《真の聖である私は追放されました。だからこの國はもう終わりです【書籍化】》216・俺が君を守るんだ

「ファーヴともう一度お話をしましょうか」

そう思った私は、再び王城の中を歩き出します。

ですが、なかなか見つかりません。外の空気を吸ってくると言っていたので、お城の中ではないと思うのですが……。

考えながら歩いていると、いつの間にか王城の裏側まで來てしまいました。

人気もなく、用事がなければ立ちったりしない場所です。

引き返そうとしましたが──その直前、地面にあぐらをかいて座っている一人の男が目にり、私は足を止めます。

「ファーヴ」

私が彼に聲をかけると──ファーヴが徐に顔を上げます。

「エリアーヌか」

「こんなところでなにをされていたんですか?」

「特に理由はない。だが……ここにはキレイな花があると思ってな」

「花? 花なら中庭にも咲いていますが……」

それに日があまり差し込まないせいで──言葉は悪いですが──ここには雑草のような花が咲いているだけです。

中庭は庭師の方が手れをしていますし、見栄えは格段とあちらの方がいい。

だけどファーヴは、私の言ったことに首を橫に振ります。

「彼と、よくこういう場所で會っていたんだ。俺達の仲は人に言えるものじゃなかったからな。必然と人目を避ける場所になってしまう」

「彼──シルヴィさんですね」

「ああ」

の話が聞けそうです。

このままじゃ話しにくいですね。

私はファーヴの隣に腰を下ろします。

「下は地面だぞ? 服が汚れる。いいのか?」

「構いません。こちらの方が話しやすいでしょう?」

王太子妃としては々はしたないかもしれませんが、私は元々平民出

経験はないものの、子どもの頃は泥だらけになって遊んだこともあります。

今更、服がちょっと汚れるくらいではなにも言いません。

「それよりも……シルヴィさんのことを、もっと聞かせてくれませんか?」

「何度も言うが、シルヴィは君によく似ていたよ。優しくて──そして強いだった」

「強い……ですか。昔、なにかあったんですか?」

「そうだな……昔、俺は自ら命を斷とうとしたんだ」

彼から飛び出した言葉に、私は一瞬唖然としてしまう。

誇り高きドラゴンは、生を全うする生きです。自死なんていう概念は、存在しないものだと思い込んでいました。

ドグラスが同じことを言うところなんて、想像出來ませんしね。

「どうして自ら命を……?」

「昔の俺は弱かった。ドラゴンにとって、強さとは全てだ。なくとも──昔の俺は、そう思っていた」

「悲しい生きですね」

「俺もそう思う。そして、とうとう死のうとした時──俺はシルヴィに出會った」

ファーヴはこう続けます──。

は言っていた。

『私も聖として落ちこぼれだから』

……と。

話を聞いていくと、彼神に聖として選ばれたものの、力を上手く発現することが出來なかったらしい。

ベルカイムに張った結界も、何人かの魔法使いの手も借りて、ようやく功したのだと。

「続けて、彼は泣きながら言ったんだ。『あなたが死んだら私が悲しみます。それでも死ぬというのなら、私も死にます』──と。

信じられるか? 初めて會ったドラゴンにそんなことを言うんだぞ? 彼は本気で言っていた。彼が泣いているところを見たら、死のうとしている自分が酷く軽率に思えてな。死ぬのをやめた」

「そんなことが……」

「そんな彼の優しさと強さに惹かれたのは、俺だけではない。霊も彼のことを好いた。昔、瘴気に覆われていた霊の森を、シルヴィが救ったことがあったらしい。他にも──」

その後もファーヴはシルヴィさんのことを話し続けました。

お互いの誕生日を祝ったこと。ファーヴ自は自分の誕生日を知らなかったので、シルヴィさんと初めて會った時を誕生日に決めたこと。

そして覚悟を決めてシルヴィさんに告白し、頷いてもらった日のこと。

との思い出は全てかけがえのないものと言っていました。

「……すまない。喋りすぎたな。君を前にすると、何故だか口が軽くなってしまう」

「いえいえ、お聞かせいただき、ありがとうございます。とても楽しかったです」

と私はらかく微笑む。

「彼のことが本気で好きだったんですね」

「……ああ。それにここに咲いている花を見ると、昔、彼からもらったプレゼントのことを思い出す」

「プレゼント?」

私が疑問を発すると、ファーヴは一房の花を摘んでこう答えます。

「彼は花冠を作って、それを俺に被せてくれたんだ。その時に彼が言った言葉を、今でも覚えているよ」

──あなたのことは私が守ります。あなたにもし、死ぬような危機が訪れれば、時を遡ってでもあなたを守る。

「時の聖として、なにかじるところがあったかもしれない。だが、俺は彼にこう言ったんだ」

──君が俺を守るんじゃない。俺が君を守るんだ。

「まあ……結果的に、俺はシルヴィを守れなかった。あれだけ大見えはって言った自分を、恥ずかしく思うよ」

「自分を卑下するのはやめてください。あなたは十分頑張りました」

「ありがとう」

めると、俯き加減だったファーヴの顔が、し上がりました。

「彼に作ってもらった花冠は全て大切に保管していたが、さすがに目が覚めた時には見つからなかった」

「仮に見つかったとしても、枯れているのが普通ですもんね」

わざわざファーヴがこう言うということは、よほど思い出のプレゼントだったのでしょう。

彼の寂しそうな表を見ていると、私も辛い気持ちになります。

──そうです。

し待っていてくださいね」

私は庭に咲いている花を摘んでいきます。

ファーヴは私がなにをしようとしているのか分からないのか、首をかしげました。

しかしだんだんと完に近付き、

「それは──」

ファーヴも私がなにを作っているのか、ようやく分かったみたい。

「はい」

私は完した花冠を、ファーヴに手渡します。

「お近づきの印に、私からのプレゼントです。シルヴィさんのものとは見劣りするかもしれませんが、しは昔を思い出すでしょう?」

「あ、ありがとう」

とファーヴは照れたような表で、口をかします。

「せっかくだから、被ってみてもいいか?」

「どうぞ」

私がそう促すと、ファーヴは恐る恐るといった手つきで、花冠を頭に被せます。

その瞬間でした。

「え……?」

花冠が緑に輝きを放ったのです。

そのは拡散していき、薄暗いこの場所を明るく照らします。

そして続いて、私の中に聲が響きました。

『──竜島に行ってはなりません。このままでは──』

神の聲……?

いえ、彼のものとは違います。

ならば、この聲は……。

「……? どうした、エリアーヌ。似合っていないか?」

っている私の一方、ファーヴはきょとんとした表をします。

「いえ、聲が……それにこのは?」

「聲? ? なんのことだ?」

ファーヴはますます訳が分からないのか、顔に疑問のが現れます。

とぼけているようにも見えません。どうやら、本當に理解していないよう。

「私にしか聞こえていない……? それにも?」

花冠から発せられていた緑は消え失せ、なんの変哲もないものになっています。

謎の聲ももう聞こえません。

先ほどのものは一……?

「なにか気になることでもあったのか?」

「い、いえいえ。大丈夫です」

気にはなりますが、考えても分かりそうにありません。

私とファーヴのにも変化がないですし、気にしすぎるのもよくないでしょうか。

「そ、そんなことより、ナイジェルもそろそろ戻ってくるはずです。竜島に向かいましょう」

「分かった」

そう言ってファーヴは歩き出し、私もその後に続きました。

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