《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》208・災厄の襲來
「これが……ドグラスが語ってくれた、ファーヴの真実です」
語り終えた私は一息吐き、あらためてナイジェルの顔を正視しました。
「そんなことが……」
予想だにしていなかった事実に、ナイジェルは驚いているよう。
「ファーヴの正もだけど、大昔にそんな悲劇があったことにも驚きだよ。他者を黃金に変える……か。そんな(すべ)は存在するのかな?」
「私は聞いたことがありません。それに仮にファーヴがそのを使えたとして、どうしてベルカイム王國で披しなかったのでしょうか?」
「なにか力の制限があったとか……? それとも、ドグラスの見間違いでファーヴはそんな力を{使うことが出來なかった}とか。どちらにせよ、疑問は多いね」
とナイジェルは難しそうな表を作ります。
「とはいえ、ファーヴが私達を助けてくれたことは事実です」
「うん、その通りだ」
「敵意を抱いているものとは思えませんが──ドグラスはファーヴを、とても警戒していました。嫌な予がします」
ドグラスにしか分からないこともあるのでしょう。
私達はもう一度ファーヴに會い、彼と話し合わなければならないかもしれません。
「僕もエリアーヌと同じだよ。ファーヴともう一度會いたいね。謝も伝えきれていないんだし」
「あなたもえて、ドグラスともう一度話をしてみましょう。ファーヴに會う手がかりが閃くかも──」
と言葉を発しようとした時でした。
──ざわっ。
周囲の空気が変わった。
その微細な変化にナイジェルも気付いたのか、彼も構えました。
「一なにが……」
疑問が浮かび、顔を上げます。
──月のが何者かに遮られ、夜の闇が一段と濃くなっていました。
あれは……。
「エリアーヌ!」
考えていると、ドグラスがバルコニーに飛び込むように姿を現します
「ドグラス! これは一──」
「ヤツだ」
ドグラスは拳を強く握り、空を見上げてこう言います。
「──ファフニールだ」
夜空を空する黒いドラゴン。
その目は赤くっており、見ているだけでがすくんでしまいました。
城の人達は突如出現したドラゴンに対応するため、慌ただしくいています。
私とナイジェルは王城の屋上──王都で最も空が近い場所まで移して、ドラゴンを見上げます。
するとドラゴンは私達の前で止まり、目線を合わせました。
『聖よ』
鼓を震わせる聲。
私はそれを聞き、確信に至ります。
「やはり……ファーヴですね」
『そうだ』
とファーヴからの返事。
先日、ベルカイム王國で『まあお前には俺のことなど、分からないだろうな』と寂しい顔をして言った、彼の顔が頭に浮かびます。
「なんのつもりだ?」
次にドグラスが問いを投げかけます。
『迎えにきた』
「誰をだ」
『決まっている。そこの──聖だ。お前は俺と一緒に來てもらう』
一方的な通告。
これにより、今まで抑えていたドグラスの怒りが一気に発する。
「ふざけるな! どうしてエリアーヌが──」
「ドグラス、私にもファーヴと話をさせてください」
今にもドラゴンの姿になって飛び立ちそうなドグラスを、私は手で制します。
「隨分勝手な申し出ですね。こんな遅い時間に……しかも場所も告げずに、レディーをうのは無謀すぎるのでは?」
『ふんっ。面白ことを言う聖だ。そうだな、お前は──』
ファーヴが言葉を続けようとしますが、ドグラスが私を守るように一歩前に出て、話を遮ります。
「エリアーヌ、これ以上こやつの言葉に耳を傾ける必要などない。どうせ、ろくでもないことを考えているに決まっている」
『俺も嫌われたものだな。まあ……言っても、信じてくれるとも思っていなかったさ。しかし俺にも{時間がない}。無理やりにでも連れていくだけだ!』
そう言って、ファーヴはその口を開きます。
口に黒い魔力が集まっていく。
そして──発。一瞬、王都を覆い盡くすが発せられたかと思うと、漆黒の炎の波が私達に向けて放たれました。
しかし。
「やはり、結界に防がれるか」
ファーヴから放たれた炎は、王都に張られていた結界に阻まれます。
私は始まりの聖の力を得て、世界各國の街や村に結界を張っています。
中には結界を張ることを拒んだ國もありましたが──もちろん、リンチギハムの王都も例外ではありません。
邪悪なものを退ける完全な結界は、魔族ですら突破することが出來ない。
未だにファーヴが強手段に出ず、王都の上空で空しているのは、結界を壊すことが出來ないからでしょう。
「偉そうなことを宣ったくせに、汝の力はこれしきか?」
ドグラスが鼻で笑います。
「エリアーヌの結界は完璧だ。我とて、この結界を壊すことは出來ない。この結界がある限り、汝はエリアーヌに指一本れることなど出來ぬぞ?」
『確かにそうかもしれないな。だが──』
ファーヴは私達から視線を外し、郊外に顔を向けます。
『街の外なら? なにも國民全員が街の中に引きこもっているわけではないだろう。聖が出てくるまで、そいつらを絶やしにしようとしても面白いかもしれぬな。俺と聖の我慢比べか』
「やはり……汝は昔の災厄を再現しようとしているのか。また二百年前の地獄を再現するつもりか?」
『…………』
ドグラスの問いに対して、ファーヴは閉口します。
「いいだろう。我が汝の相手になってやる。汝が他の人間に手出しする前に、我の手でその命を終わらせてやる」
ポキポキと拳を鳴らすドグラス。
『……聖を連れ去る前に、まずはお前から始末しなければならないようだな』
「よく分かっているではないか。せっかく、二百年ぶりに戦うことになるんだ。ここでは街に被害が出るかもしれぬし……{いつもの場所}を戦いの舞臺としよう」
『いつもの場所──か。くくく、なるほど。面白い。俺も橫りがるのは本意ではない。お前のいに乗ってやろうじゃないか』
そう言って、ファーヴは夜空に飛び立っていきました。
あの様子だと、ドグラスの言う『いつもの場所』がどこなのか、分かっているみたい。
「エリアーヌ──し待ってろ。すぐにヤツとの因縁にケリをつけて、こっちに戻ってくる」
ドグラスもすぐさま彼の後を追いかけようとします。
だけど。
「待ってください」
そんなドグラスは私は呼び止めます。
「なんだ、エリアーヌ。止めるつもりか? 無駄だ。エリアーヌになにを言われようとも、我はファフニールと決著をつける」
「いいえ、違います」
今にもドラゴンの姿になって飛んでいきそうなドグラスに、
「ドグラス、お願いします。私も連れていってください」
覚悟を決めて、私はそう宣言します。
「なっ……! 正気か? エリアーヌがわざわざ出ていく必要など、どこにもない。ここは我に任せて──」
「あなた一人には任せられません。それに……あなたは必要ないと言っていましたが、やっぱりファーヴの話をもっと詳しく聞くべきだと思うんです」
「急に現れて、街に向かって炎を吐くようなヤツの言葉をか?」
「ええ。それに──」
私は先ほど、ファーヴが手加減しているようにじました。
仮に結界が壊れたとしても、街に被害が出ないような。
普段のドグラスならそのことに気付けたと思いますが、彼はファーヴを前にして冷靜さを失っています。
頭にが上っている彼とファーヴを二人きりにさせた方が、なにか起こりそうで心配です。
「エリアーヌ、僕も行くよ」
ナイジェルも一歩前に出て、そう言ってくれます。
「汝らは二人揃ってバカか!? 愚策だ!」
「あなたの言う通り、私自らが危険に飛び込む必要はないかもしれません。だけど……私は知りたい」
「知りたい?」
「はい。ベルカイム王國でドグラスに出會った彼は、とても寂しい目をしていました」
どうして、あんな顔をしたのか。
先日からファーヴの表が頭に焼きついて取れない。
「彼にもなにか事があるのかもしれません」
「このままじゃ分からないことばかりで、なにも手の出しようがないからね」
「……ああ! くそっ!」
ドグラスは頭を掻きむしり、こう続けます。
「また汝らのお人好しが発したのか!」
「お人好し、上等です。ならば、こうなった私達を止めるのは不可能だってことを、ドグラスも知っているでしょう?」
「今まで散々、似たような場面を見てきたからな。ここで我が汝らを置いていっても、勝手に付いてくるだろう」
「その通りです」
「強かな聖だ。だが、そういうところに我は惚れ──」
「え?」
「な、なんでもない」
ぷいっと視線を逸らすドグラス。彼がなにを言いかけたのか分からず、私は首をかしげます。
「まあ汝ら二人の戦力は、我にとっても心強いことは事実だ。付いてこい。我がファフニールまで汝らを導こう」
そう言ったドグラスのからが放たれます。
が消えた頃には、ドグラスはドラゴンの姿になっていました。
私とナイジェルはお互いに顔を見合って頷き、ドグラスの背に乗ります。
私達を乗せたドグラスは両翼を広げ、ファーヴを追いかけて飛び立ちました。
剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)【書籍化&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】
※書籍版全五巻発売中(完結しました) シリーズ累計15萬部ありがとうございます! ※コミカライズの原作はMノベルス様から発売されている書籍版となっております。WEB版とは展開が違いますのでお間違えないように。 ※コミカライズ、マンガがうがう様、がうがうモンスター様、ニコニコ靜畫で配信開始いたしました。 ※コミカライズ第3巻モンスターコミックス様より発売中です。 ※本編・外伝完結しました。 ※WEB版と書籍版はけっこう內容が違いますのでよろしくお願いします。 同じ年で一緒に育って、一緒に冒険者になった、戀人で幼馴染であるアルフィーネからのパワハラがつらい。 絶世の美女であり、剣聖の稱號を持つ彼女は剣の女神と言われるほどの有名人であり、その功績が認められ王國から騎士として認められ貴族になったできる女であった。 一方、俺はそのできる女アルフィーネの付屬物として扱われ、彼女から浴びせられる罵詈雑言、パワハラ発言の數々で冒険者として、男として、人としての尊厳を失い、戀人とは名ばかりの世話係の地位に甘んじて日々を過ごしていた。 けれど、そんな日々も変化が訪れる。 王國の騎士として忙しくなったアルフィーネが冒険に出られなくなることが多くなり、俺は一人で依頼を受けることが増え、失っていた尊厳を取り戻していったのだ。 それでやっと自分の置かれている狀況が異常であると自覚できた。 そして、俺は自分を取り戻すため、パワハラを繰り返す彼女を捨てる決意をした。 それまでにもらった裝備一式のほか、冒険者になった時にお互いに贈った剣を彼女に突き返すと別れを告げ、足早にその場を立ち去った 俺の人生これからは辺境で名も容姿も変え自由気ままに生きよう。 そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の人々から賞賛を浴びて、辺境一の大冒険者になっていた。 しかも、辺境伯の令嬢で冒険者をしていた女の人からの求婚もされる始末。 ※カクヨム様、ハーメルン様にも転載してます。 ※舊題 剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく當たるので、絶縁して辺境で出直すことにした。
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