《【書籍化】キャだった俺の青春リベンジ 天使すぎるあの娘と歩むReライフ》151.二人の大人は待ち合わせる
「……………………」
汗で濡れたシャツと下著だけをに付けて眠ってしまっていたとおぼしき私は、窓から差し込む朝日で目を覚ました。
(…………私……なんて夢を……)
ベッドの上で半を起こした私は、思わず両目を手で覆った。
ひどく鮮明で映畫の中にり込んでしまったかのような夢は、目覚めた今も薄れる事なく記憶に殘っていた。
(何もかも私に都合がいい青春……あれが私の深層心理の表れなんですか……?)
だとすれば、自分自の甘えに呆れてしまう。
あんなにも甘く優しい世界を夢見てしまうなんて……今の自分の頑張りを自分で否定してしまった気分だった。
不意に、夢の中で高校生の『私』が訴えた事が脳裏に蘇る。
その言葉と、大人の私を痛ましく思うようなその表も。
「子どもの私に……何がわかるって言うんですか」
汗でべったりとにりついたシャツに不快を覚えつつ、私は呟いた。
私は頑張らないといけない。もっともっと頑張らないといけない。
求めるものはもっと強い自分であって、誰かからの救済じゃない。
(ええ、私は大丈夫です……あんな夢を見たからって、何も――)
そもそも、あんなのはただの夢だ。こんなにも心をす必要なんてない。
(けれど……もし……)
もしあの夢の通りになっていたら。
あんなふうに強くて優しくて頼れる新浜君が、無二の友達としてずっと側にいてくれたのならば。
過去は不可逆だとしても、今からでもあんなふうに寂しい自分に寄り添ってくれる人がいたのなら――
「…………」
その妄想を楽しんでいる自分に気付き、恥ずかしさにカッと頬が熱くなる。
寂しい學生時代を送った自分が、いかに青春に未練をじているかを再認識してしまう。
(……馬鹿馬鹿しいです。あんな夢は、新浜君と再會した事が影響してただ高校時代を思い出してしまっただけで――)
そう自分に言い聞かせるように中で呟くと、自然と脳裏には新浜君の姿が浮かんでいた。
夢に出てきた高校生の新浜君ではなく、昨日に現実で會った大人の新浜君が。
「そういえば……昨日はひどい態度でしたね、私……」
こうしてお酒が抜けた頭で考えると、あの態度はまるで癇癪を起こした子どものようだったと恥ずかしくなる。
新浜君の言葉は、下心の欠片もなくただただ真剣だった。
本気で私の狀況を心配してくれているのは間違いなかった。
彼の提案はけれられないとしても、あんなにも取り付く島もない拒絶だけを示して席を立ってしまうなんて、あまりにも禮を失していた。
そして、私がベッドの上で自己嫌悪を抱いていると――
コミカルな電子音が――メッセージの著信を通知するために設定しているものがスマホから鳴り響いた。
(……またお父様ですか?)
私はため息をついて、ベッドの側に置いていたスマホに手をばす。
お父様は私の事がとにかく心配らしく、休みの日は朝からメッセージを送って來る事も珍しくない。
「え……?」
だけど、私の予想は予期せぬ形で裏切られる。
スマホに屆いていたのはチャットアプリではなく電話番號だけで送れるショートメッセージであり……。
その文面には、『新浜心一郎です』と表示されていた。
■■■
土曜日の朝。
俺――新浜心一郎は一番マシなシャツとスラックスをにつけて町外れにとある臨海公園に立っていた。
ここは繁華街からさほどの距離でもないにも関わらずに海が臨める人気スポットであり、カップルから家族連れまで幅広い層にされている場所である。
今俺はここで、大人の春華がやってくるのを待っている。
(まさか、こうもあっさりともう一度會う約束を取り付けられるなんて……願ってもない事だけどかなり予想外だな)
俺は昨日にあの不思議な夢から目を覚ました後――俺は大人春華と再度接するべくき出した。
とはいえその道のりは困難極まる事が予想され、俺は頭を抱えて悩んだ。
なにせ、俺達はこの時代における友好の儀式――チャットアプリの連絡先を教え合うという事をしていない。
昨日の酒の席でも拒絶されて席を立たれてしまった訳であり、常識的な観點から見れば、俺達の縁はもはや限りなくか細い。
とりあえず居酒屋で貰った名刺に記載されていた電話番號へショートメッセージを送る事にしたのだが、その容はどうするのかと死ぬほど悩み――
結論として、昨日に踏み込みすぎて怒らせてしまった事を謝罪したいと申し出たのだ。
(まあ、それはあくまで會話のとっかかりのつもりだったけどな。そこからなんとかしてメッセージのやり取りが出來ればと思ったけど――)
だが返ってきたメッセージは、まるで予期しないものだった。
『いいえ、私こそ昨日は本當に態度が悪くて申し訳ありませんでした。出來れば直接會ってお詫びをさせてください』
その驚きの返信に目を丸くしつつ、俺はそれをすぐに了承した。
こうして願ってもない狀況になった訳だが――
(お詫びしたいにせよ電話一本で済ませようとせずに直接會う事を提案してくれるとはな……まあ、考えてみればド真面目で禮儀正しい春華らしいか)
一応、最後の手段として春華の今の狀況を紫條院家に伝える事を仄めかすという手も考えていた。
最も、それは脅しにも等しい手なので使わずに済んで良かったが……。
(……紫條院家に春華の現狀を伝える、か。まあ、それが一番簡単で手っ取り早い手段ではあるのはわかっているんだけどな)
春華が酷いパワハラをけている事を時宗さんが知れば、有無を言わさず春華を職場から引き離すだろう。
そして春華はそれに抗するなどなく、俺の目的はあっさり達する事となる。
(でも……き(・)っ(・)と(・)そ(・)れ(・)じ(・)ゃ(・)ダ(・)メ(・)な(・)ん(・)だ(・))
この一週目世界に再び降り立った時は、ただパワハラから遠ざけるだけで春華を救えると思っていた。
けど今は……ただそれだけで全てが解決するとはどうしても思えない。
『でも……駄目なんです。私は一歩引いたらもうお終いですから、それをけれる事はできません』
思い出すのは、春華の明確な拒絶。
辭めてしいという俺の願いを正論と認めつつも、淡々と告げる強固な意志の言葉だった。
(春華は……心に凝り固まった何かを抱えている……)
ただ真面目すぎるが故にパワハラに耐えているだけではなく、春華のにある強固な想いが彼に逃げる事を許さない。
焦燥、もしくは強迫観念とすら言える何かが、彼を縛っている。
それを氷解させない限り……無理矢理に職場から遠ざけようとも春華が抱える破滅への的要因はそのままだ。
(何にせよこれがほぼラストチャンスだ……もうこれ以上は後がないと思った方がいい)
のしかかるプレッシャーは、臓腑を締め付けるようだった。
だが不思議と、焦燥や自分を押し潰してしまいそうな気負いはなかった。
(夢見が良かったからな……はは、夢で春華と話せたら気力が回復するってホント単純な男だな俺)
そうして自分を苦笑していると――
「お待たせしました新浜君」
「……っ!」
そこには、私服にを包んだ大人の春華がいた。
まず目を引くのはブルーのロングスカートだった。
ボタン式のデザインであるそれは腳の全てを覆うからこそ貞淑な大人のイメージを増幅せており、清廉さと奧ゆかしさがある。
トップはフワフワした白い縦セーターであり、高校生の時よりも満になったボディラインをぴったりと浮き上がらせており……なんというかとても悩ましい。
方から提げているバックを含めて華さを抑えた大人しいコーディネートだったが、春華の大人としての魅力をよく引き立てていた。
「あ、いや……俺も今來たところだ。足を運ばせて悪かったな」
「……? どうしたんですか? なんだか顔が赤いですけど……」
「えと、その……恥ずかしながらの人と待ち合わせなんてするのは初めてでさ。どうも慣れてないんだ」
本當を言えば、二周目世界で春華とは何度も待ち合わせをした。
とはいえ、この大人の狀態では本當に初めてなので噓という訳でもない。
「ふふ、私も似たようなものですよ。服を選ぼうにも地味なものしか買ってないのでし迷っちゃいました」
俺の狼狽をどう捉えたのか、春華は面白そうにくすりと笑った。
その零れる笑みは、高校時代とまるで変わりない。
(……なんか、思ったより態度がらかいな?)
彼が昨晩の事で俺に謝りたいというのは本當だろう。
紫條院春華とはそういう禮儀正しすぎる人間だ。
ただ、それにしてもあの喧嘩のような一幕の後なので、あまり明るい雰囲気にはならないかもと思っていたが……。
(ん……?)
ふと気付けば、春華は俺の顔へチラチラと視線を送っていた。
一何がそんなに気になるのか、瞳には強い興味のがあるように見える。
「ええと……俺の顔に何かついてるか? これでも一応だしなみは整えてきたつもりだけど……」
「あ、いえ……その、夢と同じじ……い、いえ、ではなくて、本當に高校時代とは雰囲気が変わったなって……」
「そうか? まあ、確かにあの頃と比べたらなぁ」
ただおそらく、一週目の社畜真っ盛りな二十五歳の俺が春華とこうして再會しても、こうも軽快に話す事はできなかっただろう。
今の俺の力になっているのは最悪のままに死んだ生涯への後悔だけじゃない。
二周目世界で春華と過ごした幸福な日々もまた、俺の心に熱量を與えてくれているのだ。
「それにしても……待ち合わせ場所はお任せしてしまいましたけど、ここはとてもいいところですね」
春華が周囲を見渡して心したように言う。
この臨海公園は園カフェやバーベキュー場があるほどの広さと富な緑があるのだが、そんな雰囲気をどうやら気にってくれたようだ。
「ああ、俺も昔家族と來たっきりだったけどな。せっかくだからし歩いてもいいか?」
「そう……ですね。では、そうしましょうか」
特にっぽい目的での待ち合わせではなかったはずだったが、まるで大人の初デートのようなやり取りをして、俺達は歩き始める。
風にそよぐ木々のざわめきは、とても穏やかだった。
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