《僕の姉的存在の馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜》
放課後は、いつものように私が男子校の校門前で待つ。
通う學校が違う以上、どちらかがそうするしかない。
男子校の校門前で私が楓のことを待つのと、子校の校門前で楓が私のことを待つのとで話し合ったことがあるのだが、これには楓も文句は言わなかった。
ちなみに後者はまずありえない。
結果として私が男子校の校門前で待つということで話がまとまったのだ。
現実的な話、楓にそれをやらせたら、不審者扱いされる可能があまりにも高いから、あえて私がそれをやっている。
男子校の生徒たちも、もうわかっているのか、軽はずみに私に聲をかけてくることはない。
それは、私にだけに限ったことじゃない。
「楓君ってば、遅いね。なにをやってるのかな?」
沙ちゃんは、思案げな表になりそう言っていた。
「の子を待たせるなんて、いい度じゃない。これはもう、楓君に一言文句を言わないとね」
奈緒ちゃんも、なぜか面白そうな表でそう言う。
文句を言うってじじゃないのは、私の気のせいかな。
そもそも待ち合わせの約束はしてないから、怒る方がどうかしてるんだけど。
「別に約束しているわけじゃないんだし……。文句を言うのはさすがに……」
沙ちゃんの傍らにいた理恵ちゃんは、どこか控えめなじでそう言った。
たしかに約束はしていないのだが……。
楓と一緒に登下校をするのは約束ではなく、もはや私個人の楽しみの一つだ。
彼たちも、それは一緒だろう。
「だからってみんなで待つ必要ってある? 私としては、いつもどおりに弟くんと帰りたかったのに……」
私は、みんなにもわかりやすいようなあきらかに不機嫌な表で言う。
みんなで待つことは予定外なことであり、だからこそ私としてもし恥ずかしい気持ちになる。
今もこうして通り過ぎていく男子生徒たちの視線がどうにも気になって仕方がない。
「そんなこと言わないでよ。あたしだって、楓君と一緒に帰りたいんだから」
「そうそう。考えていることはみんな一緒ってことで──」
奈緒ちゃんだけならともかく、沙ちゃんまで……。
唯一、理恵ちゃんだけはなにも言わないが、考えていることは、たぶん奈緒ちゃんたちと一緒だろう。
そもそも、ここにいるっていうのが彼の答えだ。
「まぁ、いいんだけどさ……。獨り占めなんて、初めからするつもりはないから」
「さすが香奈。正妻の余裕ってやつだね」
奈緒ちゃんは、そう言って悪戯っぽく笑みを浮かべる。
正妻って……。
じゃあ、奈緒ちゃんは何のつもりなのかな。
でもそんなことを直に言われると──
「なんでそうなるのよ。違うから……。そんなんじゃないんだから……」
私は、途端に恥ずかしくなりそう返していた。
たぶん、顔は赤くなっていると思う。
そうして、しばらく待っていると楓がやってくる。
「お待たせ、香奈姉ちゃん。…て、みんなも來てたんだね」
楓は、ちょっとだけ驚いている様子だった。
いや。そんな風に見えただけかな。
私たちがいることには、もう慣れてるはずだし。
「うん。楓君のことが気になってね。來ちゃった」
「香奈が獨り占めするんじゃないかと思ってね。心配になったの」
「ちょっと! なんで弟くんのことを獨り占めしたらダメなのよ? しくらい、いいじゃない」
奈緒ちゃんの言葉に、私はついそんな本音を言ってしまう。
楓のいる前で、そんなことを言いたくはないのだけど……。
奈緒ちゃんの前だと、そんな風になってしまうのは、隠し事ができないっていう証拠だ。
「あたしだって、楓君には甘えたいの。香奈ばっかり、そんな甘い時間を過ごさせるわけには──」
「そうだよ! 香奈ちゃんばっかりずるいよ。ここは平等にいかないと──」
「わたしも、楓君と一緒に帰りたいな」
「っ……」
理恵ちゃんの言葉に、私はなにも言えなくなってしまう。
私だけじゃない。
おそらく、みんなもなにも言えなかったに違いない。
さすがの奈緒ちゃんも、理恵ちゃんを見て押し黙ってしまっているし。
理恵ちゃんも、楓と一緒に歩きたくてずっと前から頑張ってきたのだ。
わざわざお灑落にも気を遣って──
楓はどうするんだろうか。
私たち4人に迫られたら、逆らえないかも。
ましてや、あまり自己主張しない理恵ちゃんがこう言っているのだ。
斷るという選択肢は、絶対にないはず。
「うん。理恵先輩の頼みなら斷れないかな」
楓は、なぜか気まずそうに頬を掻く。
理恵ちゃんはお灑落なんてしなくても普段から可いからよけいに張しているのかも。
楓も素直じゃないから。
「ホントに?」
「ウソは言わないよ」
「そっか。ありがとう」
理恵ちゃんはとても嬉しそうな表になる。
可い先輩がわざわざ後輩のためにお灑落をしているんだから、ここは素直に喜べばいいのに。
楓の場合は違うのかな?
でも、私も負けられないのはたしかだ。
「ちょっと待ってよ。私たちのことはどうでもいいの?」
私も負けじと、楓にそう訊いていた。
楓のことだから、私たちを放置するという考えはないだろうし。
「そんなことは……。香奈姉ちゃんのことだから、いつものようにするかと思って──」
「まぁ……。そう言われたら、そのとおりなんだけど……」
なんだ。
わかってるんだ。
さすが楓。
だったら、遠慮する必要はないか。
私は、楓の隣に位置取って腕を摑む。
「だったら、このくらいはいいよね?」
「ちょっと香奈。まずは理恵の意思を尊重しないと──」
「そうだよ。奈緒ちゃんの言うとおり、理恵ちゃんのやりたいことを優先させてあげようよ」
「あの……。わたしはその──」
理恵ちゃんは、なにかを言いかけるものの、恥ずかしいのか口ごもってしまう。
元々、スカートの丈が短いのは當然として、そこまで攻めることがなかった理恵ちゃんが、わざわざいつも履いているタイツをいで素足を出しているのだ。
これは楓に対してのアプローチで間違いない。
その気はなくても、これは骨すぎる。
こうなると理恵ちゃんの今日の下著が気になるところだけど、直接聞くのは野暮だろう。
誰が楓の心を摑むのか、お姉ちゃんとしては気になるところだ。
「理恵ちゃんに取られてしまうのなら、仕方ないかな。負けたくはないけど……」
「っ……。そんなつもりは……。わたしは……」
否定したいんだろうけど、説得力がない。
見せるつもりはないんだろうけど、ちょっとした微風でスカートがめくれてしまい、中の下著がチラ見えになってしまっている。ちなみには白だ。
理恵ちゃんらしいっていえば、理恵ちゃんらしい。
あんまり派手なものを好まないのも、理恵ちゃんだ。
ちなみに、楓はそれを見なかったようだ。
「大丈夫だよ、理恵ちゃん。私たちがついてるし……。一緒に帰ろっか?」
「うん」
理恵ちゃんは、私の言葉に安心したのからかいじの自然の笑みを見せた。
そして、すかさず楓のもう片方の腕を摑んだ。
控えめだけどしだけ押しが強く優しい理恵ちゃんを安心して見ていられるのは、沙ちゃんの影響が大きい。
やっぱり沙ちゃんと一緒にバンドにってよかった。
今では、そう思える。
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