《兄と妹とVRMMOゲームと》第四百三十三話 虛ろなる覚醒④

「ここまで何事もなかったな」

徹は道中、不穏な出來事がなかったことに安堵の吐息を零す。

しかし、紘の心中には徹がじたものとは全く異なる張が走っていた。

「いや、今も私達を見張っている」

紘が発した発は相手の出方を確かめるような言いだった。

「なっ……!」

「既に尾行されていたのか……」

鋭く聲を飛ばした徹と奏良は急ぎ周囲を見回す。そして、木々の隙間から梨の様子を窺っている者達の存在に気づいた。

「椎音梨をこちらに渡してもらおうか?」

「そうはさせるかよ!」

梨を守ることが僕の役目だ!」

果たして『レギオン』と『カーラ』と思わしき者達は即座に梨のもとに向かおうとしたが、その行く手を徹と奏良を始めとした梨の護衛を務めていた『アルティメット・ハーヴェスト』の者達によって阻まれる。

梨のお兄さん、心配しないで下さい。梨は、私が絶対に守りますから」

「小鳥……」

さらに矢面(やおもて)に立った小鳥が梨のを護る。

「ちっ……どうする?」

多勢に無勢。

相手の人數が多すぎて、このままでは泥沼化必至だ。

最悪、捕らえられ、元がばれてしまう狀況に陥ってしまうだろう。

それだけは何としても防がなければならなかった。

「分が悪すぎる。手嶋賢様に狀況を報告するぞ」

果たして置かれた狀況を理解した『レギオン』と『カーラ』の者達は踵を返し、その場から走り去っていく。

「なっ!」

「待て!」

その事実を認識した奏良と徹が止める暇もなく、彼らは夕闇とともに姿を消していった。

「逃がしたか……」

暗澹たる思いでため息を吐いた奏良は、悔やむように語気を強めた。

目的を果たせなかった場合の段取りも既に踏んでいたのだろう。

『レギオン』と『カーラ』と思わしき者達の逃亡手段の確保は的確だった。

紘達は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と連絡を取り、自宅周辺を探らせている。

しかし、彼らの元やその行方が判明するところまでは至らなかった。

今も彼らの行方を探る手段も見つからないまま、試行錯誤し、燻り続けている。

梨とを『レギオン』と『カーラ』の者達に渡すわけにはいかない」

「……ああ」

紘は毅然とした態度で宣言すると、徹は最小限の口のきで応えた。

「そのためなら、私は何でもする」

「俺も梨とを護ることができるなら、何でもする」

紘の決意に応えるように、徹は攜帯端末を強く握りしめる。

「特殊スキルの力に目を付けて、羅の真なる覚醒のために利用しようとしている連中がいる」

と悲哀、様々なが渦巻く無窮の瞳で、紘は選び取った未來を垣間見た。

「なら、私はこれからもこの力を用いて、梨が幸せになれる未來を選び抜いていくだけだ」

様々な念が去來する中、紘は導き出した一つの結論に目を細めた。

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