《リスタSide》

第七王子ノアのメイド、リスタ。

彼のは、神リスタルテの魂によって、現在主導権を奪われてる狀態。

リスタは闇の中、うずくまっていた。

『…………』

リスタは思い出す。どうして、こうなったのかを。

それはノアがカーター領へ來る前のこと。

いリスタはカーター領アインの村で、両親と共に暮らしていた。

しかし両親は魔に襲われて死亡。

優しい村長に拾われ、育てられることになった。

……その頃のリスタの神は、ボロボロだった。

母、父を失い、悲しみに暮れていた。

リスタは毎日神に祈った。神様どうか、両親に會わせてくださいと。

そうやって祈ると、夢の中に両親が出てくる。

寢ている間だけ、リスタは両親に會うことができる。でも目が冷めると二人とももういないのだ。

リスタは毎日悲しくて、泣いて過ごしていた。

誰か、助けてほしい。

このどうにもならない狀況を、どうにかしてほしい。

……するとある日、夢の中で、一人神と出會う。

神、リスタルテとの出會い。

その夢の中で彼は、こうお告げをする。

『まもなく、あなたの前に王子様が現れます』

『王子様……？』

『ええ。その王子様がきっと、あなたの運命を変えてくれるわ』

目が覚めるとリスタは、快活さを取り戻していた。

神の言葉を信じ、いつかこの不幸な自分を救ってくれる、王子様がやってくれることを期待しながら生きることにした。

神のお告げは、リスタにとっての生きる希だった。

まだ見ぬ王子様との出會いを夢にながら、彼は日々生きていく。

そして……運命の日が訪れる。

ある日カーター領アインの村に、火山亀が現れた。

勇者の施した、村を守る結界が壊れる。

リスタは村のひとたちを守るため、自ら犠牲となることを選んだのだ。

リスタは逃げながら、こう考えていた。

きっと、自分の窮地に、王子様が現れてくれるはずだと。

リスタはたしかに村人、そして村長に恩義をじていた。

だが彼をかしたのは、神からのお告げ。いずれ來る運命の王子との出會いを期待し、自らを危険にさらしたのだ。

そして……リスタは運命の王子と出會う。

すなわち、ノア・カーターと。

☆

それからのリスタは、自分を助けてくれた王子様《ノア》と、ノアに引き合わせてくれた神のことを崇拝するようになる。

ノアと出會ったその日の夜、またも夢枕にリスタルテが現れる。

『ノア・カーターのそばにいなさい』

リスタは神のことをすっかり信用していた。

……利用されてるとも知らずに。

リスタルテはこの段階でリスタのに、魂を宿していた。

神の目的は、リスタのを乗っ取るためのならし、そして、そばにいることで運命を作し、ノアに領民達からの信仰を集めること。

リスタはそんな神の思など気づくことなく、ノアのそばに居続けた。

リスタにとってノアは自分を救ってくれる王子様なのだ。離れたくなかった。

ノアは変わった人だった。

ちょっと口は悪いけど、変な行をするけど、でも……その実、優しい人だ。

リスタはどんどんノアに夢中になっていった。

ノアが活躍するたび、ノアへの好きであふれていく。

リスタにとってノアはかけがえのない存在になっていった……。

そして、ノアが世界を統一したその日。

リスタの夢の中に、あの神、リスタルテが現れた。

『リスタ、もうあなたは用済みです。今までよく働きました』

『どういうことですか……？』

リスタルテは説明する。

彼の目的を。そして、リスタは自分が利用されていたことに気づかされた。

『……つまり、わたしは神様の、駒だったと？』

『そのとおり。わたくしの目的は、ノアを神にして殺してもらうこと。このごと』

神はをもたないため、殺すことができない。

だから、リスタのを使って、自殺を試みようとしてるとのことだった。

『…………』

リスタは、いやだった。死にたくなかった。

もっとノアのそばにいたかった。でも……。

『まさか斷りませんよね？　あなたが今日まで生き延びることができたのは、誰のおかげだと思ってるのですか？』

……ノアのおかげだ。それは間違いない、彼が毎日希を持って生きられているのは、そばにあの最高の王子様がいてくれるからこそ。

『忘れたのですか、リスタ？　おまえとノアを引き合わせたのは、ほかでもない、この神リスタルテですよ？』

……たしかに、そうだ。

いずれ王子様が來ると教えてくれたのは、この神である。

でも……でもだ。

を神に譲ってしまったら、自分は……もう死んでしまう。

もう……ノアと會えなくなる。

それはいやだ……もっとノアのそばにいたい。

もっと、ノアをする人たちとともに過ごしたい。

カーター領での日々、そこで出會った人たちとの時間、リスタにとってそれらが大切なになっていた。

それを……リスタは失いたくなかった。でも……。

『いいのですか？　わたしくを拒めば、ノアは英雄じゃなくなるのですよ？』

神曰く、ノアが今日この日まで功をおさめてこれたのは、運命を司る神であるリスタルテの力があったからだと。

『ノアのやることなすことがせいこうしたのは、神の力があったから。わたくしの機嫌一で、ノアはその力を失う……もう彼がなにをしても功することは、永遠に來なくなる。そうなれば、ノアは英雄じゃなくなってしまうのですよ？　あなたの大切な、王子様が英雄じゃなくなる……いいのですか？』

……よくない。

神に脅されて、リスタの心は揺らぐ。

『わたくしにの主導権を譲りなさい。神を殺したとなれば、ノアは神を殺し世界を救った英雄として、永遠にたたえられることでしょう。あなたが自らを譲るなら、運命の力をノアに分けてあげてもいい』

……つまり、自分がリスタルテにを分けあたし、死ねば……するノアは英雄になれる。そして、いつまでも語り継がれることになる。

リスタは、死にたくなかった。でも、ノアのため……仕方なく、リスタルテに従うことにしたのだ。

☆

そして、現在。

リスタは神世界で、丸くなっていた。もうまもなく彼のは、ノアによって破壊される。

そうすれば……。

と、そのときだった。

「おいなにやってやがる、こんなところで」

……今、一番會いたい人の聲が聞こえた。

あり得ないはずだ。ここはリスタの心の中だ。

「おい無視すんじゃあねえよ」

「ノア……様……」

それでも、彼はそこにいた。

ノア・カーター。する彼がそこに。

「ナニしに……きたのですか？」

「決まってんだろ。おまえを、助けに來た」

……ああ、とリスタは泣きそうになる。

ノアは、する王子様は、自分を助けに來てくれたのだ。

泣きたくなるほど、うれしかった。でも……。

「帰ってください……」

ノアの救済をけれるわけにはいかない。

だって……。

「わたしが死ねば、あなたは英雄になれるんです。わたしは……あなたに……英雄に……」

するとノアは……。

「ば～～～～～～～～～～～～～～～～～～かじゃねえの！」

リスタに近づいて、ぽかん、と軽く頭を叩いた。

「俺がよぉ……いつ英雄になりてえって言った！？　ああん！？」

「え、え……で、でも……」

「俺のみはよぉ、辺境の土地で、のんびり面白おかしく、まったり暮らすことなんだよ。英雄？　はっ、ごめんだね」

「そ、そんな……」

英雄になりたくなかったのか……？

では、自分の行には、何の意味も無かったのか……？

するとノアがニッと笑う。

「だからよぉ……おまえは、俺を英雄にしなきゃー、なんて考えなくていいんだ」

「え……？」

「俺は英雄になることをんでない。なら、おまえが死ぬ理由もない。だろ？」

……たしかに、そうだ。

神から提示された條件をのんだのは、そうしないと、ノアが英雄になれなくなるから。

ノアが神殺しの英雄となることをんでいないなら……。

「で、でも……でも……ノア様が……」

「ああもうごちゃごちゃうるせえ！」

ノアがまっすぐにリスタを見てくる。

「おまえはどうしたいんだ？　俺がどうしたい、神がどうしたいとか関係ない。ほかでもない……おまえがどうしたのか！　言え！」

強いノアの言葉がを打つ。

自分のみ……それは……。

「のあさまと……いっしょにいたい。カーター領の人たちと……一緒にいたい！　死にたくない！」

一度口を突いたら、次から次へと願が外に出てきた。

そこには死にたいという気持ちはいっさい無かった。ただ……生きたかった。

ノアはその答えが聞けて満足だったのは、うなずくと、手を差しべる。

「俺の手を取れ、リスタ！　ここからおまえを連れ出してやんよ！」

……リスタは涙を流す。

王子様が、自分を助けに來てくれた。偶然でもない、誰かに仕組まれたわけでもない。

本當の意味で、王子様が、窮地のを助けに來てくれた。

ずっと憧れていたシチュエーションが今、ここに……。

リスタは、もう絶しない。死にたいとは思わない。

リスタは……ノアの手を取った。その瞬間、世界にがあふれかえる……。

彼の手は……本當に、泣きたくなるくらい、溫かった。