《ドーナツから蟲食いを通って魔人はやってくる》56話 奴隷輸送隊(サチ視點)
奴隷輸送隊は二十人の小隊である。武を持って、おとなしいエルフ※を捕まえる。彼らが放つ悪臭は甲冑に塗られた魔獣ののせいだ。深な人間共にふさわしい臭いと言えよう。建て前だけ整列し、二十人を二つに分けて気の毒な奴隷をサンドしていた。連れる奴隷は三十人ほど。
サチは顔全部を仮面で被(おお)い、甲冑をまとうザカリヤは面頬(バイザー)を閉じた。荒れ地にはを隠すがない。サチたちは事前に掘っておいたの中、を潛めた。連中が目と鼻の先に來るまで、ジッと辛抱強く待つ。
暗い蔵に軽い足音が屆く。ゾロゾロ……ゾロゾロ……
先頭十人の微妙にズレた足音。このズレ方はしくない。アスターなら、間違いなく怒號を飛ばすだろう。その足音が、サチたちの所まであと十歩と迫った時──
地底を蹴り、サチとザカリヤは地上に出た。
「ヒュッ!!」
人間共は悲鳴とも息を飲む音とも取れる変な音を発し、喫驚した。
「止まれ!! 許可なしに奴隷を輸送する不屆き者らが!!」
ザカリヤが怒聲を浴びせる。よく通るテノールは怒りを帯びてなければ、を心地良く揺さぶっただろう。しい顔や筋質なを甲冑で隠していても凄い迫力だ。
サチはアスターを思い出さずにはいられなかった。アスターも気迫だけで周囲を圧倒した。見た目とか地位、家柄、実績……外的要素は関係ないと思わせるほどのパワーである。から溢れ出る気で人々を簡単に威圧できる。
人間共は一歩下がった。ザカリヤは畳みかける。
「我らは王家の命で貴様らを捕らえにきた! 勝手に領地を侵し、奴隷を輸送しているという事実は王陛下のお耳にもっているぞ!!」
「失禮だが、王家の命であるなら名乗られよ。拝顔させていただきたい」
最初の喫驚から立ち直った隊長と思われる男が言い返した。サチたちが二人きり、兵は見當たらないことに気づいたのである。顔を見せろと言ってくるが、彼らも甲冑姿。兜の代わりに頭からすっぽりガスマスクを被っている。自分たちが見せぬのに見せろとは図々しい。
「殘念ながら、我らは正規兵ではないので名乗らぬ。犯罪者に顔を見せる義理もない」
「了解した。ならば、強行突破させていただく」
隊長が抜刀するとそれに従い、前列の九人全員が剣を抜いた。縄でつながれたエルフたちが控えめな悲鳴をあげ、うしろに下がる。奴隷にされるエルフの七割が子供だ。彼、彼らは白すぎると尖った耳以外は人間と変わらない。震えるエルフたちを見てサチは憎悪を募らせた。ザカリヤはサチより落ち著いている。涼しい顔でサチを制し、剣を抜いた。
シュッ──と、音などしないのに聞こえる気がする。ザカリヤの得が姿を現したとたん、隊員たちは小さくどよめいた。
ザカリヤが鞘から放ったのは、真っ黒な剣だった。サチも見るのは初めてだ。マリィと戦った時は別の剣だった。
──異様だ
シューシューと濃い瘴気をそのから放っている。人間が吸ったら即死する猛毒である。強い魔力をまとっているのは言わずもがな。猛烈な瘴気しか視覚できない人間でもじ取れるのだろう。隊員たちをまとう空気が変わった。
「さあ、どいつからだ? 命知らずの勇者は? おまえか? それともおまえ?……ふふふ。この場合全員か……」
ザカリヤが笑んだ瞬間、隊員たちは雄びながら突撃した。ザカリヤはフワリ、上空に飛び上がる。を浴びたくないサチは脇に飛び退いた。まず、一閃。煌めいてからで染まる。ザカリヤは隊長と思われる一人を叩き斬った。首の付けから腰まで斜めにスパッと斬ってから、を薙ぎ払った。斬られたがドウと落ちたあと、足付き鍋のようになった下半が膝をついて倒れる。
リーダーを最初に片付けるのは定石である。指導者を失った彼らは戦意をなくす。しかし、そうは簡単にいかなかった。殘念ながら雑魚共は懸命に剣を振り回し続けた。序盤から隊長を亡くしたというのに、戦意を喪失しない彼らは戦士として一定レベル以上。雑魚と評しても決して弱くはない。とはいえ、誤って味方を傷つけてしまったり、目も當てられぬ様相ではあった。ザカリヤにはかすりもしない。
「ひるむな!! 相手は二人だけだ!」
誰かがび、サチのほうにもやって來たので、抜刀せざるを得なくなった。
キィイイイン……刃をかち合わせれば、獨特の音がする。サチはチンクエディア、短い寶刀でけ流した。
──人間相手なら、魔力を放出するまでもないか
打ち込む刃から相手の必死さが伝わってくる。危険な場所を小隊で移するのだから、やはり多は腕の立つ人材なのだろう。弱いほうを突こうとするのは當然の心理だ。サチの周りに隊員は集まってきた。背後に控えていた十人も戦いに加わり、サチは囲まれた形になる。
──ジャンとの修練がしは役に立つかな
不安は一片もなかった。うしろから橫からもビュンビュン刃が襲ってくるが、視覚と気配の両方で捉えられる。
──こんなもんか……主國の騎士団はレベルが高いのだな
サチはジャメルやダーラ、カオル、主國の騎士たちを思い出した。出國前、魔力を封じた狀態では彼らに到底敵わなかった。ジャメル、ダーラは亜人だから置いといて、カオルもそこそこ強いことを考えると、レベルの高さがうかがえる。それより上位クラスのティモールやイアン、トップに立つアスターの強さは桁外れだ。
──思えば、すごい所にいたんだな。もっと真面目に教練とか參加しとけばよかった。
指導の際、グラニエにも言われたが、教練をサボりまくっていたのである。上だったグラニエもその時は戦闘技を學ばせる必要をじなかったのか……それまで放置していた分、サチを甘やかし強要しなかった。周りから“ひいき”と思われたのは當然だったのだ。浮いた時間でサチは、學匠の學校へるための勉強をしていたのだから。
騎士団でのサチの印象は、所屬しているだけの真面目な文といったところか。頭がいいから上に可がられている。もともと、剣を振るうイメージとはかけ離れていた。生まれついての貴族とはちがい、いころから剣、その他武の指導をけているわけではない。ここにいる雑魚共が容易(たやす)いのは、サウルとして覚醒した能力とグラニエの熱指導の賜だろう。しかし、障害が一つ。
殺してはいけない。サチは殺さず、正面からの刃をけながら背後、橫からの攻撃をかわさねばならなかった。
──理的にムリ
橫から來た一人に肘打ちを食らわせ、突破口を作る。はグラニエから教わったものだ。初歩的なことしか教わっていないのに見事、相手のみぞおちにった。甲冑の鉄プレートがグニャリと凹んだので、そこそこのダメージを與えられただろう。その隊員は吹っ飛び、サチの囲いは崩れた。肘に鋭い痛みが走るのは良い刺激となる。戦いの最中ならサチだって傷みと仲良くなれる。
「あああ、面倒くさい」
うしろで聞こえるやる気のない聲はザカリヤ。近くにいるエルフたちに當たらない角度から、黒い剣で薙払(なぎはら)った。
ズサァ……黒い突風が隊員たちを直撃する。
人間たちにとって重い甲冑は斬撃からを守ってくれても行を制限する。一回転ぶと重みにより、なかなか起き上がれないのだ。彼らはコロンと転がり、ひっくり返された亀みたいに手足をバタつかせることとなった。稽である。まあ、笑っているほど暇でもないので、サチは用意していた縄で彼らの周りを囲み、立ち上がるまで待機した。
立ち上がった亀どもを待つのは拘束だ。ザカリヤが一言、
「縛れ」
そう言うだけで、縄のはキュウゥゥゥッと小さくなり、隊員たちを締め付けた。俵巻き一丁上がり、といったところか。一人、エルフたちを見張っていた隊員は放心した様子でガックリ膝をつき両手を上げた。これで、第一関門を突破した。拘束した彼らをグリンデルの衛兵隊か騎士団に引き渡せば、ひとまず完了となる。
「よし。ダリウス。あとは國境を越え、約束の場所で待つのみだ」
最後の一人を縛り終えたサチとザカリヤは意気揚々、エルフと罪人を引き連れ國境へ向かった。
※本作のエルフは弓使いとは限りません。
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