだ」

「あー・・・それなら田中野くんには頑張ってもらわないといけませんね。花田先生にひ孫を見せてあげなくちゃいけませんし」

「まさか、そこまでの長生きはし大変だな」

「・・・花田先生なら、玄孫の代まで大丈夫ですよ。僕よりも長生きなされそうだ」

「しかし玄孫か・・・ふむ、確かにかわいい孫の孫となれば・・・それはかわいいだろうね」

「おや、やはり乗り気でいらっしゃる」

「きみも頑張ったらどうだ?親父殿も心待ちにしていることだろう?・・・凜と違って君は結婚しているんだしね」

「あー・・・その、ええと、い、忙しくて・・・」

「・・・伽羅くんに説教をされるわけだ、これは。どれ、私もし説教をしてやるとするか」

「・・・藪蛇だぁ・・・」

・・☆・・

「うーん・・・いい朝だ・・・あぁ!?」

夢も見ずに眠り、朝になった。

時計のアラームより早く起きれたことにしだけ嬉しくなるが、視界がはっきりしてくるとそんな気持ちは吹き飛んだ。

「何故・・・ここに式部さんが」

寢る前は確かに無人だったはずの隣のベッドに、式部さんが寢ている。

・・・え?ここ式部さんの部屋なの?

いや、自衛隊は集団で寢起きしてるって聞いたから違うか・・・?

じゃあなんで・・・?

「・・・むにゃむにゃあ、もう食べられないでありますう」

「噓だろ、その寢言言う人初めて見た」

フィクションじゃなかったんだ!

しかも『むにゃむにゃ』まで!?

朝霞なんかは寢言をよく言うが、大半は理解できない謎言語だというのに・・・!

恐るべし、降魔不流・・・!

よくわからない想を抱きつつ・・・俺は式部さんを起こさないように二度寢することにした。

式部さんも疲れてるだろうしな、寢かせてあげよう。

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