《【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-》第221話「錬金師トールと魔王ルキエ、『プレ結婚式』を実行する(2)」
『プレ結婚式』は、2ヶ月後に行われることになった。
招待客は、魔王領と帝國合わせて、二十名前後。
人數を絞って、小規模でやることになったんだ。
目的は、人々の好奇心を満たすこと。
そうすれば問い合わせの數も減るはずだ。
2年後の本格的な結婚式まで、みんな靜かに待ってくれると思う。
ケルヴさんや文たちの負擔も減るはずだ。
帝國からは、大公カロンと皇太子ディアスを呼ぶことにした。
あのふたりには影響力がある。
彼らが『魔王の結婚式はこんなじだった』と話を広めてくれれば、帝國の人たちも落ち著くだろう。
魔王領側の出席者は、各種族の代表者を呼べばいいな。
ミノタウロスの警備隊長さん、エルフの魔部隊長さんから、種族の長に連絡を取ってもらおう。エルフの村の村長さんも呼びたい。できれば『ご先祖さま』にも來てほしい。そうそう、羽妖(ピクシー)の席も用意しないと。
出席者のリストを作っていると……ふと、気づいた。
帝國側で名前が出てくるのは、大公カロンと皇太子ディアスと……あとはアイザックさんくらい。
でも、魔王領で呼びたい人は、いくらでも名前が出てくる。
俺にとってのは、もう、魔王領の人たちなんだ。
帝國の人はじゃなくて『お客さま』。
そんなことに今さら気づいた自分が、なんだか、おかしくなる。
そもそも『プレ結婚式』をやろうと思ったのも、魔王領の人たちの負擔を減らすためだからね。
だから、準備はできるだけ俺の方でやるつもりだ。
ルキエからは錬金(れんきんじゅつ)をフルパワーで使っていいと言われてる。
作ったものはルキエがチェックするそうだけど。
魔王領のみんなに喜んでもらえるように、がんばろう。
人々を失させるわけにはいかないからね。
小規模とはいえ、魔王ルキエにふさわしい式にしないと。
まずは結婚式にふさわしいドラゴンを作ろう。
あとは、勇者世界の結婚式の資料を読み込んで──
「あの……トールさま」
「どうしたの。メイベル」
「この剣も、『プレ結婚式』で使われるのですか?」
「うん。勇者世界を真似してるからね」
「空を飛んで、炎を吐き出すダガーも、ですか?」
「勇者世界の結婚式では必要なものらしいよ?」
「拠點攻撃用の兵にしか見えないのですが……?」
「勇者にとってはおもちゃなんだろうね」
「勇者世界で結婚する人は大変なのですね」
「費用もすごくかかりそうだよね。俺は錬金(れんきんじゅつ)で自作できるけど」
「……私は、この世界の人間でよかったです」
「……俺もだよ。勇者世界で暮らしていたら、結婚式を挙げるために生命をすり減らしていただろうね」
そんな話をしながら、俺たちは『プレ結婚式』の準備を進めるのだった。
──2ヶ月後 (宰相ケルヴ視點)──
「お集まりの皆さまに申し上げます。『プレ結婚式』の司會を擔當させていただきます。宰相(さいしょう)ケルヴと申します」
魔王城の広間で、『プレ結婚式』が始まろうとしていた。
壇上(だんじょう)に立っているのは、宰相ケルヴだ。
彼はトールが作ったマジックアイテム『拡聲(かくせい)マイク』を裝備している。
短い棒(メイス)のような形をした勇者世界のアイテムだ。『風の魔石』を利用したもので、周囲に音を広げる効果がある。
『拡聲マイク』を通したケルヴの聲は、會場へと広がっていく。
人々の拍手の音にもかき消されることはない。
マイクが『風の魔石』の力で、ケルヴの聲以外の音をかき消しているからだ。
本來、ケルヴは『プレ結婚式』の客席側にいるはずだった。
司會をすることになったのは、彼自の希によるものだ。
はじめは客席にいるつもりだった。
けれど、想像してみたら……耐えられなくなった。
マジックアイテムを自由自在に駆使(くし)するトールを、手出しできずに眺(なが)めているなんて、考えただけで胃が痛くなる。
だったら、せめて司會として參加したい。
それならいざという時、式の進行を止めることもできる。
そう考えて、ケルヴは式の司會をすることを申し出たのだった。
(危ないところでした。この『拡聲マイク』を使われたら……私が制止する聲もかき消されていたでしょう)
ケルヴは舞臺の上で息をつく。
彼は『拡聲マイク』を手に、挨拶(あいさつ)を続けながら、
(そういえばこの『拡聲マイク』は、勇者世界の學校などで使われているものなのでしたね。やはりこの『自分が発する音以外をかき消す効果』で、勇者の私語を打ち消していたのでしょうか)
教師が勇者に指示を伝えるのは大変だろう。
勇者は強さに自信を持っている者ばかりで、謙虛(けんきょ)なものはない。
教師に反論したり、文句を言ったりする者もいたはずだ。
そんな勇者たちに対して、確実に言葉を伝えるために、『拡聲マイク』には『私語止(しごきんし)システム』が組み込まれている。
だから『風の魔石』で空気を震わせ、使用者以外の聲をかき消すことができるのだ。
だが──
(このアイテムでも、勇者を靜かにさせるのは大変だったと聞いております。勇者世界の文書には『皆さんが靜かになるまでに10分かかりました』『25分かかりました! 昨日より長くなっています!』という、教師の言葉が書いてありましたから)
『拡聲マイク』でも消せない、勇者の私語(しご)。
それがどんなものなのか想像して、ケルヴのは震え出す。
(考えるのは後です。今は司會の役目を果たさなければ)
『プレ結婚式』は、ケルヴや文たちの負擔を減らすために開催されたものだ。
準備に、ケルヴたちはほとんど関わっていない。
數日前に式のプログラムと、必要なマジックアイテムを渡されたくらいだ。
ケルヴたちの負擔を減らそうというトールの配慮はうれしいが、目の前に並んだ人々を見ると不安がよぎる。
『プレ結婚式』の出席者は二十數名。
魔王領側はミノタウロスやエルフや獣人の族長が出席している。會場の隅には水のったタライがある。っているのは人魚の族長だ。
隣でを丸めている狼は『ご先祖さま』。太古から生きている、魔王領の守り神のような存在だ。
そんなものまで呼び寄せてしまうルキエとトールの影響力にびっくりだ。
同時に、『失敗できない』という思いがケルヴの頭をよぎる。
帝國側からも、皇太子ディアス、大公カロン、『ノーザの町』のアイザック・オマワリサン・ミューラが出席している。
魔王領に留學しているリアナ皇が、彼らの応接役(おうせつやく)を申し出てくれたのは助かるけれど、油斷はできない。
彼らの前で、無様な姿をさらすわけにはいかないのだ。
ケルヴは不安を抱えたまま、式を進めていく。
彼は手元の羊皮紙(ようひし)を見つめながら、用意しておいた言葉を口にする。
「それでは、魔王ルキエ・エヴァーガルド陛下と、錬金師トールどのが場されます。今回は『プレ結婚式』ということで、勇者世界風の場となっております。天空から(・・・・)いらっ(・・・)しゃる(・・・)おふたりに、皆さま、盛大な拍手をお願いいたします!!」
『キシャ────ッ! グルォアアアアアアアッ!』
直後、天地を震(ふる)わせるような咆哮(ほうこう)が響いた。
城の尖塔(せんとう)の向こうから、翼の生えた生きが現れる。
巨大な頭部を飾るのは、2本の角。
長いと尾は、黒曜石のような鱗で覆(おお)われている。
それは翼を広げた、漆黒(しっこく)のドラゴンだった。
「「「お!? おおおおおおおっ!?」」」
出席者たちがさけび聲をあげる。
ドラゴンは口から真っ白な煙(スモーク)を吐きながら、こちらに向かってくる。
背中に乗っているのは、魔王ルキエと錬金師トールだ。
ふたりは地上の者たちに手を振っている。逃げようとしていた客たちが、ふたりの姿を見てきを止める。よく見れば、ドラゴンはきひとつしていない。翼もまったくかさず、空中をるように移している。
あのドラゴンは作りだ。
飛行しているのは魔王ルキエがに著けている『隕鉄浮遊(いんてつふゆう)サークレット』の能力によるものだ。だからルキエの手には、十字キーとABボタンのついた『汎用(はんよう)コントローラー』がある。
魔王ルキエは『隕鉄浮遊(いんてつふゆう)サークレット』が生み出す『浮遊フィールド』の中に自分とトール、それと作りのドラゴンを取り込み、飛行させているのだ。
「宰相(さいしょう)ケルヴより、ご列席の皆さまに申し上げます」
ケルヴは『拡聲マイク』を手に、客席へと語りかける。
「あのドラゴンは、勇者世界の結婚式を參考に作り出されたものです。皆さまに危害を加えることはありません」
「──勇者世界の風習ですと!?」
「──ど、どういうことなのだ!?」
「──勇者世界、では、新郎新婦が、ドラゴンに、乗って!?」
「──た、確かに異世界勇者は、ドラゴンに並々ならぬ執著(しゅうちゃく)を持っていましたが……」
「──勇者世界の風習であれば、帝國でも取りれなければなりませんか。叔父上」
「──待て待て殿下よ。いくらなんでもあれは……」
「──ドラゴンなど、オマワリサンでも管理できないのではないだろうか……」
人々の反応を見ながら、ケルヴは、
「錬金師トール・カナンどのが、勇者世界の結婚式の資料である『あなたの理想のブライダル』を研究したところ、『異世界の新郎新婦は煙(スモーク)の中、ドラゴンに乗って列席者の前に現れる』という結論にいたりました」
「「「な、なんと!?」」」
「ですが、ドラゴンを結婚式に呼び出すわけにはまいりません。ですからトール=カナンどのとドワーフの技者が協力して、煙を吐き出すドラゴンの模型(もけい)を作いたしました。天空よりドラゴンニノッテオリテクル……シンロウシンプ、ヲ、ドウカ、ハクシュデオムカエクダサイ……」
ケルヴは、用意しておいたセリフを語り続ける。
「『プレ結婚式』のプログラムをご説明イタシマス。まずはドラゴンによる新郎新婦の場。続いて、魔王陛下のスピーチにケーキ刀、キャンドルサービスが行ワレルこととナッテおります。ドウカミナサマ、魔王陛下と錬金師トールどのノ『プレ結婚式』ヲ、最後マデミトドケテイタダケルヨウニオネガイイタシマス…………」
「叔父さま。ご立派でした!」
「…………あぁ。エルテ」
すぐ側で自分を見上げる姪(めい)のエルテを見て、宰相ケルヴはため息をつく。
やり遂げた。自分は、やりとげたのだ、と。
規格外の結婚式の司會として、宰相ケルヴはあいさつを終えたのだ。
ここからの進行は魔王ルキエが引き継いでくれる。
「叔父さまの仕事は、あとは閉會のあいさつだけです。それまでしばらくお休みください」
「エルテ」
「はい。叔父さま」
「……はやく一人前になって、私の仕事を引き継いでください」
「いえ、わたしなど、まだ叔父さまの足下にもおよびません。叔父さまの域に達するには10年以上の年月が……あれ? 叔父さま。どうして倒れそうになっていらしゃるのですか? しっかりしてください! わ、わかりました。なんとか、あと20年で追いついてみせます……え? どうして崩(くず)れ落ちていかれるのですか。ケルヴ叔父さま──っ!!」
そうして、結婚式の進行は、魔王ルキエへと引き継がれ──
宰相ケルヴはエルテに支えられながら、休息を取ることになったのだった。
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