《愚者のフライングダンジョン》126 天無法 ※ステータスあり
こいつが天空神ダジストリだとしたら、々厄介だ。
ダジストリはマナガス神の中でも特にだらけた奴で、縄張りで戦爭が起きても顔を出さないほど、戦いに関心が無いマナガス神だ。しかし、弱いかといえばそうでもなく、神同士の決闘では一度の敗北もない。
鍛錬の記録が無いにも関わらず、決闘では一戦ごとに急激な長をしていて、常に相手を圧倒していた。
マナガスでは四年に一度、地上から複數のドラゴンが発生し、マナガス神たちが徒黨を組んでそれを討伐する『竜災』と呼ばれるイベントがある。ダジストリは単獨でそれに挑み、ドラゴンの帝王を討伐するという偉業をし遂げた。
しかし、それでもダジストリの実力を疑うマナガス神は多い。倒した証拠はあっても、実際に戦いを見た者はなく、ダジストリ自も力を誇示する格ではないからだ。その力の底は、妹であるボクちゃんも知らなかった。
そんな奴が出自不明かつ強力無比な裝備を持って現れた。ソウルノートまで利用したとなれば、ヤヨイさんの策も絡んでいる。この場は一旦退いておきたい。
天國へ飛ぼうと、『冥府送り』を空にかざした瞬間、腹部に衝撃が走った。
聲を出す暇もなく吹き飛ばされる。ブレーキをかけられず、鉄蟻柱を何本も貫通した。空気の圧とで背中が熱い。
まずい。追いかけてくる。幸い、槍は無事だ。追撃される前に移先をイメージし、吹き飛ばされながら天國へ。
ワープだけでは勢いを止められず、天國の海面を跳ね続ける。小さい頃、河川敷でやった水切りを思い出した。
跳ねながらも、落ち著いて腹部を見る。
俺の腹がひび割れていた。まるで老朽化したアスファルトみたいだ。
致命傷には至らないものの、ダメージは絶大と言ったところか。なんせ今のは現世のに似せただけの魔法存在。剝き出しの魂そのものだ。魔法金屬の拳で毆られたら回復も遅い。
そうだ。毆られたんだ。吹き飛ばされる前の景を思い出す。奴は真っ直ぐこちらへ近づいて來て、フェイントもかけず、素直にパンチした。
全部見えていた。見えていたのに、反応できなかった。
避けられなかったわけじゃない。あえて避けなかった。もし、回避や防にいたら、腹の傷なんかでは済まなかった。世界そのものがぶっ壊れていたはずだ。
つまり、ダジストリは世界を壊すレベルの速さでいていたわけだ。だが、冥界は何事もなく存在している。どういうわけか、ダジストリの周りで『時が停止した世界の修復機能』と同等の現象が起きていた。冥界が無事なのはそのためだろう。
俺に同じ現象を起こせたら、奴の攻撃にも対抗できるが、真似しようにも仕組みがわからない。『針の世界』系のスペックがじられている今、一方的にやられることが確定したと言っていい。
それにしても、長いな。いつまで海面を跳ねてんだ。俺のは水切りしやすい石ころなのか。
どうでもいいこと考え始めちゃったし、そろそろ止まるか。このままじゃスマホも出せない。こっちに刺客が送られてきたってことは、山本メイの方でも何かしらトラブルが起きた可能がある。早めの確認が大切だ。
海面に足を突っ込み、フィギュアスケート選手さながらのスピンでブレーキをかける。大きな水飛沫があがり、晴れやかな空に虹がかかった。
せっかくだから、この景をカメラアプリで撮って、メモ帳を開いた。
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< メモ + …
飛行機墜落したっぽい
破片見つけた
縦士見つけた
ムツキ、その他見つからない
捜索を中斷する
報告遅いぞ。なにしてる?
軍がカゲワニを攻撃してる。手を出せない
やばい。まずいことになった。なんとかして
帰ってこい
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飛行機が墜落しただと?
十中八九、隠蔽工作だ。だが、なぜだ? ムツキによるカゲワニ討伐が表沙汰にできないとしても、國手続きは普通に済ませているだろうし、そこまでする必要があるか?
もしかして、本當に墜落事故なのか? ムツキが機で暴れたとしたら辻褄が合う。だが、ヤヨイさんとか他の乗客が見つからないとなると、その線は薄いか。
山本メイも同じことを考えたのだろう。だから捜索を中斷してカゲワニのところへ行ったわけだ。ムツキを拉致した理由はカゲワニの討伐だから、カゲワニのところで待っていればおのずと會える。
しかし、現狀ムツキとは會えていないみたいだ。そして、やはりトラブルが起きている。俺に助けを求めるってよっぽどの事だぞ。
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< メモ + …
天國で良い寫真が撮れた。見てみろ。めちゃく
ちゃ綺麗だ。
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現狀を詳しく知りたいのは山々だが、なんだか冷靜じゃないみたいだから、一旦、笑えないジョークを挾んどく。これで落ち著きを取り戻してくれたら幸いだ。
それに、向こうの狀況を考えてやれるほど、こっちも余裕が無いらしい。
あいつ、天國まで追いかけてきやがった。
目障りなほど海面が黃金に輝くから、そっちを見なくてもすぐにわかった。
ダジストリと目が合った。重そうな見た目なのに一切沈むことなく、海面を悠々と歩いてくる。
「地獄から億千萬キロあるんやぞ。でも8分かかんのに……」
空に修復中の亀裂が見える。おそらくワープじゃない。ここに逃げてきてから5分と経っていないし、よりも早く宇宙を飛んで來たのだろう。
だとしたら、どうやって俺の場所を特定したのか。
どれだけ早くけるとしても、暗闇の中を迷わず進めるわけじゃないだろう。なにかカラクリがあるに違いない。
明かしてくれるかわからんが、試しに聞いてみるか。
「おめぇ、よくここがわかったな」
「もう逃がさない。地獄の果てまで追いかけてやる。言葉通りな」
この自信。どうやら、ハッタリじゃなさそうだ。俺の居場所を特定する手段を持っている。
「へぇ、灑落とるやんか。その言葉が本當か試してやる」
「あっ!」
気づいた時にはもう遅い。今度は予備作なく『冥府送り』を発し、地獄の底へ移した。
ここに來るのは『黒紫無雙』を得たとき以來だ。戦いの傷がそのまま殘っている。蛍のも消えてなかった。まるで星空を見ているみたいだ。しかし、殘念ながら観地には向いてない。
相変わらず、ここは臭いが酷い。鼻があったら涙が出るほど苦しんだだろう。ボクちゃんがそうだったように。
さて、奴はこんな地下深くまで追ってこれるかな。
センサーに反応あり。急速で近づくを捉えた。上の施設をすり抜けている。いや、すり抜けたように見えるが、実際は破壊と修復を同時に行なっているようだ。特別変わったスキルは使っていない。
ダジストリは上の方で停止すると腕を組み、俺を見下ろしてきた。
──そして突然、ダジストリが獅子の仮面を掻きむしり始めた。
「ここ、臭いやろ?」
やはり高能なのは鎧だけで、中はただのマナガス神らしい。催涙スプレーがヘルメットの側で炸裂したようなもんだし、普通の覚ならば神経が麻痺する。
卑怯だが、この隙をつかせてもらう。
と言っても、無策には攻撃しない。奴の目と鼻を潰せていても、近づけばどんな反撃を食らうかわからない。まずは敵を知ることだ。
ヤミーの気絶もあって、安易に神系の能力は使えない。
だから、〖存在消失〗からの、鎧の中のみステータス看破。
──────────────────>
天空神ダジストリ
【LV.MAX】
【種族】天空神
【重さ】 70+(∞)
【戦闘力】MAX:1070+(∞)
【タフネス】 970+(∞)
【魔力】 0+(∞)
【スペック】
『セマル』『ルグル』
『天無法』
──────────────────>
なんだ?
この異常なまでに低いステータスは……。
これでレベルMAXだと?
どれほど隠蔽しようと、存在消失下では全て曬されるはず。だから、これが真実のステータスで間違いない。
変だ。昔の活躍からしてありえない。こいつはドラゴンの帝王を討伐している。しかし、ドラゴンというのは、こんなちんまりしたステータスで討伐できるほどヤワな存在じゃない。
いくらスキルやスペックが強かろうと、それだけでドラゴンは倒せない。最終的に必要なのは高いステータス、あるいは質の高い武だ。『セマル』と『ルグル』は魔法金屬武だが、『冥府送り』や『刈払う貝』のように特別な能力は無い。
魔力が0なところも疑問だ。昔、ダジストリはボクちゃんの育児で魔法を使っていた。実際のステータスを見たわけじゃなかったが、當時はスキルもスペックももっとあったような気がする。
だとすると、この『天無法』というスペックがダジストリの強さのなのだろうか。詳しく調べてみよう。どれどれ。
『天無法』[キワミバックルを裝著して変! これで君も最強のヒーローだ!]
ふむ………。
………。
なんもわからん。
とにかく、脅威なのは鎧であって、中のダジストリはそれほど強くないとみていいだろう。覚が人並みなら、付ける隙は幾らでもある。
とりあえず、様子見の遠距離攻撃。普通の覚では、裏世界の俺が何をしているかわからないだろう。
「黒紫線!」
ダジストリの全を包めるほどぶっとくした。様子見だが、この一撃で終わるかもしれない。
『黒紫無雙』にランクアップしたことで、黒紫線は『刈払う貝』すら貫通するようになった。もはや、特殊能力付きの魔法金屬では守れない。
ただ、それも攻撃が當たればの話だ。最速でき回られたら俺に勝ち目はなかった。勝ち筋を作ってくれてありがとうってじだ。
黒紫線が貫通した直後に、〖存在消失〗を解く。
これで勝負ありだ。奴が気づいたときには、すでに攻撃は終了している。
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