《骸骨魔師のプレイ日記》新たなプロジェクト

ログインしました。昨日の戦いは辛くも私達の勝利で終わった。闘技場は萬雷の拍手で満たされていたので、皆が楽しめたらしい。私は歓迎會を上手く締めくくることが出來たと安堵していた。

「昨日はありがとうな、兄弟」

「あん?何のことだァ?」

「惚けるな。私に箔をつけるためだったのだろう?」

その翌日である今日、私はジゴロウを中庭に呼び出していた。それはジゴロウに昨日の戦いにおける彼の真意について禮を言うためである。

ジゴロウと源十郎は馬鹿ではない。闘技場という閉所だが高さは十分に確保されている空間では私の方が圧倒的に有利であることくらいわからない訳がない。そして私が二人のことを良く知っているように、二人も私のことを知っているのだから。

ならば手段を選ばずにカルとリンを呼び出して數的有利を確保することなど読めていたはず。自分達にとって不利な條件で私を本気にさせつつ戦ったのは何故か?もちろん、私と戦いたかったのは間違いない。戦うこと自がジゴロウと源十郎の目的なのだから。

だが、最大の目的は別にあると私は確信している。それは私がジゴロウと源十郎に勝利する姿を新りに見せ付けることなのだ。

「自分達が腰を據える國の王が、強者として有名な二人をまとめて相手をして勝利する。それを見せることで魔王に相応しい実力の持ち主だと演出した…違うか?」

私は魔王としてこの國を束ねているが、二人とは違ってほぼ無名の存在だ。ミツヒ子などは私がジゴロウと共に勇者君達を倒した存在だと気付いているようだが、カキアゲの前例があるので掘り葉掘り聞こうとはしなかった。

一応、魔専用の掲示板で最初期に私とアイリスがわした記述が殘っているので過去のログを漁れば魔プレイヤーならすぐにわかることではある。あれから書き込みをしていないこともあってもう忘れられているようだが。

「あー…隠しきれねェかァ。半分正解だぜェ、兄弟ィ」

私と共に日課である賢樹への水やりを行いながら、ジゴロウは観念したかのように白狀した。私を公衆の面前で戦わせ、その実力を新りに知らしめようと私を煽ったという予想は正しかったようだ。

だが、半分というのはどういうことなのか。その答えはジゴロウの口からすぐに聞かされることになった。

「本當は引き分けくらいにするつもりだったんだぜェ?それがカル坊とリンの嬢ちゃんを出して來られるたァな。おで闘技場で初めて敗けちまったァ」

…どうやら想定外は敗北そのものだったようだ。よく考えずとも二人の格的に策のためであっても敗北することは嫌がるだろう。つまり、私達は実力で二人を降したのだ。

闘技場という狹い空間かつ高所の有利を活かし、さらにカルとリンの力を借りていたとしても勝ちは勝ちである。あの二人を相手に勝てたというのは自信にしても良いのではなかろうか。

「次ァ敗けねェぜェ。勝ち逃げは許さねェぞ」

「わかった。その時は全力で抗わせてもらう」

そんな會話をしながら水やりを終えた私達は宮殿にある會議室に移する。実は今日、しいたけから話し合いたいことがあるという連絡をけていた。その目的が何なのかは知らされていないが、我々のクラン全員が集まることになっていた。

魔王國を建國して以來、クランの全員で集まって會議をするのは初めてかもしれない。誰かと誰かが不仲とかそういうことはないものの、別行を取ることも多いので全員で集まるのはとても珍しいことになりつつある。し寂しい気がするが、同時に集まるのが楽しみであった。

會議室には続々と仲間達が集まっていく。自然と雑談に興じることになるのだが、待ち合わせの時間になっても肝心のしいたけだけがまだ來ていない。自分が主催をしておきながらすっぽかすことはないと思うのだが…しいたけならあり得ると誰もが思っているらしい。會議室には何とも言えない空気が漂っていた。

「…一応、メッセージを送っておくか?」

「そうしましょ…」

「おまたせぇい!ぶえぇ!?」

こちらから連絡しようかと思った矢先、會議室の扉を開け放ってって來たのはしいたけだった。彼は勢い余ってその場で前のめりに転んでいる。相変わらず落ち著きがないなぁ。

よっこいしょと言いながら立ち上がったしいたけは、醜態をさらしたことなどお構いなしに空いている場所へ向かう。そして會議室の機をバンと叩いてから早速とばかりに本題にった。

「今日、皆に來てもらった理由は二つある!一つ目は迷宮(ダンジョン)を作りたいであります!」

「いきなりだな。だが、迷宮(ダンジョン)か…面白そうではある」

しいたけの持ち込んだ議題とは迷宮(ダンジョン)の作についてだった。以前、私達は迷宮(ダンジョン)の核(コア)を発見している。これを使えば迷宮(ダンジョン)を作ることが出來るのだ。

迷宮(ダンジョン)と言えば私達がまだ五人だけだった頃にボス役をやったものだ。なんだかとても懐かしくじていた。

「核(コア)の解析は終わったし、ちょちょいと弄ってできる限り強化してあるのさ!」

「強化なんて出來たのか」

「迷宮(ダンジョン)作るんはええけど、どこに作るんや?それに迷宮(ダンジョン)って作りっぱなしでええモンなんか?」

迷宮(ダンジョン)を作する場所とその維持管理について質問したのは七甲だった。私も第一印象としては面白いと思ったが、七甲と同じ懸念を抱いていた。どう考えても作って終わりになるとは思えなかったからだ。

そして我々の懸念は正しかった。しいたけ曰く、迷宮(ダンジョン)にはいくつかの複雑な仕様があるらしい。この仕様を理解しなければ作について手放しにゴーサインを出す訳にはいかなかった。

「今確認したが、【國家運営】の能力(スキル)の範疇になるくらいの一大プロジェクトになるぞ。作るためには念な準備が必要になる。まずはその辺りの見積もりを行ってからだな」

「ちぇ〜、新りが來た流れで許可してもらえると思ってたのにぃ〜」

「イザームは何も作らないとは言ってないでしょ。もっと的な計畫を立ててから言えって言ってるの。そうよね?」

不貞腐れるしいたけをフォローする兎路の確認に私は首肯した。最初から私は迷宮(ダンジョン)の作については乗り気なのだ。ただ、見切り発車は難しいと言っているだけなのである。

卻下された訳ではないと理解したしいたけは渋々ながらもなら計畫を立ててから出直すと迷宮(ダンジョン)については一度諦める。そしてすぐに気持ちを切り替えて次の議題に移った。

「じゃあこっちは作らせてしい!模型も作ってきたんだぜ!?」

「メー?白いイザーム?」

「ただの骸骨じゃん」

そう言ってしいたけが取り出したのは人の骨格標本を思わせるフィギュアだった。骨盤よりも上の部分はとてもリアルなのだが、本來は下半があるべき場所には何故か黒い球がくっついている。一何だ、これは?

「…ちょっと待って。尺って書いてるわねぇ?」

「ええと……これ、とんでもなく大きいんじゃないかい?」

邯那がフィギュアの端にある尺に気付き、羅雅亜がそこを注意深く確認するとしいたけが作ろうとしているモノの大きさに戦慄しているようだった。それはそうだろう。これ、地面から頭頂部までの高さが二百メートルくらいになるのだから。

「ふっふっふ!良く気付きましたな!これこそプロジェクト名、『者髑髏(ガシャドクロ)』。最強最大の防衛兵さ!」

どうやら骸骨型の防衛兵の構想らしい。フィギュアを良く見れば骨の隙間には機銃などがズラリと並んでいる。機銃だけでは心許ないので、恐らくは他にも様々な兵が設置されるのだろう。

「これほど大きなモノ、本當に作れるのでしょうか?」

「魔王國の技とザビーネちゃんの知識を集約すれば作可能だよ。それについては心配無用ってね」

「作れるのは良いのですがな、何故にこのタイミングでこの提案をしたのか教えて下され」

「そりゃ、新りが來たからだよ。あれだけの人數が増えたんだ。報はどっかかられる。だから外から攻め込まれた時に備えて防衛手段を整えておいたほうが良い…ってマキシマが難しい顔で言ってた」

報の洩と外敵の襲來か。それについては私達も予期していたが、あまり危機は持っていなかった。報が洩したとしても現狀の戦力で対処可能だと考えていたからだ。

だが、マキシマはそれでは不十分だとじていたらしい。そこで私達にしいたけ経由でより防衛戦力を整えるべきだと提案してくれたのだろう。

「…わかった。プロジェクト『者髑髏(ガシャドクロ)』は進めるべきだろう。皆はどう思う?」

防衛戦力を充実させるためとなればケチるべきではない。反対意見が出ることはなく、プロジェクト『者髑髏(ガシャドクロ)』は進めることになった。これが道楽ではなく防衛兵ということなので、拒絶する理由がなかったからだろう。

それにしても…防衛戦力の拡充か。確かに急務と言えるかもしれない。私にも出來ることは必ずあるはずだ。今一度、何が出來るのか考えてみるか。

次回は10月17日に投稿予定です。

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