《【第二部連載中】無職マンのゾンビサバイバル生活。【第一部完】》23話 忘れ得ぬ外道のこと 前編
忘れ得ぬ外道のこと 前編
「・・・あれしきでくたばるハズはねえと踏んでたが、せめて片腕は持っていけたと思ってたんだがな」
「そいつは殘念だったな、こちとら悪運に恵まれてるもんでね。アンタの方は、隨分と男前になったもんだ」
何かを訴えかけるようにちり・・・ちり・・・と震える『魂喰』を肩に乗せたまま、鍛治屋敷に返す。
「まさかあの土壇場であんな『手』を使われるとはなァ・・・南雲流、相変わらず底意地が悪ィぜ」
右目を眼帯で覆っている以外は、前と同じに見える。
・・・足と腹の傷は、見た所影響を與えたようには見えない。
クソ、あの時もうし深く斬り込めればな。
「それで、この港に何の用だ。観目的には見えねえな・・・おおかた後ろでくたばってる雑魚共の観察ってとこか?」
軽口を叩きながらも、視線は緩く全を見る。
・・・集中しろ。
コイツの一挙手一黨足を見逃すな。
きの起こりを捉えるんだ。
「っへ、察しがいいねえ・・・『オモチャ』をくれてやったチンピラがどの程度やれるかって見に來たんだがよ。思わぬ再會になっちまったなァ」
鍛治屋敷は両手をコートのポケットに差し込んでいる。
・・・以前より、サイズがし大きい気がする。
中に何か『著込んで』やがるな。
この暑いのにご苦労なこった。
「おっと、先にやることがあった―――」
「―――ッ!!」
鍛治屋敷が、ポケットから左手を出す作。
すかさず、左手のに隠しておいた棒手裏剣を放つ。
「ハハッ!!」
耳障りな笑い聲と、金屬音。
棒手裏剣が、忌々しい朱の手甲に弾かれる。
―――無手!
なら本命は・・・左か!!
「ッシ!!」
もう1本持っていた棒手裏剣。
それを、ポケットにったままの左手に放った。
「おおっと!」
左手の手甲がになり、またも棒手裏剣が弾かれる。
―――そっちも、無手!?
「ハズレ、だ」
両手を見せびらかし、鍛治屋敷がにやけた。
・・・ブラフ、か。
いや、まさか―――
背後から、轟音と熱風。
あまりの衝撃に、が揺らいだ。
「~~~~~~~~ッ!?」
マイクロバスが、たぶん発した。
だが、振り向くわけにはいかない。
警やキャシディさんが気になるが、鍛治屋敷から目線を外すことは死を意味する。
大丈夫だ・・・あの人たちもプロ。
危機察知能力は一流だろう。
俺がやるべきは、目の前のコイツを・・・排除すること!!
「ざーんねーん!こっちでしたー!!」
・・・壁の方からの聲がする。
恐らく、娘だろう。
視界の隅で、壁の上からテレビのチャンネルみたいなものが出ているのが確認できた。
俺を挑発するように、ゆらゆら揺れている。
「・・・機保持、か」
そう、呟く。
飄々としている鍛治屋敷が、愉快そうに笑みを深くした。
「そんな大層なモンじゃねえさ。あのガキどもが勝ってても、負けてても・・・同じようにした」
「・・・そうかよ、ちなみになんでだ?」
わかりきっているが、一応そう聞いた。
「決まってんだろ、そのほうが『楽しい』からだよォ」
「だと、思ったぜ」
―――見下げた狂人ぶりだ。
たぶんコイツにとっちゃ、自分以外の勝ち負けなんて本當にどうでもいいんだろう。
ろくな主義主張はない・・・そう評したのは、古保利さんだったか。
その通りだと思う。
「・・・てめえらの道で、人が右往左往すんのが楽しくてしょうがねえんだな」
「ああ、そうだ」
「てめえらの道で、子供がバラバラに吹き飛ぶのが楽しくてしょうがねえんだな」
「ああ、そうだ」
まるで、今日の天気模様を聞かれたように。
まるで、贔屓の野球チームの績を聞かれたように。
鍛治屋敷は、簡単に答えた。
「・・・てめえは、『勝負』が好きなんじゃなくって・・・『勝つ』のが好きなんだな」
「ああ、そうさ」
「・・・そうかい」
「そうとも」
噛み締めた奧歯が軋んだ。
握りしめた『魂喰』が軋んだ。
そして。
―――ぃん、りぃいいぃぃぃいぃん
『魂喰』までもが、今までに聞いたことがないような音を立てた。
空を斷ち割る、遠雷のような音を。
「そうか」
足を踏み出す。
「なら」
肩に乗せた『魂喰』の柄に、左手も添える。
「―――殺す」
それだけを呟いて、俺は過去最高の速度で地面を踏み切った。
・・☆・・
(キャシディ視點)
「・・・う」
アタシは、自分の聲で目が覚めた。
イチローがんで、走り出して・・・警たちが避難して、アタシはそれを見屆けて援護に行こうとして・・・
それから・・・それから、どうなったの?
・・・綺麗な空が見えるわ。
「『三半・・・規管を、シェイカーにぶち込まれた気分、だわ』」
視界には綺麗な星が瞬いて、酔ってもないのに視界が揺れる。
もなんだか、イガイガする。
過去最悪の二日酔いすら、超えてるわね。
どうやらアタシは、地面に転がっているらしい。
「『弾、か。どうにもデラックスな代だったみたい、ねぇ』」
とにかく、起き上がらなきゃ。
イチローが走って行った方向には、誰かがいた。
あの時のイチロー、凄く怖い目をしてた。
まるで、親の仇でも見つけたみたいに。
いつもの子犬みたいなイチローもカワイイけど、ワイルドな彼も素敵。
でも、あの目はし怖かったわ。
「グ・・・ウァッ!?」
起き上がろうとをよじっただけで、激痛が走った。
ケダモノみたいな聲を上げ、視界が明滅する。
「『・・・ああ、痛いわけねぇ・・・こりゃ』」
立ち上がろうとついた右手は、大丈夫。
「『療養期間、びちゃうわね・・・ンフフ、やったわ』」
だけど、左手には。
何かの金屬片が、ワオ!4本も刺さっていた。
・・・こんな狀況じゃなかったら泣き出したいわ!
「『・・・とりあえず、確認と止ね』」
さっきの激痛で脳がスッキリしたわ。
現在進行形でらしそうなほど痛いけど、気絶する心配だけはしなくてよさそうね。
手首に刺さってるのは大丈夫そうね。
脈を逸れてる。
その上のは、うん・・・貫通してるけど場所がいいわ、大丈夫。
上腕のは・・・ウェエ~、中で曲がってるわね。
綺麗な金屬だといいけど。
最後の1本は・・・骨に當たってるみたいだけど、先っちょだけね。
可に関係するし、これから抜きましょ。
「だ、大丈夫・・・ええっと『大丈夫ですか!?すぐに治療するからかないで!!』」
あら、警だわ。
たしか・・・カシワギ?だったかしら。
「アー・・・『後ろ腰のポーチを、取って頂戴。救急用品がっているわ』」
「『はい!これですね・・・座って、そのまま座っていてください!酷い傷ですよ!?』」
彼は混しながらも的確にいてくれた。
左手がコレだもんね、取れなくて困ってたのよ。
「『鎮痛剤・・・黃の筒、出して渡して。赤のラベルよ』」
「『はいっ!・・・これですね』」
彼が差し出してきたそれをけ取り、逆手で握り直してボタンを押す。
先端から針が飛び出し、それをすかさず左肩に突きれた。
連して、全を痛みが駆け巡る。
「~~~~~ッ!?ッガ!?あ、アァグ!?」
ああもう、ぜんっぜんカワイくない悲鳴ね、我ながら。
こんなんじゃイチローに嫌われちゃうわ。
「『・・・私の狀態を教えて頂戴。左手以外に、傷は?』」
「『はい!・・・左側頭部とこめかみに裂傷、出しています。それ以外は・・・出はありませんが、飛來した破片による打撲があるかもしれません』」
救護経験があるのか、カシワギはテキパキと答えてくれた。
頭ね、それで視界の左半分が真っ赤なわけか。
恐らく『中』は大丈夫ね。
ちゃあんとスマートに思考できてるから。
打撲は・・・わからないわね。
痛みがひどすぎて見當もつかないわ。
くからいいけど。
よし、そうと決まれば・・・やることは一つ、ね。
「『・・・手伝って。今から左手の破片を摘出、消毒して合するわ、さっきの麻酔が効いてきたから、いけるはずよ』」
「『っわ、わかりました!それではセンター部の救護所へ!今、擔架を呼びますから―――』」
「ノー、ココデ、スル」
慌てて立ち去ろうとした彼の、腕を摑む。
「ジカン、ナイ」
「『だ、大丈夫ですよ!そこまでの出ではありませんし、なによりこんな場所では雑菌が―――』」
あら、いい子ねえ。
今日會ったばかりのアタシを心配してくれるなんて。
アタシがイイ男だったら口説いてるとこよ。
でもね、今は駄目なの。
「『―――私のかわいいかわいいサムライが、向こうで頑張ってるの。すぐに助けに行かなくちゃ・・・お願いね、お嬢さん』」
イチロー、ねえイチロー。
アタシに、島での借りを返させてね。
今度はバッチリ援護するから。
あなただけ傷だらけにしておいて・・・守ってもらうだけなんて、我慢がならないわ。
そんなの、ちっともいいじゃないもの。
・・☆・・
「っしゃぁあっ!!!!」
踏み込み、鍛治屋敷の足元を薙ぐ。
「っとぉ!!」
案の定、奴は軽く後方へ跳ぶ。
逃す、かァ!!
「おおっ!!」
瞬時に切り返し、空中の鍛治屋敷へ。
未だ跳んだままの奴は、そのまま軽く両手を振る。
手甲から、忌々しい鉤爪が展開される。
「おい、おい!もうちょっと・・・話そう、っぜ!!」
俺の斬撃を左手の鉤爪で逸らしつつ、右手がこちらへ向く。
「―――ッ!!」
それは!もう!見たァ!!
足首を軋ませ、右へ跳ぶ。
ほぼ同時に、鍛治屋敷の右手がって音が響く。
の橫を、出された鉤爪が通過した。
やっぱり標準裝備か、それは!
お互いの著地は、同時。
俺は前へ。
鍛治屋敷は、さらに後ろへ跳ぶ。
「熱烈、だなァ!!」
からかうような口調を聞き流し。追いすがる。
斬る。
どこでもいいから、斬りつける。
コイツは、ここで、殺すッ!!!
―――風切り音。
前方の奧から飛來した、投げナイフを弾く。
娘の攻撃だ。
來ると、思ってたよォ!!
「っひひ!!」
俺がナイフを弾き、一瞬追うきが止まった。
その一瞬で、鍛治屋敷はこちらへ突っ込んできた。
跳躍の勢いを乗せた、円を描くような蹴り。
十分な速度に到達したその足の甲から、刃が展開されるのが見えた。
―――これは、避けない!迎え撃つ!!
「じゃっ!!」「らぁっ!!」
虛空で火花が散り、お互いの攻撃が逸れる。
追撃を警戒し、正眼に構え直しながら備える。
「田中野ちゃーん!むっちゃくじゃん!生きてて嬉しいよ~!」
遠くから、娘の聲がする。
嬉しそうな聲だが、吐き気がするほどが籠ってねえ。
人形が喋ってるようだ。
「お前らが生きてて、俺は悲しいよ」
俺の返答も、同じくらいの冷たさだろうが。
「・・・正々堂々なんて言うつもりもないが、娘にべったりで恥ずかしくないのか、てめえ」
間合いを外し、両手を下げて軽く揺らしている鍛治屋敷に吐き捨てた。
「親離れできねえ可い娘でなァ、竜神大橋じゃあ迷かけたな。・・・ひょっとしてよ、あの橫槍がなけりゃ勝てた、とか言うつもりかィ?」
「―――違うね、殺せてた」
「・・・へへ、そうかよ」
鍛治屋敷から殺気が噴き出した。
・・・はん、その程度。
弦一郎さんに比べりゃ、そよ風だ!!
「口を開きゃあ、いつもいつも腹立つことばっかりほざきやがる。ほんと、爺に似てやがる・・・田中野ォ」
「いい歳こいて煽り耐がクソ雑魚な自分自を恨みな、オッサンよ」
刀を橫に一閃。
飛來する新たなナイフを弾いた。
「勘が良くなっちゃって困るな~!もう~!」
「親子そろって馬鹿の一つ覚え、か。お里が知れるってもんだなぁ」
橫にズレ、壁との間に鍛治屋敷を挾む。
オヤジの背中に投げたきゃ、好きにしろ。
「熱くなってるとこ悪いがよ、俺とお前が決著付けんのはここじゃねえ・・・まだやることがあるんでな。先約が山積みでよォ」
「それはてめえが決めるこっちゃないだろう、屑が」
攻め手に苛烈さがないのはそういう理由か。
まだまだ暗躍するつもりらしい。
―――だけど知ったことかよ、ここで死んでいけ!
「逃がすかよ、外道」
息を吸い、踏み込むために重心を前傾へ。
「逃げる・・・逃げるだァ?」
鍛治屋敷の顔が歪んだ。
「吹いてんじゃねえぞ、田中野ォ・・・調子に乗るのも大概にしとけや」
「てめえがムカつくんならいっくらでも吹くぜ、キレ過ぎて頭の管とか切れれば楽でいいしな」
プライドだけは一丁前か。
どんな人生送ってきたらこんなアンバランスな生きになっちまうんだか。
世界のバグみたいなもんだな。
だったらきちんとデバッグしないと、なあ。
「・・・テメエごとき、こっちはいつだって殺せるんだぜ?」
「仕損じた挙句、片目まで失った今世紀最高の間抜けにだけは言われたくねえな?」
そう言った瞬間。
鍛治屋敷が、瞬時に右手を上げた。
―――まさ、か!!
轟音が響き、ロングコートの袖口が吹き飛ぶ。
咄嗟に橫に跳び、腰のホルダーから手裏剣を取り出しつつ投げる。
遙か後方で、金屬音。
・・・クソ!新しい爪は複數出可能ってか!!
俺の投げた十字手裏剣は、鍛治屋敷のに當たって弾かれた。
鈍い金屬音・・・かなり重い鎧か何かを著ているな。
「・・・ほとほと、腹の立つ小僧だなァ、てめえ・・・!!」
今度は手じゃなく、鍛治屋敷本人が突っ込んできた。
こちらも、迎撃の下段に構える。
「っし!!」
間合いにった鍛治屋敷目掛け、下段から斬り上げる。
「ッフ!!」
鍛治屋敷は回避ではなく、防を選択した。
左手の手甲が、刀を摑もうとびる。
斬り上げを、加速させる。
空気を斬り裂いた『魂喰』は、鍛治屋敷の手甲から火花を散らしつつ抜けた。
摑まれることはなかったが、俺の上が開いて隙ができる。
「っじゃ!!」
間合いの側に踏み込んだ鍛治屋敷が、がら空きの目掛けて右拳でのアッパー。
「ぬうあっ!!」
それを、逆手で抜いた脇差で迎撃。
斬り上げの途中で片手を外しておいてドンピシャだ!
手甲と脇差が激突し、またも火花が散る。
幕末のを生き抜いた業は、その重い刀で見事に仕事を果たしてくれた。
「っち!・・・よく、く!!」
蹴りでの追撃を選択せず、鍛治屋敷は再び後方へ跳んで間合いの外へ。
著地し、両拳を顔まで上げる。
「・・・かあちゃん謹製の手甲を刻む、かよ。その妙な大刀もそうだが、脇差の方もとんでもねえシロモンだな・・・中村の爺だな、調達したのは」
「違うね、そこら辺に生えてたんだよ」
モンドのおっちゃんのことまで把握してるのか。
・・・いや、そういえば面識があるっておっちゃんが言ってたな。
その時、鍛治屋敷のコートの側から電子音。
攜帯の呼び出し音のようだ。
さすがに俺を前にして悠長に電話する気はないのか、こちらから視線を外すことなく鍛治屋敷がを叩いた。
それが何かのスイッチだったのか、呼び出し音は止んだ。
「ああくそ、もう時間かよ・・・はいよ、センセイ」
スピーカー設定にしているようで、コートの元から聲が聞こえた。
「『―――やあ、首尾はどうですかね?』」
その瞬間、俺の全が総立った。
とても、とてもよく知っている聲だった。
一日として、忘れたことはない聲だった。
この世で一番、生きていてはいけない奴の聲だった。
「向こうに手強いのがいてね、手間取ってんだよ」
「『不確定事項ですか、ふむ』」
「すまねえがすぐに『出して』くんねえか?センセイ」
「『仕方ありませんね。こちらから信號を送り―――』」
「―――りょぉおおおおおおおおおおお!!!!ごぉくううううううううううううっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
が裂けるほど、聲を張り上げた。
やはりいたか。
『レッドキャップ』の側にいたか。
俺の、仇敵。
「『・・・なんとも、すごい聲だ。私を知ってるのかな?すまないが人を覚えるのは苦手でね・・・どこで會った人だろうか?』」
傍聴席で聞いた時と同じように。
馬鹿々々しいほど丁寧で、靜かな聲だ。
鍛治屋敷は意外な展開に驚いたのか、無言。
「・・・いや、いい。知らなくって、いい」
さっき大聲を出したにも関わらず、口からでたのは自分でも驚くほどの低い聲だった。
奴に、俺の報を渡したくない。
正確に言えば、ゆかちゃんや他の殺された子供たちの報を。
奴が『思い出す』ことすら許せない。
「だがな、これだけは覚えておけ」
腹の底が熱い。
油斷すると口から溶巖でも出てきそうだ。
通話の向こうにいる仇敵に、吐き捨てた。
「―――殺しに行くから、そこで待っとけ。お前は殺す、必ず、殺す」
に燈った殺意を抱いたまま、再び鍛冶屋敷へ向き直った。
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