《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》214・時の聖がいる場所
そうして私達は朝食を食べ終わり、今後についてあらためて話し合うことになりました。
「ファーヴ、再確認しますね。黃金と化したシルヴィさんは竜島にいるんですよね?」
「ああ」
私が質問すると、ファーヴはそう頷いた。
「思ってたんけど、黃金のシルヴィさんをどうして竜島に置いてきたのかな?」
ナイジェルからも疑問が飛び出します。
確かに……昨日の時點では気にならなかったんですが、ナイジェルの言うことにも一理あります。
黃金ということは、ある程度重いでしょうが、ファーヴがそれを苦にするものとは思えませんし。
ファーヴはあらかじめ聞かれると思っていたのか、淀みない口調でこう答えます。
「それはもちろん考えた。しかし……かせないんだ。どうやら、二百年という長い年月で、黃金のシルヴィは島と一化してしまっている」
「黃金だからし変かもしれませんが、大地にを張る──というような現象が生じているんでしょうか」
「多分な」
やけにあっさりと答えるファーヴ。
むむむ。
黃金になったシルヴィさんを助けるためにも、しでも報はしい。
このことはなにかのヒントになりそうですが、ファーヴもよく分かっていないよう。
「…………」
「ドグラス? なにか気になることでも?」
「いや、なんでもない」
ドグラスは腕を組んで、そう答える。
「あっ、そうそう。もう一つ、エリアーヌに聞きたいことがあるんだけど……」
ナイジェルが手を挙げて、再び発言する。
「えーっと、基本的に聖は世界に一人だけなんだよね。聖が死ねば、また次の聖が選ばれる……って」
「はい。そういう仕組みになっているようです」
「なら、シルヴィさんが黃金になっただけで死んでいないなら、また次の聖が生まれてくる道理はないんじゃ? だけどそうはならなかった。どうしてだろう?」
「聖が一代に限り一人と決まっているわけではないからです」
実際、今代の聖は私以外にセシリーちゃんという二人目がいます。
極端なことを言いますと、聖としての資格を持ち得るものがいれば、神は二人でも三人でも聖の力を與えることが出來ます。
だけど大きすぎる力はを滅ぼす。
聖の力は膨大で、世界のパワーバランスが崩れてしまいかねませんしね。
そもそも、聖の力を発揮出來る人間がほとんど現れないという事もあるのですが。
だから神も、聖の力を與える人間を最小限にしているのです。
「だからシルヴィさんが黃金になったことにより、聖が機能停止に陥った。その時點で聖の力は、次に移ったのではないでしょうか?」
「なるほど、そういうことか」
「もっとも、神様の聲が聞けない以上、これは私の推測になるんですが……」
「神の聲は、まだ聞こえないのかい?」
「はい」
ドグラスの問いかけに、私は首を縦に振ります。
始まりは《白の蛇》の事件。
それからしずつ──神の聲が聞こえなくなっていました。
そしてとうとう、クロードとレティシアの結婚式以降、いくら呼びかけても神は私の聲に応えてくれなくなったのです。
セシリーちゃんも私を介して、神の聲を聞けていたらしく、同様に聲が屆かないようでした。
ベルカイム王國で始まりの聖の力を得て、神と私との間で《道》が架けられたはずだというのに──です。
とはいえ、《道》が外されたのかと言われると、そうでもないらしい。
聖としての力は《道》が架けられる前よりも進化したままだからです。
「もしかしたら、神様も休みたいだけかもしれませんね。《道》が架けられて以降、神様も忙しかったでしょうし」
冗談めかして言うと、ナイジェルは「そうかもしれないね」と頷きました。
「神のことは一旦置いておいて──すぐにでも竜島に向かうべきだね。事態が急変してしまう可能もあるから」
そう言って、ナイジェルは椅子から立ち上がります。
「僕は陛下に報告しておくよ。今の時期に、王子である僕が勝手に國を空けるわけにはいかないから」
「ただでさえ、王位を継承する大事な時期ですもんね……」
この國の第一王子、ナイジェル。
まだまだ國王陛下は健勝だけれど、結構なお年。いつ倒れてもおかしくありません。
なので陛下が健康なうちに、ナイジェルに王位を継承してしまおうというきが活発になっています。
幸い、他の王位継承権を持つ陛下の子ども達──セシリーちゃんや第二王子マリアさんを含め、全員がナイジェルが王位を継ぐことに賛の立場。
そのおかげで、スムーズに王位は継承されるでしょうが……萬が一のことがあります。ナイジェルが慎重になるのは仕方がないでしょう。
「やはり……君──ナイジェルも來るのか」
ファーヴが表を暗くします。
「ん? なにか都合の悪いことでも?」
「竜島には、危険がないとは言い切れない。わざわざ関係のない君達まで、行く必要があるのか……と」
「危険があるのなら、なおさら我らが行かない道理はないではないか」
そう言い放つのはドグラス。
「無論だが、我も行く。それともなにか? 我らが來てもらっては困る理由でもあると?」
「そ、そうじゃない。そこまで言うなら分かった。よろしく頼む」
……?
どうやらファーヴは、ナイジェルとドグラスには來てほしくないみたいです。
理由は説明していますが、腑に落ちないものでした。
「ファーヴ、出発はし待ってくれてもいいかな?」
「いつ頃になる? 遅くとも、夜になる前には出発したいが」
「そんなにかからないと思うよ。晝前にはここを発てると思う」
「それなら問題ない。ありがとう」
とファーヴが頭を下げます。
「となったら……しばらくの間、自由行ですね」
私がそう告げると、いの一番にファーヴが席から立ちました。
「どこに行く?」
「外の空気を吸ってくる。考えをまとめたい」
ドグラスの警戒のこもった問いに、ファーヴはそう答えます。
「……心配するな。妙な真似はしない。せっかくエリアーヌの協力を得られたのに、わざわざそのチャンスを手離すほど愚かじゃないよ」
と言い殘して、ファーヴは食堂を後にしました。
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