久しぶりにバラモさんが夢の中を訪ねてくれた。

「久しぶりだね」

「お久しぶりです」

會うのは、オッちゃんの一件以來。

「オッコと一緒にお詫びに來た……と言いたいけど、アイツはまだ來れないんだ」

「霊も忙しいんですね」

オッちゃんはフィガロに詳しいらしいから、是非話を聞きたい。ちょっと殘念。

「そうじゃないけど…今日はキャミィの伝言を伝えに來た」

「はい」

「『今度、フレイ兄さんと住み家を訪ねたいのだけど、２日後の晝頃は時間が空いているかしら？』って」

「空いてるよ、とお伝え下さい。住み家で待っていると」

「わかった。伝えておくよ」

霊を伝令に使っていいものか…。

「友人なんだから気を使わなくていいよ。本當はもっと長い伝言なんだけど、端折らせてもらった」

「長い伝言？」

「さわりだけ伝えようか。『この間の王都は楽しかったわ。２日後に住み家を訪ねたいのだけれど、まだフレイ兄さんには伝えてない。けれど、貴方のことを緒にするという約束だけは取り付けているから心配はいらない。もし反故にするようであれば、たとえ兄であっても決して許さず、焼き盡くして森の栄養に……云々』と、こんなじでもの凄く長かったんだ」

「なるほど。言いたいことはわかりました」

直ぐに表が思い浮かぶ。キャミィは真面目だから、真顔だったに違いない。でも、確かに長いし、ちょっと過激すぎる。

「フレイは素晴らしい魔導師に長したらしいね。い頃を知っているけど、私は意外だ。才能があるエルフだと思えなかった」

「キャミィやフォルランさんも凄いですが、現時點ではフレイさんの方が技量は上だと思います」

「そうか。君にとって良い邂逅になるかもしれないね」

フレイさんには々聞いてみたい。

武闘會で見た煌めく魔法を、どうやってに著けたのかとか。教えてもらえるかなぁ。

★

「サバトは森に住んでいるのか」

「そうよ」

「エルフだから當然か」

フレイ兄さんと森を並び歩く。

目的地はウォルトの住み家。約束通りの時間には到著できそうね。

「キャミィは迷わず歩くな」

「サバトの家には、何度も遊びに行ってるから」

「そうなのか？！」

「ウークの皆を除けば、私の唯一の友人よ。この間も、一緒に王都に行った」

「キャミィが…サバトと…」

なんとなく思考を読んでみる。

「私とサバトは仲じゃないわよ。勘違いしないでね」

「そうか。まぁ、エルフ同士で考えにくいとは思ったけど」

エルフは、他の種族でいうというものが無いに等しい。低俗であるとじている者が殆どで、稀にじるエルフもいるようだけれど、割り切った関係で子をなすのが普通。とは熱的ならしいけれど、私にはわかりかねる。

「ところで、フォルラン兄さんの噂は知らないの？」

「しだけ聞こえてくる。コーノスの街に、相當おちゃらけてるけど魔法だけは凄いエルフがいるって。おそらく兄さんだ」

「おそらくというか、間違いない。とりあえず生きてるのね」

「そう簡単には死なないだろ。あの兄さんだぞ」

確かに殺しても死ななそう。フォルラン兄さんは、何故かとてもが頑丈。そして、運に恵まれている。

天運というのか、木から何十回も落ちているのに、命の危機に陥ったことすらない。本當におかしなエルフ。

「私は、サバトの魔法をよく知ってる。だからこそ思うのだけど、フレイ兄さんも私も、現時點ではサバトの技量には屆いてない」

「認めたくないけど、紛れもない事実だな」

「今後も屆くかわからない。でも…フォルラン兄さんならサバトに屆くかもしれない」

ウォルトは、異端の獣人魔導師。

目には目を。異端には異端を。

「兄さんの魔法の才は突出してる。俺の知るエルフでも斷トツだ」

「才能だけ、ね。けれど、サバトとフォルラン兄さんには、決定的な違いがある」

「皆まで言うなよ」

「兄さんはとにかくバカ。サバトは違う」

「それを言うなって…」

むしろ、フレイ兄さんは何故言わないのか不思議でならない。昔から３兄妹の良心ではある。

「並外れた魔法の才能は、大切な何かを犠牲にしてこそ得られるのかもしれない。フォルラン兄さんの場合、それが知能だった。そんな兄さんとサバトも友人なの」

「サバトの口振りからそうだと思ってた」

「あの兄さんが、真面目に魔法の修練を始めた理由もね」

「わかる気がする」

「もう著くわ。あの家よ」

ウォルトの住み家が見えてきた。

そして、外で畑仕事をしているウォルトの姿が目にる。

『ウォルト。來たわ』

『白貓の聲』で遠くから語りかけると、耳をピクピクかしてニャッ！と笑ってくれた。相変わらず表が可い。

どんどん距離が近づく。

「キャミィ…。まさか…。いや、そうとしか…」

「そのまさかよ」

ウォルトの前に並び立つ。

「ウォルト。久しぶりね」

「久しぶりだね」

「フレイ兄さんを連れてきたわ」

さぁ、どちらから話すの？

「サバト…。會うのは武闘會以來だな」

「お久しぶりです。今日は、遠いところまでお疲れ様でした」

「まさか正が獣人だったなんて…。てっきりエルフだとばかり」

「未だに勘違いされてるみたいです」

「兄さんは、あっさり信じたわね」

「直に対峙して魔法をわしたんだ。さすがにわかる。型、雰囲気、聲も全部がサバトだ。いや、ウォルトか」

「はい。立ち話もなんなので、家の中にどうぞ」

ウォルトに招かれて家にる。もう慣れたもので、落ち著く場所。

「ベリーのお茶を淹れました。フレイさんの口に合うといいんですが」

合うに決まってる。飲まなくてもわかっているの。

「味い。これは…味い」

「ありがとうございます」

「味しいわ」

「ウォルト。正直に言うと、俺はエルフ魔法について話を聞きに來たんだ。お前がエルフだと思ってたから」

「それはすみません」

「でも、そんなの関係なく話したい。いいか？」

「もちろんです。ボクも、フレイさんの魔法について話を聞きたかったんです」

武闘會での対戦について語る２人。私は詳細を初めて聞く。

白貓のお面を被って正を隠していたウォルトは、エルフだと思われたことを好機と捉え、エルフの魔法だけで最後まで闘ったと聞いている。

そして、対戦相手の兄さんを含めた観客も全員が騙されてしまった。見事なエルフ魔法だったに違いない。

実は、ウークにもサバトの報について問い合わせは來ていた。皆は『武闘會とやらで、エルフの力をみせつけたらしい！』と騒いでいたけれど、私は興味が無かった。

「フレイさんとどうにか闘えたのは、キャミィのおかげです」

「どういう意味？私が何かした？」

「キャミィがエルフ魔法を教えてくれたから、なんとか対抗することができたんだ」

「魔法を教えたことはないわ。見せたことはあるけれど」

「ボクにとっては同じだよ」

ふふっ。兄さんなら意味に気付くかしら。

「…ははっ！そういうことか…。凄いな…」

普通なら信じないでしょうけど、ウォルトの実力を知るからこそ『見るだけで魔法を覚える』という非常識に考えが行き著く。

「フレイさんの魔法は、しく煌めいていました。どうすればあんな魔法をれるんですか？」

「どうって…普通に鍛えてるだけだ。特に変わったことはしてない。ウークを出てからの２０年で長したけど」

「２０年も…。やっぱりまだまだ修練が必要ですね」

「ウォルトは２０年経ったら何歳になるの？」

「４２だね」

「…ということは、今は２２……？……まだ赤ん坊だぞ！？」

「兄さん。いきなり言われてもわからないわよ。『エルフなら』赤ん坊ね」

冷靜になった兄さんは、「冒険者になって、命を懸ける闘いで技量が上がったのかもな。やっぱり実戦は違う」と答えた。

ウォルトもダンジョンに詳しい。実戦経験はかなり富なはず。まぁ、る魔法のしさは比じゃないのだから當然だけれど。

「魔法について、俺もウォルトに聞きたい」

「何でしょう？」

「エルフ魔法は、人間にはれないと云われている。逆も然りだ。何故、ウォルトはれるんだ？」

「完全にボク個人の見解になりますが」

「構わない。詳しく聞きたい」

「人間やエルフ、ドワーフもそうですが、生まれ持った魔力を備えていますよね。種族毎に異なる魔力です。たとえば、これが人間の魔力で…」

ウォルトは人間、エルフ、ドワーフと異なる魔力を纏って見せてくれる。兄さんは…真剣に聞いてるわね。

「これらは似てるようで質が異なります。ろうとすれば、が拒絶反応に襲われ躊躇してしまう。ボクに限って言えば、れるのは覚がおかしいからです。修練で拒絶反応をほぼじなくなっています」

「拒絶反応…。どうやって魔力を生み出しているんだ？」

「ボクはこうです」

ウォルトはさっと魔力を纏う。その手法がわからないけれど、以前『魔力の模倣』だと教えてくれた。まったく意味不明。

「意味がわからない…」

「エルフには別の伝わり方をしてるのかもしれないですね。拒絶反応に関しては…手を貸して頂けますか？」

差し出された兄さんの手にウォルトがれる。

「……ぐっ！？」

「こういうことです。人間の魔力を、ほんのしだけに送りました。如何ですか？」

「最高に…気分が悪い…！」

「これが多種族の魔法をれないと云われる最大の要因だと考えています」

「納得…だっ…！……ふぅ」

ちょっと聞いてみようかしら。

「送った魔力を吸い取ったのね。ということは、初めから吸い取れるように魔力を加工して送り込んだということなの？そうでなければ、で魔力が混合されるはず」

「違うよ。異なる魔力は、で作しない限り混じることはない。だから拒絶反応が起こる。流れを知して、吸い取っただけだよ」

「そうなのね。ウォルトに言っておきたいのだけど」

「なんだい？」

「貴方はただの魔法が使える獣人よね？」

「そうだよ」

本當に迷い無く即答するのよね。

「それでも、様々な種族の魔力を自在にれる。そんな魔導師はまずいないわ。これは技量の話じゃなく、質が大きな要素に思える」

「エルフなら違う方法で可能なんじゃ？」

「できない。私の推測を言わせてもらえば、貴方が獣人だからできている可能が高い」

「……なるほど。人間でもエルフでもドワーフでもなく、獣人だから…という意味だね？」

「そう。どの種族にも當てはまらないから、どの種族の魔力もれる、というただの推測。覚も鈍っているのも考慮しての話」

「あり得そうな理由だね。でも、最初に見つけてもらったボクの魔力は、人間の魔力だったんだ」

「ウォルトはどう見ても獣人だけれど、人間のも流れてると私は推測する。何代前か、何処かで混じったのかもしれない。限りなく薄いだけ」

「そう考えたら辻褄は合うのか…。自分のルーツについて、深く考えたことはなかったなぁ」

『勉強にニャった！』って笑顔ね。

大好よ。

「何を言いたいかというと、様々な魔法をれることは、大きな武になるということ。たとえ魔導師に技量が及ばなくとも、魔法の幅で負けることはない。々な戦が立てられる」

「もっともっと魔法を磨くよ」

兄さんは々混してる風。まぁ、當然だけれど、釘を刺しておこうかしら。

「兄さん。武闘會でウォルトに負けたと言ったけれど、本當は噓なんでしょ？」

「は…？いきなりなんだ？」

「だって、ウォルトはただの獣人の魔法使いだもの。エルフの魔導師に、魔法戦で勝つのは相當困難よ。ウォルト、そうよね？」

無言の『そうだニャ！』を頂いた。表かな貓人は…凄くいい。

フラウも魔法戦で倒したのではなく、毆り倒したとウォルトは認識してるはず。その通りだけれど、実際はその前に勝負がついていた。

「魔力切れだと噓をついて、手のを見せたくなかった。そうよね、兄さん？」

「いや…。お前が何を言ってるのか意味が…」

フレイ兄さんも勘が悪いわね。

「ウォルト。そういうことよ」

「知ってたよ。負けるつもりはなかったんですが、あの日は花を持たせてもらいました。ありがとうございます」

「？？？」

「あとで詳しく説明する。ウォルト、晝ご飯をお願いできる？」

「わかった。直ぐに準備するよ」

★

ウォルトが調理している間、フレイ兄さんに事を説明した。

「一応理解した。ウォルトはサバトの正で間違いないけど、自分を大したことないと思ってる、ってことだな？」

「その通りよ。そのつもりで話さないと噛み合わない。ここからはちゃんとして」

「先に言っておいてくれよ。誰もそんなこと思わないぞ」

「簡単に言うと、彼の師匠はとんでもない魔導師らしい。その師匠としか修練したことがなかったから、自分は大したことないと思い込んでる。手も足も出なかったと言ってるわ」

「それが事実なら、師匠とやらはとんでもない化けだ…」

「人外のような存在だと思うけれど、ウォルトは噓を吐かない。だから実在するのよ」

獣人に魔法を教えるような、奇特で世界最高峰の魔導師がこの世に存在する。それは疑いようもない。流石に、師匠の存在無くしてウォルトの技量は説明できないのだから。

「料理ができました」

「ありがとう」

「頂くわ」

き通る野菜スープを兄妹揃って口に運ぶ。

「……味いっ！こんな味いスープは初めてだ！凄いな！」

「ありがとうございます」

「また腕を上げてるわね」

「王都で勉強したからね。一緒に行った店の料理が味しかったから」

「また何処かへ行きたいわ」

「そうだね。また行こう」

食事を終えると、ウォルトは後片付けに向かった。

「なぁ、キャミィ」

「なに？」

「お前、やっぱりウォルトのことが…」なんて俗なことを言うつもりかしら？もしそうだとしたら、ちょっとがっかりね。

「なんとなくだけど、何か我慢してないか？」

「………バレたら仕方ないわね」

さすがフレイ兄さん。

後片付け中のウォルトに無理を言って、臺所でモフらせてもらう。

ずっと我慢していたから、満足も倍増。

兄妹であっても、この顔は見せられないわ。